表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖界放浪記  作者: 善童のぶ
放浪前記
77/265

76話 不幸なすね子

かなり可哀想ですが、すね子はこういう感じで今後も嫌な目に遭いそうです。

いよいよこのやり取りも終わります。2章が思ったよりも分量が多いので、どうしても30話近くは使ってしまいます。長編でまとめれば大分減るかと思いますが、追加で書くことが多いかと思います。

幸助と雪姫が神器を選び終わった。その時、残された悟美と紗夜、すね子は今だに宝物庫のところで漁っていた。

「ねえ紗夜。この剣とかって良いんじゃない?」

「だ、駄目ですって‼︎それ、神具だよ悟美ちゃん!」

「えへへ〜良いじゃん!私が使えるなら構わないし」

悟美の無茶振りに付き合わされ、幸助達が去ってからは紗夜が保護者のように宥めていた。悟美は自由気ままに宝物庫を走り回り、目星の付いた武器に触れては試している。


すね子は猫のように寝ながら眺めていた。

「にゃあ…」

退屈といえば退屈である。雪姫との約束により、人前で人語を話すのを禁じられてしまった。

(つまらない……。これだったら、あんな約束しなければ良かったよー)

動物妖怪は喋るのだが、自分は喋れないという設定でいなきゃならない。伝承もそうだが、『すねこすり』が話すなど殆ど記載されていない。

喋る動物はこの世界では別に不思議ではない。だが、喋るという伝承がない妖怪が喋るとなると、少しばかり恐怖を感じるというもの。

そんな退屈と考えている間、悟美達を眺めていた。

(アノ子達は凄そう。雪女よりも恐ろしい気配を感じるよ。面白いけど、ボクは嫌いだね。だって、あんなのに目を付けられたら死ぬ気しか思えないんだもん)

悟美に対する評価は危険。尚、紗夜からはそれ以上の危険な匂いを感じ取っていた。


動物は鼻がいい。それがかえって、二人から感じる危険な匂いを嗅ぎ付けたのだ。


(はぁ……。つれないよこれじゃあ。ボクの共旅は死を覚悟しなきゃじゃん)

どうしてこんな怖い二人が付いてくるのだろうかと、ただ後悔する。

と思った矢先、悟美がすね子に興味を持ち始めた。目が合い、すね子は背筋が凍る思いをした。

「この子猫、随分と理性的な感じがするわ。妖怪かしら?」

「にゃー‼︎」

一瞬で抱きしめられ、逃げ道を失うすね子。

「コウスケ君の飼い猫…でしょうか?」

「えへへ!じゃあ、少し可愛がってあげても良いわね!」

悟美はそう言うと、すね子の毛をペロっと猫のように舐めた。すね子は逃げようと腕から抜けようと頑張る。

可愛い反応だと捉え、悟美はすね子をくすぐり始めた。

「ヒグッ⁉︎」という間抜けな声を聞き、悟美は舐めるのを止めた。

「……シシシッ!やっぱり妖怪だわ!幸助君、良い拾い物してきてくれたのね⁉︎」

「にゃぁ……」

悟美は察した。この猫が、猫を被った妖怪なのだと。それがはっきりとバレてしまい、泣きたくなるすね子。


「ねえ妖怪猫、人の言葉を理解しているわよね?そしたら喋って欲しいな〜?大丈夫、私がちゃんと聞いてあげるから。どんな妖怪?ねえ、喋ってよ〜?」

紅い目に萎縮し、すね子は言葉が出ない。否、出さないように必死に恐怖を抑えているのだ。

(絶対に言っちゃ駄目だ!ボクはこの子に殺される‼︎目が笑ってないし、棍棒みたいなのがチラッと見えたんだけど⁉︎)

すね子の絶望する顔を見て、悟美は頬を紅潮させる。

「何考えているか分からないけど、もしかして有名な妖怪なのかしら?そしたら…シシシッ!烏天狗より強い妖怪かな?」

すね子に対し質問するが、すね子は内心で拗ねた。

(ボクはそんな有名じゃない…。烏天狗の方が知名度高いし、ボクなんかペット枠だよ!)

悟美に問われて嫌な気持ちを抑えられない。思わず、表情でそれを出してしまう。

その瞬間、悟美が不敵に笑ったのが見えた。笑みは天使のようなのに狂気に見え、すね子は死神だと錯覚した。

耐えられなくなり、気を失ってしまった。


「あーあ〜気絶しちゃった。まあ良いわ。そろそろ退屈凌ぎも終わりそうだし」

「それって…?」

悟美は気を失ったままのすね子を抱き、宝物庫の奥から来る幸助達を待つ。

足音は近付くにつれ、悟美は美人に似合う笑みをするが、紗夜は足音を聴く度に体を震わせる。紗夜は幸助に対して拒絶するような態度を取る。

「紗夜は、幸助君が苦手だっけ?」

「は、はい…」

「あまり嫌と思うと辛いわよ?」

「う、うん…でも!あの人は妖怪に好かれている。だから、怖いの…」

「好きか嫌いかって言ったら私も彼は嫌いかな?だけどね、向こうの世界では『雪女ユキオンナ』って有名なんでしょ?」

「そうです。でも……あの妖怪がコウスケ君を執拗に庇う姿が怖くて…。心から視えた血も凍る冷酷さが全くない。いいえ違う!コウスケ君に指一本触れでもしたら化けの皮が剥がれてしまいます。小泉八雲こいずみやぐもが書いていた『雪女』のとおり、若い男だけを食べようと……ああ…‼︎」

紗夜は涙を流し、しゃがみ込んで言葉にならない声で叫ぶ。伝承を語る内に怖くなったのか、強い恐怖に襲われたようだ。

紗夜は錯乱しているようだが、悟美はそれを冷静に見ていた。

「泣いちゃったわね〜?まあ仕方がないっか!紗夜は心読めちゃうから。私は感情には敏感だけど、紗夜は心だもんね〜?」

紗夜が怯えるものは限られている。

悟美の狂気や雪姫の冷徹さ、烏天狗と女天狗の凶暴さ。これらを見てきたが、紗夜はこれに恐怖はしない。

精神面は紗夜の方が幼く見え、何事にも怯える様子を見せるが、萎縮しているように見えているのは擬態なのである。

喋り方は人見知りのように声が上がったり下がったりと上下が激しく、不安定な話し方をする。直接、人と話すのが昔から苦手であり、誰に対しても話し方は変わらない。

だが、思念で來嘛羅と話した際は、まるで別人と思わせるほど流暢に喋る。

紗夜は対面では奥手だが、心同士で話せば人並みには話せる。だが、この事を知っているのは來嘛羅のみ。




悟美達が話し込んでいるようで、俺は声を掛けようとしたが、すね子の意識が飛んでいた。

「待たせたな。……おい悟美?すね子に何しやがった⁉︎」

俺は悟美に駆け寄り、すね子を取り返す。

「えへへ、妖怪がずっと見ていたから可愛がってあげてたの!お陰で安らかに眠ってるわ」

悪びれない答えが返ってきて、俺はキレそうになる。

「絞めあげたんじゃねえだろうな⁉︎」

「大丈夫よ。この子は理性的だから怯えて寝込んじゃっただけ。私が手を下したわけじゃないわ」

「ホントだろうな?てめぇの狂気じみた遊びですね子に手を出したんじゃねえんだな?」

美女の顔してマジでうぜえと思う。

こんな白髪の女に、好きな妖怪が虐められたと思うと……腹立つ。


「これこれ、気を立ててどうする?お主が短気なのは妾には好感が持てぬぞ?」


たった一言に、俺の殺意らしきものが消えた。


不思議なものだ。この言葉を聞くと、自然と忘れたように気分が落ち着く。

「來嘛羅…」

「勝手に怒るのは良いが、少しは仲間意識とやらを持ち合わせぬとならぬぞ?怒りで我を忘れれば思う壺じゃ。悟美も、其方は少々揶揄うのもよさぬか?」

「あ〜バレちゃった。幸助君の反応を探りたかっただけ。ちゃんと面白い人で良かったって認識しただけ」

來嘛羅にはお見通しってわけだな。

俺の短気も悟美の遊びも、來嘛羅には見えていたんだと思うと、俺が幼稚に思えてならない。

気持ちを変える。

「俺はついカッとなった。すね子が無事ならもう良い」

俺はすね子を撫で、安否を確認してホッとする。

どうやら、本当にすね子は気を失ってるだけだ。

安堵する俺の横で、雪姫がすね子を睨んでいた。

「うおっ⁉︎…て、なんで睨んでんだよ?」

「幸助…この子は私が持ってあげる」

「いや…俺が持つから別に——」

「私が持つ。渡しなさい」

「はい…」

俺は雪姫に脅されたようにすね子を渡す。

その時、雪姫が抱いたすね子に冷たく微笑んだのが見えた。

嫌な予感がする……。

「にぎゃあああーーーっっ‼︎」

その直後、どうやったのかは知らねえが、すね子の飛び跳ねるような鳴き声が聞こえた。

人の声に近く、少年のような悲鳴が聞こえた。俺の耳にゴミが入ってるのか?そう疑いたくなる鳴き声だった。

「おい……何したんだよ?」

「別に。ただ、この子の意識を覚醒させるツボ(・・)を押しただけ」

「ちなみに、ソレは教えてくれるのか?」

「それは出来ない。私しか知らないから」

「…たく、そういうことで思わせて貰うぜ?」

すね子が起きたことで、來嘛羅が宝物庫から元の住処の空間へと戻る手筈を済ませていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ