第4話 パートナー
翌日。
「いらっしゃい」
ランマは学校をサボり、サモンコインショップに来た。
ここには壁沿いにサモンコインが並ぶ。
召喚陣は何もしないとどこにも繋がることはない。しかし、このサモンコインを投げ入れることで魔界と繋がり、魔界よりサモンコインに対応した悪魔を呼び出す。
並べられたコインの上には名札がついている。例えばゴーレムと書かれたサモンコインを召喚陣に投げ入れると召喚陣からゴーレムが出てくるわけだ。ちなみに種類ごとにコインには絵が描いてあって、ゴーレムのサモンコインにはゴーレムを模したエンブレムが描いてある。
「こんちはー」
「ん? なんだランマじゃねぇか。学校はどうした?」
スキンヘッドの店主は新聞から目を離し、ランマの方を向く。
「学校は休んだ。ちょっと怪我したんでな」
ランマが昨日エディックにつけられた傷を見せつけるとおやっさんは納得した。
「なんだよ、また前みたいに店手伝ってもらえると思ったのに」
ランマは以前にこの店で働いていたことがある。サモンコインに囲まれることで召喚陣に何らかの作用があるかもしれない、という直感のために。結局効果はなく、辞めてしまったのだが。
「客いねぇんだから手伝うことねぇだろう」
「ん? つーか働きに来たんじゃないなら何しに来たんだ?」
おやっさんの言葉に一文付け足すなら『どうせサモンコインなんてお前とは無縁だろう?』だ。
「今日は客としてきたんだよ」
「……」
「……せめて笑えよ。哀れみの目で見るんじゃねぇよ!」
おやっさんはコーヒーを一口飲み、新聞に目を落とした。客を相手する態度ではない。ランマを客として認識していないということだ。
「なぁおやっさん、3センチ以下で召喚できる悪魔いない?」
「いるわけねぇだろ。最低サイズでも22センチは必要だよ。これまでも同じこと何度も言っただろうが」
「そんじゃさ、ここにないやつでもいいから心当たりないか? 3センチ以下の悪魔」
おやっさんは「んなこと言われてもな」と顎に手を添える。
「……スライムとかどうだ? あれなら流動体だから3センチ以下の召喚陣でも――いやだめだ。アレは核が5センチぐらいあったな」
それから10分近く考え込むも、おやっさんは答えを出せなかった。
「駄目だな。俺の頭の中にある悪魔は全部4センチ以上だ」
「まったく、サモンコイン売ってるくせに心当たりねぇのかよ」
「文句はテメェの召喚陣に言いやがれ」
仕方なく、ランマはサモンコインを見て回る。
・ワイバーン サイズ:4メートル 特性:飛行
・レッドウルフ サイズ:60センチ 特性:俊足
・スノーモンキー サイズ:2メートル33センチ 特性:雪投げ
・トレント サイズ:8メートル 特性:光合成
・ミミック サイズ:30センチ 特性:擬態
・ホーンラピット サイズ:40センチ 特性:雷生成
・ボーンナイト サイズ:1メートル65センチ 特性:解体回避
他にも多数のサモンコインがあるが、
「うーむ……」
当然、3センチ以下の悪魔はいない。
(ダメだな。どれも大きすぎる。わかっちゃいたけどな)
まったく、本当にこの召喚陣で召喚できる悪魔がいるのかよ。とランマは昨夜の少年の言葉を疑った。
不意にランマはポケットからただのコインを取り出し、手元で遊び出した。
(真っ当な方法じゃまず無理だよなー……)
ランマはコインを指ではじいたり、コインロール(指の上でコインをコロコロと転がす技)させたり、人差し指の上で回したりとマジシャン顔負けの手技を無意識に見せる。
「お、久しぶりに見たな。お前のソレ」
「ん?」
「ほれ、そのコイン遊びする癖だよ。お前が特に集中すると出るよな」
「ああ、これね。コインと戯れていると落ち着くんだよなぁ、昔から」
集中力のスイッチは人によって違うが、ランマのスイッチはこの手遊びだった。とは言っても集中すること自体はなにもしなくともできる。ただコイン遊びすることでその集中の深さが段違いになる。なぜコイン遊びをすることでスイッチが入るのか、それはランマも知らず恐らく特に理由はない。
ランマはコイントスし、コインを見つめる。
ランマは気づく。コインは自身の召喚陣よりギリギリ小さいことに。
(俺の召喚陣で出すとすりゃ、それこそコインぐらいのサイズじゃねぇと。コイン型の悪魔とかいないもんかね)
瞬間、ランマの頭に一筋のひらめきが走った。
「待てよ」
ランマはとある悪魔に焦点を寄せる。
コインと同じ大きさの悪魔はいない。だけどコインになれる悪魔はいる。
その悪魔の名は――ミミック。
「な、なぁおやっさん!!」
「ん? どうした?」
「ミミックってさ、擬態できるんだろ? なんにでも擬態できるのか!?」
「なんでもは無理だよ。ミミックは飲み込んだ物体に擬態することができる悪魔だ。飲み込めない大きさの物には擬態できないし、生物とかも無理だな」
「そんならさ、例えば……」
2.8センチのコインをランマは見せる。
「これに擬態させることはできるか!?」
「ああ、そりゃいける……なるほど! そういうことか!」
おやっさんにもランマの意図が通じる。
「まず俺がコイツを召喚して、コインを飲ませてコインの形状を記憶させる。そうすりゃ、ミミックはコインの姿で召喚陣から出てこれるようになる!!」
「コインの大きさなら、俺の召喚陣からでも出せる!」
「おー! あったまいいなぁお前! よし、早速やってみよう!」
ウキウキと二人は一緒に表に出る。
おやっさんっは直径1メートル半ぐらいくらいの召喚陣を展開し、ミミックのサモンコインを投げる。コインは召喚陣に触れると弾け飛び、召喚陣は紫色に輝きだす。
「召喚!」
召喚陣から宝箱の姿をした悪魔――ミミックが出てくる。
『みらぁ!』
ミミックは蓋をパカパカさせて踊る。
箱の中の暗闇にはまん丸の目が二つ浮いている。
「よし、ミミック。コイツを飲み込め」
おやっさんは小型銀貨をミミックに見せる。
『みみぃ!』
ミミックは一度蓋を開閉させた。了解、って意味だろう。
おやっさんがコインを宝箱の中に入れる。するとミミックは光を発し、コインへと擬態した。
『みら!』
コインに二個の目が生える。
「成功だな。そんじゃミミック、次に出てくる時はその姿で出てこれるか?」
『みら!』
ミミックは返事し、真っ白なサモンコインとなって転がった。
悪魔は倒されたりして一度魔界に戻ると、次に召喚できるようになるまでクールタイムが必要になる。サモンコインが真っ白な状態はクールタイム中であることを示し、クールタイム中は再度召喚することはできない。クールタイムは悪魔によって異なり、基本強い悪魔ほどクールタイムは長い。
「ミミックのクールタイムは5分だ。弱いからな。あとはお前さんで試しな」
おやっさんがサモンコインを投げる。ランマはサモンコインを受け取り、代わりに金を渡す。
「ほら、代金。助かったよ」
「いいよいいよ。そいつはタダでやる。頑張れよ」
おやっさんは笑う。
「……ありがとう」
ランマは感謝を胸に、サモンコインを持って家に帰った。
「さてと」
すでに5分経った。サモンコインは赤く染めあがっている。
召喚陣を出し、サモンコインを投げ入れる。
10秒後。
召喚陣から銀貨が飛び出した。
『みらぁ!』
「で、できた!! おお! まじか! こんな簡単に!?」
生まれてはじめての悪魔召喚。
感じたことのない歓喜が全身を走る。
「み、ミミック。宝箱の姿に戻れるか?」
『みら!』
ミミックは宝箱の姿になる。
「完璧だ。えーっと、いろいろ試したいことがあるんだが」
『みらぁ?』
ミミックは体を傾ける。
(か、可愛い! はじめて自分が召喚した悪魔ってことも相まってめっちゃかわいい!!)
蓋の部分を撫でてみる。するとミミックはぴょんぴょん飛び跳ねて喜んだ。
「デへへ。ミミックってなんかせこくて薄汚いイメージあったけど、結構かわいいじゃんか。 ――といかんいかん、本題を見失っていた」
ミミックの天使の如き可愛さを一度振り払う。
「まず、そうだな。お前の名前を決めようか。安直だけど、鳴き声が『みら』だし……ミラ、でいいか?」
『みらぁ!!』
ミミック――ミラは飛び跳ねる。
「よしミラ、今日からお前は俺の相棒だ。これからよろしくな!」
『みら!』
ミラは蓋を開閉させる。
こうしてランマは相棒ミラを手に入れた。
ミラ
種族:ミミック
特性:擬態……宝箱の姿で飲み込んだ物を記憶し、擬態できる。
性別:なし……ミミックに性別はないが、ミラの性格は女の子寄り。
体術× 魔術△ 成長性〇