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妖界放浪記  作者: 善童のぶ
放浪前記
79/265

78話 正式な契り

安心させる為に予め言うのはかなり勇気いりますよね?自分だったら何か前もって言うのは怖いですから、どうしても終わった後に言うことが多いです。主人公の性格がよく出ているのではないでしょうか?理解しようとちゃんと向き合う姿というのも他者を理解しようとしている証拠。今後もこんな風に平和的にできればなと思いますが、残念ながらそれは無理ですね。


『妖界放浪記・長編』の件ですが、一話丸ごと投稿しないと駄目みたいでしたので、調整し次第、リンクを貼り付けて紹介します。

これを全て受け入れるのは構わないが、何か違うと思った。

「その約束…『契り』になるだろ?」

「そう言うつもりじゃ…」

「いいぜ?雪姫がそんな心配なら、『契り』を結んでやってもいいぜ」

「幸助⁉︎」

俺が『契り』の話をするのは予想外だったらしい。

だが逆に、雪姫がそれを認知していなかった反応だった。

來嘛羅曰く、『契り』は重い代償を払うと言っていた。雪姫は俺に無意識に『契り』をしたみたいだ。それは果たされたのか否か、今だに判別できない。

でも、なんでか『契り』を結んでも問題ないと思った。

「驚くなよな?あんたは一度、俺に『契り』をしただろ。まあ、覚えてはないみたいだがな?」

「…どうして?どうして私と『契り』をしたいの?」


心配の影が濃くなっている。不安がってるのは正直、俺は見たくはない。その暗い表情じゃなくて、もっと生き生きしている顔が見たい。


あの笑顔の雪姫を見たいんだ。ただ、あの笑みに癒されたい。


「俺は雪姫がこれ以上、厄介事で悲しくなって欲しくねえんだ。折角助けてくれた恩人のあんたに悲しい顔をされちまうと俺も嫌になっちまうんだ。ずっと冷たい表情よりも、偶に見せる笑顔の方が俺は好きだしな。他人事で苦しんで欲しくねえんだ。俺が言える立場じゃねえが、雪姫と俺は同じ幽霊だもんな!」

「幸助…あの時のことを…⁉︎」

「言っただろ?俺達は死んだ者同士。一緒に不謹慎にも笑った仲じゃねえか!妖怪と人間じゃなくても俺は良い。死人だってこうやって生きてるしな。俺は雪姫以外で旅を一緒にできる奴はいないと思ってるんだよ」

來嘛羅を除き、悟美や紗夜は俺の旅には不安でしかない。


だが、唯一、俺が心許せる人がいる。それは紛れもなく目の前の妖怪だ。


「なあ頼むよ!俺が本音で話せたのがあんたが初めてで良かったんだよ!だから、あんたが俺のことで不安になるぐらいなら『契り』をしてくれて構わねえ。枷になるぐらいなら、あんたが心配しなくていい奴になってやるからよ!」

俺の弱音、雪姫の過去、俺の本音が交わり、今の関係が築かれた。

人間と妖怪で腹の底を見せたと思っている。

そんな関係の俺達が仲違いする理由もないし、今後も維持していくのが最善策だ。

雪姫と來嘛羅には、俺のことで悩んで欲しくない。


雪姫は目を瞑り、長く思考する。決めかねている様子で、決心がつけられない可能性がある。


俺は追加で雪姫を絆そうと声を掛けようとした。

「無理なら別にいっ——」

「良い。幸助がそう言ってくれるなら、私と『契り』をしましょ」

杞憂に終わった。俺のことを信じてくれる目を向けてくれた。


雪姫が俺から離れ、その表情が妙に安心しているような笑みが見え、信じて貰えたんだと理解した。


俺と雪姫は『契り』を交わす。

「『契り』が重い代償になってしまうのは私も承知しかねない。だから、前もって決めておきましょ?」

「何を決めるんだ?」

「私が今言った約束を条件。幸助が今から私に言うのをその代償にして欲しい。私が勝手に決めちゃうと、どうしても危険な目に遭わせてしまうから…」

雪姫の言い分を条件に『契り』になって、俺の言い分がその代償となる。

「ちなみに、あんたはさっき言ったことを『契り』として約束でいいか?」

「大丈夫…。でも、ひとつだけ約束をしてもいい?」

「約束?もしかして…」

俺はなんとなく察した。雪姫が俺に約束と称して言うことを。

俺はちょっと雪姫が心配性なんだなと内心で笑った。

「私が『契り』をする上で約束して欲しい。この事は他言無用。もし、あなたが化け狐や他の者に中を言えば、その時は……」

「俺を殺すのか?」

雪姫は俺に言われ、なんとも言えない表情をした。自分の言いたいことを先に言われた悔しさと、俺を躊躇わずにそれを言ってしまおうとする自分が恐ろしいと思ったんだろうな。

「なあ?そんなに俺を信用できねえのか?」

雪姫は俺から目を背け、ゆっくり頷く。

昨日はあんな簡単に言ったのに、俺から持ち掛けるとこうなるのかよ…。

まあ、雪姫は本当は人を殺めるだなんてしなくはないっていうのが本心だからな。俺と同じ元人間で混妖。それを忘れがちになるが、決して忘れてはならない。


誰もが非情になれる時と捨てきれねえ時がある。でも、それを両質を備えてしまった妖怪がいる。その両方の性格を持つのが『雪女ユキオンナ』だ。

人間を躊躇いなく冷たい妖気で殺めるが、自身が好意を抱いた人間には慈悲をかける。それでいて、こんな雪の精霊のような美貌で男を狂わす。

こんな可哀想な妖怪を俺はよく知っている。

「じゃあよ、そんな心配で怖えなら、殺さない方法で『契り』しようぜ?」

「えっ⁉︎でも、私はあの女に『呪詛』でそれが…」

「雪姫が『雪女ユキオンナ』としての力をこの世界でも発揮させる呪いだろ?人間の寿命を奪う呪いなんだろ?だったらそんなの関係ねえよ」

俺は雪姫が人との関わりを拒むのを知った。だから、まずは身近な俺を頼って欲しい。

俺は人間だが、他の人間とは全く違う特性を持ってる。

「もしかして、幽霊だからって言うの?」

「ああ、その通りだが?雪女は確か人間の命を奪う妖怪。なら、俺は死人だから幽霊だろ?だったら、そんな『呪詛』に俺は影響を受けねえだろうよ。女にかけられた呪いが解けなくとも、俺に影響はないって証明できたんだし」

理屈はないし、そもそも、幽霊って言うのが可笑しな話。だが、雪姫を納得させ、俺を信じて貰えるならこんな事も平気で言える。

嘘かは分からねえし、根拠もないから容易に俺の気持ちが言える。

「ユフフフ。あなたのその気持ちが素直で嬉しい。死んだ人って、素直になるものなの?」

俺が真剣に言うものだから、雪姫が堪えきれずに笑った。

「不謹慎だぜ?ま、今は笑ってもしょうがねえよな。妖界に来てから俺は素直に生きてるぜ?最も、俺は好きな妖怪に嘘を吐くのが大っ嫌いだしな」

俺の気持ちを理解して貰うには妖怪以外にいない。この気持ちを曝け出してからは、俺が自分でいられる気がした。


生きてる時は何も感じなかったが、今は心の底から生きてると胸が躍る。


楽しいと言えばその一言に尽きる。


俺は望んだ世界に来れたことに、強い希望を抱いていた。

「雪姫に『契り』の代償として、俺を賭ける」

雪姫は俺の言葉に強い疑問を抱く。

「どういうこと?それは、幸助自身を代償…」

「まあ合ってるな。でも、軽い代償っていうのも癪だろ?俺があんたとの『契り』を破れば、俺はあんたに食われようが何されようが止める権利はない。殺すって言うならそれまでだが…雪姫は俺を殺さないんだろ?」

「……多分」

「はっきりしてくれよ。俺を殺すって選択肢入れるか入れないか、それをここで答えてくれ。雪女としての冷酷さで俺をるか?それとも、雪姫として俺を好きにするか?」

俺はこんな選択肢が阿呆だとは思っていなかった。咄嗟に俺が考え、これが必要だと言った。

女に言われた呪いを真に受け、その通りに不幸を目の当たりにした。聞いていて怒りが込み上げてきた。

けど、俺は同時に思った。その気持ちをどうして俺だけに明かしたのか?

人の命を奪い、人を愛そうとした妖怪の心理を試したい。そんな間抜けな考えで俺は聞いたんじゃない。

知りたいことは、『雪女ユキオンナ』として俺に明かしたのか?それとも、『雪姫あな』として俺に明かしたのか?

どちらで答えてくれるのか、俺はその答えを直接知りたい。

雪姫の答えを望み、俺は選択肢を差し出した。

雪姫が俺に強く言ったのは衝撃的だったが、俺は自分の弱さを晒せた。來嘛羅の前だったら虚勢を張ってでも大人ぶった姿を見せようとしただろう。心読まれているから無駄に終わるが…。

もし仮に、『雪女ユキオンナ』としての回答が口から出た場合、俺の命は単なる他人となる。


俺は本音を晒したんだ。今度は、俺に本音を晒してくれ。


「そっか……。幸助は、こんな私に臆さないのね?」

雪姫が微笑んだ。

俺の思い込みはまた杞憂に終わる。

「そうだよ。俺はあんたにビビらねえよ。別に今更、雪姫を拒むなんて無理なお願いだしな」

雪姫が悩んでいる様子がなく、余裕を感じさせる表情をしていた。

雪姫の目は俺をしっかり見てくれた。背けようとはせず、俺の質問に本心で答えてくれた。

「ありがとう。『雪女ユキオンナ』を恐れない幸助に死は与えたくない。それよりも、私は幸助の安全を守りたい。あなたが放浪の旅、“三妖魔”の引き戻しを成し遂げるまで、『契り』を守って欲しい。だからお願い、幸助は死なないで」

「ああ…あんたの約束、守ってやる。だが、これだけは言わせてくれ」

俺は雪姫に無理を言う。

「俺は約束を破る時は破らせて貰う。雪姫が危険に巻き込まれるか、俺が妖術を使わざる得ないその時、俺は『契り』を破ってでも使う。俺の安全よりも大事なもんってあるからな」

緊急事態、それも危機的状況になった時に冷静さを失う。それなら、俺は『契り』に構わず妖術を使う。

命の危機にさらされても、俺は雪姫を助けようとする。また、自分も助かりたいから容赦なく力を使おうとする。

來嘛羅には使うなとは言われていない。雪姫との『契り』だから、最悪、俺が破る可能性だってあり得る。いいや、限りなく破ると思う。

妖怪に嘘は吐きたくない。前もって、俺は約束を守りきれないことも伝えた。

「……その時、その時にあなたが約束を破るのなら、私が止めても無駄ね…」

呆れてはいたが、雪姫には理解して貰えた。

了承は得られたみたいだし、ちゃんと『契り』で雪姫と約束をするだけだな。

「良かった。これで『契り』ってことでいいんだな?」

「うん…私は幸助の言ったことを信じる。でも、どうして『契り』を?」

「まあ、ちょっとな。興味あってやってみただけだ。勘違いはするなよ?俺が簡単に他人とこういうことはしねえからな?雪姫だからやりたかったんだよ」

「そう……なら良かった」

胸を撫で下ろし、雪姫が静かに頷く。

これで終わったみたいだ。正直、『契り』で変化があるかと思ったが、俺の予想を上回らなかったと落胆した。

光ったり、何か縛られるものでもあるかと淡い期待などしたが、特に違和感が感じられなかった。

『契り』が俺と雪姫にどんな影響を与えるのかは、俺には知る由もないが。

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