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妖界放浪記  作者: 善童のぶ
放浪前記
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65話 噂される玉藻前

鱗片で既に名が知れる玉藻前。その行動の真実は如何なるものなのか誰も分からず。多くの妖怪をざわつかせ、正体も今だに晒さないという妖怪の目的はなんなのか。



設定ですが、『九尾狐』に属する妖怪に3章で明かす地位や強さとは違い、九尾狐に関する地位があります。今後加護を授ける際に明かします。普通に聞いたことありますし、狐の妖怪が好きならば知っているものです。

この一部始終を來嘛羅は覗いていた。

來嘛羅は幸助を利用し、先程の戦闘を見ていた。他人の感覚全てを掌握する能力を使い、幸助が戦った腐った男を見て眉を顰める。

「うむ…厄介な妖怪が出てきてしまったみたいの」

「何故、來嘛羅様は手助けをしなかったのですか?」

女天狗は問う。

來嘛羅の結界内には幸助と雪姫を除いた者達が集い、先程の戦いを傍観していた。

「あの場で死ぬ事は視えなかった故、雪姫には任せても問題はなかったのじゃよ。まさか、幸助殿がすねこすりに名を授けていたとはの」

「驚くばかりです。幸助ちゃんは既に異能を他の妖怪にも使用してなさっていたとは…」

「俺もだな。來嘛羅様と出会う前に二人も成されていたとは…侮れん」

三人は『すねこすり』に名前が与えられていることに驚く。來嘛羅でも、流石に微細な事を把握しきれていなかった。

「驚くのもそうじゃが、腐肉として活動しておった男は既に死んでおる。雪姫が匿っておった人間が死屍ゾンビとして動いておったのもまたあり得ぬことじゃ」

「アレは動く死体だった。そう言われるのですか?」

「そうじゃ」

冷静にそう告げる來嘛羅。しかし、『未来視』で視ていた未来さきとは異なる。内心、先の違う未来に不信感を抱く。

あそこで襲われる自体、事前には存在しなかった。

また未来が変わったと楽観視できるものならば、どれほど楽なものだろうか。


それが出来ない状況だからこそ、來嘛羅はより慎重に物事を見る。


その上で、ある考えが過ぎる。


(此奴の生気は失せ、妖力で漲っておった。死屍と化した肉体であれ程の身体能力を有し、傷を受けても痛みに怯まぬ。記憶は抹消されたか改竄されたか……。人の尊厳を奪い、容易く人を操る妖術・異能は限られておる。妾の知見の限りでは、あらゆる道具を通じて祟る『付喪神ツクモガミ』。生ける者に取り憑き肉体を奪う『牛鬼ギュウキ』。不運な運命をいざなう『ツタンカーメン』。人の血を食し眷属を生む『吸血鬼ヴァンパイア』。人の死屍から新たな妖怪と変貌する『キョンシー』。死人に取り憑き肉体を奪う『死人憑シビトツキ』。死屍を食う為に奪う『火車カシャ』・『猫又ネコマタ』。この妖怪で可能性があるのならば『死人憑』じゃが。何か可笑しいの…)

これらの妖怪の中で該当する妖怪はいるが、彼等が悪事を働くというのはあまり噂にはしていない。

『死人憑』は死体に乗り移り悪さという事はあるが、世間に恐れられるほどの妖怪ではない。『死人憑』が人の亡骸に憑依したとしても肉体を扱えるだけに過ぎず、凶暴化するというのはない。酒や肉を食い散らかす妖怪である為、今回の腐った男は『死人憑』ではない。


吸血鬼ヴァンパイア』や『キョンシー』に近いと推測したが、常識ある妖怪が日本妖怪に集う町を襲う事はないと断言できる。

妖都・怪都・古都の都市は、閻魔大王の侵略不可という《契約》で取り決められている。

迷惑を掛けてはならず、互いに協力し合うという契約が古代より取り決められている。


この《契約》を知る者は來嘛羅と閻魔大王を除き、数が少ない。


妖術なら直ぐに判別できる來嘛羅であるが、異能となると違う。能力を判別できるが、それを行使した者を特定するのは不可能に近い。

だが、今回ばかりはそれほど難攻するものではなかった。

幸助から得た情報のみで、それは拍子抜けるほど早く答えを出せた。

(最都からの刺客じゃ。彼処あそこは妾の目が唯一届かぬ場所。偶然に見せかけた必然なる結果、妾の見透す未来を変えれる力を持って動いておる。間違いなく彼奴しかおらぬ)

來嘛羅は今の状況の危うさを察する。

恐ろしい存在が迫っている。來嘛羅の危機感知は伊達ではなく、確実なものだった。

「間違いなく“三妖魔”の『玉藻前タマモノマエ』の仕業じゃ」

玉藻前と名前を口にした途端、烏天狗と女天狗は点がひっくり返ったように驚いた。

「なんと⁉︎それは事実なのですか⁉︎」

「間違いない。彼奴は定期古都や妖都に刺客を幾人も放ってきておる。妾の未来すら変わったとなれば、その仕業は玉藻前しかおらぬ」

刺客と言う人間が数多く、しかも定期的に送られている。

そして共通する点は、皆が玉藻前の寵愛者だと名乗る。

捕まえ食らったが、その魂の鱗片に玉藻前の加護は一切なく、関与している筈の記憶すら失せている。消えた痕跡もなく、ただの戯言としてはあまりにも奇怪。


あまりにも奇妙な行動する玉藻前の動機が不明。迂闊に玉藻前と結び付けるにしては情報が欠如している。

「だが!來嘛羅様はあの妖怪とは信じていない口でしたぞ⁉︎なんと急な変則思考をなさるとは、何か決定的な証拠でも?」

烏天狗の焦りは表情に現れる。玉藻前と名前を聞いてから終始この状態なのである。

「決定的はない。これまで捕らえた魂に彼奴の残穢は見当たらぬ。じゃが、彼奴は誰にも姿を晒しておらぬのもまた事実。今回の件、他の妖怪に聞いてみれば直ぐにでも判明するじゃろうて」

全ての妖怪の目論みなど容易く看破する來嘛羅。その金瞳に真偽を隠すことが出来ない。

よって、妖都にいる全妖怪の思考を全て読み、その有無を暴く。


危機感を抱く一方、その心は誰よりも躍っている。太古の妖怪であっても、人間のような感情や価値観も存在する。

しかし、死を経験した事のない來嘛羅が誰かを本気で愛することは難しい。

興味や関心があっても、それが本気で芽生える事は今までになく、数多の人間の深層心理を掴む以外は、來嘛羅は人の心を知らない。

相手が何を欲し、何を生きる糧とし、何を成熟させたいのかを時の中で既に数え切れぬほど見てきた。

人間の欲求や欲望、穢れた一面、生死、物語、歴史を全て理解したと自負している。現に、來嘛羅の知識は人間には及ばぬ彼方に位置する。


そして、來嘛羅は妖界の始源はじまりを知る数少ない妖怪。永き時を生きる妖怪が知った事実。それは……。




自身が選別して加護を与えた人間は僅か三人。その三人は並の人間にはない特別なものを持っていた。


ひとりは天に召され、ひとりは地に召され、ひとりは手元にいる。

そんな松下幸助ひとりに興味を持った。ソレに過ぎなかった。

幸助を見た瞬間、他の二人と同じものを感じたのだ。


輪廻は巡り、全ては時を巡って巡り会う。必ず目の前に現れ、未来さきを左右する者。時代が変わっても、人間性が変わろうとも、それは訪れる。

それは全てに準ずるこの世界における仕組み(システム)だと………。

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