第18話 マジシャンとメイド
結界陣は基本正方形の形をしており、術者にしかその姿は視認できない。結界士は結界陣を自在に動かすことが可能であり、地面に設置したり、空中に置いたりできる。結界陣を動かせる範囲は術者の技量に依る。
結界陣に魔力を込めるとその正方形を基点に立方体の箱、結界を生成する。熟練者になると結界陣の形を変え、結界の形もそれに応じて変えることができるようになる。
結界の基本的な役割は盾であり、攻撃などに応用もできるが召喚士や転生士の攻撃力には劣る。反対に防御力は他の追随を許さない。1パーティに一人は結界士を入れるべきと言われるほど、結界士はサポート能力に長ける。逆に言えば、
「結界士で単品で戦える奴は少ない。基本サポート職だからな。こういう試験だと誰かの手助けがなきゃきついっつーわけよ」
「借りがあるから組むのはいいけどよ、二人だとサモンコインが14枚も必要だぞ。このだだっ広い空間からゾンビを14体も探し出して倒すのは現実的じゃねぇな」
「俺の結界をうまく使えばやりようはあると思うぜ」
ウノはポケットから出したトランプの束を上に向けて投げる。
トランプは散らばり、宙を舞う。
「“タネも仕掛けもある箱”」
ウノが指を鳴らすと、トランプが全て消えてなくなった。
「トランプが消えた!?」
ウノはトランプに触れてない。
なのに忽然と、一瞬でトランプは消え去った。
「さっきまでトランプがあった辺りを触ってみ」
言われるまま、ランマは手を伸ばす。
コツン、と硬い物体に触れた。なにもない空間なのに、ガラスのような感触がある。ここに、見えない壁がある。
「結界にも結界士ごとに個性があってな。俺の結界は結界自身と結界で囲んだ任意の物体を透過させる。さっきお前を受け止めた結界みたいに普通の結界も出せるけどな」
再びウノが指を鳴らすと、薄緑色の立方体が目の前に現れた。
結界だ。結界の底にはトランプが溜まっている。
ウノは結界を消し、トランプを空中ですべてキャッチする。その手技も見事であった。
「……なるほどな。それ使えばいくらでもマジックを作れるな」
「おっしゃる通りさ。“タネも仕掛けもある箱”にハト入れといて、機を見て出すだけで観客は大盛り上がり。マジシャンに最適な結界だよ」
ランマに見せた何もない空間からリンゴを出すマジックもこの結界を応用してやったものだ。
確かにこれは利用価値がある、とランマは笑う。
「とは言え、強度は並だし、さっきの試験官ほど結界を上手く使うこともできない。攻撃力なんて皆無さ。できることといえば結界に隠れて不意打ちぐらいだけどよ、転生士や召喚士を不意打ちで倒せるかって聞かれると微妙だ。不意打ちに失敗して一騎打ちになりゃまず勝てないしな」
「そんじゃ、俺がその不意打ち役をやればいいわけだ」
「そういうこと。話が早くて助かる。どうせ全員最後にはここに戻ってくるんだ。ここに結界を作って隠れて、サモンコインを集めてきたカモネギをおたくが不意打ちで沈める。それで終わり。簡単だろ?」
「オッケー。乗った」
「お? 意外だね。おたく、見るからに正義感強そうだから不意打ちみたいな卑怯なやり方は嫌がると思った」
「不意打ちは俺の中じゃ卑怯のカテゴリーに入らない。立派な戦術の一つだ、それに」
ランマは目を細める。
「俺が断ったらお前は別の誰かと組むだろ? 俺がもしサモンコインを集めて帰ってきたら俺はお前とその誰かを相手しなくちゃならない」
「それが怖いならいま、俺をノックアウトすりゃいいだろ」
「その結界をうまく使えば俺から逃げるのは容易だろうよ。俺を結界に閉じ込めて、その間に俺の視界外に逃走。後は“タネも仕掛けもある箱”で隠れれば終わり。時間を掛けりゃ詰められるかもしれないが、お前とかくれんぼしている間にゾンビを探索する時間がなくなる。お前と組まない選択肢はないってわけだ」
「ふぅん。いいね、おたく。単細胞だと思っていたが……意外に頭が回る。改めてよろしく頼むぜ、ランマちゃん」
二人の意見は一致した。
立方体の結界を一つ作り、二人で中に入る。
「内側からなら結界も見えるし、結界の中の物も見えるのか」
「そうだよ。あくまで消えて見えるのは結界の外から見た場合のみだ」
「中の音は外に聞こえるのか?」
「あんまり大きい声出すと聞こえるな。外の音も大きい音以外は聞こえない。匂いは外には漏れないぞ。思う存分屁こいてくれて構わない」
「構うだろ! 外に匂いがいかないってことはこの中にこもるってことじゃねぇか!」
「だっはっは! まぁな」
やれやれと呟き、ランマはミラを槍に変える。
槍の柄でぶん殴って相手を気絶させる算段だ。後はサモンコインを集めた他の受験生を待つのみ。
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1時間が経った。
だが誰も戻ってこなかった。
小さく欠伸をした後、ランマが口を開く。
「……俺たちより前に10人ぐらい居たよな。1時間もありゃ誰かしら帰ってくるもんだよな」
「あっれれ~? なーんか、計算外のことが起きてるっぽいな」
ガガガガガ!! という音が洞窟の先より聞こえてくる。
「さっきからたまにこの音鳴るよな。ウノ、お前これが何の音かわかるか?」
「うーん、多分銃声じゃねぇかな」
「じゅうせい?」
「異界都市の産物で銃っていう武器があってな、その武器を起動させた時の音がこれに似てる」
「銃か。本で見たことあるぞ。人差し指でスイッチ押して、小粒の鉄の塊を発射するやつだよな」
「それで合ってるよ。まさか銃を持ち込んだ奴が居るのか? 武器の持ち込みに制限はなかったから持ち込んでも問題はないだろうが、銃を手に入れるのは相当難しいぞ」
「そうなのか?」
「異界都市の産物は基本オーバーテクノロジーだから量産ラインを作るのが難しい。銃はその筆頭だな。魔法より実用的なレベルの銃を作れる技師は世界で10人に満たないって聞くぜ」
「へぇ。詳しいな」
「異界都市関連の話は好きなんだよ」
大空洞の岸壁には無数の洞窟がある。
受験者たちはゾンビたちを追って洞窟に入っていった。しかし誰も帰ってこない。
……なにかある。
ランマは指を二本立て、
「どうする? この結界から出て洞窟に入るか、まだここで粘るか」
ウノは腕を組み、
「一番やべぇのは誰もサモンコインを集められず、俺たちはここで待ちぼうけして終了ってパターンだな」
「……その可能性を考えてなかった。やべぇな、でも今から探しに行くのもな……」
「ん? 待った。誰か来たぞ」
洞窟から現れたのは銀髪の少女だ。
(アイツは……最初に出て行ったやつだな)
結界を蹴破り、一次試験を突破した少女だ。
ランマとウノはアイコンタクトし、無言で動き出す。
女子の進行方向に結界はある。このままじゃ女子と結界がぶつかる。ウノは結界を横に伸ばした。
「……早くそっち寄ってくれ! 形状変化は得意じゃねぇんだ!」
ランマとウノは結界の伸びた部分に移動する。移動を終えた後、ウノは結界を縮め、結界が女子とぶつからないよう調整する。
女子が結界の側を歩み抜ける。ランマは槍を構える。
「……女子だからって手加減するなよ」
「……なんだよバニーちゃんって」
「……可愛い女の子のこと」
「……性別は関係ない。俺が知ってる中で一番強いのは女だからな。加減はしないさ」
ウノが結界を消す。
ランマは同時に飛び出し、女子の背中目掛けて槍を薙ぐ。だがさすがにその華奢な背中に槍を振るうのは心が痛んだのか、ランマの手が一瞬だけ止まった。その隙に女子は身を屈め、ランマの不意打ちを躱した。
(躱された!?)
「甘い人……」
女子の足元に星形の魔法陣が展開される。
(転生陣……!?)
「影で丸わかりですよ」
ランマは彼女の足元を見る。
少女の足元にはランマの影が映っていた。
「転生術――“銃装冥土”」
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