第21話 リーチトリック
堕天使はくちばしを大きく開けた。
危機を感じたウノは壊れた結界を消し、ランマとステラを囲む結界を順次生成する。しかし自身を囲む結界を生成する前に、堕天使の技が発動した。
――“超烏音波”。
「カアアアアアアアアッッーーーーーーーーーッッ!!!!!!!!!!!」
それは言ってしまえば、超うるさいカラスの鳴き声。
その音の衝撃はランマとステラを囲む結界にヒビを付け、無防備に技を受けたウノを20メートル先の壁まで弾き飛ばした。
「がっ!?」
ウノは背中を打ち、気を失う。
ウノの自分より他人を優先した行動が、ランマの闘志に火をつけた。
(感謝するぜウノ! 絶対に勝つ!!)
ウノが気絶したことで結界が解ける。
堕天使の叫びによって黒い霧が微かに晴れ、相手の姿を視認できる。
ランマはミラをコインに変えて握りしめ、振りかぶっていた。
カラス頭の堕天使はランマに気づき、振り返る。
「ガアアッ!!」
堕天使は踏み込もうとする。堕天使視点ではランマは何も持っていない。ゆえに、防御や回避という選択を堕天使は取らなかった。ランマが攻撃の動作に入っていると、堕天使はわかっていなかった。
ランマが腕を振り下ろす寸前、コインは蛇腹剣へと変わる。
「!!?」
堕天使は肩から脇腹にかけて深く斬り裂かれた。
ミラの変化能力を活かした間合いの誤魔化し。まず初見では対応できない。
(体を分断するつもりで斬ったのにクソ! 硬い! あのバーテンダー堕天使よりもよっぽど硬い!)
「……嫌だ。死にたくない! ひとりぼっちのまま、死にたくなぁい!!」
堕天使は背を向け、逃走する。
ランマは蛇腹剣を伸ばし、突きで脇腹を穿つ。
(まだ致命傷じゃない。コウリュウは一度伸ばすと一度縮めないとダメ。だが縮まるのを待っていたら逃げられる――)
一瞬の思考。
咄嗟にランマの頭に浮かんだ策を、何も言わずともミラは実行した。ミラは自発的に、姿をコインに変えたのだ。
――さいっこうだぜ、相棒!!
ランマは腕を振るう。するとコインは蛇腹剣に変化し、堕天使の片翼を斬り裂いた。
擬態能力を活かし、伸縮の隙を無くす。ミミックが吸収したコウリュウだからこそできる弱点のカバー。
「翼はやった。けどまだ……!!」
体を裂き、脇腹を穿ち、翼は折った。だがまだ堕天使は走る力はある。
姿は黒い霧に溶け、見えなくなった。
「逃がすかよ!!」
ランマはコウリュウを振りかぶるが、その途中でコウリュウ及びミラは真っ白なサモンコインになった。
(しまった! 魔力切れ! 天界礼装は燃費がわりぃ!!)
「十分だ! 翼がなけりゃやれる!!
――後は任せなぁ!!!」
ステラはその場に座り込み、右脚を狙撃銃へと変えた。銃身だけの再現じゃない。引き金も含め、ライフルスコープ以外のすべてを再現している。
右手の人差し指を引き金に当て、左手で銃身を押さえる。
「この暗闇でアイツを狙えるのか!?」
「“銃装冥土”の能力は結局、言っちまえば体の部位を銃の部品に変える能力!! 例えば瞼をスコープに変えることも可能!」
「すこーぷ?」
「双眼鏡みたいなもんだ! そして! スコープの中には暗視できるモンもあるんだよ!!」
ステラは瞼を下ろし、瞼を暗視スコープに変える。
「輝度調整完了! 倍率調整完了! 見えたぜ野郎のケツが!!」
ステラの瞳に、堕天使の姿が映る。
「“美脚狙撃”!!」
右足のライフルの先から弾丸が発射される。
弾丸は堕天使の後頭部を撃ち抜いた。
さらに首、背中(心臓部)、両足を撃ち抜く。堕天使の動きが止まり、その場に倒れ込んだ。
黒い霧が晴れていく。
「当たったのか……?」
「あったりまえだ! それを見ろ」
ステラはカラス頭の堕天使の眷属、狼男を指さす。
狼男の受験生は人の姿に戻り、光へと変換されていった。眷属が光へと変わるのは堕天使が死に絶えた証だ。
「……」
ランマは光の方に体を向け、膝をつく。
「? なにやってんだ?」
ランマは光に向けて、両手を合わせた。
「……助けられなくて、ごめん」
ランマに落ち度はない。
ランマは彼を守る立場でもないし、悲鳴が聞こえてすぐに駆け付けた。彼ができるベストは確実に尽くしていた。
なのに謝るランマを見て、ステラは理解できないといった顔をする。
「……けっ。お前が謝ることかよ」
そうは言いつつも、ステラも両手を合わせたのだった。
祈りを捧げた後、ランマとステラは倒れた堕天使に近づく。
ステラは両腕を銃に変え、死体を撃ってひき肉に変えた。
「念のため」
「容赦ねー……」
「頭だけ持ってけば堕天使討伐の証になるだろ」
「グロー……」
ステラはカラス頭を手掴みにする。
次にランマは気絶したウノの元へ足を運んだ。
「おーい、ウノ。終わったぞ」
ランマはウノの体を揺する。
「ん……? ここはどこ? 私はだぁれ?」
「お前の名前はアリゲイツ=ハーバリー。俺に忠誠を誓った奴隷だ」
「嘘吹き込んでじゃねぇよ!」
「なんだよ、記憶あんじゃねぇか」
ランマとウノにステラは近づく。
「さてと、もうひと踏ん張りだな」
ウノはステラに敵意を向ける。
「おたくの持ってるサモンコイン、譲ってもらうぜ」
(やっべー。そうだった。試験のこと忘れてた。もう魔力ねぇよ……)
と心の内でぼやきながらも、ランマは拳を握る。
ステラは呆れたようにため息をつき、サモンコインを14枚、二人の足元にバラまいた。
「ほらよ。くれてやる」
「……いいのか?」
ランマが聞くと、ステラはニッと笑い、
「さっきの戦いでわかった。お前らは使える。ランマ、ウノ、お前らが同期になるのは……悪くない」
そう言ってステラはカラス頭を持ってスタート地点に戻っていった。
「まったく、漢気溢れるバニーちゃんだねぇ」
「敵わねぇなぁ」
二人はサモンコインを集めた後、ウノの結界を足場にスタート地点の地上に戻った。
こうして、試験は終わった。
死者1名 負傷者8名(ステラにぶっ飛ばされた受験者) 合格者――3名
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