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第22話 プレゼント

「鑑定士から解析結果が返ってきた」


 試験から3日後、〈ブルー・ラグーン〉の射堕天サークル支部会議室。

 黒板とテーブル、椅子のあるだけの殺風景な部屋でスウェン、ミカヅキ、フランベルの3人は3日前の堕天使乱入の件を振り返っていた。


 ミカヅキは鑑定士から送られたカラス堕天使の頭部(ステラが持ち帰ったものを)の解説結果がまとめられた書類を2人に配る。


 スウェンとフランベルが書類に目を通したところでミカヅキは話を始める。


「アイツらの言う通り、第三階位相当の堕天使だった。そんで、厄介なことに……」


 ミカヅキはため息交じりに、


「頭部から悪魔の魔力が検知された。鑑定士曰く、セイレーンの可能性が高いらしい」

「セイレーンって歌で幻惑魔法を掛ける悪魔ですよね。たしか男性限定でしかも人間以外には通じないはずでは?」


 スウェンの疑問に召喚士であるフランベルが返答する。


「そういう召喚陣なのでしょう。召喚した悪魔の幻惑魔法を強化するとか」

「フランベルの言う通りだろうなぁ。しかし第三階位を堕とすレベルってなると、D級以下じゃ幻惑解除(レジスト)できねぇかもな」


 射堕天にはA級~E級のランクがある。


 A級:第二階位に単騎で対抗できるレベル

 B級:第三階位前半(100番台~300番台)に単騎で対抗できるレベル

 C級:第三階位中盤(400番台~600番台)に単騎で対抗できるレベル

 D級:第三階位後半(700番台~900番台)に単騎で対抗できるレベル

 E級:第四階位に単騎で対抗できるレベル

 

 他にもS級(第一階位に単騎で対抗できるレベル)があるが、これは射堕天の歴史上到達した者がいないため幻のランクとなっている。

 戦闘能力だけでなく、他の要素(サポート能力や指揮能力)も評価対象になる。上の記述はあくまで指標の一つである。

 ちなみにスウェンはC級、ミカヅキとフランベルはD級だ。


「召喚士による人為的な犯行だったのは確定として、狙いは誰だったんですかね?」

「わたくしたちの誰かではないでしょうか。スウェンさんなんか最近はかなり活躍してましたから、堕天使やそれに(くみ)する者たちに恨みを買っていてもおかしくありません」

「ねぇな。俺たちを殺すつもりなら700番台をぶつけないだろ。最低でも400番台だ」


 もちろん可能性は0ではないけど、とミカヅキは言葉を紡ぎ、


「狙いは受験生の誰かだろうな。怪しいのはカラス頭と実際に交戦したヴォルフ=クレイマン、ランマ=ヒグラシ、ウノ=トランプ、ステラ=アサルトの4人だ。ヴォルフは死んだから、もしヴォルフが狙いだったんなら敵の目的は達成されている」

「でももしヴォルフが目的ならヴォルフを討伐した時点で堕天使は退かせそうですけどね。700番台とはいえ、第三階位は捨て駒にするのは痛いでしょ。無尽蔵に湧く第四階位ならまだしも」

「だとすれば、一番濃いのは合格者の3名ですわね。あの3人を早くロンドンに運んだ方がよろしいのでは? ロンドンならば射堕天が多数居ますし、襲われてもすぐさま対応できます」

「わかってる。もうすぐ第一~第七師団の新入隊員及び試験官が全員揃う。今日の夕暮れには船で出発さ。スウェン、合格者3人は同じホテルに入れてるんだよな?」

「はい」

「んじゃ引き続きホテルで護衛に回れ。俺は他の師団に今回の件を伝えてくる。フランベルは船の設備の確認をしろ。特に防衛設備のチェック」

「「了解」」

「以上、解散だ」


 3人は立ち上がる。


「そうだスウェン、あいつらにプレゼントを持って行ってやれ。玄関に置いてあるからよ」

「プレゼント?」


 ミカヅキは口元に笑みを浮かばせ、


「馬子にも何たらってな」



 --- 



 〈ブルーラグーン〉のフードコート。

 そこでランマ、ミラ、ウノ、ステラはハンバーガーを平らげていた。


「それにしても、いつまでこの街に閉じ込められたままなのかね」


 ウノは頬杖をつき、気怠そうに呟いた。

 現在、ランマ、ウノ、ステラの合格者3名は〈ブルーラグーン〉の一角に閉じ込められている状態だ。一定の区域から外に出ることを禁じられている。

 ホテル、フードコート、雑貨屋。この3つぐらいしか行ける場所はなかった。


「ここら辺から出るなっつわれてるから釣りにも行けねぇ」

「暇なら俺と筋トレでもするか? 筋肉をいじめるのは良い暇つぶしになるぞ~」

「嫌だよ、むさ苦しい。つーかお前、部屋行くといつも筋トレしてるけどまさか朝から晩までずーっと筋トレしてるのか?」

「もう習慣でな。筋トレだけじゃなくて、トランプタワー作ったりもしてるぞ」

「つ、付き合ってらんねぇ。

――なぁバニーちゃん、こんな娯楽のない場所で出来ることなんか限られてると思わないか? どうだ、この後俺の部屋で一緒に筋トレでも。腰と腹と股関節を重点的に鍛えられて更にはとっても気持ちのいい筋トレ法があるんだが」

「なんだそりゃ!? ウノ! ぜひ俺に教えてくれ!」

「おめぇは引っ込んでろ!」


 ステラは冷たい瞳で、


「バニーちゃんと呼ぶのはやめてください。大体、バニーちゃんなのはあなたの方でしょう。そのうさ耳」


 ステラはツンとした表情でハンバーガーをナイフとフォークで丁寧に切り分けていた。その手つきから上品な生まれなんだろうな、とランマは推測した。

 あの転生後の荒っぽい性格に比べて、今のステラはおとなしいものだ。それでも強気な性格には変わりないが。

 ミラはランマの膝の上に宝箱の姿で座っている。ランマはポテトを手に取ると、ミラの口に放り込む。


「美味いか? ミラ」

『みっっっらぁ♪』

「そうかそうか。絶品か」


 ランマとミラが穏やかに会話をする一方で、


「私はあだ名という文化が好きではないのです」

「でもお前、俺たちのこと散々租チン呼ばわりしたじゃんかよ」

「そ……そんな下品なこと言ってません!!」


 ウノとステラは険悪なムードを漂わせていた。

 

「言ってただろ。転生中の記憶もあるってのはわかってるんだぜ」

「言ってません。言いがかりはやめてください」

「言ってました~」

「言ってません! それ以上しつこくするならセクハラで訴えますよ!」


 プイ。とステラは首を横に振る。

 ランマはステラの顔が赤くなっていることに気づいた。この反応的に記憶はあるのだろう。


「証人が二人もいるんだぜ。なぁランマちゃん?」

「本人が記憶にねぇって言ってるんだから俺たちの聞き間違いってことでいいだろ」

「お優しいねぇ」


 ウノはポテトを口に咥え、縦に揺らす。その態度は暇で暇で仕方ないって感じだった。


「つーかあれだぜ、バニーちゃんってのは要約するとかわい子ちゃんって意味だぜ。俺にとって可愛いの象徴はウサギでありバニーちゃんなんだよ。賛辞の言葉さ。あだ名じゃなくて敬称だよ」

「む……そうなのですか。かわい子ちゃん……ですか。そういう意味なら、まぁ……」


 ウノとステラのバニーちゃん呼び論争はウノのナンパ言葉に照れてしまったステラの負けで終わったようだ。


「そういや聞いてなかったけどよ、お前らはなんで第七師団に入ったんだ?」

「第七師団?」

「私は堕天使の討伐数で決めました。合計討伐数は第一師団が圧倒しているものの、一人あたりの討伐数は第七師団が一番でしたから。つまり少数精鋭、私にピッタリです」

「ちょっと待ってくれ。なんだ、第七師団ってのは」

「はぁ、おたく、なんも知らずに第七師団のテスト受けたのか?」

「? ああ。第七師団ってのはよくわからん。俺は射堕天サークルの入団テストを受けた、って認識しかない」

「マジかよ。あのな、射堕天サークルってのは一~七まで師団があって、お前が受けたのは第七師団の試験だったのよ。師団によって特色が全然違うんだぜ。その辺、普通はきっちり考えて目当ての師団のテストを受けるんだけどな」

「……スウェンのやつ、ほんっと説明不足だな」

「ウノさんはなぜ第七師団に決めたのですか?」

「一番自由だって聞いたからな。カッチカチの軍隊方式は性に合わねぇのよ」


 ウノは今度はストローを加え、揺らし出した。

 自分で話題を振っておいて早々に飽きたようだ。


 カランカラン、と1人の客が店内に入る。


「あ、ここに居たんだ」


 台車にアタッシュケースを三つ乗せたスウェンが3人のテーブルを訪れる。


「3人とも、ようやくロンドンに行けるよ。三日間おとなしくしてくれてありがとね」

「よぉし! やっと囚人卒業だぜ」

「スウェンさん、そのケースは一体……?」

「ああ、これね。プレゼントだよ♪」

 


 ---



 ホテルの出口。

 そこで待つスウェンの背後に、ランマ・ウノ・ステラが現れる。

 スウェンは振り返り、3人の格好を見て笑った。


「うん! よくお似合いだよ。3人とも」


 そこには射堕天のコートを羽織った3人が立っていた。


「つ、ついに……俺もあの人と同じ制服を……!」

「あー、制服ってのは窮屈でいけねぇや。個性も出ねぇし」

「見た目より軽くて驚きました。これなら戦闘も問題なく(おこな)えます」


 ランマは憧れの人物と同じ衣装を着れたことに、嬉しさのあまり涙目に、

 ウノは文句を言い、

 ステラは制服の性能を称賛する。


「さ、港へ行こうか。ロンドン行きの船が待ってる」

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