第30話 ランマvsゴネリス
結界の上。
ランマとゴネリスは近距離で打ち合う。
ランマの最強の手札、コウリュウが真価を発揮するのは中距離。接近戦を強いられる以上、ランマは一度コウリュウを封印し、剣・槍・盾を上手く切り替えして戦う。
ゴネリスは肉弾戦のごり押し。これが単純ながら強力。
(このおっさん、こんなボロボロなのに何でこんな動けるんだ!?)
もしもゴネリスが万全ならば3度は殺されている。
背筋に通る悪寒を抑え込み、ランマは集中力を高める。
(トリックプレーを仕掛けたいが、この人かなり警戒心が強い。冷静な内はリスクの高い行動は控えよう)
現在2人が居る結界の半分の面積はミカヅキ、もう半分をリーニャが担当している。
その内、リーニャが担当する結界が壊れた。
「!?」
リーニャが絶命したことで、結界が維持されず壊れたのだ。
リーニャ側の結界に立っていたゴネリスは足場を失い海に落下する。
「コイン」
ミラをコインに変え、手元で遊ばせる。
(ミカヅキさんの方はケリが着いたか。さぁ、どうしよっかな!)
ふとミカヅキの方に目をやると、ミカヅキが結界の刃でリーニャを突き刺していた。
となれば、
後は時間を稼げばミカヅキのサポートが復活し、ゴネリスを倒せる。
とは言え、
ゴネリスがそれを許すはずもない。
「うおおおおっ!!」
ゴネリスは海から飛び上がり、結界の上に着地。
猪突猛進。捨て身の突撃を繰り出す。
(やっぱそう来るか。なら――)
ランマは下手投げでミラが変化したコインをさりげなく、小さな動作で投げる。
コインはゴネリスの右足の横を通り、彼の後ろに設置される。
(一撃。たった一撃でいい、相手の動きを一瞬止めるだけの一撃でいい!!)
ゴネリスの筋肉の動き、視線の動き、これまでの戦闘で見せた癖や型から相手の次の動きを予知する。
(集中集中集中集中集中――!)
限界まで集中力を高めたランマの鼻から、血が滴る。
ゴネリスの右ストレートのフェイントからの、左の蹴り。
ランマはフェイントを鼻で笑うかのように構わず前進し、左の蹴りが自身に当たる前に、ゴネリスの鼻頭を叩く。
「……ぬっ!?」
「だっしゃあ!!!」
ランマの極限の集中力が成せる刹那の先読み。
ランマは指を上げ、
「――コウリュウ!!」
先ほどゴネリスの背後に投げたコインが蛇腹剣に変化。
蛇腹剣は伸び、後ろからゴネリスの胸の中心を突き破った。
「ぐふっ!!?」
宝箱状態のミラを見てもらえばわかるように、ミラは擬態した状態で多少は動ける。
コウリュウの姿でも刀身を伸ばしたり、小さく飛び跳ねたりはできる(空を飛ぶ。海を泳ぐなどは不可能)。
通常のコウリュウと違い、所有者の手を離れてもこういう動きができる。ミミックの強みの1つである。
「……まだ、だ……!」
「鋼剣」
ランマは蛇腹剣のワイヤー部分を掴み、蛇腹剣を鋼の剣に変化。
剣を振り下ろし、ゴネリスにとどめを刺す。
「……ありがとう……」
ゴネリスは震えた声で言う。
「……帰れなくて……ごめん、な」
最期にそう言い残してゴネリスは倒れた。
ゴネリスのすぐ側で、開いたロケットペンダントが落ちていた。
(さっきの一撃で落ちたのか)
ロケットペンダントの中には、幼い女の子と抱き合うゴネリスの写真があった。
恐らく、彼の娘だろう。
最期に言い残した言葉が向かっていたのは、きっと、
「……」
ランマはゴネリスとロケットペンダントを拾って、船に戻った。
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ランマとミカヅキは甲板で合流する。
「さて、と。とりあえずここは片付いたな」
「やめてくれ……そんな言い方……」
「罪悪感に浸るのは後にしてくれ。お守りしてる暇はない」
俯くランマにミカヅキは冷たく言う。
「これだけ暴れたのに堕天使が来ねぇ。中から戦闘音も聞こえない。潜伏する意味はねぇから、十中八九どこかへ移動したか……」
ステラが戦闘を開始すればその銃声ですぐさま中で戦闘が起こったとわかる。だがそれがない。ミカヅキは船内に敵がいないと八割方決めつけた。
「俺たちも中に入るぞ。ステラと合流する」
船内に繋がるドアがパタンと開いた。
中からステラが現れる。
「ステラ!」
「中はすべて洗い終わったのか?」
「ああ。もぬけの殻。人間も死体も眷属も堕天使もいなかったぜ。代わりに、いろんな部屋にこれが置いてあった」
ステラは5枚の紙をミカヅキに渡す。
どの紙にも書いてある文字は同じ。どれも見慣れない、読めない文字で書いてある。
「これはウチで使ってる暗号だな。えーっと、書いてあるのは座標だな」
「もしかして、そこに船員を避難させてるんじゃ?」
ランマが聞く。ミカヅキは頷き、
「その可能性は高い。が、まずは第七師団の船と合流する。向かうのはそれからだ」
ランマ、ミカヅキ、ステラは蒸気船を動かし、第七師団の船の方へと向かう。
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