第13話 ブルー・ラグーン
海の街〈ブルー・ラグーン〉。
海に隣接するこの街一番の特徴はロンドン行きの船があること。それだけの理由でこの街を訪れる人間は多く、ロンドンが現れてからずっと利益は上がり調子である。
街も次第に広がり、面積は〈ラヴィアンローズ〉の4倍。海が近くにあるから魚料理が豊富だ。活気に満ち溢れた街である。
その〈ブルー・ラグーン〉の沿岸にバイクを停め、スウェンは背筋を伸ばしていた。
「ん~! 気持ちいい! 爆走最高!」
その隣で、
「オエエエエエエエエエェェェェェッ!!」
ランマは吐しゃ物を海へと流していた。
「なっさけないなぁ。あの程度のスピードで音を上げるなんて」
「……お前マジでいつか絶対ぶん殴るからな……オエエェッ!!」
時速120キロの爆走はランマの脳と胃をシェイクさせ、眩暈と吐き気をプレゼントした。
「……あれ? おいスウェン」
海の向こうから水しぶきを上げ、何かがこっちに向かっている。
ランマは水しぶきの上がっている場所を指さす。
「なんだアレ? 鮫か?」
「鮫だったら晩御飯にしたいね~。でも違うみたい」
よく目を凝らすと髪や服が見える。
人だ。女だ。女性がバタフライで泳いできている。
女性は沿岸に近づくとバッシャーン! と跳躍し、ランマとスウェンの背後に着地した。
「ようやく撒けましたわ! まったくしつこい方たちですこと!」
ドレス姿の女性だ。黒髪と白髪が織り交ざった長い髪で瞳も黒と白のオッドアイ。肌は心配になるほど白く、一切の濁りがない。
見た目年齢的にはランマやスウェンと同い年くらいだ。見た目的には良いところのお嬢様と言ったところだ(水浸しでなければ)。
「あら? スウェンさんではございませんか。例の堕天使の捜索は終わったのですか?」
「終わったよ。フランはなにをやってるんだい?」
「野蛮な男たちから逃げてましたの」
「どうせまた借金取りの人でしょ」
「そうとも言いますわね。まったく、数千万程度でとやかくうるさい方たちですわ」
「まさかと思うけど、ロンドンから泳いできたの?」
「ええ。逃げ場がなくて、やむなく海に飛び込みました。あと少しで体を売る羽目になってましたわ」
「……あっはは。相変わらずの生命力だね」
(スウェンの知り合い、か?)
フランと呼ばれた女性は体をクンクンと嗅ぐ。
「なんか、匂いますわね。なぜでしょうか?」
「さぁ?」
「あ、多分さっき俺が吐いたからだな。ちょうど吐いた場所に泳いできたんでその匂いが……」
フランはランマを蹴り飛ばす。
「え?」
「なにしてくれてますの!」
「のわぁ!?」
助けようと思った女の子が爆発して、
堕天使と戦って、
バイクで吐いて、
挙句海に落とされる。
散々な一日だな。とランマは海の中で涙を流した。
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「フランベル=スリラー。僕が組んでるチームの一員で、見ての通り射堕天だ。散財癖があってよく借金取りに追い掛け回されてる。お金は貸さないようにね、戻ってこないから」
フランベルという女性はドレスの上に射堕天の黒コートを着ている。
「よろしくお願いしますわ! わたくしのことはフランと呼んでくださいまし」
「……よろしく」
ランマとフランはスウェンの骸炎で服を乾かす。
「それで、この方は何者ですか?」
「ランマ=ヒグラシ君だよ。射堕天サークルに是非迎え入れたい人材なんだ」
「ミカヅキさんの許可がなくては入隊は難しいと思いますけれど」
「だよね~。どうやって連絡取ろうか」
「これからミカヅキさんと打ち合わせの予定がありますの。彼も連れてきたらどうです?」
「あ、ミカヅキさん来てるんだ。ちょうどいいや」
「……えーっと、すっかり置き去りなんだが、結局俺は射堕天サークルに入れるのか?」
スウェンはいつもの笑顔で、
「これから採用担当に会いに行く。その人次第かな」
ランマ、スウェン、フランベルは街の酒場に入る。
すでに夕暮れ時、酒場は漁帰りの漁師が多く、徐々に熱を上げている最中だ。
スウェンとフランベルが首を回し、その採用担当とやらを探す。ランマは採用担当の顔を知らないので射堕天の黒コートを探した。
「だーかーらーっ! グリーンピースは抜けっつったろうが!! 俺はな、この豆粒を口に入れたら全身から汗が止まんなくなるんだよ!」
「だーかーらーっ! ウチのチャーハンのグリーンピースは他のグリーンピースと違って美味いから大丈夫だって言ってんじゃないのさ!」
一人の男性が料理長らしきオバちゃんと揉めている。
「関係ねぇんだよ! どんなコックが調理しようが嫌いなモンは嫌いなんだよ! 好き嫌いのないやつにはわからねぇんだよ! どんだけ新鮮だろうがどんだけ味付けを工夫しようが、俺の舌はグリーンピースを認識するし受け付けないんだよ! 風邪で味覚なくなった時でもグリーンピースだけは味がしたんだよ!!」
「あー、もうわかったよ! グリーンピースを取り除けばいいんでしょ!」
「駄目だ。グリーンピースが接触していた米粒も受け付けん。取り替えてくれ」
「アンタねぇ……!」
言い争いしている男は、射堕天のコートを着ていた。
(なんか、この声……どっかで聞いたような)
男は黒髪でサングラスを着用している。見た目年齢は20代半ばほどだ。
姿に覚えはない。けれど、声に覚えがある。
「下げなくて大丈夫です。そのグリーンピースチャーハンは僕らが食べるので」
スウェンが喧嘩している二人の間に入った。
「あ? スウェンじゃねぇか。お前がここにいるってことは、例の堕天使は片付いたってわけだ」
「はい。そこの彼が片付けてくれました」
スウェンは親指でランマを指さす。
サングラス越しに、男は鋭い瞳でランマを見る。
「へぇ。まぁ座れよ。詳しく聞かせてもらおうじゃねぇか」
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