88話 殺戮の天使
殺戮の天使。ゲームでもこういう有名なゲームがありますが、あの作品は滅茶苦茶良作でした。実況YouTubeで見てましたが、あの作品のホラー感と人間性、強い執着がなかなかハマりましたね。語呂が良く、悟美にピッタリなネーミングとしてつけてみました。ネタはないとは言いましたが、ガッツリ物語に盛り込むという事はせず、名前程度や呼称程度には取り入れるかも知れません。
俺達はこの村を出て、再び道のりを歩く。
襲ってくると警戒しながら、俺達は全員で辺りに気を配る。
あの村から出て変化があった。
村を出て数日、天にも届きそうな木々が生い茂る地帯に迷い込んでいた。
果物や動物、水も充実し、かなり余裕を持つことができる。
「凄えな。こんなところに森が出現しやがったぜ」
「この木……清樹ね」
「清樹ってなんだ?」
「清樹は空気と土に含まれる妖力を吸い上げ、木がそれに伴い成長するの。後、この森では妖術はあまり使用ができないのが特徴。妖力を扱う妖怪にとっては天敵の森なの」
「そうなのか…。俺もちょっと吸われてるだるさがあるのはそういうことかよ」
「幸助は妖力を宿してるから当然ね。でも、生気はあるから問題ない筈」
俺も少し肌で感じる。妖力が吸われているような感覚があり、あまりこの森に居られる気がしない。俺の体は生気が流れているのだが、來嘛羅達に何かされたみたいで妖力が宿っている。
悟美と紗夜は問題ない様子だが、すね子はかなりクタクタになっている。何か欲するように舌を出し、犬みたいに息をする。まだ入ってもないのに、妖樹が見え始めてから自分じゃあ動けなくなっていた。
妖力を奪う森、結構恐ろしい森もあるんだな。
「じゃあ、すね子がずっと弱ってるのはそういうことなのか?」
「そうね。この森を突っ切れば速いのだけど、この森を遠回りすると半年は掛かる」
「じゃあ遠回りしなかったら?」
「妖怪が容赦なく襲ってくる。この周りには妖怪が待っているの。偶々、私達が侵入するところには妖怪が住んでいなかっただけ」
森に入れば妖怪は弱る。それを知る人間なら、この森に逃げ込む。
森なら永久的に篭れるし、人間も意外と住んでいるとか。
だが、獲物をみすみす逃さないのがこの世界だ。狙われた者は最後まで覚悟しなければならない。
俺達は人間三人という格好の獲物だ。まだ狙ってくる妖怪がいる、油断は禁物ってわけだ。
「それと、この森を抜ければ古都により近付く。そうすれば、目的は果たされる」
そう言う雪姫の表情は笑っていない。冷たく、仇でも睨んでいるようだった。
妲己に狙われたと分かり、雪姫の様子が変わっていた。
恨んでいるようだが、俺はその原因を知っている。
紛れもなく俺が原因だ。
「なあ…」
「何?」
俺が聞こうとする事が分かるのか、聞く度に睨んでくる。相当、根に持っちまってるな。
「妲己は俺を狙っていると思うが、全然刺客がいねえじゃねか。最初に倒した羽民を見て、俺を狙わなくなったんだろうか?」
根拠ない理由だが、幸いなことに、村で襲われてから一度も刺客には襲われてはいない。他の妖怪に襲われたが、単に、人間である俺らを狙っていただけだった。
「信用出来ない。妖怪、それも太古の妖怪である妲己はかなり惨虐を好む妖怪。妲己が『九尾狐』という肩書きを持つから怒らないだけでしょ?」
「うっ…それは…」
俺の私情だと、妲己も好きな対象になるんだが、九尾狐の伝承の中では哀しいと思う妖怪だった。
女性店員が何処の誰かは知らねえが、妲己を救って欲しいとお願いしてきたんだ。恩人に返すべきものだと思い、俺はやる気になっていた。
しかし、それを良く思わないっていうのは仕方がない。雪姫が、襲ってきた相手を敵視しても文句は言えない。
俺の選り好みのような態度にイラッとしてるんだろう。
「幸助、あなたが九尾狐の種族に恋をするのは構わない。あなたの気持ちを尊重する。だけど、化け狐や妲己は悪い悪女妖怪、美貌に欲情していたら痛い目を見る」
「俺が來嘛羅に恋するなって言ってんのか?」
流石に雪姫の言葉にイラっときた。
雪姫が怒っているが、そんなの関係ねえ。
「私は幸助を思って発言しているまで。あなたは無知なところがある、危険な状況に巻き込まれ易い。私が常にあなたの身の安全を最優先にしたい。なのに、あなたは余計なことを挟んでは危ない目に遭ってる、違う?」
「俺が悪いのかよ?そう言ってんだな⁉︎」
「そう聞こえた?あなたは自分を思わな過ぎる。妖怪の誘いに簡単に応えようと、人の為、妖怪の為に動くあなたは誰かの言いなりで嫌」
「言いなり?俺がそう見えんのかよ!俺はちゃんと聞いてから受けているぜ?何処が自分を思ってねえんだよ⁉︎」
「その態度。幸助は自分の体も心もちゃんと見ていない。だから心配でしょうがない。私は……」
「心配するところじゃねえよ!俺は俺なりに体調気遣ってる。危険は偶々だ‼︎注意しようがねえだろ!」
俺達の会話は熱が上がり、互いに退けなくなっていた。
俺も雪姫も頭に血が昇り、正常に物事を識別できないでいる。
「それがいけないと言っているの。幸助は自分を大切にできていない。あなたの為を想って言っている。危険を臆さずに進んだら、ただの考え無し。幸助は自分を…」
「俺は大丈夫‼︎そこまで気を遣わなくてもいい‼︎」
これ以上、俺と雪姫が言い合えば、仲が崩壊しそうなぐらいの勢いだ。
俺が大切に出来てないと言われるのが腹が立つ。
雪姫に心配されるぐらい、俺は弱くないし、自分を見ている。
なんでこんなに言ってくるのかが意味分からねえ。
俺達の喧嘩に収束する目処がなく、悟美によって喧嘩は中断される。
「痴話喧嘩は好きにしていいけど、いっぱい待ち構えてるわ。喧嘩に引き寄せられたみたい」
俺と雪姫は喧嘩に夢中のあまり、妖怪が集まってきたのに気付かなかった。
「よし……やるか」
雪姫は無表情に戻り、刀を取り出す。俺も手に持って構えようとするが止められた。
「幸助は戦わないで。私と二人で十分だから」
怒ってる。俺が【絶無】に触れる前に手をスッと出してきたからな。
俺が戦うのを望まないというわけだ。
「チッ、分かったよ。俺は見学ってわけだよな?」
俺が諦めると雪姫は頷く。
「それでいい。幸助は危険になったら逃げればいいから」
「シシシッ!じゃあ紗夜、出てきて」
悟美も三節棍を握り、影から紗夜が現れる。
「悟美ちゃん、これは…?」
「ごめんね〜。この二人が痴話喧嘩していて集まってきちゃった。全員、倒して森に入るわよ」
「……そんな事が…。寝てたから知りませんでした」
「シシシッ、相変わらず頑張り過ぎよ?紗夜に死なれたら困るわ」
紗夜は頬を染め、悟美から目を逸らす。
なんか言いたげだが、モジモジして気持ち悪い。
しかし、紗夜の表情を見た時、そんな感情は消えた。
「うん…悟美ちゃんにそう言われると、心が抉られている感じで……うへへ、心地良いです」
俺はゾッとした。
心が笑みを拒絶する。俺は紗夜を人間として見ることを拒んだ。
紗夜の紅潮した笑み、悪魔が取り憑いたように歪んでいた。
偶々、見てなかったからよかったかも知れない。雪姫が見たらヤバかっただろうぜ……。
なのに、悟美は当たり前のように満面に笑う。
「紗夜は妹だしね。雑魚は排除しちゃいましょ!」
「了解です。私は影からサポートします!悟美ちゃんは好きに暴れて下ひゃい!」
嬉々として影に潜る。紗夜の気配は一瞬にして感じられなくなった。
悟美は妖怪の群がる集団へと飛び込む。
「であえぇー‼︎」
妖怪達はけたましく叫ぶ。矢が放たれ、数十ある矢を悟美は三節棍で折れ弾く。
「無駄よ。飛び道具は通じないわ。毒矢を放っているみたいだけど、当たらなければゴミも同然」
悟美は視力や勘が鋭い。矢が毒矢といち早く気付き、全てを弾いたのだ。
単なる怪我や毒は悟美の能力で無力化出来るらしく、本当に戦闘特化した願望だ。
「アッハハハ!私がぜーんぶ殺しちゃうわ‼︎さあ遠慮なく遊びましょ!私の血肉が欲しいのでしょ?だったら食べていいわ!食べられるものならねー‼︎」
狂人の如く、悟美の声は響く。
三本ある棍棒を操り、相手を強打していく。
鋭い牙が三節棍の前に砕け、顔や胴体が跡形もなく吹き飛ぶ。血を浴び、悟美の調子は上昇する。
途中、地面からの奇襲による怪我を負うも一瞬で再生し、地面ごと妖怪を吹き飛ばす。
殺戮に躊躇いはなく、ただ狂喜する悟美の姿が、妖怪を恐怖に落としめる。
妖怪も弱くはない。能力なしで挑めば俺が苦戦する程度の実力はある。俺は見てるだけだが、一人で挑んだら間違いなく挟み撃ちもされちまう。
だが、能力なしでも悟美の実力の底が知れない。悟美の防御力とスタミナに底が知れない。
そんな人間を相手する妖怪の方が可哀想に思えてきた。
「ねえ?私が食べれないの?こんな程度でくたばっちゃうとつまらないわ。よだれ垂らして食べたがっていたから口に突っ込んであげたのに、三節棍を飲み込んで死んじゃうなんて呆れたわ。食べたいなら食べればいいのに〜私達を殺したいのでしょ?どうして殺せないのかしら〜」
妖怪の喉に刺し、それを楽しげに言う悟美は本物の狂人だと認めざる得ない。
命乞いする妖怪を躊躇いなく殺し、気分良く殺戮をする悟美の恐ろしさは性格だけでない。
まるで殺戮の天使みたいな奴だな。白い天使が黒い装束を纏い、血ですべてを赤く染め、狂気に酔う姿は人間の美しさでは言い表せない。
実を言うと、悟美の容姿は俺の好みの一つでもある。金髪や金瞳も好きだが、紅い目や白髪も俺好みなんだ。
軍服に興味はない、着物だったら違ったのかも知れねえが。
悟美だから興奮することはないが。
「幸助君は勿体ないわね〜。こんな楽しい遊びなんてないのに」
「誰が楽しむか。てめぇの捻じ曲がった性格を生んだ親を見てみたいぜ」
「シシシッ!生憎様、私には親なんていないわ。烏天狗と女天狗が私の里親みたいだから。大丈夫よ?あの二人は殺すつもりはないから」
どうだろうか。悟美なら躊躇いなさそうだがな。
さて、紗夜の方はどうなってるんだ?
俺は興味本位で紗夜が相手していたであろう妖怪の様子を見た。
………何が起きたんだ?
俺は紗夜がいたであろう妖怪の集団を見たが、全員が死んでいた。全員、無惨な死体となって横たわっていた。
いつの間にか、悟美の影に潜っていた。
数は五十人はいたぞ⁉︎
それを一瞬でやったのか?1分、目を逸らしたうちに殺したってわけなのか⁉︎
恐ろしい奴だ。陰湿な奴かと思ったら普通に暗殺者だった。
「えへへ、紗夜は本当に働くわね〜。もう無理はしなくていいわ。今日はゆっくりしてて大丈夫よ」
「うん、悟美ちゃんの役に立てて良かったです。いつでも呼んでね………」
「分かったわ。また用がある時は頼るわ」
悟美は影に話しかけるように、紗夜のことを褒めていた。




