73話 聖域と妖刀
雪姫の持つ刀の名前が明かされました。
これは少し意味合いも込めて言葉を探してみましたが、調べたら意味は出てきます。今後もこのような形で意味を持たせた武器や実際に存在する武器も出てきます。
投稿時間が遅いのは、卒論でやることが多いからです。今後も投稿時間が早いか極端に遅くなるかと思います。投稿する時間は気まぐれなので……
俺は20歳を迎えた。
明朝早く、俺は來嘛羅に招かれた。
俺だけではなく、雪姫やすね子、悟美、紗夜もだった。
どうやら、俺以外に呼ばれた四人が俺と共にする者として選出されたようだ。
「明朝早く申し訳ない。今日の儀式は其方らの旅に必要な過程じゃ。妾の加護を受け、その身は邪気に侵されることは少なかろうが、念には念を込めておくとする。それも交え、今後の其方らに新たな力を与えよう」
來嘛羅がそう言い指を鳴らすと、一瞬で場所が変わった。
來嘛羅の空間とは違った別の空間に飛ばされたようで、非常に大きな空間だ。
俺や悟美は圧巻な宝物庫に心が奪われた。雪姫は唖然とし、紗夜は何故か震えて悟美にしがみつく。
武器や札、ポーションのようなアイテム、食糧や服までもが完備され、数とあらゆるものが宝物庫に保管されている。中には、俺が持っている武器と同じ種類や亜妖や妖武、心具の他に、神具が丁重に並べられている。銃や刀、盾などといった当たり前の武器から、見た事ない形状の武器まである。未来の武器なのか神話の存在した武器なのか、俺には判別できない。
究極の宝物庫と言えば良いんだろうか。多分だが、來嘛羅に匹敵する宝物庫は誰もいないだろうぜ。
「此処は…?」
「この場は妾が認めた者にしか立ち入りを許さぬ聖域じゃ。妾の加護を受けた者、また、認めた者に加護を与えた者をこの場に召喚するのを許した」
神聖な場所と聞くと余計に緊張するものだ。
なのに、悟美がこの状況で笑みを絶やさないのが恐ろしい。
こいつの考えていることを知りたいとは思いたくない。
「ねえ來嘛羅。此処にある物はくれるのかしら?」
なんで悟美がそう聞くのかは理解したくない。
「くれてやると言っておるが?」
「えへへ、じゃあ服と武器、神具が欲しいわ!良いかしら?」
「うむ…其方には神具は不可能じゃろう。妖力を持たぬ身の上、その武器に込められている名は其方の《狂乱》を持ったとしても支配はできぬ。残念じゃが、心具を使う事を薦める」
「え〜⁉︎ものは試しでしょ?私が使用出来るなら問題ないわ」
悟美は神具を強請る。來嘛羅は無理だと首を横に振る。
俺ら人間が使える武器は心具しかないんだよな。当たり前だが、他の武器は妖力が元に機能する妖怪専用の武器で、俺や悟美では使うことは叶わない。
「無理なものは無理じゃ。神具は今は名を持つ武器が大半を占めておる。その上、妾以外の者が扱い、触れることは許されておらぬ。触れるだけで生気は吸い尽くされ、己の存在を消す悍ましき神具すらこの宝物庫には数点保管しておる。今から妾が示す赤色の結界を張った武器は触るでないぞ?」
数十点の武器に接触不可能に結界を張り、誰も触れられない結界が施された。
悟美は不満そうに駄々を捏ねるかと思った。
「あーあ〜!私の楽しみがなくなっちゃったわ。でも良いわ。それ以外なら扱えるのでしょ?私なら」
結界の張らない武器に悟美は躊躇なく触れる。まるで、好きなおもちゃを必死に探すように悟美はワクワクさせている。
悟美の能力は俺達には洗いざらい明かされている。この世界で能力が明かされるのはかなり不利となるが、悟美の能力は明かしても大した弱点にはならない。
その身は全ての干渉物に対する耐性を獲得し、触れたと認識したものを錯乱させる能力。更には、悟美自身の身体能力や肉体強度を高める。白兵戦でならこいつは化け物だろうぜ。
俺が今の状態で挑んだとしても、來嘛羅曰く、瞬殺されると言われた。
ちなみに、紗夜と俺が戦っても勝てないとか……。俺、そんな弱いの?
雪姫と俺は並ぶ無数の武器を眺めている。
「幸助、あなたは武器を変えるの?」
「折角の魅力的な武器ばかりなんだが、流石に無名から貰った武器は手放したくはないな」
「それが良いと思う。幸助は物を大事にしている方が賢い」
「なんだよその言い方…」
なんか冷たく言われたんだが。
「でも、武器の換えは必要ね。たった一つの武器ではこの旅は甘くない。幸助、他に使えそうな物はある?」
「まだ検討は。でも、雪姫も大丈夫か?その刀だけで」
雪姫が使うのは妖武に属する名刀。かなり年季はあるが、青く透き通る刀身が古いとは思わせない。
雪姫は刀身を出し、俺の姿を反射させる。刀身に映る俺は青く映るが、俺の細部までもが鏡のように映る。
「この刀は私が生まれた時より所持を許された妖刀。人間が元々持っていた所有物が人間界から消失するとこうして妖怪を選び、この手に宿るの。この刀も元々は室町時代に消えた名刀。誰も知らない…私だけが知る武器」
雪姫が見せる刀身は異様なぐらい鮮明で澄んだ色を放つ。
「その刀に名はあるのか?」
名刀の名を聞いた。
すると、雪姫は悲愴な顔を浮かべて俺に語った。
「あまり良い話じゃない。この刀は【雨露霜雪】って言う名刀で、鎌倉から京都へ幕府が移行した時代に生きた武将の一人がこの刀を使っていた。だけど、その武将は戦で命を落としたわけじゃなかった」
「戦争じゃねえのか?」
雪姫はゆっくり頷く。
「そう。彼は我が子を身籠っている自らの妻である人間に殺された。それも……彼が愛刀としていたこの刀で…」
昔の事情を知り、俺はそれ以上聞く気にはならなかった。
人斬りの妖刀は本当のだったんだな。しかも、愛する人に愛刀で斬られたのはどういった心境だったんだ?さぞ未練があったんだろう。
昔話としてはホラーだが、雪姫がチラつかせる刀に妙な魅力に惹かれていた。
俺はその刀に映る形を見て、刀身の中に全てが閉じ込められているのだと錯覚した。
「でも、綺麗だな…」
俺はそう呟いた。
しかし、雪姫は悲愴な表情をしたまま。刀身は雪姫の姿も反射し、青い姿の雪姫は本当に辛そうに見えた。
「そう……。あなたがこんな素直に言ってくれるだけで嬉しい」
「じゃあ素直に喜ぶ顔をしてくれよな?なんか心苦しい顔してるぜ?」
「別に…そういうつもりは…」
雪姫にも怖い物があるのだろう。俺が問い詰めるのも違う気がする。
俺がそう気を落ち着かせようとすると、來嘛羅の尻尾に俺の体は持ち上げられた。
「うわぁっ‼︎來嘛羅⁉︎」
「落胆する気分は似合わぬぞ?お主、欲する物があるじゃろうて。何故感傷に浸ろうとする?」
「化け狐…!」
俺は驚き、來嘛羅は俺を連れ去ろうとし雪姫は怒る。
「明日なのじゃぞ?明日でお主はこの都市を離れなければならない。悔しいが、妾が密かにお主に付いて行くことは固く禁じられておる。じゃから、今日が誕辰の幸助殿には、前例のない素晴らしい褒美を譲り渡そうぞ!」
來嘛羅に宝物庫の最奥まで尻尾に掴まれ連れてかれた。
さっきとは比べるまでもなく重い空気が襲う。悟美達がいる空間と同じ筈なのに、來嘛羅が奥に進むにつれ空気が息苦しさを増す。
鉛のように体が重くなっていく。腕と足は全く動かず、息をするだけで肺が腹を圧迫する。
「はぁ…はぁ…な、なあ來嘛羅。俺、凄え苦しいんだが……はぁ…はぁ…」
体が鈍って疲れるなら分かる。だが、俺は來嘛羅に運ばれているため歩いてない。なのに、寒くも暑くもないのに体が途轍もない速さで疲れる。
來嘛羅と雪姫は特に顔色変えずに歩き、俺の体が可笑しくなったのではと認めたくなかった。
「この宝物庫に眠る呪いがお主の身を蝕んでおる。妾がお主に取り憑く呪いを吸い続けながらこの路を渡るが、どうやら、まだ体が馴染んでおらぬみたいじゃな」
「化け狐。私達の妖力を取り込んで大丈夫と話した。なのに、幸助が苦しんでいる」
歩きながら、來嘛羅は理由を話してくれた。雪姫は心当たりあるようで、來嘛羅を冷たく睨む。何を言ってるかは理解できねえが、俺の事を話しているみたい。
数分はこの息苦しさが襲い、俺は死にそうな感覚に陥る。歩いていたら数分で倒れるぐらい、空気があまりにも重い。
來嘛羅が足を止める。そして、ある厳重な鎖で縛られた大門が俺達の目の前に立ちはだかる。
「すまぬな幸助殿。漸く霊域に着いた。聖域の最奥である霊域はほんの一握りの存在しか入れぬ故、妾の呪鎖がお主の体を異常な速さで崩壊させておる。じゃが、少し待たれよ」
來嘛羅は大門を覆う鎖に触れる。すると、來嘛羅の手に吸い込まれるように鎖が引き込まれる。
鎖には特殊な細工が施され、來嘛羅にしか解けない封鎖。自身の妖力で生み出された呪いは、妖怪以外を寄り付かせず、人間の身の者は命を奪われる恐ろしい呪術を組み込んでいる。
俺が苦しくなったのは、この鎖に近付いたことで本能から拒絶反応を示したからだ。体が呪いを受けて動かなくなったのも、この禍々しい呪いのせいなのだ。
なんていうヤベェ呪い付与してんだよ⁉︎危うく、俺がお陀仏になるところだった。
鎖が消えた途端、俺の体の違和感は全て消えた。
「幸助大丈夫?」
「あ、あぁ…」
雪姫は尻尾から俺を引き剥がし、やっと地面に足が着いた。俺の体を隈なく触り、雪姫がホッと息を漏らす。
「良かった…。幸助の体に異常はないみたい。でも、この空間は長居はできない。早く化け狐に渡される武器を頂戴しましょ」
「そうかもな。俺も大分キツかったし」
「その必要はないぞ幸助殿。一度呪いに耐えたのなら話は別じゃ。この呪鎖はそのように組み込んでおる代物じゃからな。解呪されればお主にはこの呪いは効かなくなる。長居しても問題なかろう」
雪姫の心配とは逆に、來嘛羅は大丈夫と断言する。雪姫が少しばかり嫌な表情をしていた。
「化け狐…」
「睨むのも結構じゃが、此処の神器を探さなければ明日になってしまうぞ?」
來嘛羅は優雅な対応だな。雪姫も落ち着いたのか黙って武器を探し始める。




