8話 初めての遠出
設定作り込みすぎるとどのタイミングで説明するか難しいですね。物語もここから徐々にどんなものなのかが分かってくるかと思います。描写的に大丈夫な表現は使いますが、少し過剰に書く恐れがありますのでご了承下さい。
一緒に暮らし始めて半年が経ち、二人の関係性も親密さが濃くなった。互いに自分の気持ちを上手く交わせる程の仲となり、幸助と雪姫の生活は馴染んでいた。
訓練もそれなりに積んだ幸助は雪姫から本格的に剣術を学び、人間としてはかなり成長した。
元々、スポーツに精通していた幸助の身体の扱いやそれに伴う立ち回り、瞬時に状況に応じた行動の取れる思考力を見抜いた雪姫は、重点的に幸助の育成に精を出していた。
お陰で俺は、雪姫の妖術を扱える様になった。
どうやら、これは雪姫にとってあり得なかったみたいだ。俺が妖術を放った時に雪姫がドン引きしていたのは新鮮だったな。
「足腰は、大丈夫みたいね」
「当たり前だろうが。俺をなんだと思ってやがる」
「妖怪好きの変わった人」
「おいおい、それは褒め言葉で受け取っていいのか?」
「……隙あり」
足で引っ掛けられ、俺は地面に転がった。木刀で頭を叩かれ、思わず痛みに悶える。
「幸助は詰めが甘い。私に褒められたら気を緩めるのは駄目ね」
しゃがみ込んで見下ろす雪姫。でも、若干人間味があって、嫌でもなかった。
「煩えな。俺の好みの世界なんだ。妖怪に褒められて嬉しくないわけがねえよ。大体、ほぼ毎日それで負けてるのは気のせいか?」
「気のせい。幸助、自惚れし過ぎ」
「うっ、悪かったよ」
「でも、私の『雪分身』、『白雪』、『雪鏡』、『吹雪』が使えるようになってる。組み合わせで使ってる?」
俺は妖術を使う際、雪姫のように技一つで放つことは避けてる。というのも、雪姫を倒すなら複数の妖術を同時に使い、欺く必要があるからだ。
『雪分身』で俺の複製を陽動に使い、『白雪』で姿を消し背後を狙い、『雪鏡』で注意を散乱させ、『吹雪』を使って足音を隠して奇襲。これなら、普通の奴は倒せると自信があった。
けど、やっぱり雪姫には効かなかった。同じ妖術同士だと決着は着かないし、直ぐに対策ができてしまうらしい。
雪姫の扱う妖術の大半を自由自在に扱えるようになり、何故か雪姫が驚いていたのは嬉しかったな。俺が刀剣に冷気を付与し、その太刀筋を受けた雪姫が俺に質問してきた。
「でも、私の妖術をこんな簡単に使えるの?」
「見様見真似でやってみると出来るもんだな。俺のセンスが良いんだろ!」
「それはあり得ない。私は妖力を生気に変換する方法しか教えてない。それなのに、私の妖術が殆ど使えるのは否むものね」
「あーめんどくさ。俺の才能ってもんだろ?別に気にする必要はない筈だ!早く続きしようぜ?」
「……」
雪姫は静かにその謎を暴こうとするが、謎が深まるばかり。何故、幸助が雪姫の妖術を会得出来たのか?解明するに至らなかった。
そんな日々もあったりするが、雪姫は俺の服に疑問を抱いた。それは当然の疑問で間違いなかった。
「ねえ幸助?その服、ずっと着てるけど、変わりはない?」
興味本意というわけではなく、単純に心配に近い。
「ん?あーそっか、毎日あんたにやって貰ってるから気にしてなかったな」
「でも、同じ服だと人間って、飽きない?」
「そうだな……」
俺は服を確認する。確かにこの妖界に来る前の服のままだし、夏服デザインだ。黒いトップスに左腕に銀色の腕時計、青のデニムパンツ、スポーツシューズなんだよな。正直に言っちまうと、この服装で出掛けたくない。
それに、服何処で売っているのかも雪姫には聞き辛いしな。今のところは自力で店を探しているが、そこまで大きくない町に行ってもそんな物は見つかりっこない。かと言っても、こいつに頼って買いに行くのもな…。でも、俺だけじゃあ危険だしな。
「ねえ?少し町外れに行かない?仕立て屋、知ってる」
と雪姫は気を遣って幸助を誘う。
「まあ…良いかな?俺じゃあ探せなさそうだし、お願いして良いか?」
「いい。明日、遠出して向かう。それで、良い?」
「助かる!俺も服は欲しかったんだ。じゃあ明日行こうな」
前だったら反論するのだが、幸助も自然と雪姫にお願いするようになっていた。それ程、親密になっている証である。
次の日、朝食を食した二人は初めての住んでいる町から離れた町へ向かうことにした。
妖界には地と海は存在するが、移動手段は妖術による移動が主流なのである。馬や牛を使った移動もあるのだが、この妖界ではあまりにも無謀な移動手段として誰も使わない。移動があまりにも段違いだからである。妖術を使えば数分で着く場所でも、動物を使った移動は数十日も掛かる。足ならもっと掛かる。
隣町までの距離があまりにも離れている。道のりに宿はなく、妖怪の棲まう場所があるが、そんな危険な場所に泊まる者は誰一人としていない。人間が妖怪の加護を受けなければ生きていけないというのは、こういう意味も指すのだ。
妖界にも基準となる都市制度が存在する。
都と呼ばれる妖都:夜城。純妖が大半占める大都市で、この妖界では最も発展を遂げた都市の一つ。その都市には、太古の妖怪も住み着いているのだが、探し出す事はほぼ不可能。その都市の内部に不可侵の結界を形成し、余程の存在でなければ、まず、探す事は出来ない。妖都以外に都市はあるみたいだが、雪姫は行ったことがないらしい。
妖力が空気中に大量に混雑している為、加護を受けない人間はその妖力に身が蝕まれ、人外となり妖怪へ変貌してしまう。逆に妖怪にとっては自身の妖力となり、その身に膨大な妖力を有する。
町と呼ばれる所は数百カ所分布しており、幸助と雪姫がいる場所もその一つ。俺が住む町の名称は亡夜。大抵が人間も住める環境が整備され、妖力もさほど大した程でもない。人間がよく人間界から出現する。
主に、この町と呼ばれる所から多くの物資が妖都に運ばれる。
村落と呼ばれる場所は1番環境が劣悪で、加護を受けていない人間が生きていくのは不可能。不安定な妖力に加え、暴走する妖怪達が多く蔓延り、手の付けられない最恐の場所だと言われる。稀に、太古の妖怪に匹敵する危険な妖怪も出現することから、妖都から興味本位で顔を出しにくる事がある。退治というよりも戯れに近く、大抵は取り込んで力にするのが主である。
俺は、初めて妖都に行くのだ。そこでなら服が購入出来ると言われ、転移で向かう事にした。
ただ、雪姫からはある事を告げられる。
「私の雪移動は、印を付けた場所に飛ぶけど、その過程で一つ、問題がある」
それは俺には当てはまらない事だった。
「私の力を持っていない人間だと、肉体が凍り付いて、向こうに着いた時には凍死してしまう」
雪姫の妖術はあらゆるものを凍らせる。加護を持っていたとしても完璧には弾けないらしく、俺が妖術を使えるとは知らなかったため使おうとしなかったらしい。人間に対する心配は相変わらずだなって思った。
「じゃあ、俺には当てはまらないな」
俺は笑って答えた。
「そう。幸助なら問題ない。私の庇護下にいるだけでなく、私の力も扱えるあなたならね。私の手を握って」
そう言って雪姫は手を差し伸べる。俺はそれを握る。
「行きましょう、妖都へ」
吹雪に煽られるように、俺達は妖都へ飛んだ。