表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

episode. Ⅵ 阿羅

    ◇

「あれ……」

どこだここ。

白い壁で実験室のようなこの空間。

意識がまだ朦朧としてる。

手を…あれ、動かない。体も。

これは、

「拘束、されてる…?」

しかも、椅子に括り付けられてる。


「無論だー

節操なき魔術師には死を。

貴様は、喧嘩を売る相手を間違えたな。」


「っ!?」

毛の穴ひとつまで立ち上がる気配。

ヒトとしてありながら人としての倫理を持ち合わせない者達。

瞬間に理解した。こいつらが魔術師だ。

先輩が異常だったんだ。

魔術師とは斯く在らねばならないー!

    ◇

神崎・ブリテン・阿羅(あら)

神崎・ブリテン・五美(いつみ)

神崎・ブリテン・陸斗(りくと)

神崎・ブリテン・(はち)

神崎・ブリテン・玖音(くおん)

以下略。

″春の一族″極東支部よ。

これよりは罪人新機零二、並びに不在となる神崎・ブリテン・三咲の審判である。

    ◇

「え、そんなん死刑で良くない?」


「えええ、えええ!!?ちょっと待ってくれよお俺魔術なんて知らないんだだだってば〜!!」


「……泣き叫んでいるが。」


「泣き叫びもするだろ〜!!

俺こんなところで死にたくねぇ〜よ〜!!」


「……駄々こねてるが。」


「でも、春の次元を抜けたのには変わりない。こいつは立派な魔術師だ。」


口を発したのは神崎陸斗。


「は〜!?俺だって何が何だか分かっちゃいねぇーんだよ!

だいたい誰なんだよお前!いきなり襲ってきやがって!むちゃくちゃ言ってんじゃねーぞ!」


そしてー


「俺か?お前が助けて貰ってた、三咲の兄ってところだ。」


「はぁ?」


「よく似てるって言われんだけどなー。」

確かに…金髪だし、こう、目とかが似てる気がする。

「まあ、この状況でそこまで口が回るのは立派だ少年。来世ではぜひ活かしてくれたまえ。」


「でもお父様、この方嘘はついてないようですが?」


「おお!そうだよな!」

てゆうかなんで嘘ついてないってわかるんだ?


「お前の心眼の手違いではないか?ちゃんと調べろ、五美。」

え、え〜と?この女の人が五美って人でこいつがその父親なのか?

なんかいけ好かないやつだな。

「分かりました、では。」

なんだ、何すんだ?

「あなたは週に何回オナニーをしますか?」


「ぶっ!」

「ハッ」

「……」

お、おい女の子がなんちゅーこと聞いてくんだよ!思わず笑っちまったじゃねーか…

「え、まあ二、三回です…」

「嘘ですね1日1、2回です。」

「…」

「…」

「…」

「はっ」

こ、こいつぅ……!く、食い気味でぇ……!!

「お父様。やはり私の心眼はこの方にも機能してると思われますが。魔術的な兵装も施されておりませんし。」

いや、でもこれで俺の無罪には1歩近づいたのか…?いや何がゴールなのかもよくわかっちゃいないが。

「落ち着けよ五美。お前が見えるのは″心″までで″魂″じゃないはずだ。

春の次元はあれでも空間切断ぐらいでしか入れんはずだ。」


「そうだな。そこまでできるものなら魂の入れ替えも容易いのかもしれん。」


「そこまでの方なら私達には捕まらないのでは……」


「知らん。そんなのは三咲が帰って来てから聞けばいい話だ。三咲は謹慎でこいつは処刑。別に文句はないだろ?」


「三咲も処刑で構わんと思うが…

そうだな。三咲が此奴に何を施したのか分からんが、ハッ、    

     ″殺してしまえば関係はない。″」

分かってる、こいつらに真っ当な倫理観がないことくらい分かってる。

でも、それでも許せない。

人の命はそんな簡単なものじゃないー!

「てめぇ!!

さっきから聞いてりゃベラベラペラペラと!!

人の命を、そんなゴミみたいな扱いしてんじゃねーぞ!!」

「……」

「……」

「……」


ー何故か、静まり返った。

「はっ」


「…なんだよ。」


「お前は魔術師とはなんであるかを理解していないらしいな。」


「え?」

ドゴッ!!!

凄まじい音がしたのは一瞬の後だった。

彼らは俺の数m先にいる。

いや、俺が数m後ろに移動しただけだ。

痛みってのはほんとに遅れるらしい。

「………!!!」

無言で悶え苦しむ。

男が足を上げている。蹴られたのか?

じゃあなぜ。なぜ蹴られただけで俺は壁に埋まってるんだ?

ありえない。ありえない、ありえない。ありえない。

男の足は光っている。よくわからないがこれが魔術のようだ。

「魔術師とはこういう者だ。悲願のために人としての何かを捨て去った者。人としてはもう生きられない者。ヒトでしかない者。

…お前はどうだ、少年。お前は何を捨てられる?」


「何言ってんだてめえ!わけわかんねーよ!魔術師だろうと関係ねーだろ!

俺は!人として!平気で誰かを殺すなんて間違ってるって言ってんだ!」


「阿呆か貴様は。私たちはその人の枠にいないと言っている。

……倫理に生きる者は矛盾に寛容でありながら、順応しない者を許さぬ。理解できぬ者を許さぬ。

これは常だ。人類史を鑑みても当てはまらぬ例はない。

私には分からないな、ただ私はそういう生き方だというのに。

お前の理解の及ばぬところにいるだけなのだよ。」


「……」


「つまり私が言いたかったのはな。

倫理のない世界に飛び込んだのは貴様の方だ。

ならばー

殺される方に、問題があると言っているのだ。」

それは、どうなのか。正しいのか?

いや、

「問題って…それじゃ殺される方が悪いみたいじゃねーか!」


「それだ」

男は嗤う。

「は?」


「それだ。善悪という価値基準をお前らは平然と使い出す。押し付ける。皆が共有しているものとして倫理を提示する。

だかな、善悪などこの世には存在しない。

この世界など、因果関係の連続でしかない。

お前たちが悪とする行動が、

私たちでは善であったのだ。

お前たちが積み重ねた善行が、

私たちでは悪だったのだ。

それの何が善だ。

多数派が善なのか?

多数派が言うから殺すことは悪なのか?

性的少数者は許され、

ー 傷つけることは許されない。

数の扱いが得意なだけの子をギフテッド、

ー人を殺すしかなかった者が殺人鬼。

そこに如何な違いがある?

どちらも、死んでしまえばさほど変わらん。等しく価値なきものだ。

…そこの根本的なズレがある限り、私とお前は分かり合えない。」


「善悪…」


「良い悪いでは無い。

ただの因果だ。

原因は貴様にあると私は言っている。」


「……」

何だ、これ。この感覚。

言い返したいのに、言い返せない。

何も出てこない。

正義と悪。よく考えずに生きてきた。

普通に、ただ普通に。

でも、みんな普通だから意見の違いも別になかった。

言ってることは間違ってるはずなのに。

なぜだ、違うって言えない。

適当に生きて来たツケが回って来てるみたいだ。

なんで……

「無茶苦茶ですよ、アラさん。」


「?」


「居たのか、琳。何か異論があるのかね?」


「ないです。けど、あんな爆発みたいな音聞いたら来ますよ普通。」

なんかまた別の女の子がやってきた。白髪で、他のみんながちょっと西洋の血が混じってそうなのに普通にアジア人顔だ。

ていうか俺が蹴られたやつ、そんなすごい音してたのか。


「それで?処刑には当主の申請がいるんじゃないですか?」


「…ハッ。

私は知らなかったしこれからも知らない。

他に、何かあるかね?」


「ありません早く処刑してください。」

え、えええええ!!なんか助けてくれそうかなとか思ってちょっと黙ってたのに!!

なんなんだよこいつらぁーー!!流石に理不尽すぎるだろぉー!!

ていうかこれからも知らない?なんだよその暴論!今ここで聞いたじゃねーか!当主とやらに今すぐ聞きに行けよー!!!

「じゃあ俺たちは出てく。あんた1人で殺ってくれ。」


「ああ。」

みんなが部屋から出ていく。

そうして俺とおっさんと途中から来た女の子だけになった。

「琳、お前は出ていかないのか?」


「……

この処刑は完全にアラさんのですよね?」


「ああ、そうだな。弱者を虐げるのは私の趣味でしかない。」


「だからです。

他人を虐めるのは私の趣味でもあるってだけです。」

そうしてその辺の椅子に座って処刑を吟味しだした。

助けてくれそう、とか考えてる方が馬鹿だったらしい。

阿羅漢は一人、俺に向かい合って立っている。

どうする俺。

もう、ここで死ぬしかないのか?

    ◇

嵐の前の静寂。

それを打ち破ったのは、その原因の女だった。

「待ってくださいっ!!」

現れたのは神崎三咲。

その速さは風の如し。

零二と阿羅漢の間に割って入っている。

「邪魔だ三咲。

お前には相応の罰が下る。そこで黙って見ていろ。」


「くっ…」

黙って睨んでいる。

「違います、あれは事故です。めちゃくちゃ言うのもいい加減にしてください。

どう見ても魔術師の類ではないでしょう?

起きたのは私たちの魔術の不具合です。

罪なき者を裁くのは"春の"正義ではありません!」


「ハッ…

安心しろ、ここに正義(彼女)はいない。

この極東では、正義の審判なぞ訪れないー!」

彼が拳を振り上げた。狙うは目の前の女一人。

そしてー

伸ばした拳の先には誰もいなかった。

「?」

零二の思考が止まる。

    ◇

足音一つ。その次は二つ。

おーい、こっちにやって来たよーい。

みんな膝つけ頭を垂れて。御当主様の登場だ!


    「……正義()ならここに。」

その声だけですでに断頭台。

彼女の前ではみんなが道化。


ーほらもうみんなが跪いてる!


本作をお読み頂きありがとうございます!

これからもよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ