第17話 協力戦線
この結界内で召喚陣を出すのは厳しいだろう。普通の召喚陣ならば。
この結界内で召喚獣を出すのは難しいだろう。普通の召喚獣ならば。
3センチの召喚陣に2.8センチの召喚獣を出すのは容易である。
ランマはコインを天界礼装コウリュウに変化させ、結界を斬り刻む。
「あ……?」
ランマが結界を斬り裂いた後で、ミカヅキはランマを見た。
ミカヅキとフランベルは簡単に斬り裂かれた結界を見て、まず目を見開いた。そしてランマの持つ剣、それに天使の紋章があるのを見て、背筋に緊張を走らせた。ただスウェンは二人の驚く様を楽し気に見守っていた。
「「天界礼装!?」」
瞬間、ランマの腕に手錠型の結界、足に足枷型の結界、首に首輪の形をした座標固定型結界が取り付けられ、さらに立方体の結界が周囲を囲んだ。
「うお!? なんだこりゃ!」
「“四肢括履”!」
“四肢括履”は手足首に結界の拘束具を付け動きを制限する術。ミカヅキの技術の高さが成せる高等結界術。
(駄目だ! 首の結界が固定されてて動けねぇ!)
「フラン!!」
ミカヅキの背からフランベルが飛び出し、両手を合わせる。
フランベルの背後に5メートルほどの召喚陣が生まれる。フランベルは背後の召喚陣にサモンコインを投げ入れた。
「“腐乱王・右腕”!!」
召喚陣から腐った巨人の右腕が出て、ランマを潰そうとする。
“腐乱王・右腕”はゾンビの王、腐乱王の右腕を召喚し、相手を叩き潰す技だ。
体を拘束されたランマは防御することも逃げることも叶わず、ただ腐乱王の右腕を見上げることしかできない。
簡単に言うと、絶体絶命である。
「おいおいおいおいおい!?」
『みらぁ!!?』
「……“骸炎”」
黒い炎が視界を飛び交った。
ランマを束縛する結界、さらに腐乱王の右腕を、黒い炎――骸炎が振り払った。
スウェンはランマの前に立つ。
「まぁまぁ、お二人とも落ち着いて」
「スウェン! コイツはどういうことだ!? なんで堕天使をここに連れてきた!?」
「スウェンさん、ご説明を!」
「彼は人間ですよ。ランマ君、血を見せてくれる?」
「ん? あ、ああ。そういうことか」
ランマはコウリュウで左手の手の甲に傷をつけ、赤い血を見せる。
「ほら。血が流れてるでしょう?」
「……第二階位以上の堕天使はカモフラで血を蓄えてるやつもいる」
ランマはミラを宝箱の形に変える。
それを見て、ようやくミカヅキの顔から警戒の色が抜けていった。
「ミミック!?」
「堕天使ってのは悪魔と契約できないんだろ? これが俺が人間である証拠だ」
「今の天界礼装はミミックが化けた姿……ということですか?」
「そうだよ。ミミックに天界礼装を喰わせて擬態させているんだ。凄いよね、彼」
ミカヅキはスウェンの胸倉を掴み上げる。
「てめ、ごらスウェン! なんでそういう大事なことを言わねぇんだテメェは……!」
「え? だって聞かれなかったし」
「『コイツ天界礼装使える?』なんて聞くわけねぇだろ!」
「えーっと、そろそろ行ってもいいか? 試験が終わったら詳しく説明するからさ」
ランマが聞くと、フランベルはやれやれといった顔で、
「どうぞ。貴方についてはこのお馬鹿さんに聞いておきます」
「頑張ってねー、ランマ君」
「じゃ、失礼して」
ランマは大穴を見下ろす。……地面は見えない。
ここから飛び降りて無事に済む可能性はゼロ。ランマの選択肢は一つだけだ。
崖を伝って降りること。
(岩肌は凹凸があって掴みやすい。これならいけるな)
ランマはミラをコインに擬態させ、ポケットにしまう。
崖に手を掛け、焦らず、かといってゆっくりはせず、下っていく。
岸壁の高さは50メートル、その25メートルほど進んだ時だった。
「あ」
ランマは手を滑らせた。
仰向けになり落下を始める。
「うわあああああああっっ!!?」
――やべぇやべぇやべぇ。
(落ち着け! 強化魔法で体を固めれば致命傷は避けれる!!)
体内の魔法陣を使い、強化魔法を自身に掛ける(召喚陣・結界陣・転生陣・鑑定陣すべて、体内にある時は純正魔法陣となり、この魔法陣を使うことで体内魔法を発動できる)。
頭を両腕で抱えて頭にダメージが入らないようにする。これがいまランマができる精一杯。
あと数メートルで地面にぶつかる――と思ったら、ランマの背中をベッドのような感触が受け止めた。
(え――)
後ろを見ると、薄緑の結界がグニャーとひしゃげ、自分を受け止めている。それからポヨンと、反動で打ち上げられる。結界は消え、ランマは地面に「どわっ!?」と落下する。落ちたのは3メートルぐらいの高さなのでほぼノーダメージだ。
「おせーぞランマちゃん。待ちくたびれたぜ」
ウサギ耳の赤毛男があぐらをかいて眠そうにしていた。
「ウノ!? お前が結界で受け止めてくれたのか!?」
「そうだよ。結界の性質をちょちょいと変えてな」
「……借りができたな」
「じゃあ今すぐその借り返せ」
ウノはランマを指さし、
「協力戦線と行こうぜ、ランマちゃん」
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