第20話 カラス頭
ランマ、ウノ、ステラ。
3人は洞窟の中を走っていく。
「ところでバニーちゃん、名前はなんて言うんだ?」
「ステラ=アサルト。次バニーちゃんって言ったら殺すぞ租チン」
「だから租チンじゃねぇって! そうだ、この試験終わったらホテルに行こうぜ。俺が租チンじゃねぇって証明してやるからさ」
「そのアホの話はスルーでいいぞ。俺はランマだ、よろしく」
「いい働きできたら名前で呼んでやるよ」
「へいへい。ご期待に応えられるよう頑張りますよ、女王様」
広い空間に出た瞬間、3人は足を止めた。
先の洞窟の暗がりから人影が一つ現れる。
ランマ達は臨戦態勢に入る。
「た、助けてくれ!」
現れたのは狼男だった。
全身から灰色の毛が生えており、牙も爪もある。
「うげっ! 狼人間かよ! やっちまえステラ!!」
「他人頼りかよ、ほんっと租チンだな。お前」
ランマは彼に見覚えがあった。
「待った。そいつたしか狼男に転生する受験生だ。ウノ、お前も見ただろう。俺の前に居た奴だよ」
「あー、そういや居たな」
狼男の体はボロボロで、左腕に至っては無くなっている。
明らかに加害者……という感じではない。
「どうした、なにがあった?」
ランマが近寄ろうとすると、ウノとステラが同時にランマを腕で止めた。
「……迂闊だぜランマちゃん」
「まずやることがあるだろ」
ウノとステラは天鏡を出し、狼男を映す。
――狼男の頭上に、天の輪が見えた。
「判決、死刑!!」
そう叫ぶと、ステラは両手の指を銃口に変えた。
狼男は牙を剝き出しにし、毛を逆立たさせる。
「ガルルルル!!」
放たれる弾丸。
狼男は俊敏な動きで弾丸を躱していく。
「ちっ! 速い!! 捉えられねぇ!」
「いや、いい。そのまま撃ち続けろ! ウノ!」
ランマはウノの目を見る。
「……はいはい。意図は伝わったぜ」
弾丸を躱し、狼男はドンドンスピードを増していく。縦横無尽に空間を使い、加速していく。だが、
「ガル!!?」
狼男は見えない壁に激突した。
「あーらら、いったそ~」
ウノが笑う。
ウノの結界は視認できない。ゆえに、狼男は結界に無防備に突っ込んでしまった。それも最高速でだ。
「コウリュウ」
ランマはミラを蛇腹剣に変化させる。
怯んだ狼男に対し、間髪入れずランマは蛇腹剣を振るう。狼男は縦に真っ二つに斬り裂かれた。
「作戦通り、だな」
ランマの手元の剣を見て、ウノとステラは同時に顔に汗を這わせた。
「天界礼装だと!?」
「只モノじゃねぇと思ってたが、おたく、何モノだよ……」
「驚くのは後にしてくれ。眷属が居るってことは、奴らもいるってことだ」
ランマの言葉を肯定するように、
天井に、それは現れた。
カラスの頭、
体格は筋肉隆々の成人男性、
羽はコウモリ、
足は鳥のかぎ爪。
カラス頭の堕天使だ。天井に足の爪を引っ掛け張り付き、腕を組みながら無機質な瞳で3人を見ている。
「階位は?」
ウノが聞く。
「膝にある。723番」
ステラが答えた。
「700番台か……俺は900番台までしか相手したことねぇぞ」
「900番台と700番台ってそんな変わるのか?」
「全然違うね。900番台に比べて大体倍くらいの強さだと思った方がいい」
「俺様も700番台は初めてだ」
カラス頭の堕天使はジーっと眷属の死体を眺め、そして、
――大粒の涙を流した。
「うわああああーっん!!!!」
がなり声が響き渡る。
「僕の群れが! 僕の群れが! 僕の群れをよくも!! 寂しい、寂しいよぉ! 一人は寂しいよぉ!! 群れ群れ群れ群れ群れ群れ……群れなくては、群れなくては! 独りぼっちじゃ生きてる意味なし!!!!」
カラス頭の堕天使は黄金の輪を展開し、そこから真っ黒な弓と矢を出した。
「貴様らを、新たな群れにする……!」
「隷属の矢!? 当たったら一発アウトだぞ!!」
ウノの言葉でそれが隷属の矢だと知る。
ランマは未だ焼け焦げた隷属の矢を見たことがあっただけで、完全な隷属の矢はこれが初見だった。
(あれが隷属の矢……! 纏ってるオーラがなんか、気持ちわりぃ!)
矢が放たれる。が、それはウノの結界に簡単に弾かれた。ウノは3人を囲むように結界を展開している。
「どこ、どこ行ったの……? 僕の群れ!」
カラス頭の堕天使は頭をきょろきょろと動かす。
「結界で俺たちの姿を消した。さてどうする? お二人さん」
「こっからスナイプする」
「こっから斬り裂く」
「好きなタイミングでどーぞ」
カラス頭の堕天使は二人の攻撃よりも前に術を繰り出す。
「明るいのは嫌い……孤独は、光あるところから生まれる……」
突如、低い声でそう言い、堕天使は体から黒い霧を噴出させる。
黒い霧で堕天使の姿が見えなくなる。
「……闇はすべてを隠す。孤独すら、隠してしまう」
黒い霧はたちまち辺り一帯を包み込み、結界以外の場所は暗闇に包まれてしまった。
「あっ、これやべぇわ」
ウノの言葉でランマも気づく。
結界だけが黒い霧を避ける。ゆえに、黒い霧はランマ達の場所を知らせてしまう。
「そこか」
堕天使は黒い霧の中でも目が利く。
堕天使視点では立方体の隙間だけが浮き彫りになっていた。
――パリィン!!
結界の天井を破り、3人の陣形の中心に堕天使は舞い降りた。
「みぃつけたぁ。僕の群れ……!」
【読者の皆様へ】
この小説を読んで、わずかでも
「面白い!」
「続きが気になる!」
「もっと頑張ってほしい!」
と思われましたらページ下部の【★★★★★】を押して応援してくださるとほんっっっとにめちゃくちゃ嬉しいです!
ほんっとにポイント1つ1つがエネルギーになります!
どうか、よろしくお願いします!