episode. Ⅳ 神秘
「手、貸してください。」
「ェ?」
「なに間抜けな声出してるんですか?ほら、」
そう言うと先輩は俺の左手を掴んだ。
温かいその手。俺みたいにゴツゴツしてなくてその温もりを感じる。
「、、、」
自分で自分の顔が紅潮してるのが分かる。
確かに今、俺は間抜けな顔をしてると思う。
そんな俺を先輩が見てなかっただけ幸運だ。
先輩は敵を見つめていた。
ここで俺だけオドオドしてたら気持ち悪い。
気を取り直してその手を握り返した。
「行きます。しっかり握っていてください。」
三秒、その三秒が世界を変えた。
左手の親指と人差し指を繋げOKサインの様にして眼の前に持っていってそのまま、
「ー照準確認ー」
「え、え、えあえ?!?!」
視界の全てが止まる。
いや止まっているのではない。一時的に遅くなっているだけだ。何というか空気がおかしい。何かが決定的に変わろうとしている。ここにいてはいけない。人がいてはいけない。それだけは分かる。この空間は俺がいていい場所じゃない。
怖くなって先輩の手を持っているのも忘れて踏み出そうとする。
「危ない!!」
「え、」
ガバッと先輩の右腕で抱き抱えられる。
、、、何と言うかその、胸がばっちり俺の顔に当たっているんですけど。先輩の胸は結構な重量がある。さっきから手を取ってきたり胸押し付けてきたり。そりゃ今は緊急事態なんだろうけど健全な男子高校生の事情も考えて欲しい。
◇
魔力はもはや風を切っていた。彼女の周りには魔法陣が形成されている。
単純な四角形。少年と少女を取り囲んでいる。
その中で空気は渦を舞う。
世界は限界を迎えている。
故に。
「管理次元領域/展開」
それは短い詠唱。たった三小節。されど世界を変える呪文。
彼等の視界は既に先刻と同じ桜色に染まっていた。
世界はそれだけの撃鉄にさえ耐えた。ならば後は呼ぶだけだ。
先程と同じ人形。先程と同じその鋼鉄を。
「来て!三号!!」
その叫びに、今こそ機械は応えよう。
名は命戦機。命に応えあらゆる命を絶やしその命を燃やす者。
″ンンンー???!!!″
女は驚愕した。その大魔術は二度も使えるのかということに。
魔術は魔力の消費に比例する。
つい先程まで闘いあっていたその機械は確かに強力だった。それ故魔力の消費は激しいはずだ。
なのに。彼女は平然と二度目を行使した。
ここにきて、女は明らかに格の差を見せつけられていた。
何故かわからない。この結界を壊す手段はないはずだ、ないはずだがー
それは恐怖。あれを動かしてはならないという直感。
″いっ、行け!お前達!!″
思わず怪物を仕向ける。
それを。
シュンッという一瞬の音だけで、
虚しい塵に変えてしまった。
″なっっっ。。″
瞬間の剣戟。回転しながら剣を振り回す。しかしコンパクトとしか言いようがない足の振る舞い。そして何より速すぎる。今の複雑な動きで既に音に近づかんとしていた。自らの身体より幾ばくも大きいというのに身のこなし方が違いすぎる。
機械に乗ると寡黙になるのか彼女は黙っている。
そのまま機械は何故か空へ飛んだ。
分からない。奴が何をしたいのか分からない。
そうして思考しているうちに機械ははるか上空にいた。落ち着け、落ち着けと女は繰り返す。結界は物理では破壊しえない。その剣が如何な暴力であろうと私に届くことは無いと。
空の上で機械は静止している。剣を構えて静止している。魔力が灯っていく。異常な、赤い、黒い、魔力?、魔力。それが。
それがとんでもないものだと気づいたのはすぐ後だった。
剣は既に剣では無い。結界を破壊する為の装置へと変わっている。
奴が結界を壊す理論はない。1 + 1は2だ。それは変わらないし否定はできない。
だが気づいた。どう足掻いても蟻は象には敵わぬように。生命が死を内包するように。
理論よりも直感でそれは私を殺しうると-!!
あれは全てを破壊出来る剣。
概念だろうと法則だろうと、理論上は破壊可能とする神崎三咲が持つ最大で最強の魔術。
″くっそー!!″
気づいた女は怪物を向かわせる。怪物同士を足場にさせて登らせてくる。
だがそれまでだ。そこそこに頭が回ろうと絶対的な力には敵わない。
「失せろ」
小さく唱えた言葉は三文字だった。
剣はもう赤黒い。魔力を帯びすぎている。
-そして命戦機は弾け飛んだ。
その速度は音速を越え、その剣は次元を超える。
しかしその先には大量の怪物がいる。
″ひっ!!″
だが。
怪物は剣に触れずして吹き飛んだ。
速すぎた。速すぎたのだ。その速度だけでただの怪物なぞ焼き切れる。
もう彼女は校舎に到達した。
ここまで約1秒を越えず。
総て。凡て。渾て。全てを破壊し-
「!!」
空に向かってその剣を振るった。
◇
ここは道の真ん中。女はそこでいきなりうずくまることとなる。
"ああああぁああぁぁぁ!!!!"
痛い痛い痛い!!
何故痛む何故痛む何故痛むのか。
ー裂けている。
空間が裂けている。
否、私の体が裂けている。
"いや!いああやりぃあああああああぁぁぁああ!!!!"
何故何故何故!!!
体が二つに裂ける、割れる。わずかな血を撒き散らして。
"あ、ああ?"
そうして斃れた。
「ひっ!?」
「きゃあーー!!」
道行く人がその異様な光景に驚いている。
一体何が起きたのか。
それが女の最後の思考だった。
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