第41話 新しい家!
第七師団拠点〈ハウスツリー〉。
一本の大木に埋め込まれる形で無数の家が建っており、根の部分には事務所(という名の酒場)がある。
大木の中には事務所から入ることができる。大木の中は空洞になっていて、螺旋階段が大木のてっぺんまで伸びている。この空洞にそれぞれの家の入口がある。家の入口付近には木で出来た足場があり、螺旋階段から飛び移ることができるようになっている。
そこら中にある蛍の光のような黄緑の光、これは大樹が光合成により発生させている魔素で、体に浴びることで魔力の回復を早める効果がある。
「……と、概要はこんな感じだな」
説明をしながら、ギネスは階段を上がっていく。
「基本的に家の設備はベッドとキッチン、トイレだけ。あと欲しいモンは自分で買うように。風呂は大浴場が一階……さっきの酒場の隣にあるから好きに使ってくれ」
「副師団長殿、肝心の俺たちの家はどこにあるんだい?」
「悪いが新人は頂上付近になる」
ランマは螺旋階段を見下ろし、
「このクソ長い螺旋階段を毎回上がらないとだめなのか……」
「なっはっは! 良い運動になるぜ。それに上の方が景色は良い」
「あと気になったんですけど、さっき酒場に白い制服の人が結構な数いましたよね。黒の制服の人と白の制服の人ってなにか違うんですか?」
ランマが質問する。
「黒い制服は戦闘員、射堕天と呼ばれる連中。そして白い制服は助手、サポーターと呼ばれる奴らだ。サポーターは基本的に戦闘には参加せず、俺たち射堕天のバックアップをする。例えば堕天使との戦闘で壊れた街の修復や、眷属の遺族たちに対する辻褄合わせ、結構な面倒ごとを引き受けてくれている。そうそう、ミカヅキも元はサポーターだったんだぜ」
「ミカヅキさんが!?」
「かく言う俺もな。最初から射堕天になれるのは一握り。そこから零れた連中は潔く諦めるか、サポーターとして任務に同行し、射堕天の能力を吸収してリベンジするか、二択だな。第七師団の射堕天はお前ら含めて15人、サポーターは35人。射堕天の内、ヒルス師団長と3人の射堕天がいないから今居る射堕天は11人だ」
ギネスは頂上付近で止まる。
「さて、着いたぜ。お前らの家だ」
同じ高さに3つの家。
1つは白、1つはピンク、1つは水色。
「どこに住むかはお前らで決めな。ああそれと、ランマとステラは16時になったら事務所に来い。そんじゃあな」
ギネスは螺旋階段を下りていく。
ランマ達は向かい合い、
「俺はピンクの家がいい」「私はピンクの家を希望します」
ウノとステラが同時に言った。
「……ピンクと言えば女子でしょう? 譲ってください」
「男女差別はんた~い。俺様、ピンクだーいすき」
「んじゃ、水色は貰うぞ」
ランマは喧嘩する2人をさておき、1人水色の家に入った。
「お……」
フローリングに白い壁。
簡素なキッチンに、トイレの部屋。部屋はこのリビングとトイレの2つだけ。
ランマはカーテンの隙間から陽光がはみ出す窓に近づき、カーテンを開け、窓を押して開く。
「ははっ!」
思わず乾いた笑い声が出る。
〈ロンドン〉の街並みを、ランマは上から見下ろしていた。
街を縫う〈テムズ川〉、賑わっている市場、大きな公園。
スケボーで道をゆく子供や、バイクの上で煙草を吹かす男性。〈ロンドン〉でしか見ない服装の人たちが見える。
ランマはサモンコインをコイントスし、ミラを召喚する。ミラは宝箱の姿になり、ランマはミラを抱き抱えて景色を見せる。
「見ろよミラ。今日からここが、俺たちの第二の故郷さ」
『みらぁ!!』
聞きなれない楽器の音――ギターの音がランマの耳に届く。音の方を見ると、ペンキ塗れの壁の前で青年がギターを弾いていた。
ギターは異界都市の産物。ランマはその音で、改めて自分が未知の世界に来たことを知る。
こうして、ランマ=ヒグラシの〈ロンドン〉生活が始まった。
……ちなみに、
「うおっしゃあ! 俺がピンクぅ!!」
「……くぅ!」
ジャンケンの結果、ピンクの家はウノの物となった。
読んで頂きありがとうございました。
この小説を読んで、わずかでも面白いと思っていただけたら評価とブクマといいねを入れてくれると嬉しいです。とてもパワーになります。
よろしくお願いします。