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妖界放浪記  作者: 善童のぶ
放浪前記
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64話 協力関係

こんな『すねこすり』が喋る作品ってありますでしょうか?自分的にはあまり知らないですね。なので、この作品ではよく喋らせたいと思います!

雪姫とすね子が今後、どのような関係性になるのか?かなり珍しい組み合わせではないでしょうか?



pixivの絵の方ですが、一応イラスト途中を投稿しています。ここから再度描き直ししたりしますので、時間の方は掛かるかと思います。思った通りだと思ってくれると嬉しいです。絵事態、自分は下手くそなので……。

「そう……興味があったのね。あなたは何に興味を持ったの?」

「そうだね、ボクは人が好きなんだ。人は生命力溢れる生気を持っている。ボクの妖術、体質と言ったところかな?触れるだけでボクはその生気を奪ってしまう。そういう妖怪なのはキミも知ってるだろ?」

すね子は自分の妖術を呪っている。

元々、亡夜の住民ではなく、すね子の妖術が原因で転々と場所を変えていた。

すね子は名を与えられる前まで、自分に触れた人間の生気を僅かずつ奪ってしまう。微小の為、数秒や数十秒触れていても大した事はない。

多くの人間が居た頃、生気を吸い取る事に罪悪感を抱かなかった。

まさか、生気を奪っているとは知らず……。

やがて、すれ違う人間が減り、触れられる人間も減った事で対象者が生気を吸い尽くされるという事故が起きてしまった。

自分を愛でてくれた人間を1年待たずに失ったのだ。原因は、全身の生気が消えてしまったからだ。


人間は生気を失えば死に直結する。

この時、すね子は自分のしでかした事に後悔し、人間から生気を奪わなくなった。

だが、『すねこすり』は人に触れなければ生存が困難な体質。死を選ぶことができず、数年ごとに町を変え、人間に触れながら必要な分を得ていた。


人語を話せるが、猫を演じていたのは人を騙せるからであり、無害な猫と思われれば、人間を騙しながら生気をこっそり貰える。

決してやりたいからやったのではない。他者に迷惑をかけてはならないと心理が働き、自分を知らない人間だけを対象に猫を被り、身体を擦り付ける。

動物妖怪の容姿を活かし、自身を妖怪と知られないように猫を演じた。


「それで、あなたは幸助に擦り付いて何をするつもりだったの?」

そんな話を知っているとしても、雪姫は理解したくないものだ。

妖怪の加護を受けた人間には、ある程度の妖術は効き辛くなる。それが幸運となり、幸助がすね子に吸われ尽くされる事はなかった。

「それは反省してるよ。ボクだって生きるためには生気が必要だったんだ。なるべく、他人との接触を拒んで生きようとはしてみた。だけど、そんな生き方は出来ない身体でね。数年の間に生気を取り込まないと死んじゃうんだ」

呆れながら溜息を吐くすね子。雪姫はそんな様子に冷たい息を吐く。

「できないのなら、その命を投げ捨てる選択はしなかった。あなたは自分が生きたいがために生気を吸い続けた。やはり、私には許せない」

「ちょっと待ってよ雪女!いや、違ったかな?今は雪姫という名で名乗っているらしいね?」

すね子は気を違う方へ向けさせる。このまま話しても埒がないと思い、話を逸らす。

「どうしてその名を…」

「知ってるよ。キミはそこの少年に名を貰った。有名になってるよ?この妖界の世界では、ね」

猫の笑みで誤魔化し、すね子は知ることを話す。

「噂は広がり、私達は有名になったわけね?で、どうしてあなたがそんな事に首を突っ込む?」

「だって、そこの少年が“ある禁忌タブー”を破ったんだよ?なのにキミとボク、災禍様は力を失っていない。それどころか、ボクは以前よりも力が増し、こうして流暢に話せるようになったんだ!そして感じたんだ。この少年は特別な人間だって事をね」

見た目に反する賢さを活かし、先程の自身の失言を忘れて貰う。

過剰評価と自分を棚に上げ、幸助を褒めるすね子。


雪姫はそんな褒め言葉に冷たい表情を解く。

「そっか…。幸助のお陰であなたは変わった。そう言いたいのね?」

「そうそう!ボクは少年のお陰で人から生気を奪わなくて済んだってわけだよ!さっき、ボクの芸当を見たかな?アレがボクが使える新しい力なんだよ!」

「力?妖術が変化したってこと?」

「不思議でしょ?でも、事実だったんだよ!生気を奪わなくて済むどころか、こうやって身を侵す邪気をボクの栄養にできるんだ」

得意げに語り、すね子は寝ている幸助の足元にすりすりする。

すると、体内に不可視となった残留する腐食がすね子に吸収され、幸助の苦痛の表情が安らぎの眠りへと変化するのに時間は要さなかった。

雪姫は幸助の安眠を見て胸を撫で下ろす。

「良かった…」

微笑み、ポツリと呟いた。

雪姫の表情を見たすね子は、身勝手で無理な頼みをする。

「このお礼なんだけど、ボクの話に乗ってくれないかな?」

軽い物腰で友達感覚ですね子が聞く。

「条件?」

「悪い話じゃないと思うよ?ボクもこのままひっそりと暮らすって訳でも良いんだけど。この少年の閻魔大王様による判決が“放浪者”だった。あ、大丈夫だよ?この話は妖界中に広まっているだろうし。その事でボクの話に乗ってくれないかい?」

雪姫はその話に乗る……訳ではなく、吹雪による冷気を発する。

「嫌。私と幸助の他は要らない。あなたは私の邪魔をする気なのね?」

『妖怪万象』に至らなくとも、身を凍らす吹雪がすね子を襲う。

「寒っ‼︎」

寒さに耐えられず、すね子は身を丸める。

「寒い筈。すね子、私の返事はこれよ」

すね子は直ぐに気付く。

(にゃっ⁉︎マズい!断られるか⁉︎)

言葉を間違えた。それとも、自分の態度が気に入らなかったのか。将又、別の感情で自分は拒まれたのか。危険を感じずにはいられない。


「ユフフ、怖いのね?妖力が凍り、神経も凍るこの氷は私の返事。確かに利便的な事を言ってくれる。けど、あなたからは人の子を甘く見ているような気配を感じた。確かに、幸助は私やあなたに名を与えた。妖怪が名を賜った時、妖怪は妖怪ではいられなくなる。残念ながら、私は妖怪ではなくなったの。そして、あなたも」

「ボクはまだ妖怪だ!現に力は衰えていない筈」

動揺し、体が小刻みに震える。雪姫は冷たい笑みを浮かべる。

「そうね、確かにあなたは妖怪のまま。化け狐は嘘で幸助を騙している。名を賜った時、私に変化が起きてた」

自分の変化を知るのは、すね子だけではなかった。雪姫も幸助から名を貰った時に体の違和感を感じていた。

「じゃあキミはどう言いたい訳なんだ?妖怪じゃなければキミの種族は?」

すね子はまだ真新しい妖怪ではあるが、雪姫が500年程前の妖怪であるのは知っている。

妖界において、今確認されている種族は三つ。主に人間界の伝承によって種族が定められている。

妖怪という肩書きのみを持つ妖怪を純妖。妖怪であるが人から生まれた者、若しくは元々人間だった伝承のある妖怪を混妖。人の身である人間。

この三種族に分かれている。それ以外はすね子は知らない。


だが、雪姫は幸助に名を貰った際に罪悪感と願望を抱いていた。

「あなたは妖怪で在りたい。それはあなたにとっては大事でしょうね。でも、私は妖怪が嫌い。いいえ、純妖という種族そのものが嫌いだった。人を食らうのに固執し、大事な人の子の命を奪う。そんな光景を生まれてから永遠に見てきた。あなただって、人間の生気を得なければ生き長らえない存在。もし、純妖になってしまえば、私は好きな人を食べてしまうかもしれない。でも幸助のお陰で悩みは消えた。名を賜り、『雪姫あな』と私に命をくれた。妖怪である私を好意に思ってくれた人の子は幸助しかいなかった」

純妖が理性がないとは言えない。だが、雪姫の目がその光景を見てきて、地獄のように見えたのだ。

混妖は純妖へと転換する特性を持つ。そうすれば、『妖怪万象』を獲得し、より強力な妖術を常に使用が可能になる。強さが物語るというが、妖界はそんな世界である。

その代償に、人間に対する食欲という恐怖しょうどうがその者を襲う。

食欲に取り憑かれた妖怪は我が身を忘れ、本能のままに食らう。そんな姿を見た雪姫は進化を拒んだ。

拒んだ結果、純妖になった妖怪に匿った人間を食い殺された。

進化した混妖は記憶が混雑し錯乱状態と化す。最悪、あまりの衝動に記憶までも失いかねない。それが仇となり、幾度なく人間は純妖に食われていった。

人を食いたくない。だが、力は欲しい。雪姫の強い願望は幸助に名を授けられた事で果たされた。

妖精の種族特性は不明だが、純妖と同様の強さへ進化しただけではなく、食欲という恐怖しょうどうに襲われることが一切ない。

妖精という未確認の種族として、『雪女』は『雪姫』に進化したのだ。

原理は今だに不明であるが、幸助の行動が雪姫の進化を促したのは紛れもない事実。


來嘛羅のみが、この事象に関する異能の正体を知る。それを隠匿している來嘛羅に対する怒りが雪姫にはあった。

來嘛羅は幸助をいいように利用する。

女の勘がそう告げるのだ。


「ボクは純妖のすねこすり。だから、どうしても生気を摂取しなければ生きられなかったんだ。キミは伝承が広い癖に純妖になろうとしなかった事も、人間を見殺しにしてきたことも知ってる!キミは自分の身が惜しくて力に手を出さなかったのだろう?自業自得じゃないか!」

すね子は猫の顔に似合わない形相を見せる。そんな形相を冷たい目で見下す雪姫。

「あなたは精神が未熟。そんなだから、純妖は理性を失いやすいのよ。動物派生の妖怪は人の子に手を出し過ぎた。あなたも化け狐も、ね」

「っ⁉︎混妖だったキミに言われたくはないよ!ボクはずっと動物の姿で人に寄っても可愛いとしか思われなかったんだ‼︎キミのような伝承が強い妖怪が羨ましい…‼︎」

自分が元から純妖であるのに力がない事を呪っている。それに対し、雪姫は混妖の分際で純妖に匹敵する程の力を持ちながらも進化しようとしなかった。

風の噂でそれを知り、すね子が嫉妬するのは無理もない。

力がない混妖が力を求めるのは兎も角、力がない純妖にはその資格はないとまで思い込んでいた。

「でも、今は大丈夫なのでしょ?幸助に名を貰ったあなたは」

「く…ククク、そうだよ?ボクは今幸福なんだよ!犬っころ猫風情がこんな力を得て、この少年に愛着を持たれるだなんてボクは嬉しいんだよ‼︎」

開き直りのような切り替えの速さだ。しかし、内心はすね子が伝えている以上に歓喜に満ちていた。


“ある禁忌”を科されたに関わらず、力を失わなかった以上に得た力は異常とも捉え、すね子は単純に喜んだ。

人を食らう妖怪ではないすね子は、自分の過ちを償えると心の中で思っていた。

そして、再び出会った幸助を見て、幸助達に近付いた。


「本当の意味で人の子を食らう事のできないあなたは信用してあげる。化け狐とは違って、簡単に表に出やすいから」

「え?」

「……私の返事はそういうこと」

すね子は雪姫の言葉に度肝を抜かれた気分になった。

即刻、自分が凍らされるとばかりに思ったからだ。


それがされないと分かり、すね子は凍てつく体を震わす。


雪姫はすね子を蔑ろにする気は更々ない。


敵心を探るため、雪姫は敢えて吹雪を吹かしたのだった。

逃げる者を追わず、向かう者を斬り捨てるという難解で恐ろしい選択を与えていたのだ。

すね子は別に敵対する気はなく、幸助に危害を加える気もなく、ただ雪姫の強い圧に臆して体が動かなかっただけだった。

雪姫が手を下す者は、幸助に危害になる者や人間を躊躇なく殺めようとする存在のみ。

臆した者に手を下すほど、雪姫は冷酷ではない。

逃げ出せば見逃していたし、襲ってくるから斬り捨てるのみだった。

「伝承より怖いよキミは。もしかして、その少年——」

「幸助と呼びなさい。あなたは見かけによらず口が軽そうね」

刀をチラッと見せつける。それを見た途端、すね子は態度を改める。

「ごめんよ。コウスケくんだったね」

「それならいい。幸助を馬鹿にしたり、侮辱するようなことがあれば容赦しない。私を変えてくれた人を蔑ろにされることが何物にも勝る怒りだから」

淡々と告げる。脅かす存在には容赦しないと警告する。

「分かったよ。で?ボクをキミたちの輪に入れてくれるの?」

「……それはあなた次第ね。あなたは妖怪といえども動物妖怪。幸助に危害を永遠に加えないという約束が出来るのなら構わない」

「それなら良かったよ!入れてくれるならボクはキミたちの足になるよ‼︎」

すね子は誇らしく胸を張る。

雪姫には嫌に見えた。

「それは…ペットとして?」

嫌な予感がしたと言ったらいいのだろうか。雪姫はすね子の曲者感を見抜いていた。

それは返事と共に実感させられる。

「そうだよ!できれば、コウスケくんの使い魔としていさせて欲しいんだ!荷物運びや移動、危険地帯への捜査なんか請け負うつもりだよ!雑用だってなんだってやってあげる」

「そう……」

「その為にキミたちが亡夜に来るまで猫を被って待っていたんだよ。でも、まさかこんな事態に遭うとは思わなかったけど…」

雪姫は幸助に見せられないほどの人間味のない表情をした。冷たく、生き物を見る目をしてなかった。

(幸助……あなたは何を拾ったの?『すねこすり』だとは思うけど、別の何かを吹き込んでしまったのね。可哀想に…)

雪姫は誰に憐れんだのか分からなかった。それほど、目の前のすね子に対する動揺が酷かった。

「そんな顔しないでよ!人をゴミみたいに見下す目をしないで欲しいよ」

「人ではないでしょ?あなたがあまりにも不愉快な態度だったもので、思わず訳が分からない顔をしてしまった」

雪姫が声の調子を変えずに言うものだから、すね子はがっかりする。

「冷たいな〜。ボクをそんな風に思うなんてやめて欲しいよ。これから一緒に旅するんだから」

「心外ね。私は普通に接しているに過ぎない」

「流石にその接し方は冷た過ぎるよ。ボクは良いとして、コウスケくんには悪いと思うよ?」

「っ⁉︎」

幸助の名前があがり、雪姫は目を細める。

「キミ、そこで寝ているコウスケくんのことが凄く気になってるんだよね?」

「それが何?あなたには関係ない話」

「そうでもなさそうな気がするけどね」

すね子は無邪気に言う。

「何か言いたそうね?」

「うーんやっぱり良いかな。キミは妖怪だし」

「……?」

「とりあえず、ボクはキミたちのペットで付いて行ってあげる。じゃあ…後はコウスケくんが起きるのを待つだけだね。ボクはまた猫を被るからよろしく!」

すね子はそう言うと猫を被り、「にゃ〜」としか言わなくなった。

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