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第25話 夢と現実

 料理を持って、ランマとウノは見張り台に登った。

 ウノは手に皿を、ランマはホットコーヒーを三つ持っている。ウノが持ってる皿には銀色の蓋がついていて中は見えない。


「お待たせ」


 ステラはメイド服ではなく、制服を着ている。どうやら通常状態のようだ。


「ありがとうございます」

「どうだい、調子は」


 首を傾げ、ウノが聞く。


「一旦休憩です。今はスウェンさんが船首から双眼鏡で見張ってくれています」

「ちょうどいいな。ほれ、ウノお兄さんが夜食を作ってきてやったぞ」


 ウノが床に皿を置き、銀の蓋を外す。

 ランマとステラは皿に乗った料理を(いぶか)しげに覗き見る。


「なんだこれ、パンにハムとかトマトとか挟んである……」

「こちらの物には卵が挟まってます」

「そいつはサンドウィッチって料理だよ」


 聞きなじみのない名前だ。


「さんどうぃっち? どういう意味だ?」

「さぁな。異界都市の産物だ。名前の由来は知らん」


 ランマとステラはそれぞれハムサンドと卵サンドを手に取り、口に咥える。


「「……!!」」


 ランマと、そしてお嬢様気質のステラまで、ガツガツと一気にサンドウィッチを一切れ平らげた。


「うめぇだろ?」

「美味い! 絶品だ!」

「……認めたくはないですが、美味です」

「そうだろそうだろ」


 ウノはコーヒーとサンドウィッチ片手に、海の方を見ながら食事を始めた。

 ランマとステラはその場に座り、サンドウィッチとコーヒーを飲む。

 月が空に上り、潮の香りがする夜風が通る。暫く夜の静寂を楽しんだ後、ランマが口を開いた。


「お前たちはさ、なんで射堕天になろうと思ったんだ?」


 ランマは軽い調子で話題を振ったのだが、


「殺したい女が居るんだ」

「殺したい男が居るんです」


 返ってきた答えがあまりに物騒過ぎた。

 ランマはサンドウィッチの端っこを口に入れ、(いらんこと聞いたな……)と発言を後悔した。


「わりぃがこれ以上は言えねぇな。相手は生きた人間じゃねぇとだけ言っておこう」


 生きた人間じゃない、とは一体どういう意味だろうか。

 気にはなるが、これ以上話を広げて重い話題に突入したい気分ではなかった。


「私が殺したい相手は生きた人間です」

「これ以上踏み込むのは野暮かね?」


 ランマと違って、ウノは容赦なく踏み込もうとする。


「いいですよ。別に、隠すつもりはありませんから。私の殺したい相手は……第四師団の師団長です」


 聞く限り、隠した方がいい情報にも思える。ほとんど暗殺宣言だ。

 だが、ウノは「あー、そういう感じね」と納得していた。


「そっか、ランマちゃんは知らねぇか」


 置いてけぼりのランマを見かねてウノは説明を始める。


「第四師団ってのはな、犯罪者の集団なんだ。全員が元殺人鬼や盗賊共で構築されている」

「なんだそれ、そんなの……許されていいのか?」

「奴らはある程度の自由を許される代わりに、堕天使との命がけの戦いを強制されているのさ」

「堕天使と戦えば罪を許される、ってことか」

「それは少し違います。罪が軽減されることはなく、罰を停滞させているだけです。ノルマをこなせなければすぐさま死刑になる人物も多い。彼らは堕天使を倒す代わりに自分に課せられる罰を先延ばしにしているに過ぎない。ある意味、彼らは堕天使と共存関係にある」

「?」

「つまり、だ。堕天使が居なくなると射堕天、ひいては第四師団の存在意義はなくなり、間違いなく全員罰を執行される。多分だけど、ステラの目的はそこだろう?」

「そうです。第四師団の師団長は許されざる罪を犯した。なのに射堕天サークルに保護され、のうのうと生きている。私はそれが許せない。堕天使を全て滅ぼし、射堕天サークルを解体させ、そして……奴に罪を償わせる。それが私の目的です」


 覚悟のこもった瞳だ。

 無関係なランマまで、心臓がひゅんと冷たくなった。


「随分と重い覚悟だこと。そんで、ランマちゃんは何の目的で射堕天サークルに入ったんだ?」

「……」


 ランマは言葉を詰まらせた。

 これだけ重い目的の後で、“惚れた女に会いたくて”とは言いにくい。堕天使の存在は許せないし、射堕天という職業に憧れもある、が、それが第一かと言われるとそうじゃない。ランマが射堕天になりたい一番の理由は間違いなく彼女なのだから。

 とは言え、ここまで語ってくれたステラの手前、嘘も言いづらい。

 プライドと礼儀を天秤にかけ、ランマは――


「……好きな女と、結婚したくて」


 ランマは正直に吐露することにした。


「好きな人がさ、射堕天サークルに居て、その人の……側に居たくて」


 言葉を付け足せば付け足すほど恥ずかしさから顔が赤くなる。


「ぷ――だっはっは! マジかランマちゃん! そんな理由で! 命がけの世界に入ったのかよ!?」


 爆笑するウノ。

 ランマは恐る恐るステラの方を見る。


「――ぷふっ」


 ステラも、隠れて笑い声を零していた。


「別にいいだろうが! 誰も彼もが立派な目的で来てると思うなよ! コノヤロー!!」

「あーっはっは! 悪い悪い。別にいいと思うぜ? 俺はそういうの嫌いじゃない」

「そうですね。理由は人それぞれです」

「……はーっ、途端に自分が恥ずかしくなってきた……」


 ステラはサンドウィッチを食べ終えると立ち上がり、足元に星形の魔法陣を出した。


「ではそろそろ時間ですので、業務に戻ります」


 ステラの瞳が赤に変わり、服装がメイド服に変わる。


「俺たちは船内に戻るかね、ランマちゃん」

「そうだな」

「……待てお前ら」


 ステラは遠くを見て、頬に汗をかいた。


「……どうした、ステラ」


 ただならぬ様子のステラに、ランマが問う。


「遠くから、何かが来る。あれは……風鳥種(シムルグ)、か?」

「!? シムルグだと。まさか……」


 ランマ達は慌てて甲板へと降りた。甲板にはスウェンとフランベルもいる。

 シムルグ、およびその背に乗ったエディックが甲板に降りてくる。


「エディック!?」


 エディックはシムルグを消し、落下を始める。ランマがそれを受け止める。


「エディック! しっかりしろ!!」


 エディックは……血みどろだった。

 脇腹には穴が空き、左目は抉られている。体中に深い傷跡がある。


 もはや――助かる余地はなかった。


「なんだ、これ……なにが……一体、なにが……!」


 体が、精神が、非情な現実に引きずり戻される。


「ランマ、か……」


 エディックは右目を開き、ランマの顔を見る。


「ちっ、よりにもよって、テメェの船に着くとはな……まぁいい。よく聞け」


 エディックは言葉を振り絞る。


「――第一師団の船は……堕天使に占拠された」

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― 新着の感想 ―
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