75話 選ばれた神器
少し長めです。7000字近くありますので、読み疲れないようにお願いします。
このストーリーで多少省いてしまっている部分ですが、今後の長編でかなり追加して投稿します。ですが、辻褄が合うように投稿しないとならないので、1週間毎の投稿になる可能性があります。
幸助と來嘛羅が絡んでいる間、雪姫は遠目で冷たく睨んでいた。
「また幸助を誑かして……化け狐は幸助に色目を使って…」
雪姫の視線を感じた來嘛羅は幸助に見えないように妖艶に笑う。最初から來嘛羅は視線に気付き、雪姫に見せていた。
それを感じ取った雪姫は更に気持ちが昂る。表情に出ず、僅かに漏れる冷気が雪姫の心情を表す。
「化け狐…!やっぱり幸助は私がなんとかしないと。でも、本当にあの時の女と似た気配を化け狐から感じる。まさか……」
静かに女の正体を察する。しかし、腑に落ちない点があり、雪姫は考えるのを止める。
(気のせい…ね。だって、『九尾狐』は私のような冷たい女に興味を示さない。たとえ、『玉藻前』が私に会ったというのなら、どうして私に呪いを与えるのか?男にしか興味を抱かず、国…それも世界を狂わすのが生き甲斐の種族がだかが私に拘った…)
雪姫の知識は並の妖怪よりは優れており、伝承に記されている妖怪の特徴は把握している。
しかし、それは雪姫という一人の妖怪の認識に過ぎない。
一見、正しいと思っている知識が、もしも間違っているとすれば、雪姫は妖界に生きるありのままの妖怪を知らない。
雪姫が間違いを正しく認識するのは容易ではない。一度認識してしまえば、それを否定する材料を探さなくてはならない。しかし、その作業はあまりにも時間を要してしまう。
雪姫は妖怪の特徴を間違った認識を抱いている。
來嘛羅はそれを見抜き、雪姫に見せびらかすように、雪姫の間違った認識に訴える。
(雪姫には伝わらぬか。さて、困ったことになった。直接言えばああだし、妾の言葉に耳を傾けようとはせぬ。ただ嫉妬するばかりで妾への誤解すら解けぬとは…。幸助殿はこの旅で苦労するやもしれぬな)
察せない雪姫に、來嘛羅は溜息を吐きたくなる。行動の仕方に問題はあるものの、そこに疾しさはない。ただ純粋に幸助を本意を混じえ欺き、幸助の為を思って行動する。
(神器を授けようと思うが、恐らく、雪姫は【指輪】を選ぶじゃろう。違うの…彼奴はそれを最初から手にする。決められた未来とは最悪じゃな)
止められるなら止める。若しくは、起きる前に対処する。だが、來嘛羅にはそれをする権利がない。
定められた未来に干渉出来ない。來嘛羅は自分を呪いたくなった。
俺は來嘛羅に選ばされていた。
「さて幸助殿よ。此処の神器から好きなものを選ぶがよい。遠慮はするでないぞ?お主が最も欲する物に触れるのじゃ。触れ、形を与え、お主の異能を使って名を与えておくれ」
「良いのか?コレ、仮にも神器だろ?俺がそんなもんに勝手に名を与えても良いのかよ⁉︎」
俺は念を押して聞いた。來嘛羅がこの神器を簡単に献上すると言うのだから、逆に怖い。
名前がない武器に名前を吹き込む。それは簡単だが、名前は一度付けたら消えないというのが俺のデメリットらしい。
安易に呼ぶと、かえって後悔することになる。難しいぜ……。
「構わぬと言っておろう。妾が安置する全ての神器に名は存在せぬ。これらが全て原点の武器だと言ったじゃろ?他の神具とは違う力が宿る。名を吹き込めばそれはお主の物じゃ」
と言うものだから、俺はもう選んでいるのに手を出せないでいる。現に、欲しい神具の目の前に立っている。
手を伸ばせば貰える。たったこれだけで俺は良いのだと。
だが、來嘛羅が特に企みがないものだから、怖いと言ったら溜まったもんじゃない。こんな気前の良過ぎる妖怪を俺は知らない。
「どうしたのじゃ?深く考えなくとも良いぞ?お主が欲する物が目の前にあるのじゃ。考えなくとも、神器は答えてくれよう」
聞いた台詞だな。なら、俺が欲しいのは………。
俺は一番欲しかった武器に向かって差し伸ばし、結界に触れる。
不干渉の結界が張られているが、それは脆くも解かれた。來嘛羅はそれを見て笑う。
「ほう?それを手に取るか?」
俺が手に取ったのは、俺が一番欲しかった武器だ。一度きりしか使えず、それどころか、無名に笑われてしまった代物。
馴染み深い物ではないし、別にこれに固執する理由もあるわけでもない。
ただただ、俺がこの武器じゃねえと笑われたまま終わる気がする。
それは嫌だ。笑われたならそれを見返してやりたい。
そんな一心で掴み、俺はその武器の詳細を知る。
取り出した武器は俺の刀剣と同じ長さで、発光する光が解けた事により、はっきりと色と形が見える。
筒状のパイプ部分は光沢を帯びる黒。無駄な装飾がなく、持ち手や台カブは黒褐色の木質で統一されている。これだけでも使い物にするには勿体無いほどのかっこよさと重厚感がある。
そして、この武器に触れて直ぐに分かったのだが、引き金がない。
そうなのだ。俺が手にしたのは銃だ。しかも、戦国時代に使うような火縄銃を原型にした銃を俺は手にした。
俺が触れた途端、俺好みの形に変化し、俺が扱い易い銃として神器は形を得た。
「これで俺が名前を付ければ。そうだな……この銃の名はどうしよっか?」
俺の能力で名前を付けるだけ。
そういえば、俺はある重大な事に気付いてしまった。
この刀剣にも名前がない事に。
この際だ。俺が二つの武器に名前を付ければいいんだ。
まずは、銃から付けることにする。
「よし!まずはこの銃に付けるのは、うーんそうだな……【漸銃】にしよう‼︎」
「なるほど。その武器に込めた意味はなんじゃ?」
「來嘛羅が話しただろ?必ず“三妖魔”を連れて来れるって。だから、それにちなんで【漸銃】は必ず良い未来へ一直線に撃てる銃って意味を込めたんだ。俺が撃つ弾には俺の想いをぶつける…なんてな。ちょっとそういう意味にできれば良かったんだが、俺はそこまで名を考える知識はねえんだ。これが精一杯の名前だ」
俺が語呂合わせで言ったのなら間違ってるぜ?ちゃんと意味は考えているし、意味なく名前を考える気もなかった。
來嘛羅の言葉に影響されたのもあるが、俺なりに考えた。
特に武器には変化はないが、俺の所有物となった証が刻まれた。
その時、俺の体が強い疲労に襲われた。
「っ⁉︎ぐっ…足が」
俺は片膝ついて疲労に耐える。
「無理はせぬ方が良い。“ある禁忌”とは違い、お主は自らの生気をその神器に封じた。名を変えるとは違い、名を与えるというのはものに命を吹き込むのと同義。名がないものに付けるのならば、今後、気を付けるのじゃな」
それを早く言って欲しかった!お陰で俺は体力がなくなってるんだが。
でも、疲労程度なら、この刀剣にも名前を付けよう。
込めるものを込めて……。
俺は強く念じ、刀剣を鞘から抜く。
「この刀剣に付ける名は……【絶無】が良いな!」
俺の声に応じるように、刀身が青から青金剛へと色が様変わりした。
刀身が俺が見た色でも一番綺麗だった。俺が刀剣の下からかざすと、俺の手がはっきりと見える。色は兎も角、この純度は最高級の逸品だと素人の目からしても断言できる。
なんで名前付けたらこんな変わったんだろうな?こんなに俺が欲する武器は他にない。
俺が最高潮の気分にいる時、來嘛羅が俺の刀剣を見てひどく驚いていた。
「その武器は⁉︎お主、無名とやらに頂いた武器なのじゃろ?な、何故じゃ?この場に置かれておらぬ神器をお主が⁉︎」
あり得ないとばかりに俺の刀剣を見る。焦っているところを見るのが初めてで、俺は刀剣の凄さよりも來嘛羅の隠しきれない表情に目がいってしまう。
金瞳の瞳は明らかに揺れ動いていた。
來嘛羅の動揺は、幸助の想像するよりもかなりのものだった。
棒で殴られた衝撃よりも、目の前で悲惨なものを見たよりもその動揺は大きかった。
(刀剣は妾は預かっておらぬ。なのに、何故幸助殿の手に渡っておったのじゃ⁉︎分からぬ…じゃが、『無名』とやらは反する妖怪やも知れぬ。妾の目に狂いがなければ、その妖怪は測れる者ではない)
來嘛羅は全てを知るわけではない。幸助の前で博識を持つ妖怪として振る舞っているが、それは単なる幸助の望む形でしかない。
知らぬことも存在する。來嘛羅の知識の中に、『無名』という妖怪はいない。というか、伝承や歴史にすらも記されていない。口裏合わせて振る舞っているのである。
名のない妖怪とは、一見すると弱者として扱われるが、妖界ではごく稀に、太古の妖怪に匹敵しうる妖怪が生まれてくるのも少なくはない。
現に今、來嘛羅が動揺を見せたのがその証拠である。
『無名』という名は、この世界で幸助によって初めて認知されたという事実。これは、來嘛羅にとってはどうでも良かった。そう、切り捨てられる案件だと考えていた。
しかし、名のない妖怪が神器を所有していたという事実があると話は変わる。
妖怪ですら扱えない秘蔵の原点となる武器。それを容易く幸助に渡していたという事実。
「お主よ。無名とやらに何かされたかの?」
事実を確認したい。來嘛羅はそう思い、幸助に問う。
「俺か?俺は…武器を選ばされて、天国か地獄、妖界を選択肢から決めさせられて、それから…あいつから加護を受けたぜ?」
「そうか…つまらぬ質問をしてしまった。では、お主は無名の告白を断ったのじゃな?」
「間違いねえよ。でも、また会えるんだったら会いてえな」
「フッフッフ、幸助殿であればいずれは巡り合う機会はあるじゃろう。もしやとすると、この旅で出会うかも知れぬぞ?」
「そうか⁉︎そしたら、あいつと会った時は救ってくれた恩人ってことで、雪姫にもあんたにも紹介したいな!」
「それは酔狂じゃが悪くないの。楽しみにしておる」
幸助から嘘がない。來嘛羅は隅々まで幸助の持つもの全てを探った。
幸助の知らぬ異能すらも把握し、その事を自ら心の中にしまう。
だから分かるのだ。
幸助の純粋さが引き起こしてしまった恐ろしい“変化”に。
(これは双子にも念入りに探ってみぬと分からぬな。彼奴らも加護を与えられておる筈じゃった。じゃが、そんな加護は見えなかった。幸助殿だけが継続を許したか、それとも、無名とやらが気紛れに絞ったか…。だとすれば、無名の加護はここで排除するのが吉なのじゃろ。どれ、妾の力で破壊して……)
三人からの加護を受けた幸助の加護を一部排除する。來嘛羅にとって、加護を破棄させるのは容易であり、名のない妖怪ならば条件を無視して排除できる。雪姫の加護は残し、無名のみの加護を排除する。
手で背中を触り、数十秒かけて排除に力を入れる。幸助はそんなこと知らず、嬉しそうにする。
「うおっ⁉︎來嘛羅、少し擽ってえよ!」
「我慢せい。しかし、お主はしっかり食べてるかの?交流会とやらは上手く行った筈じゃろうて。のう?あまり筋肉とかがないみたいじゃが」
「あるよ流石に。てか、悟美や双子の奴らが食い過ぎなんだよ!俺は食べてるがあいつらほどじゃねえんだ。悟美ぐらい、大食らいだったら來嘛羅は好きか?」
「妾の好みは大食漢が良いかの〜。残さずに頂いてくれるのじゃったら妾はお主を更に好くじゃろう」
という会話をする間に破棄を完了……。
……には、ならなかった。
(嘘じゃろ⁉︎)
破棄を弾かれてしまった。強い拒絶が來嘛羅を拒み、手に強い痛みが襲う。
思わぬ痛みで手が麻痺し、幸助に気付かれないように裾で隠す。
(あり得ぬ。妾の破棄を拒絶しおった。そうか…⁉︎この妖怪、余程幸助殿を好んでおるのじゃな?)
だが焦りも一瞬。來嘛羅はこの事態を面白く思う。
無名の加護の恐ろしさとその執着心を褒めたのだった。
(フッフッフ、やはり妾の手元に置くべきじゃな。じゃが、生憎、妾の手元からは数年は離れてしまうのは確定しておる。幸助殿は人間には非情になれるが妖怪となれば話は違ってくる。異能を使って名を与え、力を与えてしまうじゃろう。じゃが、それが妾の目的なのも否めぬ。それもまた良いが、幸助殿の成す事に口を出していては本来持つ異能に気付いてしまう。珍種なる異能が故、死を迎えるまでに気付いて貰っては妾が困る。悟美は失敗した故、下手な真似はできぬ)
無名から始まり、雪姫、來嘛羅と三つの加護を受けた人間はそうはいない。
だが、三つの加護を受けた人間の変化は、來嘛羅でも予測は不可能。ただでさえ己の加護で十分だというのに、他の加護を受ければ何かしら不具合が生じる。
仮に、加護を与えた妖怪が、人間に向けてはならない感情を向けてしまえば、加護の善悪に変化が起きる。善なる感情なら恩恵で済むが、悪なる感情なら異能を豹変させてしまう。
異能が変化すれば、來嘛羅自身が危険に晒される可能性があるのだ。
自ら危険な行動に乗った理由、それは、來嘛羅自身の都合でもあった。
(なら、妾はお主の行く末をこの目で見守るとしよう。妾が目を付けた者を手離しはせぬのが妾が定めた掟。二人と同じ運命となるか、若しくは、妾の奇想天外をも超える未来を視せてくれるのか。妖怪をこよなく愛するお主なら、妾に至極を与えてくれるじゃろう)
來嘛羅の破棄で排除できないのならば、その腹は覚悟を決める。
幸助には秘匿し、永遠に気付いて貰わないように自身が動く事にする。
気長に待ち、“変化”を嗜む。急な変化よりも幾分か面白いと、來嘛羅は幸助に取り繕う。
「さて、幸助殿に褒美を取らすと言ったのを覚えておるかの?」
「えっ⁉︎これが褒美じゃねえのか?」
「戯け。それは単なる感謝にしか過ぎぬ。神器を一点、妾が与えたのは妖都を救った勲章の証じゃ。妾が真に褒美を取らすのは別物じゃよ」
そう言って來嘛羅は幸助の顎を尻尾で撫でる。顔を近付け、妖艶な色気を見せつける。
「ま⁉︎ま、待てくれよ!」
思わず赤面して動揺の顔を見せる幸助。
「ンフフフ。今からされる事でも想像したかの〜?妾が好こうと思っておるのは理解しておろう?それなのに、妾は幸助殿に危険な頼み事をしてしまった。無事に生きてくれた感謝として、お主の褒美に応じなければならぬ」
頬を紅潮させ、ありつけると言わんばかりに妖艶な笑みで幸助を凝視める。もう食べられてしまうのかという興奮を掻き立てる。
幸助からすれば、これはキスだと間違いなく思う。
だが、來嘛羅は幸助の性格を把握している。これが幸助が望む褒美だというのも熟知している。
笑い、來嘛羅は尻尾を解く。
「ああ…!」
「これこれ、お主にはこれが褒美じゃろ?目上の女に尻尾で顎を掴まれ、焦らされるのがお主の望む欲じゃ。随分と己の心を抉るのが好きみたいじゃの〜?」
來嘛羅は無自覚の欲望も見る。
褒美。つまり幸助が望んだのは、純粋な恋愛ではなく、お預けという少々歪んだものだった。
幸助は恋愛などしてこなかった。それを拗らせてしまったばかりに、20歳に至らぬ間に特殊性癖を持ってしまった。
それが妖界に来てから、遺憾なく発揮された。
幸助の周りには、自分よりも歳下の人間や妖怪がいない。それがかえって、幸助の心を燻った。
來嘛羅は自身に興味ある頃から幸助の隠れた性格を知り、それに合わせて振る舞っている。
「心配するでない。旅が終われば今度は本物を味わせてやろう。それまではお預けとなるが、良いかの?」
企むように微笑む。狐という狡賢さが幸助には堪らない。
「っ……マジかよ」
幸助の口元が情けなく緩んでいる。満更でもない様子で、望む褒美を堪能したのだった。
(これぐらいで良いかの。さて、これでちとは色気に惑わされずに旅をしてくれるじゃろう。妲己や玉藻前はそういう傾向があるからの。幸助殿には妾だけに満足を抱けば欲情はせぬだろう。確か幸助殿が望むのは、歳を重ねた女の妖怪に弄ばれるのが趣味と、なんとまあー変わった性癖を燻るのも悪くはないのじゃが…。もう少し、まともな恋沙汰に夢中になれなかったものかの?)
悪く思ってはいないが、これほど欲望がこの世界でしか発散できない幸助を少し不便だと思う來嘛羅。
男女を手篭めにするのは容易だが、幸助という人間は珍しい性癖を持っていた。
その分、扱い易いというのは言うまでもない。
だが、これをよく思わない者がいた。
「幸助!そんなはしたない色気に惑わされたら駄目」
「雪姫⁉︎てか、あんたずっと見てたのかよ⁉︎」
「あんな見て貰いたいという雰囲気を出しているから。化け狐の色気はあなたを欺くための手段に過ぎない。幸助は知ってて惑わされている」
強い敵意を今だに解かない雪姫は、幸助を正すために口を出す。
想う気持ちをはっきり伝え、幸助の良心の一部となっている。來嘛羅は気付き、雪姫の咎めにあまり干渉はしないようにしている。
そして、既に未来で見た通りの光景を目の当たりにする。
雪姫の右手の中指には、神器である【指輪】が嵌められている。
「ほう?妖怪の身である其方が【指輪】をはめておるとはの。余程、その神器に見惚れたか?」
指輪は小さく輝き、水晶のような輝きをする。雪姫がはめた時から指輪の輪郭が鮮明になり、雪結晶のような形となっている。
妖怪が神器を装備しても特に影響はない。だが、それを扱うには神器に魅入られなければならない。
「じゃが、妖怪の身では使えぬぞ?」
來嘛羅は念を押す。だが、雪姫はそれを別に思わない振る舞いをする。
「私は良い。これは幸助に渡す物として頂いただけ」
「おい…俺はそんな指輪欲しくねえよ。てか、なんで指輪にしたんだよ?」
「……そう。ただ、これが綺麗だから、あなたにあげたかっただけ」
哀しげに指輪をとった理由を言う。
「結婚は早えよ。貰えるのならいいが、俺はこの二つで十分だぜ?」
雪姫が自分本位で指輪を選んだわけではない。幸助の為と想い、ただ指輪を選んだ。
神器と分かって渡す精神が異常だと、來嘛羅は雪姫の行動をよく思わない。
「其方が幸助殿を思うのは分かっておるぞ?じゃが、ただでさえ神器はその性質上不明な点が多く、持て余しても意味がない。指輪はくれてやるが、それを容易に他者に渡すではないぞ?」
「化け狐に言われたくはない。私は幸助だけにしか渡さない。心配する必要はない」
雪姫の一途とも思える気持ちはぶれない。
妖界に存在する武器は、基本的に四つ存在する。
亜妖・妖武・心具・神具という妖怪と人間が知る武器が存在する。しかし、これらは全てに名があり、伝承に基づく力を行使する。大抵の者は、これらの武器に該当する武器を所有し、個々が力を発揮する。
そんな武器よりも未知な武器が存在すると知るのは、この場にいる幸助達と数人の太古の妖怪のみ。
神器には名が存在せず、知らない武器が多い為、扱える者は少ない。
同時に、厄介な性質を兼ね揃えており、人間や妖怪は神器に選ばれる。
來嘛羅が知る神器に選ばれた存在は、幸助を除き、誰も知らない。




