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妖界放浪記  作者: 善童のぶ
放浪前記
69/265

68話 旅立つ華名達

お久しぶりです!

用事も済ましたので、こちらで投稿していきます‼︎

二章が終わりましたら一度休むかもしれませんが、その時は再投稿する日も含めて告知します。

華名達の行動は早かった。それも脱兎の如く。

全ての準備が整い、荷物を華名が異能で異空間に収納し、身軽な状態で妖都へ出発をする。

「夜叉⁉︎流石にこの体勢は…」

華名は赤面し、顔を覆い隠す。

「カナ様はコレがお望みでは?美女に抱かれ、城から逃げるような甘美な空想思考をお持ちですから」

「やめて下さい!でも…今日はやめないで欲しいです」

「フフフ。では、少々揺れますので、舌を噛まないように巻いといて下さい」

夜叉は古都の街並みを空を駆けるように建物を蹴り、俊敏な身のこなしであっという間に古都を駆け抜ける。その間、一切足を止めず、ただその脚力で古都の域を超えてしまった。

その時間、僅か6時間。都市を超え、町を超えたことで夜叉は足を止める。

古都は妖都より広く、古都が支配する町を越えるには数十日以上かかると言われている。それを遥かに早い時間で突破してしまった。


夜叉の身体能力だけでは遂げられない。そこに干渉したのが華名だった。

「こんな早く古都を出れましたし、暫くは遊びませんか?」

「おや?カナ様は湿地帯たる場所で戯れると言うのですか?」

華名達が立ち止まった場所は木々が茂り、湖や川の水質は良好な場所。生命力溢れる木々が立派に立ち、空を眺めなければ見れない大木がそびえ立つ。動植物が豊富で、楽園のような空想世界が広がる。

華名がお気に入りの場所で、この場所をユートピアとしている。

この森は華名がこの世界に迷い込んだ時にいた場所なのだ。

「少し違います。妖界があまり開拓に勤しんでいないみたいですので、私の異能が使い放題です。折角ですので、余裕あるうちに増やしておきたいのです」

「カナ様の異能はどんな場所でも発揮は出来る筈です。しかし、此処で何を生み出すというのですか?」

「悪魔か精霊です。なんなら天使も良いですね!それとも、私達の護衛の者を創ったりも‼︎うーん迷います…」


華名は異能の名前は知らない。だが、自身の力を知っている。

能力や発動条件、リスクなどを知り尽くしており、異能をフル活用している。

持ち前の想像力から生み出される精霊や悪魔、天使は強力な存在。更には、それらを凌駕する怪物すらも容易に生み出す。それだけでも強力だが、生命を宿すもの以外にも干渉が可能なのである。

まず、華名の異能の発動条件は至ってシンプル。

近くを流れる川に手を浸ける。そして、自分の想像のぞみを流し込む。

「川に流れるいのちに命じる。守護聖女シュゴセイジョに姿を変え、写せ身として召喚に応じなさい」

川の流れが変わり、華名の手に水が吸い尽くされる。水が空中に浮かび、女性型の型を形成し始める。水晶のように透き通る衣装を纏い、華名とは全く異なる別の存在として現れた。

聖剣ソード聖盾シールドを両手に持ち、生を受けた守護聖女に自我が芽生える。

しかし、守護聖女に自我があっても言葉を発せない。言葉を持たぬものから創造された存在は、一切喋ることができない。

だが、華名に対する忠義心は本物。それは揺るがぬ鋼の精神を持つ。

「カナ様…敵意を差し向ける妖怪が多数おります」

夜叉は辺りを警戒し、自分達を狙う襲撃者の存在を伝える。

事実、人間の身である華名を狙い、殺意を殺せない妖怪が烏合の衆のようにいる。

狙って下さいとしか言わんばかりの行動を見せる華名を見て、その力を欲する妖怪が集まったのだ。

「もう嫌です。こんな綺麗な森で殺し合いなんてしたくありません。ですが、仕方がありません。夜叉も手伝ってくれますか?」

嫌な表情をするが、一瞬、容姿に似合わない笑みを見せる。周りを囲う妖怪を見て、華名は何かを閃いた。

「分かりました。では、この烏合の衆は殺さずに不能にすればよろしいですか?」

「はい。妖怪かれらは私の生気と異能を欲します。ならば、その対価として私のコレクションにしてあげます」


狙うなら命を賭けろ。華名は遠回しでそう言った。


華名の意図を察した夜叉は高速で走り出す。

夜叉は華名の本性に強く興味を抱いていた。

「フフフ、カナ様のコレクションとなれば、烏合の衆どもは幸せ者でしょう。承知しました。カナ様が欲するものを刈り尽くして差し上げましょう」

「ありがとう夜叉。では、私に助力をお願いします!」

守護聖女は華名の声に応じ、妖怪を討伐し始める。

名のある妖怪が一人、それ以外は名のない妖怪で華名達を襲った。

待機していた妖怪が、守護聖女に攻撃を仕掛ける。

火や風、雷が一斉に豪雨のように押しかけ、その攻撃全てが守護聖女を直撃する。

腕や首が吹き飛ぶ。守護聖女は脆くも消滅する。

肉体が吹き飛ぶほどの高火力で滅んだのを見て、妖怪は下衆な顔で笑う。

しかし、華名は余裕の笑みを見せる。寧ろ、何か楽しげだった。

消滅したかに見えた守護聖女が元の形に戻り、再び妖怪を襲う。

華名は妖怪達に語りかける。

「水の性質って知っていますか?水は流動的でどんな型にも当てはまる万能な性質です。水は打たれ、斬られ、蒸発されようと、その性質は元の形に戻ろうとします。それが出来るのは、模った型が存在すればですが。その型の破壊の仕方、知りたいと思いませんか?」

華名が嬉々として語るのを見て、妖怪達は迷いなく華名を襲う。

守護聖女と夜叉による挟撃を恐れ、その原因を生み出した華名を一番に狙うのは定石。使役することしか出来ない本人を討ち取れば、あとは簡単に倒せる。誰もがそれを考え、華名に妖術を放つ。

「ふふっ、正解です。ですが、私を容易く破壊できると思ったのでしたら安直です」

そう言うと、華名は一瞬の間に異能を行使する。

水魔斬撃ウォーターカッター

華名は手から水状の短剣を生成し、襲う妖怪を軌道に沿うように振るう。水刃が妖怪を斬り裂き、一瞬で再起不能となった。

その動きは手慣れているように見え、妖怪は華名に対する驚きを隠せなかった。萎縮する彼らを躊躇いなく背後から忍び寄る夜叉。

「カナ様を侮る侮辱、許し難いです。その身を授け、命のありがたみを身をもって知りなさい!」

夜叉は次々と妖怪を殺さずして生け捕る。守護聖女も窒息や沈溺なども用いて妖怪を無力化していく。

それを見かねた名のある妖怪が現れる。

「キキッ‼︎未成熟な女に水だまりの女、成熟した女がいる!」

厄介な妖怪と出会した。

その名は『玃猿カクエン』。太古より生きる中国に伝わる伝説の生き物なのだが、伝承に記されている内容が女性の恐怖を煽るとされる。

女好き妖怪とも呼ばれる一方、女性を執拗に襲い子を孕ませる悍ましい妖怪として知られている。

「玃猿、貴方は人間を襲うだけでは飽き足らず、カナ様を襲うというのですか?」

夜叉は玃猿に睨み付ける。この妖怪とは出会いたくはなかったのが本心だ。

「その通りだぁ‼︎太古の妖怪と謳われていたこの俺を知っているようだな⁉︎」

「知っています。ですが、この場所に仲間を引き連れずに単騎で来ようとは、死にきたのですか?」

「ウッキィー!舐めるなよ女が‼︎こっちには全員食えるだけの性欲があるんだよ!その肉体なら、さぞ質の良い子を産めるだろうな」

下卑た笑みで華名達を凝視する。

華名は「気持ち悪いです!」と吐き捨てる。夜叉は玃猿に嫌悪感を抱く。

「…産ませる?誰にですか?」

「そこの女とお前らに決まってるだろうが!歳を偽っているみたいだが、十分に子を産める。俺にとってそこの女は、俺の子を育てる器になるんだ。感謝するんだな⁉︎」

酷い会話に夜叉の堪忍袋の緒が切れた。

「分かりました。太古の妖怪と謳われし貴方が単なるゲス野郎になったのは残念なこと。純妖が故に、永遠に性欲剥き出しの性根が治せないのは遺憾ですが、此処で死んで貰います」

激昂するのではなく、沈着な怒りを漂わせる。

「キキッ!怒ってやがるのか⁉︎おとなっ——ふえ?」

「黙れ雄猿の分際が!性欲に侵された不純物が口を開くな!」

夜叉の一撃の前に最後まで発する事なく、首が宙を舞う。

一閃の刃の前に玃猿は塵のように散った。

首を刎ね、生捕りのことを忘れるまで、夜叉の感情は昂っていた。

そして、夜叉は玃猿を侮辱するように、刀身を手持ちの布で拭き始める。

「実に穢わらしい。血は触れたくはないです。この森に長居は無用ですカナ様」

「は、はい…そうですね。でも、やる事を終わらせてからでもいいですか?」

「分かりました。ですが、この有り様を見た妖怪は私達を襲うことでしょう。数分で済まして頂けると助かります」

「わ、分かりました!」

夜叉は優しく華名を急かさす。華名は気を失った妖怪達を異空間に隔離する。

華名の異空間に放り込まれた妖怪は瞬時に分解され、妖力を生気として還元され、妖怪にある遺伝子や能力を解析する。

「準備できました!早く幸助っていう人が来る場所へ行きましょう!」

「フフッ、焦らずとも問題ありません。彼はあと3ヶ月程はこちらには来れないでしょうし」

妖都と古都はかなり離れており、仮に移動能力を持たない者が馬車を休まずに移動しても2年は要する。歩いたとなれば愚かにも程がある。

隔絶した距離で離れており、通常の手段で都市を行き来するのは危険が伴う。道の途中で村落や妖怪の棲家があり、中には、太古の妖怪や災禍様が棲まう領域がある。

そんな蛇の道を通る者がいる筈もなく、妖怪は兎も角、生身の人間で妖都から古都に辿り着いた者は誰もいない。


だが数日後、“放浪者”である松下幸助が目的のために歩き出す。

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