第42話 ハイスクールライフ
明朝、自室にて。
ランマは射堕天サークルの物とは別の制服に袖を通していた。
「……まさか、ここに来てまで学校に通うことになるとはな」
ランマは先日の記憶を呼び起こす。
『ランマ、ステラ。お前ら明日から学校に行け』
『『はぁ?』』
ランマとステラを事務所に呼び出したギネスは開口一番そう言った。
『第七師団のルールでな、18歳になるまでは学校に通わないとダメなんだよ』
ま、決めたの俺なんだけど。とギネスは言う。
『今更学校!? いいっすよ俺は。そんなことより修行して強くなりてぇんだ。またいつワンハンドレッドが来るかもわからないし……』
ワンハンドレッドはまだ生きている。
またランマを狙って襲撃してくる可能性は大いにある。
『学校には他にも射堕天が居るし、先生方も優秀な人ばっかりだ。不測の事態にも対応できる』
『ちっ。おいステラ、お前も何とか――』
ステラは鼻息を鳴らし、頬をピンク色にしていた。ワクワクしている面持ちだ。
『学校……初めてです』
『え? じゃあこれまでどうやって勉強してきたんだよ』
『家庭教師です』
『金持ちか……』
どうやらステラの援護は得られそうにない。
『俺たち射堕天は常識が曖昧になりがちだ。ただでさえ物騒な世界だからな。学校に通って、きっちり体に常識を染み込ませて来い。射堕天はイカれた奴の方が向いてるとのぼせた奴もいるが、俺はイカれた奴と仕事はしたくない。週3でいいから行け! 命令、以上』
ちなみにランマは15歳、ステラも15歳、ウノは20歳、スウェンは18歳、ミカヅキは25歳、フランベルは16歳である。ゆえにランマ、ステラ、フランベルが学校通いとなる。
ランマは未だ納得のいかないまま、制服を着て、カバンを持って、螺旋階段を下りていく。
「……いいよなー、ウノの奴は20だから学校に通わなくて良くて」
「おうよ。朝からナンパ三昧だぜ」
「うおっ!?」
突然背後から声を掛けられたランマは背中をビクッと震わせる。
「いきなり出てくんな! びっくりするだろうが!」
「人を驚かせるのが趣味なもんでね。ランマちゃんは大変だねぇ、学校♪ でもでも、ピッチピチの女子高生と青春ライフってのも悪くねぇか」
と話していると、螺旋階段を上がってくる影が1つ。
ミカヅキだ。
「あ、うーっす。ミカヅキの旦那」
「おう、ちょうどいい。ウノ、お前今日暇なんだってな。俺が修行をつけてやる。お前の結界、法陣はいいが練度がまだまだだったからなぁ」
「え……? いや、これから大事な用事が……」
「ナンパしに行くって言ってましたよ、コイツ」
「コラ、ランマちゃん!」
ミカヅキはウノをヘッドロックし、下に引きずり下ろしていく。
「これから任務がない日は俺がみっちり面倒見てやる。良かったな、お前、学校がなくて」
「ランマちゃぁん! 大学に願書出しといてくれぇ!!」
「気が向いたらな~」
修行。ランマにとっては羨ましい限りである。
ランマは大きく欠伸をして、再び歩を刻み始めた。
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ランマの向かう〈ロンドン四法立高校〉は〈ウェスト・エンド〉と〈イースト・エンド〉の境目にある。ちなみにこの四法立とは、召喚士・転生士・結界士・鑑定士それぞれの学部があることを示す(専門学部が二つだけなら二法立、三つだけなら三法立と付ける)。
坂を下り、〈テムズ川〉沿いを歩くランマ。
「ん」
道中でランマは自分と同じ制服を着た男子生徒3人と、その男子生徒に囲まれている女子生徒を見つけた。
「なぁアムリッタ。いい加減さ、俺たちと一線越えちゃおうぜ」
「そうそう! お前みたいな根暗、相手するの俺たちぐらいだぞ?」
「優しくするって! これマジ! これマジ!」
ランマは「どこにでもいるな、ああいうのは……」と、彼らがいる路地に近づく。
「やめなさい、君たち~」
気の抜けた声でランマは言う。
「あぁ? なんか用かニット帽」
「その子困ってるじゃないか~、開放してあげなさ~い」
変わらず気の抜けた声でランマは言う。
「あ、あの!」
ランマに、女子生徒が声を掛ける。
「お、お構いなく……わた、わたしは、大丈夫ですからぁ……」
「本当か?」
「え……?」
「『助けて』って言ってくれたら、こいつら全員ぶっ飛ばしてやるぞ」
ランマは真っすぐな瞳で言う。自信と、そして、揺るぎない覚悟が瞳に宿っている。
女子生徒はぐっと息を呑み、声を絞り出す。
「た、たすけて!」
「任せな」
「はいはい、ヒーロー気取りのお馬鹿さんね。前にお前と同じように割り込んできた奴がどうなったか教えてやろうか?」
「教えてくれ」
「今じゃ俺たちの奴隷だよ!」
拳を振り抜いてくる不良A。
ランマは頬に拳を受ける。
「いって!?」
ランマは拳を受けても微動だにしなかった。それどころか、殴った不良の方が拳を痛めている。
ランマは不良Aの顔面を殴り飛ばす。
「ぐへっ!?」
「ベンジャミン!? テメェ、やってくれたな……! 許さねぇぞ!!」
「召喚陣展開ぃ!」
不良たちは悪魔を召喚する。
泥人形、赤眼狼、骸骨騎士。
ランマはレッドウルフの頭を踵落としで潰し、スケルトンナイトの頭蓋を握りつぶす。最後にクレイドールを蹴とばすが、クレイドールは固く、一撃ではヒビすら入らなかった。
ランマはサモンコインをコイントスする。
「――鋼剣」
ミラを召喚。そのまま剣に変化させ、クレイドールに三太刀浴びせバラバラに分解した。
相手の召喚獣が全て消え去り真っ白なサモンコインとなる。
(最近、やべぇ奴らばっか相手してたからわからなかったけど……俺、結構強くなってんだな……)
ランマは真っ白なサモンコインを不良たちに投げ、手に持った剣を不良たちに向ける。
「まだ手持ちが居るなら相手するぜ」
ランマの圧に、不良たちはたじろぐ。
不良たちはサモンコインを拾うと、怯えた顔つきのまま後ずさった。
「しょ、召喚獣を握りつぶすなんて、人間じゃねぇ!」
不良たちは一目散に逃走する。不良が居なくなるとミラは剣の姿から宝箱の姿になった。
「平気か?」
『みらぁ?』
ランマとミラが女子生徒に心配の視線を向ける。
女子生徒は長い前髪を押さえ、
「あ、ありがとうございますぅ……」
と照れくさそうに言った。
「うし! そんじゃ、学校一緒に行こうぜ」
「え……」
「俺、転校生でさ、今から行く学校のことまったく知らねぇんだ。歩きながら教えてくれ。お前も〈ロンドン四法立高校〉の生徒だろ?」
「あっ、はい……わかり、ました。それがお礼になるのなら……」
ランマは女子生徒と一緒に通学路を歩き始める。
彼らと入れ違うになるように、1人の男子生徒が先ほどまで不良たちが居た路地にやってくる。
「朝食のパン買ってきました! ……ってアレ? 誰もいない……?」
不良たちが奴隷と言っていた少年だ。少年はわけもわからず、とりあえず腕に抱えたパンを食べ始めたのだった。
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