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第23話 思わぬ同期

「「おぉ~!!」」


 連れてこられた港で、ランマとウノは同時に驚いた。

 目の前にあるのは巨大な豪華客船。蒸気で動くハイテクシップだ。


「まさかこんな豪勢な船に乗れるとはな……」

「ひゅ~! ひょっとして射堕天サークルってのは結構金持ちなのか? こりゃ飯にも期待できるな」


 ランマは目の前の船のあまりの豪勢さに一周回って引き気味だ。

 一方ウノはまだ見ぬ豪華料理を妄想して涎を垂らしている。


「二人とも、なにをしているんだい?」


 スウェンが不思議そうに聞いてくる。

 スウェンは豪華客船ではなく、違う船を指さす。


「僕らが乗るのはあっちだよ」

「「え?」」


 スウェンが視線を向けた先にあったのは目の前の豪華客船の6分の1ほどの大きさの帆船だった。海賊が乗ってそうな粗雑な船である。


「そっちは第一師団の船だね」

「じょ、冗談だろ? このオンボロ(せん)が俺たちの船? 師団間でそんな資金に差があるのか?」


 ウノは青ざめた顔で聞く。


「うん! 第七師団は七つの師団で一番貧乏なんだ」

「……俺、今からでも違う師団に入りてぇ」

「いいじゃねぇかこっちはこっちで(おもむき)があってさ! 俺、船乗るの初めてだからこういう船にも憧れがあったんだよなぁ」


 ランマは開き直りではなく、本心で言っている。

 ランマはこれまで船に縁がなかったため、どちらかと言うとこういうthe船といった感じの方が好みなのだ。


「はぁーあ、ランマちゃんはポジティブだねぇ~」


 第七師団の輪に、割り込む影が一つ。


「ふん! そいつのポジティブさは天井知らず底知らずだぞ」


 嫌味たっぷりの声。

 ランマはその声に覚えがあった。


「お前は……!」


 ランマはその人物を見て、驚いた。

 青い髪、嫌みで細長いその顔。


「久しぶりだな。ランマ」

「エディック!?」


 ランマは信じられないという顔でエディックを見る。

 エディックはランマと同じアカデミーの生徒で、ランマを騙しからかっていた男だ。


「な、なんでお前ここに!?」

「なんでって、俺もこの射堕天サークルに入ったからだよ。それもエリート集団である第一師団にな」


 エディックは射堕天のコートを自慢げに見せる。


「なんだと!?」

「別にお前を追って来たわけじゃないぞ。元々俺はロンドンの仕事に()きたくて、ロンドンに本拠地のある射堕天サークルも進路候補に前から置いていた。くくっ! お前のその顔が見たくて黙ってたけどな」


 ウノはランマの肩に肘を乗せ、


「なんだランマちゃん、知り合いか?」

「ああ。アカデミーの同級生なんだ」


 ランマの隣にステラも来る。


「ランマさんの同級生、ということは、私と同い年……ですよね?」

「んんっ!?」


 エディックはステラを見ると、顔を赤くした。


「か――かわ……!?」


 エディックはステラの容姿をマジマジと見る。


 肩で切り揃えられた銀色の髪。

 雪のように白い肌。

 ツンと伸びたまつげ。

 凛としているものの、少し幼さの残る顔立ち。

 華奢な体。


 エディックのハートを、天使(キューピット)の矢が貫いた。


 エディックの感性は正常だ。ステラの可憐さは老若男女問わず魅了するレベル。この反応はなにも珍しいことじゃない。

 ただランマの場合はステラに匹敵する美人に幼少期に会ってしまっている。あるいはランマにとってはステラ以上の美人と幼少期に会ってしまっているため、必要以上に魅了されることはなく。

 ウノの場合、ステラの容姿は認めてはいるものの、体中を銃に変形させ下品な言葉を振りまくステラの姿を知っているため、こちらもまた必要以上に魅了されることはない。

 

「おい、どうしたエディック?」

「いいや。なんでもない。そ、その二人はお前と同じ第七師団の連中か?」

「そうだよ。同期だ」

「ステラって言います。よろしくお願いします」

「ウノだ。ヨロシク」

「あ、ああ。よろしく」


 エディックはチラチラとステラの顔を見た後、コホンと咳ばらいを挟み、ランマに視線を向ける。


「ランマ。この前俺が言ったことは覚えているな?」

「ああ。よく覚えているぜ……『マジウケるわアイツ』、『ほんっと馬鹿だよアイツ』、『おい落ちこぼれ』――お前の数々の暴言はしかとこの脳裏に焼き付いて……」

「それじゃねぇ! 試験のリベンジをするって話だ!」

「なんだ、それのことか」

「ロンドンに着いたらもう一度俺と戦ってもらうぞ。俺はあの日から成長した。次こそ俺が勝つ!」

「いいや、次も俺が勝たせてもらう。俺だって試験の日から今まで、遊んでいたわけじゃない」


 二人は視線を交錯させ、小さく笑った。


「あ! 居たエディック君! もうっ! 勝手に隊列を離れないでよ!」


 女性の声が飛び込んできた。

 叱り顔で現れたのは赤毛の女性。鼻元のそばかすが特徴的だ。


「お! こりゃまた素敵なバニーちゃん♪」

「すみませんリーニャさん。知り合いが居たもので」

「知り合い? ――あれ? もしかして君たち第七師団の子?」


 リーニャという女性は何やらはしゃいだ様子だ。


「はい。でもなんで俺たちが第七師団だってわかったんすか?」


 ランマが問う。


「胸に星が付いてるでしょ? 星の数がどの師団の人間かを示してるんだよ。君たちは七つ星が付いてるから第七師団」

「ってことはアンタは第一師団ってわけだ」


 ウノの言葉にリーニャは「うん!」と頷く。


「ねぇねぇ! ミカヅキ君は居る?」

「ミカヅキさん?」

 

 ランマは首を振り、ミカヅキの姿を探す。


「そういやずっと見てねぇなあの人、どこ行ったんだろう?」

「ミカヅキさんならそろそろ来ると思いますよ」


 スウェンが横から言う。


「あ、スウェン君おっは~。活躍聞いてるよ~」

「いえいえ。僕なんてまだまだですよ」


「……ちっ。鬱陶しい奴が居やがる」


 不満マシマシの声。

 ミカヅキとフランベルが共に歩いてくる。

 ミカヅキを見つけると、リーニャは嬉々としてミカヅキに近づいた。


「ミカヅキ君ひっさしぶり~! 半年振りくらい?」

「さぁな。覚えてねぇよ」

「も~、冷たいなぁ。せっかく凡人同盟が揃ったって言うのに」

「誰が凡人だ! お前と一緒にすんな!」

「ひっどぉ~」


 何やら仲睦まじげに話す二人。ランマが二人の関係を勘繰っていると、


「あの二人は同期なんだ。もう10年来の付き合いなんだってさ」


 スウェンが説明してくれた。


「ふーん。道理で息がぴったりなわけだ」

「耳腐ってるのかテメェ! どこも息ぴったりじゃねぇだろ!」

「まったくもう、照れちゃって~」


 第七師団6人と第一師団2人で話していると、


「お前らいつまで油売ってるんだ!? 早く戻れ!」


 ゴリラのような体格の射堕天が遠くから怒号を飛ばしてきた。恐らく、エディックとリーニャの上司だろう。


「あっはは、怒られちゃった~」

「またなランマ。そんなオンボロ船で、精々沈没しないように気を付けろよ」


 エディックとリーニャは第一師団の集団の元へ戻っていく。


「……相変わらず嫌味な野郎だ」

「そうかぁ? 俺にはツンデレちゃんにしか見えなかったけどなぁ」


 ランマ、ウノ、ステラ、スウェン、ミカヅキ、フランベル。

 6名は帆船に上がる。


 そして――


 彼らの長い夜が、始まろうとしていた。

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