63話 すね子
第1章のキャラクター再び登場!
覚えている方いるでしょうか?彼も再登場させました。それと同時に彼の本性はどんなものなのか?今後の展開を期待してて下さい。名前の件、1章で間違えていました。『すねこすい』ではなく、正しくは『すねこすり』でした。時間ある時に訂正しておきます。
それと、いよいよ妖都以外の都市の状況やキャラクター、妖怪も現れます。オリジナルキャラクターですが、この章でも転すらで起用していたある人物達も登場です。実は名前の参考をある妖怪から取り決めたものなんです。呼び方も好きで、かなりお気に入りです。
ここでお知らせがあります。
来週の月曜日から水曜日まで投稿休ませていただきます。事情により数日は投稿しないので、待ち遠しくなってしまうかもしれません…。
騒ぎが収まり、野次馬を作っていた妖怪達は雪姫に寄る。
「ありがとう。お陰で死者は少なくて済んだ」
雪姫に対し、皆は礼を言う。
雪姫の表情は冷たく、礼を受け取る。
「そう……。でも、九人は助からなかった」
「それは別に良いんだ!そうじゃなきゃ、こっちが助からなかった。寧ろ、雪女のお陰で助かったってもんだ」
「そうね。後、少し宿を貸して頂きたい。怪我をしている人がいて」
死者が出たとしても、大半の妖怪は動揺しない。
妖怪は自分の命を優先する。その気になれば、住み慣れた土地すら捨てることも厭わない。
名のない妖怪が死ねば消えるのが常理。名のある妖怪は死んだとしても生き返るのも常理。
野次馬を作っている妖怪は殆どが名のある妖怪であり、逃げていたのは名のない妖怪だった。
名のない妖怪は命を重んじる。但し、自分の命を優先する傾向がある。
妖怪人間問わず、勝手な争いに巻き込まれる事は良くあることだ。
秋水のような都市そのものを支配するといった大胆な行動は稀なのである。
幸助もまた、小さい争い事に巻き込まれたに過ぎない。
雪姫は宿を借り、幸助の治療にあたる。
「肋骨玉砕に臓器破裂を起こしてる。あの時の怪我より酷い。そして、何よりも処置が大変なのはこの腐食が進んだ皮膚ね」
雪姫は冷静に冷気で破裂した箇所を凍らせる。治療経験がある雪姫からすれば、幸助の肉体損傷は焦る事はなかった。
だが、腐食を見つけた途端、雪姫に焦りが生じる。
幸助が攻撃を食らう前に体を凍結させた事で、腐食の侵蝕を抑えている。
油断は出来ないが、來嘛羅に治療を任せれば全てが解決する。
しかし、雪姫の自尊心が許さない。
治療は一度して貰った。前回は精神面を改竄し、一応恩を感じている。だが、來嘛羅の事を完全には信用していない。
幸助が來嘛羅を好きだと知り、複雑な心境で協力しているに過ぎない。雪姫にとって、幸助の安全と幸せを一番願っている。
今回は一人で治療を行い、幸助に取り憑く腐食を取り除く。
だが、雪姫には腐食を取り除く術がない。
「どうしよう。腐食自体を凍らせ切り落とす手段はあるけど、暫くは動けなくなる。でも……それで良いかも知れない」
自分が世話をすれば良い。そう邪念が脳裏を過ぎる。
何かに取り憑かれたように、雪姫の手は自然と幸助の服に伸ばしていた。
「そう、幸助が怪我を負ったのだから仕方がない。私が助けるのだから、数ヶ月は私が世話してあげれば良い。幸助を治療するのだから文句は言われない筈……」
雪姫は幸助の服に手を掛ける。
服を脱がし、自身の妖術で感覚を麻痺させながら腐食した部分を切除する。雪姫は冷静に手順を確認し、幸助に刃を入れようとする。
しかし、頭は冷静なのに手に持つ刃が動かせない。幸助の胸に切り込もうとした瞬間、踏み込んではならないと手が止まった。
幸助に手を掛ける。その行為は、雪姫には出来なかった。
「っ……ごめんなさい。私には、できない…。幸助の腹に刃を入れるのは……」
助けたい人に刃を入れるなどできるわけがない。雪姫は脱がした服を着せ直し、刃をしまう。
治療は凍結のみに済まし、後は來嘛羅に任せるべきだと判断する。
自分が勝手に治療し、手元が狂えば命を奪いかねない。それを踏まえ、雪姫は治療をやめた。
正しい判断をしたと自分を納得させる。
しかし、二人の空間に思わぬ妖怪が入り込んでくる。
「にゃお〜」
猫の見た目をし、オレンジ色に近い茶色のまるまる太った人懐こく愛くるしい。
以前、幸助が『すね子』と名付けた『すねこすり』だ。音もなく、雪姫の足元にいつの間にか纏わり付いていた。
「……すねこすり、一体、何用?」
「にゃあー!」
雪姫に目もくれず、何を思ったのか、幸助の腹のところに座り込んだ。
しかも、幸助が大怪我をした箇所に躊躇いなく寝転がるように。
雪姫は配慮ない行動に激昂する。
「すねこすり!常識的に考えなさい‼︎」
凄い剣幕で一喝する。思わず、逃げたくなる程の鬼のような形相だった。
怪我人の上に居座る行動に腹を立て、雪姫はすね子を首元から摘み上げ、怒りのままに投げた。
「にゃあーーーっっ‼︎」
「幸助のお腹に居座るな!出ていきなさい!」
「シャアアッー‼︎」
歯を剥き出し、毛を逆立たせて威嚇するすね子。
「人に恋しいからって幸助に近付いて、あなたが動物だから油断した」
この世界の妖怪は、人型を模る妖怪と動物を模る妖怪に分けられる。人型は伝承が強い者が多く、一見では判別が出来ないほどの人間の容姿を持つ。これは、人間に対する友好的な接触を試みようという妖怪の思惑が姿として表に出ている。同時に、女性型の妖怪の多くは、男性を騙し食らう性根を持つ。
一方、動物を模る妖怪は愛くるしい容姿で好感度を自然に抱かせ、隙あらば人間を食らうようなタチの悪い妖怪が多い。
中には雪姫や烏天狗のように人に危害を加えようという意思のない妖怪も存在する。しかし、それは一握りに過ぎず、人間に危害を加えないという妖怪は稀少。
物理的から精神的、更には非科学的に彼等は人間に影響を与える。
自然現象や人間心理、魔界不思議な存在として伝承に記されている。
人間の深層心理へ巧みに擬態し、妖怪は人間を虜にする。
雪姫は幸助の傷の変化に気付く。
「あれ?腐食が…消えてる⁉︎」
凍結していた箇所の腐食がなくなり、完治していた。すね子が座り込んだ部分が腐食しており、雪姫でも治療の施せない腐食が跡形もなく消えている。
消えた腐食部分を見て、雪姫はすね子に対する警戒心を抱く。咄嗟に刀に手を添え、すね子を強く睨む。
「目的は何?私への見せつけにしては出来過ぎてる。私の前に二度も現れておいて、そんな愛嬌くるしい姿で何がしたい?」
「にゃっ!にゃお〜!」
「喋れる事は知ってる。最近、あなたは人語を理解している部分があった。恐らく、幸助が喋れると知れば怖がるから、だから喋らないのね?今は意識がない。喋らなければ此処で始末させて貰う…」
雪姫のように妖怪に仇をなす妖怪は珍しく、自分の立場を悪くしてまでも人間を匿う行動は他の妖怪には理解されない。
人間に危害を加えるのなら、妖怪であれど容赦しない。雪姫に目の敵にされた妖怪の運命は無いに等しい。
当然、『雪女』の名を知る妖怪は、そんな彼女を敵に回す方が烏滸がましいとまで考え、大抵が名のない妖怪が雪姫に葬られてきた。
そんな恐ろしい妖怪の前で、すね子は人語を発する。
「ごめんね。キミのような妖怪に命を取られる真似をして。でも安心して、ボクはキミたちに興味があって近付いただけだから」
その声は童子のように幼く、スラスラと口が動く。臆する様子はなく、興味ありげに雪姫に話す。




