第24話 彼女の名は
第一師団、第七師団以外の五師団も港に到着。
ランマとウノは帆船の甲板から他の師団の船を眺めた。
「おうおう。やっぱ俺たちの船が一番ちっせぇな」
ウノが文句を垂れるのも仕方がない。
みんながみんな第一師団ほどではないが大きな船に乗っている。
「それだけならまだいいけどよ」
ランマは船を見回す。
乗員はたったの――6人。
「たった6人しか乗ってないってどうなんだ? ひょっとして、俺たちも船動かすの手伝わないとダメか?」
「うげっ!? そりゃ勘弁願いたい……」
「心配はいりませんわ! わたくしにお任せを!」
ゾンビの大軍を引き連れて現れたフランベル。
フランベルの頭の上には海賊が着るような三角帽子が乗っている。
「総員! 出港準備!」
ゾンビたちはフランベルの指揮に従い、出港準備を始める。
スウェンがランマの元を訪れ、
「船の操作はフランとそのシモベたちに任せておけばいい。君たちはのんびりくつろぐといいよ」
とスウェンが言う。
ゾンビたちはせっせと働く。
「せっかくのブルーオーシャンがゾンビの腐臭で台無しだな……」
ため息をつくウノ。
「なにを文句言ってますの!? ゾンビが嫌なら、あなたが働いてくださいな!」
「ウソウソ、冗談だよ冗談」
「ミカヅキ先輩はなにやってんだ?」
「船長室で他の師団と連絡を取ってる」
「連絡? どうやって?」
「電話っていう通信機があってね、距離が離れていても言葉を交わせるんだ。それで他の船に居る射堕天と話してるんだよ」
スウェンの話を聞き、さっきまで意気消沈していたウノが目を輝かせる。
「電話!? 異界都市の産物じゃねぇか!」
「そうだよ~」
「船長室って言ったな、ちょっと見てくる!」
「うん。行ってらっしゃい」
ウノは甲板から出て船内に入っていった。
「そういやアイツ、異界都市に興味があるみたいなこと言ってたな」
「異界都市のファンは多いよ。僕もバイクを持ってきてくれた異界都市には感謝してるしね」
「バイク、か。嫌なこと思い出した……」
「あ。ロンドン戻ったらまた後ろ乗るかい?」
「断固拒否する! もうバイクには乗らないって決めたんだ!」
出港して5分後、大型船が次々と第七師団の船を追い越していく。
「アレは第四師団の船かな」
「……俺たちが一番早く出たのに、全部の師団に追い抜かれたな」
「仕方ないよ。他は蒸気機関で動いてるんだもん」
「ロンドンにはあとどれぐらいで着くんだ?」
「8時間くらいかな?」
「そんじゃ、着くのは夜になるな」
すでに夕暮れ時。空は微かに暗くなってきている。
「あ! そうだスウェン、ずっとお前に聞きたいことがあったんだ。バタバタしてて聞けてなかったけど」
「ん? どうしたの?」
「俺、探してる人がいるんだよ。お前と同じ射堕天の制服を着てた女子で……えーっと7年前に13とか14ぐらいに見えたから、今は多分、20歳ぐらいで、金髪のロングヘアーの人だ」
「金髪の人って結構いるからなぁ。他になにか特徴ない?」
「えーっと、なんだろうな。すっげぇ美人!」
「君の美人の感覚がどういうものかわからないしな……」
「あれだ! 銀色の竜を召喚してた! だから召喚士だ!」
「!?」
スウェンの表情の色が変わる。
「銀色の竜……まさか」
「知ってるのか?」
「多分、君が探している人物の名はヒルス=ノーヴァス」
「ヒルス……ヒルスって言うのか、あの人」
ランマの耳が赤みを帯びる。
「この第七師団の師団長、リーダーだよ」
一瞬、心臓が止まった気がした。
「……第七師団に、居るのか」
狙って第七師団に来たわけじゃない。
ランマは当然、入るならヒルスと同じ師団に入りたかった。ランマは己の幸運を噛みしめる。
「じゃ、じゃあやっぱり……」
ランマは、期待に満ちた瞳で、
「ロンドンに、居るのか……あの人は!」
「居るよ。年中任務で出てるんだけど、新人が来る時だけは戻ってくるんだ。結構なレアキャラでね、僕もあんまり話したことないんだよね~」
7年間、憧れ恋焦がれてきた。
ランマにとって、もはや神格化されている存在。自分の人生の道しるべ。
それに、ようやく会える。
「やべぇ……やべぇな。スウェン、俺、顔の毛穴とか開いてない?」
「開いてないよ」
「臭くないか?」
「ちょっと臭い」
「……香水持ってないか?」
「持ってないよ」
「……ステラに借りてくる」
「行ってらっしゃい」
ランマはマスト(帆を張るために存在する甲板にある垂直棒)を縄梯子を伝って登り、マストの上にある見張り台に入る。
「ステラ! 香水くれ!」
見張り台に居るステラにそう言うと、ランマは銃口(指)を額に突き付けられた。
「え? ――うおっ!?」
バン! と音が鳴り、銃口が火を吹く。ランマは姿勢を崩し、銃撃を避けた。
「俺様の背後に許可なく立つんじゃねぇ、租チン野郎が!」
ステラはメイド服を着ていて、瞳は赤くなっていた。
(こ、こっちのモードだったか……!)
ステラは舌打ちすると、見張り台の外へ視線を飛ばす。
「ていうか何でお前ここに居るんだ? 見張りなんてゾンビに任せりゃいいだろ」
「ミカヅキの指示だよ。俺の能力を使って見張れってな」
ステラの瞼はスコープに変形している。
(なるほど。コイツのスコープを使えば暗くなっても見えるし、遠くも見える。見張りには最適か)
ランマは一旦、香水のことは置いて、
「……夜食とか必要か? 持ってくるぜ」
「サンキュー。頼むわ」
マストを降り、ランマが船内に入ると、タオルで頭を拭いている上裸男が立っていた。
赤髪ロングヘアーの男だ。濡れた髪を拭くその姿には男ながらに色気を感じる。
「すげーぞランマちゃん。この船、意外にもシャワールームがついてやがる」
「……いや、誰だよお前」
「おいおいそりゃねぇだろ? お前の心の友のウノ=トランプ様だよ」
「あ! ホントだ! その髪色と声!」
「……言われないでも気づけよな。ちょっぴりショックだぜぇ」
ウノはいつも口紅を塗って、目元も赤く塗っている。頭にもウサ耳を付けており、そっちに目を引かれていたため、それらの特徴を取っ払われると一気にわからなくなるのだ。
「お前、化粧辞めた方がいいんじゃないか? 絶対、素顔の方がモテるぞ?」
「マジシャン時代の名残というか、人前に出る時は化粧してないと落ち着かないんだよ。素顔で話していると人の目も見れなくて……」
ウノの目線は真横の壁に向いている。
ウノはどこか照れくさそうだ。確かにらしくない。
「じゃああのウサ耳はなんだ? アレもないと落ち着かないのか?」
「いいや別に」
「じゃあなんで……」
ウノは物憂げに微笑み、
「……笑ったんだよ。アレ着けたらさ」
「? 誰が?」
「誰でもいいだろう。それよりランマちゃん、今日はこれからどうする? もう寝るのか?」
「いいや、今からステラに夜食を持っていくとこだ」
「へぇ。せっかくだ。俺が手料理を振舞ってやる。ちょっと待ってな」
この船は機関室、船長室、調理室(食卓込み)、シャワー室、寝室がある。
ウノは調理室に入り、料理を始めた。ランマは食卓で料理が終わるのを待つ。
静かな船内に響く包丁の音がどこか心地よかった。
日が沈んだ航路を船は進んでいく。
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