第36話 ホワイトシティ・スタジアム
「……どうした? なにをジロジロ見ている?」
「あ、いや」
ヒルスはランマの方へ歩み寄る。
「俺、射堕天サークルに所属している者……で」
「服を見ればわかる」
ランマは名乗ることができなかった。
(なにやってんだ。早く言えよ。俺の名前はランマ=ヒグラシです、って。なにを期待している!)
「?」
(覚えてるわけないだろ! もう7年前のことだ!)
自分がここまで想い続けたのだから、ヒルスの記憶の片隅でいいから自分が居てほしい。そんな女々しい感情ゆえに、ランマは名乗れずにいた。
(この人はきっと、多くの人を助けてきた。それこそ数えきれない数の人間だ。俺はその中の1人に過ぎない。覚えてるわけ――)
「よくわからないが、緊張しているようだな。ランマ」
「はい。――え?」
ランマは、耳を疑った。
「ミカヅキから話は聞いていた。あれから、頑張ってきたんだな」
ヒルスは、微笑む。
「助けてよかったよ」
「……!」
顔全体が熱くなる。
いま、自分がどんな表情をしているかわからない。ランマは咄嗟に顔を下げた。
(やべぇ! 嬉しい! 覚えててくれたのか……くそ、泣きそうだ……!)
ランマはギュッと表情を引き締め、顔を上げる。
「スウェンからアンタは明日来るって聞いてたんだけど、どうしてもう居るんだ?」
どこか素っ気ない風にランマは聞く。思春期特有の好き避けのような状態だ。
「いろいろと予定が狂ってな。帰りが1日早くなって、そして、もうすぐ任務に出ないとならない」
「なっ……!? もう行っちまうのか!?」
「ああ。今は一目だけでもお前ら新入隊員を見ておこうと〈バラ・マーケット〉に向かっていたところだ。そこに居るだろうと聞いてたのでな。しかし、あと30分程度しか〈ロンドン〉に残れない。全員とゆっくり話すのは無理そうだ」
ヒルスはランマを強い眼差しで見る。
「他の面子に会うのはまたの機会にしよう。今回はお前の器だけ測らせてもらうぞ、ランマ」
「器を測る? なにをすりゃいいんだ?」
「私と決闘しろ」
「決闘!?」
「ああ。それが一番手っ取り早い」
ヒルスは二階建ての建物に匹敵する召喚陣を展開し、サモンコインを指で弾いて召喚陣に入れる。
「――バハムート」
召喚陣からいつか見た銀色の竜が召喚され、ヒルスはその背に飛び乗る。
「乗れ。場所を変えよう」
「ちょ、ちょっと待てよ! 色々急すぎるって!!」
「私と戦うのは怖いか?」
「!?」
ランマは一瞬目を見開いた後、笑った。
「――そんなわけあるかよ! ずっと、誰を目標に強くなってきたと思ってやがる!」
「ならば来い。お前が目標にどれだけ近づけたか教えてやる」
ランマはバハムートの背に飛び乗る。
バハムートは〈ロンドン〉の空に飛び上がり、空を駆ける。
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ランマが降ろされたのは緑の芝生広がるスタジアムだ。
「ここは……?」
「〈ホワイトシティ・スタジアム〉。よくスポーツ競技で使われる場所だ。今日は休場日だから誰もいない。思う存分、戦える」
「大丈夫なのか? 戦いで壊れたりしたら……」
「心配はいらない。お前程度が相手ならそこまで派手な技を使うこともないだろう」
ヒルスは発破をかけたわけじゃない。ただの本音だ。
ヒルスはバハムートを消滅させ、サモンコインを回収する。
「ほほう……! そうかよ、舐められたもんだなぁ、おい」
ランマはコインとなっているミラを握りしめる。
「あの女の鼻明かしてやろうぜ、ミラ!」
『みらぁ!』
「出し惜しみはなしだ! コウリュウ!!」
ミラを蛇腹剣に変化させ、握りしめる。
一方、ヒルスは召喚獣は出さず、腰に差した騎士剣を抜いた。
「にわかには信じられなかったが、本当に天界礼装を掌握しているのだな」
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