第37話 ジョーカー
「おい、まさか、召喚術を使わずに俺と戦う気か?」
「ああ」
ランマは中距離から蛇腹剣を伸ばす。
「後から言い訳すんなよ!」
ヒルスは蛇腹剣による横なぎを、剣で軽く弾いた。
(!? コウリュウが簡単に弾かれた。あの剣、なにかあるな)
「召喚術や転生術のような体外魔法を伸ばすのも大切だ。しかし、純正魔法陣を使った体内魔法も疎かにしてはならない。侮ってもならない」
ヒルスは右人差し指と右中指を合わせ、前に出す。
「【011-8992】」
ヒルスは指の先に炎の塊を作る。
「“炎番・焦矢”」
炎は矢の形となり、ランマに向かっていく。
ランマは剣で炎を振り払う。
「体内魔法には大きく2つの流派がある。これはその内の1つ、霊番詠唱によって精霊とパイプを繋ぎ、体内の魔法陣に精霊の術式を刻み魔法を執行する詠唱魔法だ」
「すげーけど、所詮は体内魔法だろ? どれだけ人間が炎魔法を極めたところで、イフリートの火力には及ばない。水魔法にしても雷魔法にしても、悪魔の使う魔法の魔力効率、魔法威力には及ばないんだ。アンタほどの召喚陣を持つなら、その辺りの悪魔を召喚術で出した方が効率的で強力だろ」
「そうだな。だが、いつでも召喚術を使えるとは限らない。それに、体内魔法も組み合わせれば召喚獣の魔法に匹敵する場合もある」
ヒルスは剣をしまい、両手の手のひらを上に向ける。
「【012-1123】――“水番・油玉”、
【011-8992】――“炎番・焦矢”」
右手の手のひらに油の塊を浮かせ、
左手の手のひらに炎の矢を浮かばせる。
ヒルスはまず、油の塊をランマに向けて投げた。
「散」
ヒルスが呟くと、油が霧散した。
(まずい!!)
ランマはヒルスの狙いに気づく。
「轟」
ヒルスは炎の矢を放つ。
「鋼盾!!」
霧散した油に炎の矢がぶつかると、巨大な爆発を巻き起こした。
ランマは盾で爆撃を防ぐも、衝撃で飛ばされる。吹っ飛んでいくランマを、自己強化魔法で加速したヒルスが追う。
「お前も普段使ってるであろう自己強化魔法は暗唱魔法、念じるだけで魔法陣に術式を刻む魔法だ。慣れれば無意識下で使える。詠唱魔法より効力は低いもののほぼノータイムで発動できる。これが2つ目の流派」
体内にある純正魔法陣(術式を刻むことで魔法を発動できる魔法陣。すべての魔法陣は体内にある時はこの純正魔法陣になる)を使って発動する魔法を体内魔法。体外に魔法陣を設置して発動する魔法(召喚術・結界術・転生術・鑑定術)を体外魔法と呼ぶ。ほとんどの魔法士(召喚士・結界士・転生士・鑑定士をまとめた呼び方)はこの2種の魔法を組み合わせて戦う。ランマも自己強化魔法と召喚術を組み合わせて戦っている。
ランマはハッキリ言って体内魔法を侮っていた。実際、学校でも体内魔法はほとんど習わなかった上、召喚術が使えないばかりに苦汁を舐め続けたせいで召喚術、つまりは体外魔法を神聖視してしまっている部分があった。だがその意識は体外魔法を使わず自身を追い詰めるヒルスの姿によって払拭される。
(体内魔法でここまで威力を出せるのか!)
ランマはなんとか態勢を立て直し、ヒルスと剣で打ち合う。
(なんだ……?)
打ち合う度、蛇腹剣の刃が零れていく。
(コウリュウが嫌がっている? この剣に触れることを、拒否している……!)
ランマは咄嗟に、
「鋼剣!!」
「ほう。正解だ」
ランマはミラを鋼の剣に変え、ヒルスの刃を受ける。
すると、なぜか天界礼装のコウリュウで受けるより、軽く剣を受けることができた。
「その剣、やっぱなにか普通と違うな!」
「その通り。これは番外編、と言ったところだな」
ヒルスは強く剣を振り、ランマを弾き飛ばし、距離を作る。
「この剣の銘は“紫焔・天斬”」
ヒルスはその薄紫色の刀身を見せる。
「天界礼装に対し、強力な特効効果を持つ。だが、それ以外の物に対してはそこそこの切れ味しか持たない」
「魔導具、か?」
「少し違う。魔導具とは魔力で駆動する人間が作った道具を言う。これは魔導具と同様に魔力で効果を発揮するが、作ったのは人間ではない。――悪魔だ。悪魔に作られた道具、武器は魔装と呼ばれる」
(魔装……そんなものがあるのか)
「弱いカードでも、数あれば相手を迷わせることができる。大富豪でも大量の手札を持つ人間が居たら警戒するだろ? 例えクズカードの集まりでも組み合わせ次第では革命を起こされるからな。野球でも球種は多いに越したことはない。逆にカードが1枚の者、ストレートしか投げられない者はたとえそれがどれだけ強力でも手玉に取られることがある」
「生憎、だいふごうとやらもやきゅうとやらも知らん。だが言いたいことはわかったよ」
ランマも手数の多さで戦うタイプ。選択肢の多さが勝率に直結すると考えているタイプだ。ヒルスの考えは理解できる。
ヒルスはまだ多くの戦術を持っている。長引けば先にカードを使い果たすのはランマだ。カードを使い果たせばランマのようなタイプは脆い。
(なんでもいいからもっと手数を持てって言いたいんだろうな。実際、コウリュウに頼り切りなのは認めるけどよ)
ランマはギリと歯軋りする。
(ちくしょう。決闘じゃなくて、授業になってやがるな。ありがたいけど、俺にだってプライドはあるんだぜ……!)
勝ちを通すためにはとっておきを出すしかない。相手がどの手札を切ろうとも対応できない道化を出すしかない。
「言っとくが、俺だってまだカードを出し尽くしたわけじゃないぜ」
ランマはミラを両手で握る。
「――コイン」
ランマはコインを握りしめ、右手を振りかぶってヒルスに近づく。
単純ながら強力なランマとミラの得意技、その名も――
(リーチ・トリック!!)
ヒルスはランマの腕の振りに合わせ、身を屈めた。
「くっ!?」
「ギリギリで剣に変えるのだろう? 動作が安直――」
「――なんちゃって」
瞬間、ランマの左手に蛇腹剣が現れた。
「!?」
ヒルスは寸前で身を捻るも、伸びた蛇腹剣に脇腹を裂かれた。
「右手の振りを、囮に……!」
「どうだよ、俺のジョーカーカードは……!」
霊番は精霊の電話番号みたいなものです。
頭三桁が【精霊】のチャンネル、後ろ四桁が【魔法】のチャンネルです。
“炎番・焦矢”の場合、【011-8992】が霊番となるわけですが、この霊番を和訳にすると【火の精-8992番の魔法求む】って感じです(わかりにくい?)。頭三桁がメーカーを示して、後ろ四桁がそのメーカーの商品番号って感じです(余計わかりにくいか?)。
自己強化魔法について。
自分の体内の魔力を剛魔力という強化エネルギーに変える体内魔法。剛魔力は纏った部位を強化することができる。魔法士の身体能力が高いのはこの剛魔力のおかげ。自己強化と言っているが、剛魔力は武具に纏うことも可能(ただ上等テクが必要)。
どの魔法士もブーストを使い剛魔力を常に微弱に纏ってる。大穴落下時のランマや爆発を喰らった時のスウェンは改めてブーストを使い、剛魔力を増やして纏った感じ。命令や指示で「ブーストを使え!」と言われたら魔力の大半を剛魔力に変えて纏えって意味。熟練者になればブーストは呼吸するように簡単に使える。
体内に魔法陣がない時(召喚術・結界術・転生術・鑑定術を使ってる時)はブーストを使うことはできないが、大体の魔法士は体外魔法を使う直前にブーストを使って剛魔力を生成しているため問題はない。結界士は戦闘前には特に大量の魔力を剛魔力に変えている。結界術の特性上、結界陣は出しっぱなしなることが多いため。
以上、マニア向け解説でした(読み飛ばして全然大丈夫です)。