66話 泉華名と夜叉
この名前、見覚えある方は多いかもしれません。
pixivで見て下さった方なら彼女達をよく知っていると思います。自分が初期に考えていたオリジナルキャラクターです。しかし、服装や能力、立ち位置は大分異なりますので別人と思ってもらって構いません。口調や考え方は一緒なので、紛らわしい部分はあったりするかと思われます。
松下幸助・新城悟美・泉華名・夜叉は小説を書く上で最初に自分が考えた愛着あるキャラクターですので、今後もこちらで起用していきたいと思います。夜叉だけは完全妖怪の名でこちらは活躍しますが。
作った好きなキャラクターが自分のオリジナルストーリーで活躍させたいのはありまして、是非とも、温かい目で見守って下さい。
場所は変わり、中国妖怪が住む古都:霊脈で動きがあった。
古都はどの都市よりも古い歴史があり、妖怪が最も数の多い都市。人間も妖怪と同様の暮らしが約束されており、この都市における犯罪行動はほぼ起きていない。
しかし、それは來嘛羅による妲己の暴虐が抑制され、『契り』によって妲己は都市に住む人間や妖怪に手出しができないようにされている。
歴史が古い為、日本妖怪に比べると太古の妖怪が多く生き残っている。普段は姿を見せないが、時には他の妖怪に紛れて気紛れに現れる。
妲己より強い妖怪も多く、中国妖怪には神話に基づいた存在もいる。中には、妖怪が人間に従うという稀なケースが起きている。
人の姿を持つ妖怪もいれば持たぬ妖怪も都市に溢れている。
そんな古都に、ある少女と妖怪は噂を聞き付ける。
付き人に渡された新聞紙を読み、信じられないと同情した表情を浮かべる。
「この男性って…まだ20歳じゃない人ですよね?」
付き人に尋ねる少女の名は泉華名。
12年程前、突如妖界に迷い込んでしまった人間である。
黒髪で肩にかかる髪は綺麗に整えられていて、額には赤い水晶が埋め込まれた黄金色のカチューシャを付けている。
澄んだ瞳を持ち、日本人としては珍しい淡褐色の目を持つ。
服は精霊少女のような格好をし、肌の露出は多少なりとも目立つ。
肉体は非常に幼く、12歳ぐらいの容姿を持つが年齢は20歳を超えている。加護による肉体年齢の操作で肉体を楽しんでいる。
付き人である彼女は人間のような容姿を持ち、おだやかな表情で姿体は豊満で官能的な美しい美女。
晋朝の漢服を着こなし、腰に身の丈よりも長い長刀を身に付ける。
蒼い瞳が特徴に髪が腰辺りまで伸び、その色は誰もが釘付けになる光沢ある銀髪。
「はい。マツシタコウスケという半年以上前に死んでこの世界に来た人間です。閻魔大王による罪の素性が明かすことが叶わず、妖界において初の“放浪者”と定められた人物でございます」
付き人は丁寧に説明する。華名はとても嬉しそうに彼女の話に頷く。
「そうなんですね!彼の悪行が不明って凄いんですね⁉︎」
「それもそのはず。彼は裁けぬ身で裁かれた哀れな人間なのですから。閻魔大王も人が悪いですね」
「ふふふ、それを言っちゃったら駄目じゃないですか?救世主と謳われた人が永遠を彷徨わなければならないだなんて。私には耐えられません」
他人事のように華名は幸助を馬鹿にする。
幸助の詳しい事情を知らない癖して華名は勝手に判断しているのだ。どのような経緯で秋水を倒したかを知らない者達にとって、幸助が成した事は認められない変化だった。
“変化”を嫌う妖怪にとって、妖都崩壊というのは幸助が起こした犯罪行為と認識されていた。下手をすれば、秋水の身勝手な支配よりも最悪だと認識をされている。
華名も悲しくも、幸助を正しく見てはいなかった。
だが、付き人は華名とは違い、人を見る目があった。
「カナ様、それは残念ながら違うかと思われます。恐らく、九尾狐による策略であると私は思います。彼はその傀儡か別の意味でマツシタコウスケを保護したのだと思われますね」
「んーそれはどうなのですかね?彼って馬鹿なのですか?」
「さあ…それはどうでしょう。少なくとも、これほど大きく取り上げられた彼の今後は危険なものでしょう。“放浪者”ということで此処にも訪れるかも知れない。用心に越したことはありません」
付き人は幸助の今後に興味があった。新聞の文字から読み取れる情報などたかが知れている。自らが見たものが正しいと個人主義者の一面を持つ為、彼を一目見たいと思ったのだ。
「別に合わないから気にする必要ないじゃないですか。それより、お腹空きましたので昼食を頂きましょう?挽肉饅頭や豚肉小籠包、ラー油麺食べたいです!」
だが、そんな付き人とは反対に、華名は自分勝手である。
付き人である彼女は親のようにニコリと笑う。
「分かりましたカナ様。では私も食事を頂くとします。カナ様は幾らぐらい食べられますか?」
「えーと、三品ずつが良いです!」
「フフフ、食いしん坊ですか?カナ様、そんなに食べるとお昼寝してしまいますよ?」
「大丈夫ですよ。それに、一食は『夜叉』も食べるんですよ?いつも私の食べてるところ見てるんですから。今日は夜叉の食べる姿を見たいです‼︎」
華名がそう言うと強欲な王のように注文してしまった。夜叉はそれを止めることなく美女の笑みを華名に向ける。
「「いただきます」」
注文した料理が揃い、二人は昼食を頂く。
華名は美味しそうに頬張り、本当に子供のような振る舞いをする。
しかし、中身は既に成人している華名。そうとは思えないぐらい口を汚くする。
「カナ様、食べ方が雑です。綺麗に食べないと可愛くありませんよ」
タオルで華名の口元を拭き取る夜叉。華名はそれを当然のように受け入れる。
「だって〜夜叉にこうやって貰えるのが嬉しくて、つい汚く食べちゃいます」
「笑顔で言われると返す言葉がありません。カナ様に負けた気がして悔しいです」
「ふふふ、もしかして嫉妬してます?」
「そうですね。カナ様の異能に嫉妬、してます」
「ええ〜⁉︎私自身じゃないんですか⁉︎」
「カナ様は異能に驕り過ぎです。その力がなければ、真っ先に大半の妖怪に敵にされてしまいます。私がこうして従っているのもそれが理由ですから」
華名と夜叉の関係は他には見られない主従関係に近しい関係。しかし、互いに嫌っているわけではなく、今の関係性を好んでいる。
『夜叉』は純妖であり、人間に対し敵心を抱く妖怪。時には恐ろしいぐらいの殺意すら放ち、人間の命を躊躇わず奪う妖怪として知られている。それと、人間には慈悲深き一面も持つ妖怪もある為、人間に友好的でもある。
伝承も古く、神話・精霊・悪魔といった妖怪以外の伝承も持つ為、妖怪の中でもかなりの強さに入る。
武器を手に取れば戦士となり、その強さは恐れるものばかり。刀術の達人として夜叉は知られ、妖術無しでも侮れないとばかりに鍛錬を積んだ実力は本物だ。
そして、神の伝承も存在するということで生まれた時より異能を持つ。
刀術・妖術・異能の面で夜叉は良件なのだ。
なのに、夜叉は華名という人間の女に心を委ね、気を許している。
「そう言わないで夜叉。私だって、ついにこの力の名前に心当たりがあります!もう直ぐ夜叉の力になれますから!」
華名が不安でしかないことを言うものだから、夜叉の気が弱る。
「そうは言いましても……」
「私は本気です!夜叉に守られるだけの女にはなりません!」
目は本気で訴えているのは夜叉の目から明白。華名の真剣さを無視しない夜叉は意外と甘い性格があった。
「根拠なし…というわけではないのですね?しかし、相変わらずの汚さですよカナ様?」
「むぅ…良いじゃないですか!夜叉に拭いて貰えるのですから」
「だから嫌なのです。貴女はもう少し節度ある大人を振る舞って下さい。私の加護で幼くなってから甘え過ぎです」
「でも…夜叉は私を見捨てないですよね?」
華名の口を拭きながら夜叉はいつも通りの説教をする。しかし満更でもなく、夜叉はこの関係に不思議と安心感を覚えていた。
「カナ様次第です。私はこのまま天寿をまっとうするまでは見守るつもりですので」
不意の告白に華名は両手で急激に真っ赤に熟れた顔を隠す。
「狡いです……。私がどうすれば良いのかはっきりさせないで」
「フフフ、カナ様には10回人生をやり直しても見つけられませんよ?貴女は興味あるもの以外、興味すら持たない人間なのですから」
「んふ、照れます…」
「照れるところが違います」
12年という妖界を生きる者にとって一瞬でしかない時間の中で、華名と夜叉という二人は姉妹のような関係を築き上げた。
普通なら不可能に思われた関係。
否、人間と妖怪がはらわたを見せ合えば、二人のような関係を築けるかも知れない。
幸助と雪姫でも深の内を晒したことはない。自分の恐れるものや失いたくないものを語ったとしても、本当の意味で分かり合えたことにはなっていない。
華名は幼い妹として、夜叉は面倒見の姉として。二人の性格を共有し合う彼女達の仲を引き裂くことは誰にもできない。
「食事も終えましたし、私達はやらなくてはならないことを致しましょう」
「ん?それってなんですか?」
「これから城へ向かいます。城から妲己が空間を繋げ招待して下さるので、我々は彼女から依頼される仕事を熟すことになっています」
「そ、そうでした…。妲己さん、はじめは私を殺そうとしていました…」
「カナ様は呑み込みが早いのでもう心配はないかと思います。彼女に再び命を狙われるのでしたら逃げて下さい」
先程の仲睦まじい雰囲気とは一変し、二人は真剣な話しを始めた。
華名と夜叉は妲己に特別に呼び出されている。
会うのは二度目。一度目は華名の不注意で妲己の怒りに触れ、危うく危機に晒されるところを夜叉が庇った。
それもあってか、二人は途轍もない嫌な予感がしていた。
呼び出された時刻が迫り、華名達は古都の中央にそびえ立つ城へと歩む。
足を進める度に、華名の様子に乱れが生じる。平然と居られるわけがなく、一度危険を犯した相手との対面は恐怖する。
息を整えようとするも華名はガチガチと口が震える。
(怖い…。太古の妖怪って優しい人達じゃないのですか⁉︎あり得ないです!あり得たくありません‼︎でも……あの妲己さんのキレ具合をもう一度見させられると思うと…うぅ、吐きそうです)
華名の認識は夜叉を基準にしている。それ故、妖怪全体の評価がかなり甘いのだ。
本物の妖怪の恐ろしさを理解していない華名は、妲己から発せられる身の毛もよだつ妖気に心底から恐怖する。
「ふ、ふぅ…」
手が震え、足が震え、心臓が不定期に乱れる。息を整えるだけでも口がままならない。
傍で歩く夜叉は華名の震える手をそっと握る。
「……カナ様」
一言、優しく声を掛けると華名の震えは一瞬で治まった。
「夜叉…」
「臆する必要など御座いません。妲己は昔はとても非情なお方でしたが、現在の妲己は力が劣り、今や玉藻前の足元に及ばぬ守護者。何があろうと、カナ様に指一本も触れさせは致しません」
夜叉の覚悟を見て華名は落ち着きを取り戻した。
「ありがとう夜叉。お陰で気分が楽になってきました」
「それは勇ましい限りです。カナ様は私の元から決して離れることないように」
夜叉は華名の緊張を解し、自分自身と試すことを決心する。
(では、太古の妖怪『九尾狐』の肩書を持つ『妲己』。貴女が何に激怒しているかは手に取るように分かります。私の妖術は他者の怒りを感じ取れる『逆鱗』を持っています。貴女はマツシタコウスケという人間、そして…その人間から“ある禁忌”に指定される名付けを受けた概念妖怪『九尾狐』であった來嘛羅様。貴女は二人に何を与えるのか?その訳を聞かせて貰うとしましょう)
『夜叉』は、あらゆる種族の感情、特に、強く刺激された感情を情報として思考を読み取る能力を持つ。
感情は全ての動きに直結する。夜叉は隔絶された妲己の憤怒すらも微かに感じ取るほどの微細な感知ができ、会う前から妲己の思惑を知る。
夜叉は知りたいのだ。來嘛羅が松下幸助という人間に拘る理由を。




