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妖界放浪記  作者: 善童のぶ
放浪前記
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80話 挨拶

久しぶりに閻魔大王と妹妖怪の登場。主人公が普通に会話している自体が可笑しいんですね。閻魔大王が威厳ないように見えてしまうかもしれませんが、実際は烏天狗や女天狗、雪姫は滅茶苦茶焦ってます。悪口など言えば即刻堕とされかねないと不安が募るのも無理はありません。簡単に地獄へ堕とす事はしないので、ある程度文句言っても許されるでしょうが。


ここで少し妖怪の名も出てきましたが、これは雪女の親戚かちょっと近い類いと思って貰っていいです。登場機会はあるか分かりませんが、何かのタイミングで登場をさせてみたいものです。最悪、『妖界放浪記・長編』で登場させるかも知れません。この件はまだ確定は出来ないので、未定という形にさせて下さい。

夜が明け、朝日が昇り始めた頃に俺達は妖都の城の門へ急いでいた。

「幸助急いで」

「分かってるよ!」

人を待たせるのは駄目だと雪姫が言い、少し走っている。

朝の5時に叩き起こされ、無理やりご飯を食わされ、学校にでも行くような勢いで宿屋を後にした。

忘れ物してないかも確認され、何度も荷物の中身を見られた。嫌だと言ってもチェックするものだから、俺は不要な物を持っていけなかった。




俺達が走ってると、忽然とひとりの妖怪が目の前に現れた。

藁で編んだ被り物をし、白い布で顔を隠している。気配からして、かなり不味い妖怪だと思われる。

俺と雪姫は武器を取り、一歩下がって警戒する。

「なんだあんた?俺達に何の用だ?」

妖怪と判ったのは、女らしき人の腰から尻尾が三本生えていた。狐のような尻尾で、とても純白な穢れのない神々しさを感じた。

親近感というか、俺が何か考えたような容姿に近い。

内心で俺は、あの容姿がかなり好めるものだと見惚れていた。

「流石だねお…放浪者さん。ん…のことを見て嬉しそうに警戒緩んじゃって。流石!」

「ん…」の時、指を自らの顔に向けるように誇張する。幼い声のようで優しい投げかけ。俺は警戒心を直ぐに解いた。

解いたよりも、この妖怪には向けたら駄目だと勝手に理解していた。

なんでか知らんけど、この妖怪に対する愛着が湧いて止まない。

「幸助…この妖怪、私に似たものを感じる。不思議な気配と妖力を持ってる。しかも化け狐と同じ狐の一種の血まで引いている。『雪女わたし』、化け狐、それらが混ざった異質な無名妖怪の筈なのに……この妖怪の気配は私を凌駕する」

一方雪姫は、この妖怪に警戒している。俺はそんな雪姫の肩を叩く。

「大丈夫だ。こいつは悪い妖怪じゃねえよ」

「……そう」

雪姫は俺の言う通りに警戒を解いた。


狐の子は俺に近付く。その際、僅かに震えている感じだった。

「聞いたよお…放浪者さん。しばらくどっか行っちゃうだって。ん…の知り合いが言ってたよ。これから危険なところ行っちゃうって…。どうしてなの?放浪者さん…」

まるで、俺の事を知っているような話し方。何処か懐かしさがある。

「…お前、俺の何を知ってるんだ?」

「ひととき…一瞬のあいだだけ。でも……一緒なら、よかった…」

何故か少女が涙を啜っている。目元を抑え、不用心にも程があるほど、俺達に隙を見せてくる。

「どうして幸助を知っている妖狐?あなたは初対面で幸助もそれは同じ。まるで、時間を共にしたように語る?」

疑問が尽きない雪姫。正直、俺も疑問に思うべきなんだろうが、この子は初対面とは思えないぐらい、何か縁を感じるんだ。

「そう…だったね。お姉ちゃんが思い出せない呪術を使ったから放浪者さんは……悔しいよ。せっかく見てくれる人がこうして目の前にいるのに…酷過ぎるよぉ……」

まるで義兄弟のような兄心みたいな感傷に胸が痛む。

何か話してあげたい。けど、この子をよく思い出せない。

だが、俺は何か思い出したように言葉が出た。

「ありがとな。俺を好んでくれるんだな、お前」


なんでかこの言葉が出た。

心に響いたように出た言葉に憶えはない。だって、この妖怪は今日が初めてだからだ。

記憶にないのになんで俺が、俺が好きなのだと言えたのかが意味不明。

「やっぱり…!お兄ちゃんは忘れていなかったんだよ!でも、もう行かなくちゃ…」

吹雪が少女を覆う。荒々しく、急いでいるようだった。

「待ちなさい。あなたの妖術、何故『雪女』に近い力が使える?」

雪姫は声を荒げずに制止を促す。

この世界に同じ妖怪は存在出来ない。雪姫が驚くのも分かる。

雪婆ユキンバ』や『雪娘ユキムスメ』なら直ぐに判るんだが、妖怪の妖力にも波長があるみたいで、雪姫なら一目ひとめしただけで判別が出来る。

しかし不思議なことに、雪姫と全く波長が一緒だと言う。

「待ってくれよ!せめて名前でも教えてくれよ‼︎」

俺も引き止めようとした。だがその時、俺に目を向けてくる少女の目が合った。

雪姫と同じシリウスの目だった。なのに、その目に宿るものは別物だった。

冷たさは感じず、生気が燈る暖かい目だった。

惹き込まれるような魅力に思わず手を伸ばしてしまう。とても近付ける距離じゃないのに、俺は無駄に手を伸ばした。

「ごめんねお兄ちゃん。これ以上同じ空気にいると離れたくない気持ちが抑えられなくなっちゃうの。ずっと傍に居たいのに此処に居ていいのはちょっとだけ。お姉ちゃんに引き戻されちゃってるの」

「誰にだよ⁉︎」

「察してお兄ちゃん。絶対…必ず駆け付けるから!しばらくは別れちゃうけど、また会いに行くよ!」

拒否ではなく、何故か俺を望む発言をする少女。

「待ってよ!本当にお前は——」

「じゃあね、お兄ちゃん……」

もの寂しそうに告げると、吹雪が激しく荒れる。雪姫が吹雪を支配しようとするが、支配し切る前に少女は消えた。


雪姫は静かに消えた少女について尋ねてきた。

「幸助、あの妖狐の少女に親近感をいた?」

何やら、雪姫は察しがいいみたいだ。

「感じたさ。あいつ、俺が大きく関わっている奴なのは間違いない。何処か罪悪感を感じたぐらいだ」

「そう……。行きましょ幸助」

「……あぁ」

俺と雪姫は何事もなかったようにその場を後にした。


心残りは間違いなくある。あの少女は俺とかなり深い関わりがある。

あの少女が一体誰で、どんな妖怪なのかは検討すら出来ねえ。だが、今は知っちゃいけない気がした。

あの妖怪から、俺に近い人間味を感じた。

我儘で感情的で、それでいて誰かに認めて欲しいという強い念を感じた。

まるで俺が望んだ妖怪みたいだった。

まあせめて願ってやりたい。少女が自由に生きてくれる事を……。




妖怪が多数集まっており、俺の門出を祝ってきたのだろう。と俺は勝手に思い、集まっている妖怪に笑顔で手を振った。

雪姫と一緒に来ていて、今確認できるのは悟美と紗夜、烏天狗達は既に待っていたが、來嘛羅だけは姿が見えない。

代わりに、俺に判決を下した閻魔大王が俺を待ち遠しく待っていた。

亡骸に憑代し、前回とは違う人間の肉体で待っていた。

姿に違和感はあったが声を聞いた途端、見覚えがある妖怪に間違いはないと確信した。

「早かったな?しかし、まもなく夜明けを迎えるぞ。貴様の罪状を確認し、ワシ自らが貴様の罪を見届けよう」

本当の姿ではないのに、この姿でも萎縮してしまう。




閻魔大王から直々に俺への今後が説明される。

「松下幸助。貴様に科された罪状は“放浪者”だ。だが、加護を与えた『九尾狐キュウビキツネ』であった來嘛羅からの計らいにより、“三妖魔”を捕縛すればその罪状を帳消しにしよう。通常では承諾しかねない案件だが、太古の妖怪として今日を生きる者の望みに応えたまでだ」

俺は怖いと思ったが、聞きたいことを聞いてみた。

「閻魔大王。あん…貴方はこの世界のことを知っているんだろ?その…來嘛羅には聞けなかったんだが、太古の妖怪や災禍様ってよく耳にするけど何か意味はあるのか?」

來嘛羅のことを災禍様と言われたり、太古の妖怪と言われたりと曖昧な時があった。何かの称号なのか?それとも、別の意味があるのかを知りたいと思って聞いた。

閻魔大王は俺の質問に答えてくれた。

「寵愛受けし人間がその程度の知識を知らぬとは⁉︎九尾狐は何をしておる。妖怪を知らせぬとは死地へ飛ばす気か?なんと惨めな人間だ。貴様の無知も大概だがな」

怖い妖怪らしかぬ心配をされ、俺はちょっと好感を持った。秋水に絡んだ人間を容赦なく判決を下すかと思えば、許しさえ乞えば助けてくれる慈悲が少なくともあったんだ。そんな悪者の妖怪ではないのは知っていたがな。

「そうは言わないでくれよ。來嘛羅は俺に気を遣っていただけのことなんだし」

「いや?ワシにはそうは思わぬがな」

「ちょっとは思えよ⁉︎」

「ムッ⁉︎貴様、このワシに歯向かうか⁉︎」

「歯向かうも何も、地獄を司るあんたに俺の気持ちが分かるか!」

「言うな人間。だが、臆さずにものを言うとは肝は据わっているのかも知れぬな?」

「ヘヘっ、それほどでも」

なんか喋りやすくなってきた。俺は閻魔大王と自然に会話しているのに驚いた。


だが、俺の横にいる雪姫や他の妖怪が得体の知れないものを見ているような青ざめた表情をしているのに気が付かなかった。


俺が平然と話している姿が、妖怪には異様に見えたんだろう。

「貴様が知りたい質問に答えよう。太古の妖怪と災禍様には隔絶とした地位が存在している。死地を得ぬ神なる者が太古の妖怪と呼ばれ、神なる者であるが死地を得た者は災禍様と呼称される」

どういうことだろうか?妖怪が死地を得る得ないでって?

「死後と関係あるとかか?」

「世に生まれし妖怪が一度も死という時を経験せず生きた者を太古の妖怪と称する。また、世に生まれ、神と崇められた妖怪がこの世界で死を一度でも経験をすれば、その者は太古の妖怪という呼称はなくなり、災禍様として恐れられる」

「ご丁寧にどうも。で?來嘛羅は自分で災禍わざわいと名乗ったと雪姫から聞いたんだが、それはどういうことだ?」

「屁理屈というものだろう。あの九尾狐は脅迫する時によく使うのをワシは知っている」

あんまり顔には出ないが、少し懐かしむ感じだった。

「しかし、些か時代に遅れてしまったものだな。ワシと九尾狐では知見があまりにも違う。羨ましくもあるが、時代とはつくづく思うところがある」

「おい?それは世間話か?」

「貴様の肝が据わっていると言ったが取り消そう。貴様はうつけ者だ。まるで、戦国の世に生まれた風雲児のような態度をとっておるぞ?ここが“妖怪裁判”の場なら裁いたであろう」

俺はちょっと嬉しかった。なんでも、閻魔大王は死後の人間を導く妖怪で、どんな人物とも会っているのは確実だからだ。

戦国時代の有名な武将で比べられるのは意外だった。

「それは嬉しいな。今、俺を織田信長と比べてくれたんだろ?閻魔大王なら知ってるんだろ?教えてくれよ?」

つい閻魔大王と話しているのを忘れている自分がいる。その度に、俺の周りにいる妖怪が叫びそうになっていた。


しかし、閻魔大王は頑なに個人情報は明かさない。


「個人の経歴関連の情報の開示は禁じられておる。貴様が欲しいと言った織田信長の経歴は明かすにはいかない。ワシは全てを知るが、如何なる者に教えてはならぬと決められている」

死後も安全に個人情報の管理がされているってわけか。まあ、この世界でそんなのが分かった時は、失望を露わにするだろうぜ。

歴史上の人物が、歴史とは異なる人物だと知った時の絶望は途轍もねえからな。

でも、閻魔大王のこの約束の裏を返せば、実在しない人物がいることが聞けるかも知れない。

「そうなのか…それじゃあ仕方がねえか」

「死者の情報は恐ろしいものだ。断じて開示していいものではない!貴様、ワシに企みなどすればその魂、即刻、地獄へ送ってくれるわ‼︎」

言語道断と閻魔大王は怒の相をする。威圧感があり、俺は百獣の王に吠えられたような気分になった。

閻魔大王とは仲良く出来そうもないのかもな……。

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