第39話 歓迎会……?
「あーあ、俺も美人師団長殿に会いたかったなぁ」
明朝、街道にて。
ランマ、ウノ、ステラ、スウェン、フランベルは5人で歩いていた。
「ずるいぜランマちゃんだけ抜け駆けしてよ~」
「偶然、たまたま会っただけだ。俺もまさか昨日あの人が来てるとは思ってなかったよ」
「もしかしてですけど、ランマさんが言っていた結婚したい相手って……」
ランマは照れくさそうに、
「そうだよ。第七師団の師団長だ」
「ふーん、そうですか」
「なんだよ、その反応。なにか言いたげだな」
「いえ、私は異性を好きになったことがないので、ランマさんがちょっと羨ましくなっただけです」
「羨ましい? 俺のことが?」
「はい。師団長の話をする時、とても楽しそうでしたから。好きな相手が居るというのはきっと楽しいことなのでしょうね」
純粋無垢なステラの言葉に対し、ランマは耳から真っ赤になる。
「――あのなステラ、そういうのは口にしないでくれると助かるんだが」
「ステラちゃまもすぐに恋の味を知れるさ。ここに数々のバニーちゃんを射止めてきた最高の狩人が居るんだからよ」
「……」
「……ステラちゃま~、無視はきついぜ。せめて罵声をくれ」
ランマは前でバイクを引くスウェンの背中を見て、
「スウェン。バイク降りてから相当歩いているけど、第七師団支部ってのはまだ先なのか?」
「うん。もう少しだよ」
「てかよスウェン坊ちゃん、この辺、かなりガラ悪くねぇか? さっきから野郎に睨まれまくってるんだけど」
ランマは周囲を見渡す。
ペンキで落書きされた壁、下着姿で路地裏に寝る女性、刺青だらけのタンクトップ男の群れ。
どこからかアルコールの香りもする。
昨日、歩いてきた街並みと打って変わり、かなり雰囲気が淀んでいる。
「〈イースト・エンド〉に入ったからね」
「〈イースト・エンド〉?」
ランマが聞く。
「そうだ、君たちには説明してなかったね。ロンドンは基本、東と西で分けられる。東側を〈イースト・エンド〉、西側を〈ウエスト・エンド〉って呼ぶんだ」
「昨日わたくしたちが走ったのが〈ウエスト・エンド〉。街の中心であり、治安がよく、派手な建造物が多い。逆に〈イースト・エンド〉は所謂下町。治安が悪く、貧民が多いですわ」
「第一師団、第二師団、第五師団、第六師団は〈ウエスト・エンド〉に拠点を持ち、第三、第四、第七は〈イースト・エンド〉に拠点を持つんだ」
「かーっ、マジかよ。ぜってぇあっちの方がいいじゃねぇか」
ウノはそう言って肩を竦める。
「どうだろう? 僕は〈イースト・エンド〉の方が好きだよ。たしかに〈ウエスト・エンド〉ほど華やかじゃないけど――ここの人たちは、自由だ」
治安が悪い、つまり〈ウエスト・エンド〉より規制が緩いということ。
それゆえに自由に商売でき、〈イースト・エンド〉には多種多様な店が立ち並ぶ。何の役に立つかわからない錆びれたネジから名匠が作った茶器まで手に入る。とは言え、悪い商売も同時に蔓延っているため一長一短ではある。
「着いたよ。ここが第七師団支部だ。通称〈ハウスツリー〉」
〈テムズ川〉に繋がる坂の上、
〈イースト・エンド〉を見下ろせる場所に、その建物はあった。
「なぁランマちゃん、これ、ガキが設計図作ったのか?」
「むしろすげー芸術家が設計したんじゃねぇの?」
面妖な建物だ。
一本の巨木に、多数の建物(主に一軒家)が身を寄せ合って1つの塔になっている。なにを言っているのかわからないだろうが、そうとしか言い表せない。巨木に埋め込まれるような形で家が建っているのだ。
「一番下の建物が事務所。そこから上はほとんど住宅だよ」
木の根に絡まれた酒場のような建物がある。あれが事務所のようだ。
「じゃあなにか、俺たちはあの上に積み重なっている家のどれかに住むってことか?」
ランマが聞くと、スウェンは頷き、
「そうだよ~。この〈ハウスツリー〉の中心には螺旋階段があって、それで上にあがれる。でも今は一階に用があるから螺旋階段は後回しだ」
スウェンは一階の建物の扉を開け、中に入る。
ランマはスウェンの後で、建物の中に入った。
「お邪魔します……って、なんだこりゃ!?」
内装も酒場のよう。バーカウンター、多数のテーブル、掲示板等がある。
しかし、問題は住民だ。中に居る全員がテーブルに伏したり床に伏したりしている。しかも、倒れている人間の側には赤い液体が滴っている。
「おいスウェン! これまさか、堕天使の襲撃に遭ったんじゃ!?」
「いやぁ、違うね。これはきっと」
「お! 来たか新入り諸君」
酒場の奥から男性が現れる。
「ただいま帰りました。ギネスさん」
「おう。お疲れ。色々大変だったみたいだな」
上裸で、酒瓶片手にギネスという男性は喋る。
「紹介するね。こちら第七師団副師団長のギネス=ウォーカーさん」
「「よろしくお願いします」」「よろピ」
「よろしく。お前らのことは聞いてるから自己紹介は不要だぜ」
「ヒルス師団長があんまりいない関係上、実質この師団を取り仕切ってるのはギネスさんなんだ」
「ホントはリーダーなんてガラじゃねぇんだけどな。あの奔放娘のせいで、とんだとばっちりだ」
ギネスは酒をあおる。
「ギネスさん、これは一体どういう状況ですの?」
「あー、新人歓迎会を開こうって話になって、酒とご馳走を用意して……お前らを待ってる内にみんな腹が減って喉が渇いて……気づいたらみんな酔いつぶれてた」
つまりランマ達を待ちきれず酒宴を開き、全員が酔いつぶれたということ。
ランマは倒れてる男性に近づき、近くに零れてる赤い液体の匂いを嗅ぐ。
「これ、ワインかよ……」
「ま! 歓迎会はまた別の機会ってことで!」
ギネスはクラッカーを鳴らす。
「入団おめでとう! 歓迎するぜ。ランマ、ウノ、ステラ。見ての通り自分勝手で品性の欠片もない連中の集まりだが――ここに居りゃ、退屈はさせないと約束しよう」
読んで頂きありがとうございました。
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よろしくお願いします。
※注意※
ランマ達の居るロンドンは異界のロンドンとは多少構造が違います(8話参照)。
この辺、お忘れなく。