第32話 夜明け
第一師団の船の甲板に集合した6人。
軽く情報交換を済ませると、ミカヅキは指示を出し始めた。
「これから第一師団の船を使って紙に書かれた座標に向かう。ただウチの船を放置するわけにもいかねぇ。ランマとスウェンは帆船に残って船を動かさず待機、残りは第一師団の船だ」
ランマとスウェンはミカヅキの指示通り第七師団の船に戻る。
波音が通る甲板で、ランマは座り込み、呆然と月を眺めていた。
「暗い顔だね」
ホットミルクを1つ頭に乗せてもう1つを手に持ってスウェンがやってくる。
スウェンはスッとホットミルクの入ったカップをランマに差し出した。
「さんきゅ」
ランマはカップを受け取り、膝の上に乗せた。
「どうかした? 悩みがあるなら聞くよ。先輩だしね」
「……今回やってきた堕天使、俺のことを探してたんだよな?」
「そうだね。それは間違いない」
「じゃあさ、俺がアイツをこの海に招いたってことだろ?」
ランマはゴネリスのロケットペンダントを手に取り、開く。中にある写真を見て、目を細める。
「……俺が居なければ……エディックも、ゴネリスさんも、リーニャさんも……俺の、罪だ」
悪意を持って招いたわけじゃない。
なぜ自分が狙われていたか、その理由すらわからない。
普通の人間なら知ったことかと、自分に責任なんてないと、堂々と言えるだろう。
けれど、ランマは罪悪感を抱いてしまった。愚直すぎる精神ゆえに。
君のせいじゃない。そんな言葉をランマは待っていないと、スウェンは直感する。
「うっざぁ」
……だからと言って、これは断じて正しい慰めではない。
ずーん。と沈むランマ。
スウェンは小さくため息をつき、
「うーんと、それならさ、君をここまで連れてきた僕にも責任があるよねー?」
「いや、そんなことは」
「半分こにしよっか。僕も背負うよ、その罪」
「……!」
スウェンは笑顔で言う。
「理由はわからないけど、君は狙われている。だったら、君がいま考えることは一つなんじゃない? ――強くなりなよ。今度は全員、守れるように。自分を責めなくてもいいぐらいに、強くなりな」
温かくも厳しい言葉をスウェンは浴びせる。
今のランマにとって、これ以上ない言葉だった。
「……ありがとな。スウェン」
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第一師団の船。
座標近くまで船を動かしたミカヅキは甲板に出て、ウノに声を掛ける。
「ウノ! もうちょいで座標の場所だ! こっからは結界で行く。お前も一応ついてこい」
「あいよ」
ミカヅキが張った結界の上をミカヅキとウノは歩く。
座標の場所に着くも、何も見当たらない。
「本当にこの場所なのか? ミカヅキの旦那」
「ああ、間違いないはずだが……」
「!? 待った旦那! 結界の棒が海上に飛び出てるぞ!」
ウノの言葉でミカヅキも目を凝らす。ウノの言う通り、ホース状の結界が海上に突き出している。
その結界の下、海面の下に、多数の人影見える。
「こりゃ……まさか!?」
ウノは気づく。
海面の下に立方体の結界があり、その結界に閉じ込められ、隔離されている多数の人間。立方体の結界からホース状の結界が伸び、海上に突き出ている。これは酸素を確保するためのモノ。
「旦那!」
「結界でここに船員を隔離してたんだ! これは固定型の結界。動かすのは無理か――」
ミカヅキが結界に触れると、パリン! と結界が割れた。
「「なっ!?」」
結界が割れ、中に居た人間が全員海に落ちる。
「なーにやってんだ旦那ぁ!!?」
「あばばばばばばばばばっっっ!!!」
ミカヅキは慌てて落ちた人間を結界で拾っていく。
「ウノ! 片っ端から結界で押し上げろ!」
「あいあいさー!!」
船員48名。
結界内に居た全員が結界に乗って海上に上がった。
「な、仲間だ! 仲間が来てくれたっ!」
「ど、どうなったんだ!? あの堕天使は……!」
第一師団の人間は怯えた様子で問う。
「堕天使は撃退した。もう大丈夫だ。今の結界は誰の仕業だ? 新人か?」
「ち、違います!」
涙ながらに、女性の射堕天が声を出す。
「リーニャさん、リーニャさんが……!」
「!? リーニャだと!?」
「はい! リーニャさんが力を振り絞って結界に私たちを避難させてくれたんです。その後で、堕天使を倒すために船に戻って……それで!」
ウノはミカヅキの横に立ち、
「あんな巨大な結界設置して、眷属にされても死んでも維持したのか……」
ウノは心底信じられないという顔だ。
「とんでもねぇ集中力、技術、気力……根性、意地。すげぇな、アンタの友達」
ミカヅキは彼女の顔を思い浮かべ、嬉しそうに笑った。
「あァ……天才さ」
こうして、長い夜は終わり、
朝陽が、顔を出した。
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