67話 惨虐な守護者
妲己は皆さん知っているでしょうか?彼女は中国三大悪女として有名です。まさか、ここまで言動や憎み方がヤバい妖怪はそうそういません。しかし、これも伝承の読み取った感じで書いた人物像です。実は妲己自体は自分的には嫌いではなく、少し共感してしまう部分があります。深読みし過ぎかも知れませんが、自分の解釈をこのストーリーに組み込んでいます。
お知らせが2つあります!
まず、このストーリーが大体3000字前後又はそれ以上の内容を一話として書いていますが、これは自分の投稿頻度を効率良くするためによく用いている方法です。そうする事で、自分も楽に書くことができています。ですが、やはり長文で読みたい方もいるはずです。10000字前後で読みたい、そんな方に少し自分も応えたいと思い、少し期限は先になりますが、『妖界放浪記・長編』というタイトルで1話から書いていこうと思います。読み切り系じゃなく、少しまともな形で文章を愉しみたいという方に書くつもりです。そこで、文の内容や台詞、文構成の若干の変更を行い、投稿させて貰います。同時投稿は難しいので、8月と9月あたりからのスタートとする予定です。
もう一つ。明日から水曜日まで投稿を休止します。その後、2章が終わり次第、この世界の設定と現在出てきたキャラクターの細かな詳細を投稿しようかと思います。その際、『妖界放浪記・長編』の方に投稿しておきます!詳しく見たい方はそちらの方から宜しくお願いします。
ネタバレは少々ありますが、特に物語の面白みが失せるものではなく、異能が分かっていれば納得する場面が多くなるかと思います。ですが、主人公の異能だけはまだ明かしません。これは伏せる理由としては6章辺りまでは異能名は明かさないと決めてありますので。
城に招かれ、二人は異空間へ足を踏み込む。
妲己の創る空間は來嘛羅とは大分異なっている。
殺風景としか思えない重苦しい何もない景色。色はなく、ただ虚無のような空間。
すべてを見下すような玉座に座る妖狐の守護者は、彼女達を冷めた目で睨む。
その上に不機嫌な態度で見下ろし、来た者を強い嫌悪を向ける。
見下ろす妖怪の名は『妲己』。
派手に装飾品を着飾り、髪の七割は純金や純銀で作られた装飾品で髪が飾られ、中国皇帝の衣装をモチーフにした生地をその身に纏う。
目は赤く、真紅眼の如く濃く目が輝く。黒い髪と紅い目は野生みを感じさせる。
血に飢えたような目つきをし、とても高貴な貴族には見えない。
最大の特徴は、九尾狐に名を刻まれた者全てが持つ九本の尻尾。その証を背中から生やす。その尻尾は漆黒の黒き色に染まり、己を誇張する。
その隣に、目を瞑って木偶人形のように微動だにしない『褒姒』が待つ。ただ、これから始まる話しに耳を傾けるのみ。妲己による発言及び華名達の言葉に挟むことは許されてはいない。
雰囲気からしてただ者ではないことを夜叉はいつも感じる。
力は衰えているとしても、その実力が本物であるのは間違いない。
『夜叉』という妖怪も現代において幅広く知られるが、『九尾狐』もその名から進化し続けている。その進化の速度と知名度の違いは現れ、彼らの立場は似て非なる。
「時間通りだな。時間に遅ればその魂を砕いても良かったがまぁ良い」
最初に口を開いたのは妲己である。挨拶には思えない下を見る態度。夜叉は気にする素振りを見せず、淡々と挨拶を述べる。
「今日、夜叉である私と人間の泉華名をお招き入れて下さり感謝致します。して、今日はどのようなご要件で3年ぶりに対話を?」
夜叉は姿勢を崩さずに物申す。華名は夜叉の背後から妲己を覗く。
しかし、夜叉の丁寧さも虚しく、妲己の怒りに触れてしまう。
「…要件だと?貴様、このワレに物言わせる気か⁉︎」
凄い剣幕で怒声をぶち撒ける。手に持つ装飾品を夜叉へと投げ付ける。
「やはりですか。怒りは想定以上ですね」
と夜叉はボソッと呟く。
「知った口で物申すな!ワレの怒りを知らぬ貴様らに口を挟まれたくはない!次に要らぬ言葉を発してみろ!貴様らの魂を贄にしてやる‼︎」
妲己の短気に夜叉は呆れる。
器量の小さい御方だと、そう思ってしまう。
妲己に配慮という文字は頭から抜けており、他の者の意見を聞かない。他人事に付き合うことを嫌う妲己には、夜叉の気遣いすら意味を成さない。
自分勝手な暴論が始まった。
「折角呼び出したというのにつまらぬ口を挟みやがって。ワレは毛頭無駄にはしたくない。ないのだが、貴様らの勝手な気遣いなどおせっかいだ!ワレの気が済むまで口を挟むなよ?」
誰もが全員口を閉じる。華名は大袈裟に口を両手で押さえ、突っ込まないように気を抑える。
夜叉と褒姒はただ無心に立ち尽くすのみ。
何故三人はそう堅い態度を取るのか?それは、妲己の話す内容の残虐性にある。
「古来中国は我が領土だった。そして、古都:霊脈もワレのものの筈だった。民も町も土地も木々も血も肉も生殺も魂も人権も尊厳もすべてワレのものでなければならなかった。国の妃として娶られ、ワレは人を処するのをこよなく愛し、時には自ら裁いたりもした。アレはまったく違う欲求が満たされていき、永遠によがり狂える娯楽だった。苦しむ様は皆違うが、あの悲痛を叫び、無実の罪で泣き喚く顔、救いのない中で縋り付く下衆の無様な姿は滑稽だったな!今は罪人が見つかれば命尽きるまで根こそぎ苦痛を味わせている。クククッ、人間なんかワレの気晴らしの道具だった、そうであった…」
口出さない理由。それは、妲己が無類の拷問好きと恐れられ、機嫌など損なえば命はないと誰もが恐れ慄くからだ。
妲己の価値観は恐れがない。というか、普通ならば閻魔大王に地獄を言い下されても文句の言えない大犯罪とも思われる大罪を犯している。
止める者がいなかった頃の妲己は好き放題に悪行をした。
天を憎み、人間を恨んだ妲己は自由翻弄に他者の命を愚弄した。
だが一人、妲己の悪行を食い止めた妖怪がいる。
「それなのにあの女は…‼︎ワレは仕掛けられた戦いに敗れ、地位を剥奪され、ワレの娯楽を全て奪っていったのだ‼︎人の殺生を抑制され、理由なく人間妖怪を殺せず、ワレから娯楽を奪いそれだけで飽き足らず、守護者としての地位を全て取り消した。妲己という名を侮辱され、それどころかワレの怒りを確固たるものにした神罰まで与えてきたのだ‼︎腹立たしい…!腸が煮える思い、これを晴らしたい…‼︎」
暴君の暴言や呪言が次々と口から止まずに漏れる。
妲己は來嘛羅を相当憎んでいる。
積年の恨みを晴らすべく、妲己は來嘛羅の命令に応じるつもりはない。よって、來嘛羅が如何に困っていようが手助けなど考えもしない。
寧ろ、それを逆手に取ろうとしている。
その思考は、殺の本能があるように自然と口に出る。
「そう!あの女が可愛がる人間を殺せば簡単に済む話。多くの人間を食らう女が男一人食べなかったのには訳がある。絶対的な力、または類い稀なる生気か霊力を持つ人間か…ククククッ、この古都では手は出せない。だが、抜け穴だなんて幾らでもある。童や餓鬼など幾らでも生まれてくるものだから、今更、罪人如きをただ裁くのは面白くないな。ならどうするか…」
不気味に嗤い、妲己の機嫌は快調になる。今話しかけたとしても先ほどの怒りに触れることはない。
真紅眼に宿る光は濁り、ドス黒い感情が渦巻く。
どうすれば鬱憤を晴らせるのか?
どうしたら自分を負かした女を苦しめるか?
どうやれば『契り』を犯さないで殺められるのか?
自分と向き合った妲己の複雑な思考はまとまる。
「女の命令がなんだ?ガキを古都へ導けだと?は!笑わせてくれるわ!人間など導いたところで破滅しかない!ワレの機嫌の足しにしか価値のない人間など導く必要はない!あの女の寵愛とほざき、保護した人間を八裂きにしてくれるわ‼︎」
妲己はひとり上機嫌になり、ずっと聞いていた夜叉に、漸く命令を与える。
「夜叉、貴様らに与える任は女が寵愛するガキを古都へ連れてこい。お前らには好きなだけ男を痛めつける権利を与える。そこのガキ女も良いぞ?男嫌いなら誑かされた男に罪悪感はないだろうからな」
夜叉は喋っていいと察し、妲己の思惑を聞く。
「マツシタコウスケという人物、妲己様は一体どうなさるおつもりですか?貴女様の願いを承りますが、その訳をお話して下さると助かります」
「知れたこと。古都の敷地内に入れなければ人を殺めても問題はない。ワレの土地に土足すら入れてはやらん。ガキが此処に入れるのは、既に亡骸として女へ差し出す時だ!」
紅潮した頬で愉悦な表情を浮かべる妲己。とても正気の沙汰には思えないぐらい人を殺める事に躊躇がない。
「……恐怖政治ですか?しかし、それをするにもカナ様は今の話を聞き震えてしまわれています。とてもではないですが、いきなり同胞を傷付けるというのは胸を痛めます。別の方法で貴女様の手に堕ちる方法を考えては如何でしょう?」
夜叉とて無碍に殺生をしない。それを遠回しで避けようとするのだが……。
「そこの女のガキの気遣いをしてどうする?所詮は加護で生きながらえなければこの世界を知らぬ下衆。貴様が肩入れするにも値しない人間に配慮があると思うか?」
妲己の言ってることは何一つ間違っていない。
妖怪は気紛れ。その通りに妲己は自分の意思で動いている。
人間に肩入れする考えはなく、近くにいる人間に対して愛着が湧かない。
妲己にとっての人間とは、同じにしか見えない個性のない死に際の豊かな種族という見解をする。
それを正しいと思うあたり、妲己の価値観は純粋な狂気なのである。
罪悪感さえあれば違うのだろうが、今の妲己にそんな負の感情は持っていない。
妖怪として生まれ変わった妲己には不要な感情でしかない。今更、妲己がそんな感情に同情することはない。
夜叉は妲己の先入観を改めて思い出し、小さく溜息を吐く。
「そうですか。助けるというのはせず、彼を殺せと命じるのですか?」
「痛い目を遭わせと言ったまでだ。貴様らはワレの元に死にかけの人間を連れてくれば良い。夜叉、決して殺す事なく連れてくる事だ。…良いな?」
「…承知しました、妲己様」
夜叉がそう頷くと妲己は怒りが吹き飛んだように大いに笑う。
「クッハハハ!愉快愉快!貴様はワレを怒らせたらどうなるかをよく知っている。だから生かしてきた。神という名誉を受けた妖怪は異様な強さを身に付け、貴様はその傾向が強い。逆らうならば容易であろうが、ワレに歯向かう意思は見せない、“四霊神獣”の奴等はワレに従わぬと言ってあの女が妖都に出ていってから一度も顔を見せなくなったがな」
夜叉は妲己が古都の守護者代理になってから1000年の間、一度も妲己に逆らうことなく従ってきた。
太古の妖怪である神々の伝承を持つ妖怪の殆どが妲己に愛想尽かし、消息不明と称して古都から立ち去った。最も巨大力を有する“四霊神獣”を失い、妲己ともいえども取り乱す始末だった。
夜叉はその中でも留まった数少ない一人で、古都から離れず、妲己に仕えてきた。
少なくとも、良心で残り続けたわけではない。自分の気持ち整理が欲しかったからだ。
そして、その時期は自然な形で訪れ、夜叉は古都から離れることを決心する。
夜叉は目的を見つけた。それに順ずるように、すぐさま行動に移す。
「お褒めの言葉、誠に嬉しい限りです。来月から古都を旅立ち、マツシタコウスケを捕えてご覧に入れましょう」
夜叉は膝をついて深く頭を下げる。その顔に不敵な笑み浮かべる。
夜叉は水を得た魚のように嬉々として、華名を連れて今夜に古都から立ち去った。
目的とは一体なんなのか?それは夜叉にしか分からない事実だ。
場から一度たりとも動こうとしない褒姒の表情は実に気味が悪かった。微笑も焦燥も愛憎も浮かべず、何を考えて立っているのかさえ探れないからだ。
目を閉じ、今だに妲己の考えが愚行などと唱えようとしない。褒姒は止めようとしない。
この結論に至ることを予め知ってたように、酷く冷静に物事を見据え、妲己に不愉快と視線を向けている。
(不快極まりない。これほど、『九尾狐』という血統を与えられた者が酷く醜いとは……。有難き血統であるというのに……。考えるだけ無駄ですね。胸が苦しい思いとはこういうことを言うものですか。來嘛羅様は何か考えがおありで…)
褒姒の嫌な予感は的中してしまった。
だが、來嘛羅がこんな分かりきった性根の腐った妖怪に気付かない方ではないと、褒姒はそう願った。




