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妖界放浪記  作者: 善童のぶ
妖都征圧阻止編
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6話 摂理を犯した者

今日は2話投稿します!

話も進めてはいますが、まだ20話くらいしかストック書いていませんので、投稿する頻度は毎日とかはできないのですいません。


 俺が来てから既に3週間が経過した。

 朝と昼、夜は日本と同じように訪れるが、この妖界に四季は存在しない。春のような景色が続いており、堂々たる桜の樹木が当然のように生い茂り、花弁が散っても数日経てば満開という異常気象を超えた現象が見れる。()は落ちても腐る事はなく、育てた作物も異常な速度で成長する。

 数日で米は実り、妖怪がそれらを刈り取り店に出され、売られた米を他の妖怪が買う。

 作物の異常性は驚かされたが、人間の世界と全く変わらない部分もあって俺は安心した。商売は成り立ってるのは知れて、俺は買食いできることを密かに楽しみにしていた。





 雪姫から妖界について説明を受けた。

 無名に言われたのと多少矛盾があった。この世界に秩序や法が存在しないと聞いていたのだが、どうやら、数十年前からはその無法地帯は年々減っているそうだ。

 合理的な思考を持つ妖怪達が人の世を真似(まね)ようと活動が起き、本来は群れない妖怪達が集まる事が多くなったとのこと。

 雪姫が言うには「何が面白いのかが分からない」だそうだ。

 面白がって人間の世界を真似る物好きな妖怪がいると聞いて嬉しかった。

 無名は俺を見ていたと言っていたが、もしかしたら、この妖界(せかい)に戻らなかったからかもしれない。

 人間の世界と妖怪が蔓延る世界での情報共有は、物理的に世界を渡らないといけないらしい。

 とりあえず、危険な妖怪ばかりじゃないって分かって良かった。案外、親身になる妖怪もいるんだな。

 …って、俺はその妖怪(かのじょ)と既に会っていたな。

 そんな彼女と今は一緒に過ごしている。






 だけど、俺は今、悩まされている……。

「幸助、その足腰では足元がすくわれる。常に死が襲ってくると気持ちを入れなさい」

「そう言ったって!俺とあんたのレベルが違うのは分かるだろうが‼︎手加減してくれ!俺が死んじまう‼︎」

「それが何か?あなたには私の加護を授けたのだから、生きる為に強くならなければならない。手を抜こうというならば、失礼というもの」

「チッ!もうヤケ糞だぁーーー‼︎」

 俺は刀剣を振るう。だが、簡単に刀で押さえ込まれる。両手ではなく片手でだ。それぐらい俺は弱いのだ。

 妖界に来た俺は確かに加護で強くなったんだが、雪姫は無茶苦茶強い。

 足腰に力を入れ、俺はがむしゃらに叩き込んだ。なのに……。

「甘い。足腰がガラ空きね」

 雪姫に足を引っ掛けられ、俺は爽快に転けた。だが、まだ立ち上がり、

「まだだ!俺が一本取ってやる‼︎」

 俺は諦めずに刀剣を振るった。血豆は当たり前、雪姫の自然に漏れ出ている寒さで鼻水が止まらねえ。

 狡くないか?寒過ぎて、体が震えちまう…。

「武者震い?それにしては震え過ぎ」

「さみぃ…んだよ。抑えてくれよ」

 凍え死にそうでヤバい。雪姫は不思議そうに酷なことを言う。

「戦う時は出てしまう。幸助が耐えればいいだけ」

 嘘だろ?寒さばっかりは苦手なんだよ。

 虚しい気持ちでひたすら雪姫から一本取るために力尽きるまで打ち込んだ。

「この程度の実力では、天邪鬼に殺されるね」

 刀剣を押し戻され、俺は地面に倒れた。俺はまた、雪姫に蔑むような目で見下されている。

 何度も挑んでるのだが、俺は毎回こんな目に遭ってる。

 なんでこうなったかと言うと、俺が実力を付けたいと申し出たところ、雪姫が快く受けてくれた。

 そこまでは良かったのだが、加減を知らないって言うか、兎に角全力で襲ってくるのだ。俺の力に合わせるとかじゃなく、完全に俺を叩きのめす勢いでだ。

 二人の加護を授かった俺だから耐えられるのだが、無かったら死んでいる。

 攻撃を防ぐので精一杯で、身体能力も明らかに雪姫の方が上だ。

「うっ…痛えぇ…。流石に肉体が保たねえーよ」

 俺らしくなく文句を言った。マジで雪姫の攻撃は容赦ない。服がボロボロになるし、腕ももう上がらない。おまけに俺に対して挑発する事が多い。

「稽古、まだ甘い?」

「死ぬから!本当に死にますからやめて貰えないか⁉︎」

 その挑発が鬼のように突いてくる。だから、悩んでいるんだ。

 だけど、倒れた俺を家屋まで連れて行ってくれる。治療もしてくれるし、ご飯も作って貰っている。訓練という名の一方的な攻撃をされた後に世話をしてくれるんだ。






 俺は悩む…。

「ご飯、いつもありがとう。これ、全部手作りなん…だよ、な?」

「そう。私の手料理。魚料理に自信があるから、美味しく食べてね」

 出されるメニューが独特過ぎて困ってる。

 何で生きてる魚をそのまま出すんだろうな…。死んだ生魚の方がマシに思えてくる。

 これが毎日だと、魚アレルギーになりそう……。

 俺は魚の死んだ目のように、雪姫の作ってくれた魚料理を口に運ぶ。

 ビチャビチャ動くし、歯で噛むと肉厚が動くから噛みづらい。血は出てこないのだが、内臓が舌と歯を通して感じる。噛み切ろうとすると魚が苦しそうに一瞬暴れる。その際、顔に魚の頭と尻尾が思いっきりバチンと手に当たって痛い。

 痛い思いして食べるんだったら激辛料理の方が幾分かマシだ。

 最初の頃は、普通にガバッと食べようとしたら歯が頬に刺さった、なんて事もあったな。今は慣れてきたのか、素手で顔に当たらないようにガードしている。






 すっかり日が陰る。俺は訓練をして貰いながらも、この町を歩き回る事もしている。今の俺は加護があるから、誰も襲う事は出来ないのだとか。

 普通に歩けるならどうでも良いんだが。よく見たら、まだ天邪鬼は斬られた状態で氷漬けにされている。

「はは…マジかよ。この状態であの時から凍ってるんだな。雪姫も容赦な…」

 近くに寄る。何か思ったのか、氷漬けの天邪鬼に触れてみた。

 パキッと何かが割れる音がした。

「あっ…‼︎」

 漏れた声と一緒に、天邪鬼の封印を解いてしまったようだ。

氷が砕け、中にいた天邪鬼は獰猛さを放っていた。俺を見るなり、その表情は瞬く間に怒の形相へとなった。

「小僧‼︎儂を封印しておきながら愚かにも解くとは。我が身可愛さに儂を解放してしまうとは、なんと愚行に走った人間よ‼︎二度も逃した貴様を、今度こそ‼︎」

「ヤバい…。俺、またやっちまった」

 俺は刀剣を構え、後悔する気持ちを抑える。



 天邪鬼は目を細める。心の内を探り、幸助の中から何かを見つけた。

(なるほど。コイツ、雪女の加護が授けられているのか。人間である者ならば当然の判断だ。だが、あの女をどうやって…?)

 疑問が尽きない。何故、雪女から加護を受けられたのかが不思議で堪らないのだ。

 妖怪ならば、誰が加護を授けたのかを見抜ける。

 冷静になり、天邪鬼は幸助に問う。

「小僧、貴様はどうやって雪女を言い包めた?人を庇うが人に情念を抱かぬ女をどのように説き伏せた?」

「なんだよ急によ?雪姫のことか?」

 雪姫。この名に聞き覚えはない。しかし、瞬時に誰を指すのかを理解した。

「っ⁉︎まさか…貴様、あの女に人名を授けたとでも言うのか⁉︎」

 天邪鬼はこの時、初めて幸助のしでかした事に恐怖した。

 思考がよく回る妖怪であり、その言葉の真偽すらも見抜く。それが仇となり天邪鬼は、嘘を隠す事が出来ない程、声も喉、体全体が震えていた。

「馬鹿な…馬鹿な、馬鹿なっ‼︎妖怪に人名を与える。その行為、太古から生きる災禍様(さいかさま)でもされなかった。ご法度ともされる行いを、平然にやったと言うのか⁉︎」

「別に名前ぐらい良いだろうが。雪姫の方が馴染み易くて良いしな。なんで怯えるんだ?」



 俺は試しに刀剣を相手に少し近づけるように足を一歩踏み出す。すると、天邪鬼は俺から後ろに下がりやがる。俺は少し、気分が良くなっていた。

「おい天邪鬼。俺が怖いなら逃してやる。早く消えてくれよな」

 挑発するように言う。天邪鬼の表情はみるみる恐ろしい顔つきにになっていく。

「小僧…。貴様、その愚かな行為は災禍様(さいかさま)に伝わり、生気と魂は喰らわれるだろう!加護を受けておっても、その災禍様(さいかさま)の前には(ちり)も同然。せいぜい、未練たらしく過ごすのだな⁉︎」

 俺に捨て台詞を吐いてその場から去った。それは脱兎の如く…。

「あいつ……災禍様(さいかさま)って」

 俺はやらかしたと思いつつも、逃げ帰ってくれたお陰で事なきを得る。俺は留まる事なく、雪姫の家屋へ戻って行った。

災禍様(さいかさま) 。雪姫は『天災』って言っていたな。

 なんでも、万物を逸脱し、神に匹敵する妖怪。そんな妖怪に俺は目を付けられていると、あいつは言った。

 しかし、俺は別に良いとまで思っていた。

 そんな災禍様と称される存在の中に、俺が小さい頃に俺の恋心を奪い、俺が望んだ妖怪がいるからだ。


 馬鹿だろ?俺は、小さい頃から一途に思っていた妖怪。この世界で恐れられているが、俺の気持ちは変わらない。


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