85話 最恐の二人
申し訳ございません。沖縄の方でインターネットの不備があり、投稿が出来ませんでした。かなり強い台風でしたので、かなり怖かったですね。
被害は沖縄は凄かったですが、個人ではそこまでありませんでした。ご迷惑おかけします。
寝る時だけ我慢すればいい。狭いが、これならゆっくり眠れるだろう。
と思ったのだが、雪姫は外に行こうとしていた。
「雪姫?どこ行くんだ?」
「少し用があるの。幸助はこの桶屋から一歩も出ないで。あなたが出てしまうと厄介だから…」
「何か、来るのか?」
俺を此処に留まっていないといけないと言う雪姫。今にも吹雪を吹き荒そうな様子で、外を警戒しているようだった。
「そう。この町にあなたやあの二人を狙おうとしている妖怪が潜んでいる。迂闊に外に出れば、あなたを守れない」
それは俺を揶揄う比喩表現ではなく、本気で言っている。
雪姫が冗談でこんな嘘は吐かない。
「…分かった。だが、中に入ってきた奴は俺が追い返す。何かあったらこの村を出よう」
「問題ない。幸助のところには妖怪を近付けはさせない。だから、安心して欲しい」
出て行く間際、雪姫はほくそ笑んでいた。いつもの冷たい笑みな筈なのに、俺を守るって言ってからその笑顔が妙に違うように見えた。
その笑顔が不意にも、かっこいいと思ってしまう。
つい、俺の頬が赤くなっているのに気が付かなかった。
言いつけを破って外を見るのは簡単だ。しかし、雪姫のあの自信の言葉を聞き、外を見ることはせず、宿の中で敵が来ないかを刀剣を持って待機した。
俺は、雪姫を一番信用している。あんたが負けるなんて考えられねえよ。
幸助のいる宿に氷結結界を張り、他の者を寄せ付けないように部屋の入口を凍結させる。
そして、声も聞こえないように遮断性の優れた防音材も使用する。
周りからは、かまくらに近いものに見えるが、此処にいる妖怪では解除不可能な強度を誇る。
雪姫は辺りに潜む妖怪を全て把握している。建物に隠れる者、変装する者、地面に潜む者とその数は30人。
一人で対処不可能ではないが、一人では幸助を守れない。
幸助の妖術の件を伏せなければならず、此処で迂闊に情報を与えれば、幸助に危険が迫る。
この刺客である者達が、幸助を狙っているのを気配で感じ取っていた。
「出てきなさい、私が庇護する人間を狙う愚かな妖怪。なんの理由で此処に現れた?」
雪姫は全員に問う。
そして、その返事は思わぬ形で返ってくる。ナイフが雪姫に投げ付けられる。
雪姫は刀で簡単に弾く。
「警告です。今すぐに武器を捨て村落を立ち去りなさい。さもなくば、私は容赦なくあなた方を殺します」
辺りに吹雪を吹かせ、殺気立つ妖気を放つ。この雪に恐れる妖怪は大したことがない。
だが、刺客全員は微動だにしない。動揺や恐怖はなく、ただ雪姫の様子を探る。
雪姫は静かにこの状況を見抜く。
(相当な手練れね。全員が誰かに訓練されたような暗殺者。でも、名のある妖怪以外は大した脅威ではない。ここで全員始末するか…それとも、一人を捕らえて吐かせるのが妥当ね)
刀に冷気を付与し、刀身は氷のように透き通る。
影から狙うこの妖怪達の統率者である『羽民』は雪姫の予想通り、他の妖怪によって仕向けられた刺客である。
命令した人物は言わずと知れた妲己だ。華名と夜叉を向かわせたが半月で痺れを切らし、羽民と数十名の妖怪を差し向けたのだ。
華名達は順調に進んでおり、あとひと月すれば接触は可能である。しかし、そんな彼らよりも速く進んでいる羽民は、妲己の転移によって先回りして幸助達を狙いにきた。
手柄を奪うようだが、我慢ならなかった妲己の身勝手な行動によるもの。それを知らぬ羽民は、妲己に見込まれていると勘違いをしていた。
人間を捕らえ差し出せば地位をくれると、甘い誘いに乗ってまんまと引っ掛かった羽民。その迂闊さが命取りとなる。
雪姫の警戒心の強さは予想外だった。
人間を狙うという固定した殺意を放ってしまったばかりに、雪姫の感知能力に勘付かれてしまった。そして、悟美も同じく、敵意ある気配を感じ取る性能を持つ。
暗殺者のように隠れても、羽民や妖怪はその意識を殺すことは出来なかった。
(クソッ、なんだあの女は⁉︎気配を感知したというのか?いや、もしかしたら人数など分からない筈がない。一人でも取り逃す真似があれば、あの人間を……)
既に自分まで見破られてはいないだろうと勘違いし続け、幸助や悟美を狙う気持ちを増幅させる。
手柄を立てたいという欲求は、暗殺者には不要だと知らない。
「ねぇ鳥さん、私と遊んでくれないかしら?」
羽民の背後から音もなく現れ、興味本位で聞いてくる悟美。羽民は気配を消したとばかりに、焦りを隠せていなかった。
「だぁ!もらったー‼︎」
振り返り、標的の人物だと好機に捉え、鋭い嘴で喉を狙う。悟美の喉笛に目掛けた攻撃は速く、至近距離での不意打ちは必殺必中。
だが、この行動が自分の命を縮めるとは思っていなかった。
強いて言うなら、羽民の相手があまりにも理不尽な狂人であると。狙われているのは、羽民の方だと気付いた時は、既に手遅れだった。
攻撃を仕掛けた羽民を悟美がフルスイングを放つ。嘴はガラスのように砕け、鼻が陥没し、意識まで刈り取られた。
「ぶへっ⁉︎」
「シシシッ、口が割れちゃったわ!でもいっか!後で治す人いるし」
容赦ない悟美の力の前に、心が折れた。
悟美は一発不能になった羽民を掴み、雪姫の元に跳ぶ。雪姫に差し出し、満面な笑みを見せる。それに対し、雪姫は冷たい眼差しを向ける。
「やり過ぎ」
「別にいいでしょ?後は全員、殺しちゃっても?」
「一人尋問すればいい。この妖怪が今回の主犯みたい。後は好きにしても問題ない」
幸助とは反対する意思で、無慈悲に悟美に任せる。
幸助とは違い、雪姫は妖怪を好ましく思っていない。人間は好きで保護し、妖怪嫌いとなって妖怪を滅する。
女に『呪詛』をかけられてから、その忌々しい呪いに影響を受け、雪姫は人間を襲った妖怪を容赦なく命を奪っていった。
知る者知らぬ者問わず死を与えることから、『雪女』としての噂は広まった。
「へぇ〜ヤっちゃって良いんだ!」
「幸助を狙う妖怪は容赦しない。それに…貴女も、古都に行くまでに鬱憤を晴らしたいのでしょ?」
悟美とは気が合わないが、互いに妖怪に好意を抱かないのが一致し、幸助を遠ざけ、惨虐な行為を行っている。
惨虐と認識はしておらず、二人の目的に差異があるものの、決して、それを悪だとは思っていない。
雪姫は幸助の妖怪への価値観を尊重し、その価値観を崩さないように、敢えて、幸助の目に入らないように命狙う妖怪を滅ぼす。
実はこの旅の最中、幸助が爆睡している間にも数十回の襲撃はあったのだ。それらを気付かれないように対応し、始末してきたに過ぎない。
以前から持っていた考えで動いたわけではなく、幸助を想い、この行動を取るようになった。
もし、幸助が自分の行動を聞いてきたら、全て答えるつもりだ。
隠し立てる必要はなく、幸助に言えると隠したいとは思わない。
雪姫は嘘が嫌い。それは、強く想う幸助に対してもそうである。
逃げ出そうとする妖怪がいた。だが、所詮は伝承もほぼ無い妖怪の衆。まともに雪姫達とやり合える訳がなく、一網打尽される。
誰一人、逃げることが叶わず、雪姫の妖術でその身は氷に包まれる。悟美は不満げに動けなくなった妖怪を砕いていく。
何故なら、悟美にとって動けない妖怪など退屈でしかなく、楽しめたのは最初のみ。
「これで良いかしら?」
「いい。一人は生かしているなら」
「これでしょ?陥没した顔って以外と醜いわね」
「あなたが言う?そうしたのは紛れもなくあなたじゃない」
「シシシッ!そうだったわ。でもこれ…全然弱かった」
幸助がいない空間は殺気がひしめく。
空気がまったく異なり、殺伐とした雰囲気がその場に流れる。
雪姫はこの環境に慣れてきた。それ故、妖怪を手にかける事に罪悪を向けない。
雪姫は『羽民』を生かし、情報を聞き出す事にした。
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