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第11話 前人未踏

「一つ聞くが、ララという女の子を爆破させたのはお前か?」

「ああ、あの小娘ですか」

 

 アディガロスはクスりと笑う。


「母親を探していたでしょう?」

「……ああ」

「愚かですね。自ら殺した癖に。ナイフで滅多刺しにして」

「……テメェがやらしたんだろ」

「ええ、まぁ。娘に刻まれる母親の顔と言ったら」


 アディガロスの瞳が真っ黒に染まる。


「非常にビューティフォー、でしたね」


 ランマの頭にあった一ミリの躊躇いが、いま、消え去った。


 ランマは走り出す。

 アディガロスは召喚した剣で突きを放つ。すると剣は伸び、10メートル先にいるランマまで到達する。ランマは剣の腹でアディガロスの突きを弾く。

 一滴の汗がランマの頬を伝う。


(伸びる剣!? あと一瞬、反応が遅れてたら死んでいた)


 生まれて初めての殺し合い。

 本気の殺気を前に、ランマは緊張の色を見せる。


「素晴らしい反応ですね……下等生物にしてはですが」


 アディガロスの剣は無数の刃をワイヤーで繋いだ蛇腹剣。その攻撃範囲は10メートルを超える。

 ランマが一歩踏み出すより速く、アディガロスは剣を横に薙ぐ。伸びた剣が店の酒瓶を斬り裂きながら迫る。ランマは剣を縦にし、薙ぎ払いを受ける。


「!?」


 しかし蛇腹剣はランマの剣を基点に、巻き付くようにして背中からランマに迫る。

 跳んで躱すこともできるが、空中で追撃を捌くのは至難。ならば、


鋼槍(3番)!」


 ミラを槍に変化。

 槍を床に刺すと同時にランマは足を床から離し、槍の柄頭の上で逆立ちするようにして蛇腹剣を避けた。


「ちっ」

「やるねぇ♪」


 渋い顔をするアディガロスに悪い笑みを浮かべるスウェン。


 蛇腹剣は縮んでいく。そしてまた伸び、ランマに迫る。


 床に着地したランマは蛇腹剣を槍で捌く。そしてまた蛇腹剣は縮んでいく。

 ランマは槍を構え、フーッと息を吐く。


(わかったことは二つ。一つはあの剣は一度伸ばす度に縮めなくちゃならない。連続攻撃はできず、攻撃の後に隙がある。二つ、剣が伸びるスピードは凄まじく、これ以上近づくと見切れない。つまり、どっちみちこれ以上距離を縮められない。さぁ、どうしよっかな!)


 ランマは左手をポケットに突っ込み、コインを一枚出した。なんてことない、ただの銀貨だ。


「?」


 ランマのその行動をアディガロスは警戒し、攻撃の手を止める。その間にランマは左手の人差し指の上でコインを回し出した。

 攻撃でも防御でもない、ただの手癖である。


「なにをしている……?」


 ランマの不気味な行動に対し疑惑の表情を浮かべるアディガロス。

 思考を終えたランマは銀貨を指で弾き、そのまま捨てた。


「……よし。これでいこう」


 ランマの手遊びが何の意味もない行為だと判断すると、アディガロスは蛇腹剣を薙いだ。


鋼剣(2番)!」


 ランマはミラを剣に擬態させ、蛇腹剣を強く弾く。蛇腹剣が縮んでいくのを見て、ランマは剣を投げた。剣は縦回転しながらアディガロスに迫る。アディガロスが蛇腹剣でそれを迎撃しようとした瞬間、


コイン(5番)!」


 ミラがコインに擬態する。

 的が小さくなったことで蛇腹剣は空振り。その後で、


鋼盾(4番)!」


 アディガロスの目の前でコインはシールドへ変化する。アディガロスの視界を、鋼の盾が埋めた。

 その隙に、ランマは駆け出した。


「くっ……!」


 アディガロスが手で盾をどけようとした時、ランマは盾越しに飛び蹴りをかます。


「ちぃ!! 下等生物が!!」

「口調が崩れてんぞ! 上等生物さんよ!」


 アディガロスは倒れこむ。


 ランマはアディガロスの右手首を握りしめ、ボキ……と手首をへし折った。

 蛇腹剣が手から離れる。ランマは蛇腹剣を右手に取り、左手に盾を持って飛びのく。


「はっは! この剣は貰っとくぜ」

「……愚かですね」


 アディガロスは立ち上がり、ニヤリと笑う。


「いっ!?」


 突然、蛇腹剣を持つ右手に激痛が走った。まるでマグマに浸した溶岩を手づかみしてるような痛み。思わず蛇腹剣を手放す。


「人間如きが、天界の礼装を扱えるわけがないでしょう」

(だ、駄目だ! 長く持ってたら痛みで気絶する!!)

「さぁ、返してもらいますよ」


 しかし、この武器を返すのもおいしくない。

 天使の武器を人間が扱えない可能性は頭にあった。ゆえに、その場合の対策も考えてある。


「嫌なこった」


 ランマは手を見る。

 激痛は走ったが、手はちょっと焦げてる程度だ。精神的ダメージはかなり大きいものの、肉体的ダメージはそこまで。もう数秒程度なら持てる。


「ミラ!」

『みみぃ!』


 ミラが原型の宝箱の姿になる。

 ランマは蛇腹剣を持ち、そして、


「口開けろ!」

「!? まさか……!!」


 そこでランマのやろうとしたことに気づいたアディガロスは初めて顔を歪めた。


「やめなさい!」

『みらぁ!!』

「いっつ!?」 


 ランマは激痛に耐えながら、ミラの中に剣を突っ込んだ。

 ごくん、とミラは剣を飲み込んだ。


「なんてことを……!」

「これでお前の武器はなくなったな」


 ランマはミラを鋼の剣に擬態させる。


「さてと、こっちも大詰めみたいだね」


 ランマの背後からスウェンが言う。


 ランマが振り返ると、そこには眷属の死体が散らばっていた。

 アディガロスは状況を見回す。

 ほぼ無傷の召喚士と転生士。転生士の方は素手の自分では手に負える相手じゃない。

 そして目の前の召喚士も優れた身体能力と判断能力、さらに変幻自在の悪魔を操る。

 眷属はすべて使い尽くした。


 総合的に勝ち目がないと判断したアディロスは背より骨の翼を生やした。


「「!?」」

「失敬。ここは逃げさせて頂きます」


 アディガロスの体が宙に浮く。


「飛んで逃げる気か!」


 アディガロスは店の壁を突き破り、外に出る。


「待ちやがれ!!」

「ランマ君!」


 スウェンは黒炎の右手でランマの背中を叩く。


「え……?」

「がんば!!」

「ちょ、ま」


 スウェンは思い切りランマを弾き飛ばす。

 発射された大砲の弾の如くランマは店を突き破り外に出る。


 背中は灼けるように痛い。スウェンはぶん殴りたい。ただひとまずそれらの感情を押し込め、ランマは標的を見る。


 互いに空中、標的との距離は約20メートル。


(この距離で使える武器はアレしかねぇ! 使いたくはねぇが!!)


 ランマはミラを握りしめ、


「コウリュウ!!」


 ランマが叫ぶと、手元のミラが蛇剣コウリュウに擬態した。

 それを見たアディガロスは余裕の笑みを浮かべる。コウリュウの最大射程は12メートル。それを知っているアディガロスは自分には攻撃が届かないとほくそ笑んだのだ。


 アディガロスは知らなかった。コウリュウの性能が二倍に拡張していることを。


――ザン。


 気味の良い音が響くと同時に、伸びたコウリュウによってアディガロスは首を斬り落とされた。


「なん、だと……!? コウリュウは、ここまでは届かないはず……!」

「わりぃな。限界突破してるもんで」


 アディガロスはひらひらと空から地面に落下する。生首は数秒動くも、すぐに静止し、生命活動を終えた。


「……?」


 着地したランマは剣を持つ右手に、違和感を抱いていた。


(痛くねぇ……?)


 さっき握った時は激痛が走ったのに、ミラが擬態したコウリュウは握っても痛みがない。

 


 ---



 ランマの後を追って外に出たスウェンは、僅かに汗をかいていた。


(天界礼装を装備して、一切のダメージがない……? そんなこと、ありえるのか?)


 ランマの手には確かに天界礼装がある。

 だがランマは平然とそれを持っている。


(天界礼装を操ろうと多くの研究がされたが、一切実らず、礼装を操った際の天罰を避けることはできなかったはずだ)


 まず疑ったのはランマが天使だという可能性。だがそれはすぐさま否定される。


(彼は天使じゃない。天使は魔界から悪魔を召喚できない)


 ミミックを召喚できているランマは天使ではない。ミミックを召喚するところはたしかに自分の目で見ている。

 ならば、一体目の前の光景をどう説明できる?


(アレはミミックが化けた姿だ。悪魔であるミミックが取り込んだことで、何らかのバグが生じたのかな。それにしても、低級悪魔であるミミックが天界礼装に擬態できるなんて普通はありえない。彼の特別な召喚陣ゆえか)


 スウェンは小さく笑う。


(彼、自分がとんでもないことをした自覚あるのかな? 天使とはいえ人の形した存在を躊躇なく倒した辺りメンタルも十分。戦闘時のあの集中力、それに堕天使相手でも引かないあの身体能力。ほんと、面白い拾い物をしたな。後はミカヅキさんがどういう判断をするか……)

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