72話 知は幸にも不幸にも
ストーリーも大分進んできましたが、2章もあと1週間続くかと思われます。結構書いているので、1章がとても長いです。3章は1度『妖界放浪記・長編』で設定を明かした後に公開します。
「多分…俺のことだよな?」
俺は何を聞かされたのだと思い、変な気分になった。
「分かっているみたいね。そう、あなたが来てくれたお陰で救われた。そして、あなたから『雪姫』という名を受けた。この時にやっと…やっと……私を救ってくれた人間に出会えたと嬉しかった」
噛み締め、雪姫は凄く嬉しそうに体を震わした。
てか、雪姫の人生ヤバ過ぎた。なんなんだよ、『呪詛』って?
俺は色々聞きたかったが、雪姫が話終わってから安堵するのを見て、俺は何も言うつもりは失せた。
なんか、凄い言い辛い……。
「幸助?どうしたの?」
いつの間にか俺のベットに上がり跨る雪姫。しかも、何気なく俺を見下すものだから少し嫌だ。
「…なあ、あんま言いたくなかったけど、その距離の詰め方可笑しいぜ?」
俺は一応上半身だけは起き上がらせている状態だから変な姿勢ではない。だが、俺の下半身を跨る雪姫に俺は悶々してしまい、嫌な気持ちになってしまう。
罪悪感が襲う。最悪な意味で。
「可笑しい?距離の詰め方って?」
「わざと聞いてるよな?」
「ん?」
「えっ…?」
雪姫は俺をなんと思っているのかは知らねえが、この体勢は流石にわざとだろ言いたくなる。
痴女とも思える足の絡め方をし、俺に顔を近付けるその姿は俺を襲うにしか思えない。胸が閉められているから大丈夫なんだが。來嘛羅は一番として、悟美の次に大きいのではと思う。
好きな人以外の胸を見ないつもりだったが、生憎、我慢は難しいものだった。俺だって年頃の男の子だ。そんな感じでチラ見してしまうのもある。
來嘛羅は俺に胸を誇張するわけではなく、尻尾が魅力的に魅せている。悟美は特に恥ずかしがる仕草もなく、恋愛感情は一切ない模様。
だけど、特に恥ずかしがる様子がないし、俺を異性とは思ってないみたいだから、ある意味雪姫はタチが悪い。
言いたくねえよ、こんな事……。
「あんたのそ、その……俺みたいな男には刺激強えよ。頼むから、童貞殺しをしないでくれよ、な⁉︎」
かなり最低な発言をしてしまった。これで、俺から多少なりとも意識して貰えればいいんだが。まあ、もれなく嫌われるけどな。
俺に告白してきて色気を使ってきた奴がいたことがあるんだが、この台詞に救われた経験があった。それ以降、そいつは二度と接してこなくなった。
しかし、雪姫は首を傾げる。
「ドウテイ?幸助、それは何かの妖術なの?」
「っ‼︎ば、馬鹿!それぐらいあんたでも理解できるだろ⁉︎」
俺は怒鳴った。けど、雪姫は俺の怒りの理由に気付いてくれない。
「あなたは何を言ってるの?私に分かり易いよ——」
「言うか馬鹿野郎‼︎あんたに変なこと言った俺が馬鹿だったよ‼︎」
俺はモヤモヤを一気に吐き出し、ベットから無理やり起き上がった。その拍子で雪姫はベットから瞬時に身のこなしで立ち上がる。
「大体、俺が言うのを質問すんなよ!俺だってホラ吹くことだってあったりするんだ。雪姫がいちいち反応してたらそうなっちまう」
「言葉は選びなさい幸助。嘘を吐くのなら容赦しない。たとえ、その言葉が不埒な意味を持っているのならしっかり分かり易いように…」
滅茶苦茶食いつくんだけど⁉︎
迫る雪姫は俺の言葉の意味を知っているのではないかと思った。
だから言ってやった。
「あー分かったよ!俺が言った童貞は貞節ってヤツだよ!」
すると、雪姫はかなり青褪め、俺から視線を逸らす。
「……ごめんなさい」
察したようで、その声は小さかった。
あ…これはやっちまった。
雪姫が無知だったのが災いした。
この言葉を言わなければよかったと、俺は後に後悔した。
暫く、俺と雪姫の空間に異様な静けさが漂う。
俺は何かを忘れている気がする………。
「なあ雪姫?さっき、俺が寝て時間が経っていたと言っただろ?」
「あれからかなりの時間が経ってる。それがどうしたの?」
さっきの件で声が少し冷たい。
「俺が妖都を出るまであと、何日だ?」
恐る恐る聞いてみる。
「……慌てるかも知れない。あなたはひと月も目を覚まさなかった。そして、その時間は止まらず、あなたの猶予は後僅か」
「…で?俺は後どれぐらい居られるんだよ?」
「幸助と私、他の二人がこの妖都を出発しなければならないのは2日後。明日はあなたの誕生日。つまり、明日で最後なの」
「ヤベェだろ⁉︎だったら早く済ましてえよ‼︎すね子は何処にいるんだ⁉︎あいつを連れて行きたいからな」
しかし、雪姫は「安心して」と言って部屋の凍結を解き、一人で外へ行った。
「明日かよ…。來嘛羅に心配かけちまったな。悟美や紗夜と上手くやっていける気がしねえ。あいつら、絶対にまともじゃない奴らだしな。生きて帰ってこれるか?」
ひと月眠っていたんじゃ、悟美や紗夜との交流会は意味がなくなっちまったかも知れねえ。人忘れしそうな感じがするし、悟美に関したら俺を別になんとも思ってないだろうし。
紗夜はよく分かんねえし、あいつはあいつで悟美より強いのかはよく理解できない。あんなおどおどした奴がだぜ?どう見ても弱えだろ。
雪姫は一緒に過ごしてきたし問題はない。けど、俺のことになると凄い激怒するから要注意だな。それに、以前よりも俺に気を遣うのが多い。
嫌ではないんだが、雪姫が俺をどう思っているのかが謎過ぎる。
助けてくれるし、俺を離さないと言うし、俺の面倒を見ようとする。
感謝しかないが、雪姫の様変わりは俺にとっても嬉しくも怖くもある。
一体何が、雪姫を変えているんだ?
それに、雪姫に呪いをかけた奴。多分だが、俺が知っている妖怪で間違いないと思った。
会いたい奴で確実。絶対にだ。
待っていろ。必ず俺があんたらを連れて来てやるからよ!
來嘛羅と早く結ばれたい淡い気持ちがあるが、それよりも興味がある事が増えた。俺が長く寝ていた際に見た夢と、雪姫の話を聞いたのが大きい。
妖怪について俺は知りたい。
三度目の対面、すね子の心は躍る。
「お⁉︎すね子か‼︎雪姫、亡夜から連れて来てくれたんだな⁉︎」
「少し事情があってね。幸助、あなたはこの妖怪にも私と同様に名を与えた。その責任を持って、このすね子を連れて行くべきだと思う」
雪姫から言えば幸助も逆らうことはない。
「問題ねえよ!寧ろ、すね子には悪い事をしちまった。名前あげた後に気付いた俺が馬鹿だったよ。ちゃんと俺が責任持って世話するよ」
「そう…。幸助がそう言うのなら心配要らないね」
幸助はすね子を雪姫から受け取る。すね子は言葉を発さず、ただ幸助に抱かれる。体を擦り、幸助の温もりを感じる。
「ふにゃ〜!」
「はは、凄い可愛いなお前。使い魔みたいに俺に力を貸してくれるか?」
「にゃあー‼︎」
「よし!じゃあすね子よろしくな!」
幸助は20歳になる目前に、新たな妖怪を仲間に入れたのだった。




