84話 村落到着
台風が激しくなってましたが、今は大分落ち着きました。ネット環境があまり良くないので、1日遅れて投稿するかもしれません。
俺達は同じサイクルを繰り返すように旅をしていた。
10日過ぎ、20日過ぎ、そろそろひと月が経とうとしていた。
旅の間、周りを警戒しながら歩き続け、ただ無口にならないように会話をしていた。話さないと時間が止まっているように感じ、日が沈むまではただ歩かなくてはならない。気分を紛らわすものとして話している。
しかし、それは限界が来るのは分かっている。
幸いというべきか否か、この旅を始めてから俺達は、妖怪に襲われていない。
そう、一度もだ。
不思議なことにだ。俺達は一度も妖怪と出会したことがない。
「全然感じないわね〜。妖怪も人も見つからないわ」
悟美は退屈し始めていた。
狂人のような悟美が退屈すると何をしでかすか分からない。
「暴れるなよ?退屈でも進むしかねえんだからな」
「古都だっけ?來嘛羅が言っていた場所はまだかしら?」
「そうだよ。まずは、大獄丸が出現する古都から言ってくれって言われたからな。道はこの貰った磁石が頼りなんだよ」
俺は懐から磁石を取り出す。
ただの方位磁針のように見えるが、特殊な細工が施されている。この世界に古都・怪都・最都・妖都の四つの都市があるんだが、この方位磁針にはその都市にある妖力に反応する。
妖力に反応し、都市を目指す仕組みとなっていて、行くべき場所が予め組み込まれているため、俺が何か設定する必要はない。
俺が行く順番は、古都・怪都・最都の順番だ。
この方位磁針がなければ、俺達は古都に辿り着けなくなる。これは手放さねえように大事に持っとく。
しかし、一番近い古都でも歩けば数ヶ月掛かるって言われた。恐らく、古都から怪都に行くのはその倍以上掛かると俺は予想する。長旅としては長過ぎる。
だが、寿命を気にする必要がねえから歳は気にしなくて済む。加護によって歳は取らなくなっているみたいだし。
大体、雪姫の加護は100年ぐらいで、來嘛羅は2000年もあるみたいだ。
かなりの差はあるが、俺は別に気にならない。
「それ壊しちゃっていいかしら〜?」
「巫山戯んなよ?これ壊れちまったら何処も行けなくなっちまう」
「えへへ、冗談よ」
冗談が通じるから良いものの、悟美は本気でヤバい事をしかねない。それが唯一する心配だ。
また歩き、俺達の目的地は今だに見えない。それどころか、村落すら見つからねえ。
こうなると、悟美が退屈するのも無理はない。
紗夜はずっと悟美の影に隠れ、夜以外は出てこない。一番疲れない筈なのに、俺達が歩いている間は顔を出すことが殆どない。
気味が悪いとしか言いようがない奴だ。
「おい紗夜!てめぇだけ昼間歩かねえとか狡いぜ!一緒に歩かないのかよ⁉︎」
俺は昼になる度に悟美の影に向かって叫んでいる。
だが、昼間に返事することはほぼない。それどころか、悟美は俺に脅迫する。
「紗夜は一番頑張っているわ。なのに、それ以上言うのなら無駄口叩けないようにしてあげてもいいけど?」
怒るのではなく笑っているのが余計に怖い。
だが、もうひと月歩き続けていた俺は頭にきていたのだろう。悟美に反発するのが止まらない。
「っ…そうかよ。悟美、てめぇはいつも紗夜が強い強いって言ってるが、ホントは可愛がるあまりに庇ってるだけだろうが!」
「シシシッ、幸助君は何も分かっていないわ。紗夜は特別なの。私と違って紗夜は貴方に言われる雑魚じゃないわ。貴方こそ、自分の異能を把握出来ていない未熟者だわ」
悟美は一向に怒りは見せず、俺に対して不敵に笑う。
悟美が嘘を吐かないのは知っているが、紗夜の実力を俺は疑っている。
紗夜を疑うようになったのは、この旅が始まってからではない。妖都にいる間、こいつが影の中にいる以外の能力を見せたことがない。
そこで俺は確信した。紗夜は影を操る異能で、暗殺者の格好をするのも、影からの奇襲が取り柄なんだろう。
分華から聞いた話をまとめ、俺は紗夜の強さを勝手に測った。
影からの攻撃を得意とする忍者のような奴だ。影さえ注意すれば大したことはない。
「どうせ冗談だろ?俺は來嘛羅に教えて貰ったからな。紗夜も教えて貰ってるんだろ?」
「紗夜のだけは誰も知らないわ。紗夜自身もね」
「なんだよそれ…」
悟美は紗夜の異能を知らないみたいだ。悟美だけは來嘛羅から教えて貰ったみたいだが、紗夜は誰にも明かされていないとのこと。
來嘛羅だったら知ってるだろうに。なんでだ?教える必要がなかったわけなのか?
俺の能力と比べたら強いかも知れねえが、要は実力次第だろう。
これ以上、俺達が喧嘩したところで無意味だと思い、俺は紗夜の件に触れないようにした。
「幸助、喧嘩はやめなさい」
雪姫に咎められる。
「それはそうだが、紗夜はずっと影にいるんだぜ?」
「彼女は私達が動けない時に動いてる。それも、私達よりもね。毎日見ているけど、とても人が出来る真似ではなかった」
「ん?俺達が動けない時ってなんだよ?」
紗夜が動いているところは見ていない。雪姫の言葉を疑った。
「だから、幸助が彼女に対して怒るのは少し違う。怒りを向けるのは、紗夜を理解してからでも遅くない」
雪姫が何か知っている風で、俺はその言葉が間違ってないと信じたい。
人を無闇に疑うのも疲れるしな。
「分かったよ。紗夜が頑張っているなら、もう言わねえよ」
俺は怒りを鎮め、旅の目的を意識して気を紛らわせた。
そして数日が経ち、やっと荒野を抜け出せた。
延々と同じ景色の中に、町らしき建物を見つけた。
景色は荒野で殺風景の中にポツリと置かれてたような町だった。
でも、亡夜とは雰囲気が違う。寒いのは兎も角、なんか町とは思えないような空気が漂う。
誰かに睨まれている気配を感じる。亡夜の妖怪にはなかった殺意ある空気だった。
漸く、寝泊まりがまともにできる場所に辿り着いたのだ。
俺は長旅の末に辿り着いた町の手前で腰を下ろした。どっと疲れが出てきて、歩く気がなくなる。
同時に、俺はやっと休めると思い、安堵した。
「はぁ〜疲れた!」
「暫くは休めるか、私が妖怪に聞いてみる。幸助達は、ゆっくり待って」
雪姫は早速、この町の住民に宿泊可能かを聞きに行った。
時間は夕方を過ぎている。泊まれなければ野宿は決定だな。
俺の肩に乗るすね子は唸っていた。
「どうしたすね子?町になんかあるのか?」
明らかに警戒している。しかも、この町に着いてからだ。今にも飛び付きそうな勢いだ。
「幸助君、この町面白い匂いがするわ」
「何言ってやがる。この町はただの町だろ?」
「シシシッ、まだ古都じゃないのに此処が町な筈がないわ」
「はぁ⁉︎それはどういうことだよ⁉︎」
「分からない?此処は村落なのよ。しかも、かなり面白いのが潜んでいるわ」
俺はもう一度町を睨む。
よく見ると、明らかに建物が統一された感じがなく、高い建物もない。おんぼろの家ばかりが並び、妖怪の服もボロボロだ。
俺は知っている妖怪がいるか確認するが、それらしき妖怪は誰一人いない。
本当に悟美の言う通りだ。此処は間違いなく村落だ。
つまり、この町は町じゃなく、危険地帯の村なんだ。
「マジかよ…。ちょっと雪姫を連れ戻して……」
俺は村に行った雪姫を連れ戻そうと腰を上げる。
タイミングよく、俺の目の前で吹雪が舞う。吹雪の中から雪姫が現れた。
「幸助、この町は村落だった」
「じゃ、じゃあ留まらず野宿するんだろ?」
雪姫は首を横に振る。
「その心配は要らない。3日間、この村落に滞在する許可を貰えたの。そして、村落に住む者が私達に危害を加えないと約束してくれた」
雪姫の手慣れた手続きをしてくれた。そして、俺達がゆっくり休めるように危害を加えないとも約束したらしい。
雪姫が言うなら大丈夫だと確信した。
「そっか。なら良かったぜ」
「でも油断は出来ない。この村落に私達を狙う人がいるみたい。住民じゃない別の存在が隠れ潜んでいる」
雪姫の眼差しが村に向けられている。やはり気にしている様子。
「じゃあ、なんで泊まるんだよ⁉︎泊まったら襲われるんじゃねえのか?」
雪姫が考え無しで宿泊を求めるわけがない。
危険な奴らがいるのなら離れた方がいい。
雪姫は自信ある笑みを浮かべる。
「大丈夫、私が幸助を守る。3日間、村落から離れずに休みなさい。そうすれば、問題なく済むから」
「…本当か?」
「うん、幸助と紗夜、すね子は大分消耗しているからきちんと休んで。悟美は少し手伝える?」
「問題ないわ。寧ろ、退屈凌ぎは臨むところだわ!」
雪姫が悟美に問題ないかを聞く。悟美は二つ返事で承諾する。あまりにもテンポ良過ぎて仲良いのかと疑いそうだ。
「そういうことだから、幸助は私と一緒にいて。他の皆んなも同じ宿屋を取ろうと思ったけど、残念ながら取れなかった」
雪姫は冷静にそう告げる。俺は疑問を聞く。
「おい、部屋は別々なのか?」
「うん、此処には宿屋という大した場所はない。代わりに桶屋があるみたい。でも、一組二人までが上限ね」
なんか嫌な名前が出てきたな。桶屋って、俺聞いたことねえよ。
ちょっと文句言いたいが、雪姫は危険を顧みずに交渉したんだ。この条件に頷くしかない。
俺達は指定された宿屋であろう桶屋に着いた。雪姫と俺が泊まる宿は思ったよりも小さく、二人にしては窮屈な宿だ。
「合ってるのか?」
「此処で間違いない……狭いね」
「大丈夫か?」
俺は期待しないで古そうな扉を開ける。
しかし、中を見た瞬間、俺は絶句した。
俺の想像をぶち壊す宿が目の前にあったのだ。
僅かな一畳の畳があり、その中にベットが一人分が敷かれている。玄関があるが、人が二人立つのが精一杯の空間しかない。
「…ごめんなさい」
何に謝ったのか、雪姫は薄目で俺に訴えるように見た。
「別にいいよ。休息取れるなら文句言わねえ」
「そう……良かった」
雪姫が手配したものに文句は言わない。困らせるからではなく、単に俺達を思っての行動だから文句言う権はねえ。
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