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妖界放浪記  作者: 善童のぶ
古都・妖狐救済編
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93話 闇

紗夜の闇深さは今後のストーリーで明かしていきます。

悟美に惹かれた理由が純粋なものとは違いますが、幼心は求めていたものであった。という感じで今は認識して下さい。

主要キャラには過去などを書くことがある作品ですので、宜しくお願いします。

200という集団は、所詮、烏合の衆だった。全員、加護を受けておらず、人間の域でしか生気と異能を行使する事が出来ない。

妖力に侵される事はない森に篭り続け、外の存在を拒み続けた彼らに勝機など始めからなかった。


特に、悟美による猛威は恐ろしく、咄嗟に逃げ出したアオは恐怖に錯乱していた。

(何だよ…なんなんだあいつらは⁉︎たかが人間じゃないのかよ⁉︎ふざけんな!ふざけんなよ‼︎アカがあんな弱いなんて…クソッ、騙された‼︎)

悟美の感知範囲から逃れ、脱兎のように木々を飛ぶ移る。

息は荒れ、人間の身ではそろそろ限界を迎える。


一度、息を潜め、木陰に身を隠す。


「はぁ、はぁ、はぁ……はは、ハハハハッ!アカが調子こきやがって!何が男を殺すだ⁉︎あんなガキやメスガキにやられちまう集団は雑魚だ。せめて、あの白髪の女がか弱ければ脅せたんだがな……」

こんな時でも邪な言葉が口から出る。所詮、アオも彼らと同種なのだ。


この一言が、彼女の逆鱗(・・・・・)に触れるとも知らず………。


アオの影が濃くなる。

足が沈み、急な落下にアオは混乱する。

「何だ⁉︎影に沈んでいく‼︎くっ、誰かっ!」

影から逃れようとするが、足が影に捕まり、影から離れられない。そもそも、影は人間から離れないもう一人の自分でもあり、絶対に引き離せない分身とも言われる。

影のある人間は影から逃れられない。

影にもがき、アオの体は影の中へと沈む。

「なんなんだよ⁉︎影が俺を食うのかよ⁉︎誰だよ!こんな異能を持っているヤツは⁉︎」

アオの仲間に影を駆使する人間はいない。

影を駆使する人間はアオ側の人間にはいない。


正体は、影に潜む紗夜の仕業である。


影を支配し、影へと誘う恐怖者として、深淵へと連れて行く。

「影になった気分はどうですか?」

以前、來嘛羅と思念で会話した時の口調の紗夜が声を発する。

アオは全く見えない空間で、恐怖と暗闇による支配で意識を失っているのか目覚めているのかが判別出来ない。

(起きてるのか?いや、声が聞こえてるから夢じゃない。影から出ないと不味い‼︎)

目覚めていると自分を納得させる。

だが、目覚めなくて良かったと、後で後悔するとは知らなかった。


紗夜の声を頼りに暗闇を彷徨う。

「うふふ、貴方は触れてはいけない機嫌タブーに触れました。私の機嫌は短いです。お気に入りの悟美ちゃんを交渉材料にしようと、そう言いましたね?」

不気味に空間に響く声が脳に直接語られているように感じる。アオは耳を澄ますが、頭に訴えているようで、澄ますのをやめる。

「何が言いたい?どうせ、その声女だろ?」

「そうです。私は女です。名前、知りたいですか?」

「誰が聞くか!女はただの荷物なんだよ!男一人に釣られる女共は馬鹿だよな⁉︎何が好きで男を選んだことか…」

紗夜は無言でアオに殺意を向ける。

すると、アオの左腕が一瞬で切り落とされた。

当然、痛みはあるため、アオは無様に叫び散らす。

「ガッ!うああああっーーー‼︎」

叫びを聞いて、紗夜は薄笑いをする。

「うふふふ。闇の中では無闇に叫ばない方がいいですよ?声は貴方の居場所を知らせ、貴方の肉体が影に飲まれていきますので」

紗夜にはアオの姿は見えない。だが、声で場所を特定し、影でアオの詳細を知る。

目は見えず、暗闇で頼りになるのは声だけとなる。


異能の名は《闇》。

紗夜の異能は、人間と妖怪に存在する恐怖を具現化した能力。本人はその力を知って知らない。

だが、この力を既に使い熟し、他の存在にも与える恐怖は恐ろしいものだ。影を持つ存在には恐怖となり、その恐怖に応じて紗夜は豹変する。

この異能に引き摺り込まれた者は助からない。

ただ、彼女の機嫌を損なわない事が、唯一の救いであるだろう。

「悟美ちゃんを人質とする考えを許容しません。貴方の欲望は人を犯すものだと見ました。取り込み、その力を調べさせて貰いました。感知能力が優れているようですが、その力の由来は、女を犯したいがために隅々まで知りたい、その身勝手な欲望で悟美ちゃんを探った。《陰湿》と言うのですね?貴方には消えて貰います」

紗夜は影に取り込んだ存在の情報を得る。

影の中で異能の正体は開示される。恐怖に怯える存在は全てを見透かされる。

その恐怖は堪らなく増幅する。


アオは歩むのを止めた。生きる事を放棄し、死に涙する。


「そうです、それで良いのです。貴方は影と闇に迷い込んだ時から逃れられない宿命だったのです。私の悟美ちゃんを探り、交渉材料に選ぼうと愚弄な考えをした貴方に……暫く楽しんで貰えるように苦しんで貰います」

紗夜の言葉が死を意味する。アオは声にならない悲痛を叫ぶ。

影が体を引き裂き、内臓や骨が散らばり、死ぬ寸前の状態を保たれる。

首は無傷であるが、自分の体が引き裂かれていくのを、身を持って知る。


自分の何が悪かったのかを理解出来ず、己の命が尽きるまで、延々と痛みは続いた。


命乞いもなく、ただ肉片となって死ぬ様を見て、紗夜の表情に赤みが見える。

「うふふ!闇って良いですよね?暗くて静かで、叫び声がよく響きます。アオ…色で名前呼んでるとしたら、とても不細工な名前ですね。悟美ちゃんの名前は最高で祟高なんですよ。貴方よりも生きてるっていう名前です。色で呼び合う人間は欲しくない、生きて欲しくない。ううん、もっと正確に言うとそうですねぇ……闇に食われて死んじゃった方が私は安心します。でも、貴方が体験してるのと一緒で、死ぬ際に暗闇の中で叫んで命潰えるのですから。大勢が死んだらどうなるんでしょうか?合唱して叫ぶのなら悪くないです。悟美ちゃんだけは私の腕の中で死んでくれる事を望んでますがね」

これほど喋る紗夜は誰も知らない。

身内にも明かさず、ただ死ぬ間近のアオに語りかける様子は何処か感情が壊れているようだった。




紗夜の人格は決別している。


力と思う考えは一緒であるが、秘める人格は天邪鬼のように表裏に違いがある。

紗夜はそれを知り、自ら動くことを好まない。

動けば、身近な相手を殺しかねない。危険な異能を受け入れてくれる存在など居なかった。

それほど、自分を抑制するので必死の紗夜が唯一、心許す相手がいた。


狂人と恐れる悟美であった。


人としては残忍な部分を見せ、楽しげに暴れる姿を好む者はいない。だが、紗夜は悟美の在り方が羨ましく思えた。

悟美の前向きな思考に救われる部分があり、彼女が成す非道に好感した。

愉しむ姿に恋焦がれる思いが引き寄せられ、紗夜の心は悟美に奪われた。


——こんな楽しく遊んでいる人は見た事がない。


紗夜は心が貧しかった。

この世界に迷い込む前も後も独り身だった紗夜は闇を抱えていた。

僅か5歳で心がズタズタに裂かれ、この世界に迷い、女天狗に拾われた。

紗夜より先に来た幼い悟美と出会って、彼女の見る世界は変わった。

救われるきっかけが悟美となった事で、人格が切り分けられた。


本来の紗夜、それと残忍な紗夜で人格が形成された。


影にいる時は、残忍な紗夜となって。

光にいる時は、本来の紗夜となって。


どっちの紗夜も、悟美に心を許している。

悟美が全て。それを主張するように、悟美に何かあれば、すぐさま行動に移せる。その行動力と異能は、悟美の為に使っていると過言でない。


「紗夜〜?もう全員終わったかしら?」

紗夜の異能は、一定の距離又は好きな人の影を自由に移動が出来る。

紗夜はすぐさま影から現れる。

「お、終わりました!悟美ちゃん、敵が森の中央から感じました。どう…する?」

「へ〜やっぱりいるのね⁉︎決まってるでしょ?私を狙ってる人を恐怖に歪めてやるのよ!シシシッ、想像しちゃうと興奮するわ!」

「うへぇ…悟美ちゃんは凄い」

「そんな事はないわ。幸助君に止められちゃってるのは癪だけど、雑魚は雑魚だから殺す気にもならないわ」

「悟美ちゃんが言うなら……」

紗夜は悟美の全てを是とする。

悟美には自分を知ってくれている。それだけで、紗夜の人格は自分を保っていられる。

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