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第15話 ゾンビパーティ

 〈レッドラグーン大空洞〉。

 赤い地表の山々が囲む場所に幅約300メートル深さ約50メートルの大穴がある。この大穴と大穴の中にある無数の洞窟をまとめて〈レッドラグーン大空洞〉と呼ぶ。

 ランマ達受験生はその大穴のすぐ側に集められた。

 受験生の前にはスウェン、ミカヅキ、フランベルがいる。


「見ろよ、スウェン=バグマンだ。100を超える第四階位の堕天使を単騎で皆殺しにしたらしいぜ。いまルーキーの中で一番期待されているバケモンだ」

「うお! めっちゃ可愛い子いるじゃん! おれ、あの子と同じ師団に入りてぇな~!」

「あのサングラスの人、ずっと血管浮いててこっわぁ~」

「でもでも、よく見ると結構美形じゃない? 私タイプかも……」


 落ち着きのない雰囲気だ。

 試験の不安に駆られる者、スウェンたち射堕天の精鋭を前に浮かれる者、目の前の大穴に圧倒される者。様々だ。

 一方、ランマも冷静じゃなかった。昨日は息巻いていたものの、いざ本番を前にすると体が小刻みに震え出した。


(くそ……!)


 ランマは手元でコインを遊ばせる。

 手の甲でコインを回したり、連続コイントスをかましたりと、無駄な技術を発揮していく。ランマ式リラックス法である。


(どいつもこいつも魔力量や体格がアカデミーの連中と段違いだ。ぱっと見で強いとわかる。多分、みんな最低でもエディックより強い……ここまでのレベルだとは思わなかった)


 ランマはふーっと息を吐き、精悍な顔つきになる。


(先にスウェンや堕天使と会っておいて良かったぜ。アイツらほどの威圧感はない。今の俺とミラなら、十二分に戦えるはずだ……!)


 ランマは体の震えを止めると、コインを手の内に収めた。


「あり? もしかしておたく、マジシャン(同業者)?」


 ランマに話しかけてきたのは赤い髪の男。


「そんだけのコインテク、マジシャン以外ねぇよな」


 男は、特徴的な格好をしていた。

 タキシードに黒マント。

 口元には真っ赤な口紅が厚く塗られ、

 頭にはうさ耳バンドを付けている。

 身長はランマ(172センチ)より10センチほど高く、足が長い。


「いいや、俺はマジシャンじゃないよ」

「そうか。よかったぜ、キャラ被りするところだった」


 男がパチン、と指を鳴らすと、上からリンゴが降ってきて男の手元に落ちた。


「おぉ! すっげぇ!」


 男は得意げな顔でリンゴを齧る。


「アンタ、マジシャンなのか」

「そういうこと。ウノ=トランプだ。よろしく」

「ランマ=ヒグラシだ。よろしくな」


 ウノはランマと肩を組み、ランマの耳に唇を寄せ、


「……ところでおたく、昨日の夜、あの試験官たちと一緒に酒場に居たよな。もしかして試験内容とか聞いちゃってない?」

「……聞いてないよ。俺がアイツらと一緒に居たところを見たってことは、お前もあの酒場に居たのか?」

「おう。まぁな」


 おかしい。とランマは思う。

 こんな特徴的な格好をした人間が居れば嫌でも目に付くはずだ。だけどランマはこの男を酒場で見た記憶がない。今日とは違う格好をしていたとしても、この真っ赤な髪は否応にも目立つだろう。


「なんにせよ、あの人らに目を掛けられてるってことはかなり有望株ってことだろう? おたくと仲良くして損はなさそうだ。一緒にがんばろーぜ、ランマちゃん♪」

「ちゃん付けはやめてくれ」

「気が向いたらな」


 試験監督のミカヅキが手を叩き、受験生の意識を自分に集中させる。


「静かにしろ。そろそろ試験を始める。まず全員、周囲の人間から1メートル以上距離を取れ」

(準備運動でもすんのか?)


 とりあえず、言われた通り距離をあける受験生たち。


「じゃ、まずは試験の説明を始める。フランベル、召喚獣を展開しろ」

「了解ですわ」


 フランベルは召喚陣を地面に展開する。しかしその数は一つではなく、一挙に10個ほど。一つ一つの大きさはまばらで、3メートル、2メートルサイズのものもあれば1メートル以下のものもある。

 フランベルは腰に掛けたポーチから大量のサモンコインを取り出し、召喚陣に投げ入れていく。

 包帯まみれの人間、包帯まみれの狼、包帯まみれの鳥などが召喚陣から現れる。全員肌がただれていて、しかも生ごみのような臭いを発している。


「一挙召喚! “ゾンビパーティ”!! わたくしの限界78体です!」


 ランマは素直にフランベルの技量に感動していた。


(召喚陣の多数展開に召喚獣の多数維持! これだけの数を同時に展開し維持するのは相当の技術が要る。す、すげーなアイツ……)


 気になるのは、このゾンビを使ってなにをするかだ。


「試験の内容は簡単。今からこのゾンビ共を大空洞に放つ。お前らはそれを追い、ゾンビを倒してそのサモンコインを回収しろ。2時間後までに7枚以上のサモンコインを持ってここへ戻ってくれば合格だ」

「一つ質問いっすか?」


 説明に口を挟んだのはウノ。


「他の奴が持ってるサモンコインを奪ってもいいんですかね?」

「構わん。好きにしろ。ただし大空洞外では一切の戦闘行為を禁ずる。当然、この場での戦闘も禁止だ。例え7枚以上サモンコインを持っていても、2時間後までにここへ戻らなければ強制的に失格とする。時間が来たら笛で合図する。以上、なにか質問はあるか?」


 一人の気弱そうな受験生が手を挙げる。


「あの~、これからこの穴に入るんですよね?」

「そうだ」

「……階段とか見当たらないんですけど……」

「ああ、階段はない。各々機転を利かして降りろ。壁伝いに降りてもいいし、召喚獣の背に乗って降りたり、結界を足場にして降りてもいい。もちろん、飛び降りてもいいぞ」


 ミカヅキが言うと同時に、ゾンビたちが一斉に穴へと飛び込んだ。

 着地した音がだいぶ遠くから聞こえる。


「先に言っておくが試験中に死んでもこっちは一切責任を取らない。それでもやるというやつだけ残れ」


 ミカヅキは10秒待つ。

 冷や汗はかいても、この場を離れようとする者はいなかった。


「オッケーだ。あ、ちなみに言い忘れていたけど、いま説明したのは二次試験の内容な」

「「「は?」」」

「一次試験はこれだ」


 ミカヅキが手を前に出す。すると受験者全員が直方体の薄緑色の結界に囲まれた。

 一人一個ずつ結界が張られている。結界の高さはそれぞれの受験生の身長+5センチほど。幅は腕を横に伸ばせないほど狭い。


「この結界から出ることが一次試験! そんで出た奴から二次試験に移れ!」


 ミカヅキが砂時計型の結界を作る。

 スウェンが砂の入った袋を開いて砂を結界の中に入れ、パチンと手拍子を打つ。


「タイマースタート! この砂が落ちきったらちょうど二時間だ。さ! みんな頑張ってね」

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