第19話 銃装冥土
転生術を発動した瞬間、女子の服装が白のメイド服へと変わった。
同時に、女子の後ろ髪の一本一本が――小さな銃口へと変わったのだ。銃口から一斉に弾丸が発射される。
危険を察知したランマは両腕で顔面のガードを固めた。ランマの両腕に無数の鉄の塊が食い込む。
「いでででででっ!?」
尖った小石を投げつけられているような感覚。
肌は裂かれるが筋肉を貫通するほどの威力はない。しかし数が多すぎる。ランマは弾丸の嵐から逃れるため後ろへ飛び退く。
女子はゆっくりとランマの方を振り向いた。
「おうおうおう! 男の癖に随分せこい真似すんじゃねぇか!
――この租チン野郎が!!」
女子の瞳の色が青から赤に変わっている。
顔立ちは変わらないものの、雰囲気は以前までのおしとやかなモノと一変、荒々しいものになっている。
「あれ? お前、そんなキャラだったっけ?」
「転生術を使うと何つーの? ハイになっちまうんだよなぁ! どいつもこいつも撃ち殺したくなる……!!」
女子の両手の指が全て、銃口に変わった。
「アレはヤバそうだ……! ウノ! 結界で守りを! ――っていねーしアイツ!」
ランマは横を見るが、ウノの姿はなかった。
「あんにゃろ、隠れやがったなぁ!!?」
「くらいな!」
「ちっ!
――鋼盾!」
ミラを盾に変化させ、指から放たれた弾丸を防ぐ。
「オラオラオラ! 反撃しねぇならこのまま削り殺すぞ!」
(くっそ! 威力がさっきと段違いだ! 踏ん張るので精一杯! 前に出れねぇ!)
「硬いなクソが! めんどくせぇ……な!!」
女子は舌を出し、その舌を銃口に変えた。
「はんはのん(タン・キャノン)!!」
ドガン! と銃口から小型の大砲の弾が出る。
「ぬっ――ぐ!?」
ランマは盾で大砲の弾を受けるが、弾は盾にぶつかると炸裂し巨大な衝撃波を生み出した。
ランマは盾ごと弾き飛ばされる。盾は大きく凹み、ランマも地面に背中を打つ。
「転生術“銃装冥土”で生まれ変わった俺は! 体中のあらゆる部位を銃に変化させることができる! 髪も指も舌も乳首すらもなぁ!!」
結界を蹴破る基礎能力の高さ。
それに加え遠・中距離に強い転生術。
(この女……つえぇ……!)
まさに隙のない能力だ。
「他の受験者と同様……取るに足りねぇ。おっと、逃げようと考えるなよ。俺様から逃げたら試験は不合格確定だぜ?」
「どういう意味だ?」
「78枚のサモンコインはすべて、俺様が持っている」
「なんだと……!」
「俺様を倒さなくちゃ合格の道はねぇってことだ」
女子はリュックを背負っている。恐らく、その中にサモンコインがあるのだろうとランマは推測する。
(コイツの実力的に不可能じゃない。それに、ここまで受験生が誰も戻ってこなかったのも、コイツがサモンコインを独占したと考えれば納得できる)
ランマの内に残る疑問は、あと一つだけだ。
「ひとつ聞きてぇ」
「なんだよ」
「全身を銃にする能力、それはわかった。だがなぜ――メイド服なんだ?」
「あぁん? ひょっとしてお前、田舎者だな。いいだろう、教えてやる」
女子は腰に手を置き、胸を張る。
「メイドと言えば銃! 銃と言えばメイド! 都会じゃ常識だ」
(そ、そうなのか!)
違います。
「お喋りはこの辺で終わりでいいだろ。殺すぜ、ニット帽」
「そう簡単にやられるわけにもいかないんでな。こっちも本気でいかせてもらうぞ」
ランマは盾となったミラを握りしめる。
「コウ――」
「!!?」
ミラが異様な雰囲気を纏い、それに女子が反応した瞬間、
「うわああああああああああああああっっっ!!?」
男の悲鳴が洞窟の先から響き渡った。
ランマと女子は音の方を向く。
「悲鳴? お前、ゾンビは全部倒したんじゃないのか?」
「……倒した」
「じゃあなんだ今の悲鳴。ゾンビに襲われたわけじゃねぇってことだよな。受験者同士で戦ってるのか?」
「アホ。サモンコインは全部ここにあるんだぞ。戦う理由がねぇだろ」
「……確かに」
「面倒なことが起きてそうだな」
二人が手を止めると、
「うーし! そんじゃ一時休戦といこうぜお二人さん!」
突如、何もない場所から現れたウノ。
ランマはウノを睨みつけ、女子はウノを戸惑いの視線で見る。
「……この一切気配なく現れるのはこいつの術か」
「テメェ、不意打ちが失敗した瞬間に消えやがって……!」
「今はそんなことどうでもいいだろ。――早く声の出どこに向かおうぜ。今の悲鳴、ただ事じゃねぇ」
3人は顔を合わせる。
ランマも女子も、一度戦意を引っ込めた。
女子は先頭に立ち、
「俺様が声のとこに向かう。お前たちは上の射堕天共に助けを求めに行け」
「バニーちゃん一人に任させるわけにはいかねぇな」
「同感だ。3人で向かうのが一番安全だろ。それにここ登るのにも時間がかかるしな」
「ちっ。足引っ張るなよ租チン共」
女子は一人走り出す。
「なんだとコノヤロー! 俺は租チンじゃなくて巨〇だコラァ!」
「テメェはなにカミングアウトしてんだ!!」
ランマとウノも女子の後を追い、洞窟に入った。
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