第27話 うっせぇなぁ!!!!!
「船の進路を第一師団の居る方へ! 早く行かないと、どんどん被害が……!」
「待ったランマちゃん、焦り過ぎだ。状況を一度整理して……」
「悠長に構えてる場合かよ! 俺は一人でも行くぞ。確か小舟があったよな、それで……」
ランマの手足首を、結界の拘束具が縛る。
「!? この術は……!」
「落ち着けアホ」
甲板に出てきたミカヅキがなだめる。
「今すぐに第一師団の船に行くのは無謀だ。許可はできない」
「どうして!? こうしている間にも、誰かが殺されてるかもしれないんだぞ!」
「夜の海のど真ん中だぞ。翼のある堕天使ならいざ知らず、俺たち人間にとっちゃ最悪のロケーションだ。他の師団と連絡を取って、協力して攻略する必要がある」
ミカヅキの言葉にフランベルは頷く。
「ミカヅキさんの言う通りですわ。対策もなしに行くのは愚策かと。相手はC級のゴネリスさんを一方的に倒せるレベルの堕天使……推定階位は400位を超える。あなた一人で行ったところで虐殺されて終わりですわ」
ランマは唇を噛みしめ、焦りを押し殺す。
「……わかった。悪い、冷静じゃなかったよ」
ランマが落ち着きを取り戻したのを見て、ミカヅキはランマの拘束を解いた。
「お前らは外の警戒をしといてくれ。俺は他の師団に今の情報を共有する」
ミカヅキは連絡を取るため船内に戻る。
ランマはポケットからコインを取り出し、手元で遊ばせる。
「そんなに怒るってことは、よっぽど大切だったんだな。エディックってやつのことが」
口に紅を引きながらウノが聞いてくる。ランマはコインを見つめつつ、
「……どうだろうな。そこまで大切な人間じゃないと思うぞ」
「えっ!?」
「騙されてたし。かなり酷いことも言われた」
「そう、なのか? じゃあなんでそこまでぶちぎれてるんだ?」
「ただ……アイツは、よく俺の家に遊びに来てさ、一人っきりの俺に飯とか差し入れしてくれたんだ。学校で孤立していた俺に、ずっと話しかけてくれていた。悪気だけじゃそこまで出来なかったと思うんだ。もう……アイツの真意なんてわからないけど」
ランマは照れくさそうに頭を掻く。
「……いや、やっぱり俺はアイツのこと、大切に思ってたんだ。もう一度、親友になりたいって……どこかで思ってたんだ」
「そっか」
ウノはランマの背中をポンと叩き、それ以上なにも言わなかった。
待つこと5分。
ミカヅキが甲板に出てくる。
「他の師団と連絡を取った。結論から言おう」
ミカヅキは冷たい顔つきで、
「――全ての船は第一師団の航路を避け、ロンドンに向かう。以上だ」
全員が驚きの表情を浮かべた。
ランマは一人飛び出し、ミカヅキの胸倉を掴み上げる。
「ふざけんな……! なんだよそれ!! 第一師団は見捨てるってのか!?」
「……他の全師団が第一師団の船に生存者はすでにいないと推測した。俺も同意見だ。助けに行ったところで無駄だ。救助隊はロンドンで編成する」
「アンタ、第一師団に知り合い居たよな。リーニャっていう」
「それがどうした?」
「助けに行きたくないのか? ジッとしてられんのかよ!」
「もう決まった――」
「それが真意かよ! 本音なのかよ!」
「……いやだから」
「ミカヅキさん!!」
プツン、と、ミカヅキの頭で、なにかが切れた音がした。
「ミカヅキさん?」
イヤな予感を感じ取ったスウェンが、恐る恐るミカヅキの名を呼んだ。
ミカヅキは大きくため息をついたあと、大きく息を吸い、
「……だああああああああああああああああっっ!!!! もううっせぇなぁ!!!!!」
ミカヅキは何かがはちきれたように叫ぶ。
「行くよ! 行きゃいいんだろ! あぁそうだよ! 俺もジッとしてられる性分じゃねぇよ! でも俺はこの小隊のリーダーだからぁ! 冷静沈着に色々考えたけど……もうめんどくせぇ! やりたいようにやる! 全滅したらごめんってことで!」
ミカヅキは頭を掻きむしり、イライラから大きく舌打ちする。
「ミカヅキさん……」
「ミカヅキさん!? ちょっとお待ちを! わたくしは巻き込まれるのはごめんです!」
「知るか! この船に乗ったのを不幸に思え! ……スウェン・フランベル・ウノはこの船の防衛に残れ! 第一師団の船には俺とランマ、それにステラで行く!」
ミカヅキはステラの方に目を向け、
「嫌なら残ってもいいぞ、ステラ。強制はしない。はっきり言って生存率は5%以下だからな」
「行きます。堕天使に好き勝手にやられるのは腹が立ちますから」
「了解だ。救出班は今のうちに飯をたらふく腹に入れとけ。10分後、俺の結界を足場に第一師団の船まで行く」
「10分も待つのかよ! 俺とステラはさっき飯食ったし、もういけるぞ!」
「うっせぇ! 俺が腹減ってるんだよ! それにある程度はこの船で第一師団の居る場所まで近づきたい。あっちの先行具合から言って、俺の結界が届く範囲まで行くのに10分はかかる。まぁ、あっちの船が止まってる前提の話だが」
「この船であっちの船まで行けばいいのでは?」
スウェンの疑問に対し、ミカヅキは首を横に振る。
「駄目だ。こっちの船は絶対に失うわけにはいかない。この海の中、船が二隻とも沈んだらジ・エンドだ。例え堕天使を倒せても全滅だからな。ただでさえ激戦になることが予想される。流れ弾で船が沈んだら最悪だ。接近するのはリスクが高すぎる」
「船が沈んでも最悪泳いでロンドンまで行けばいいのでは?」
フランベルが聞く。
ミカヅキは呆れたように、
「んな芸当できるのはテメェぐらいだ貧乏令嬢」
「む……」
不満を表情に出すフランは無視し、ミカヅキは手を叩く。
「話は終わりだ! 各々準備しろ!」
「「「了解!!」」」
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