61話 悲劇は唐突に
平和ムードから一変、最悪な展開へとなりました。
ここで初めての死んだ者の描写が入っています。一章はまだ死者の描写は無かったのですが、ここからは増えていくかと思います。
最近、pixivの方投稿していない件ですが、これはちょっと事情とかじゃなく、シンプルに同時進行が疲れただけです。なので、勝手ですが、ゆっくりペースでやらせていただきます。
今週中に妖界放浪記のイラストをpixivで投稿します!漸く、キャラデザがなんとか決まりました。
誰なのかは楽しみにしてて下さい。
不定期ですが、來嘛羅・幸助・悟美・紗夜・烏天狗・女天狗・天邪鬼・分華・九華を投稿しようかと思います。
今後も彼らは出てくるので
俺は雪姫と一緒に亡夜へ戻った。
俺が半年ばかり過ごした町を去らなければならず、雪姫が所有している家を売り払う手続きに来ていたのだ。
所謂、立ちのきという行事が始まる。
雪姫に全ての手続きをして貰っている。俺は売り払いや様々な手続きに疎いし、やったことがないから任せっきりだ。
手続きが全て終わるまで2日は掛かる。その間、俺は住処の必要な物は整理する。
「おい雪姫?俺の服、知らねえか?」
「服?」
「俺がこの世界に来た時の服だよ。あれ、俺の思い出の一つなんだが…」
私服を探してみたのだが、一向に見つからない。雪姫に預けたかと思ったんだが、何処に置いてしまったのか忘れてしまった。
「……知らない。もしかしたら、妖都の服屋に置いてきたのかも知れない」
雪姫が知らないと一点張りなので俺は苦笑いする。
「そっか、じゃあ消えちまったんだな。そっか…」
「……」
思い出の服がなくなったのなら仕方がねえ。
雪姫が胸を撫で下ろし、少しばかり安心したような表情を見せたのは俺の気のせいだろうか?
本当に人らしい仕草が多くなった気がするな。俺を匿ってくれてから接しやすくなったな。
でもな、流石に雪姫の冷たさは変わらねえけど。
「俺、少しこの町を回ってくる。最後の観光気分でもしてくるわ」
「幸助これ」
雪姫が吹雪を吹かせ、物を取り出す。
「ただ歩くだけじゃ駄目でしょ?観光なら、好きな物を食べてきていいから」
俺に渡されたのは少し多めの札。これを優しく渡されたのだ。
普段、俺にこんなにお金を渡すことなんかなかった。というか、俺の買い食いがバレてから没収され、一切の金銭を持つことが許されなかった。
「雪姫はどうするんだ?」
「私は食べなくても大丈夫。まだ手続きしないといけないから。幸助は好きに出歩いてて良い。但し、遠くに行かないこと」
今日はその制限を解除してくれるみたいだ。
「分かったよ。じゃ、俺は好きな物食ってくるぜ」
俺は久しぶりにあの店に行きたかったから、迷わずに足を踏み込んだ。
魚を焼いている姿を見て、俺は心の底でホッと安心感に包まれた。
「久しぶり!婆ちゃん」
「まあ!あの時の男の子ね?随分、久しぶりな気がするね〜」
俺が挨拶すると、狸の婆ちゃんが驚いたように嬉しい挨拶を返してくれた。
「ちょっと妖都に行っていてな。暫く帰れなかったんだ。で、今日は思い出に会に来たわけなんだが…」
「あー!あんたの噂はこっちまで来てるよ!しかし、あの人間を倒してくれたんだってね〜‼︎」
「あはは…ちょっと照れるな」
正面から褒められた。別に親しい柄でもないかもしれないが、俺にとったらこの人が始まりだからな。秋水の野郎の話を聞いたから、逆に助かった。
「今日はおまけ、付けてあげる!災禍様で荒らされる九尾狐様の加護を持った時は驚いたさけど」
狸の婆ちゃんには心臓に悪そう。
俺の加護は妖怪に視えるらしいから、加護を受けた俺は普通の妖怪じゃあ怖いものだろ。
「わ、悪い…。俺の加護は凶器に見えちまうもんな」
悪い気がして謝った。しかし、狸の婆ちゃんは悟った笑みをする。
「あんたは恵まれているよ。とてもね。太古の妖怪で在らせられる九尾狐様のご加護を受けたあんたはこの上なく幸せに近い場所にいるんだよ」
「それは分かってる」
「即答も嬉しい反応。その反応からすると、あんたは九尾狐様に恋心を抱いていると見えるがね?」
簡単に見破られた。でも、隠す理由はないから問題ない。
「そうだよ。すっごくな」
「うんうん、あんたは素直な子だね〜。はいこれ」
「ありがとな」
俺は魚を九人分購入する。
なんで九人分かって?烏天狗や女天狗、悟美、紗夜、後は來嘛羅が助けた双子、そして雪姫の分を買った。
仲良くしたいっていうのもあるし、これから先で一緒に分かち合う仲になれると願い、俺は魚を買ったのだ。
美味いんだよな、此処の店の魚が。雪姫が偶に買いに行ってる店だったし、俺もこの魚は凄く気に入ってる。
袋に入れて貰い、俺は他の店へと歩き回った。
天邪鬼を探してみたが、一向に見つからねえし、すね子も見ない。
亡夜が故郷かと思ったが、あの二人はどっか行っちまったのだろうか。
でも、今は観光を優先だ!楽しんで、後で雪姫と一緒にご飯食べるか。
俺は浮き上がった喜びを感じ、満喫しようと臨んだ。
しかし、既に恐ろしい出来事が起きていた。
「きゃあああーーーっっ‼︎」
一瞬耳を疑った。誰かの悲鳴が響き、俺は咄嗟に体を悲鳴の方へ向ける。
悲鳴と共に響く轟音に、俺は耳を塞いだ。
「なんだ⁉︎何か起きたんだ?」
野次馬が集まる方向へ走って向かう。同時に、逃げて行く妖怪達とすれ違う。
一瞬、雪姫が巻き込まれたのかと思ったが、方向が全く真逆だと思い安堵した。
だが、俺はある不安が襲う。
火の手が上がり、一瞬で屋台が爆発して爆ぜる。
「おい⁉︎あそこって…さっき魚買った場所じゃねえか‼︎」
悲鳴は止まらず、大地を鳴らす轟音が響く。どうやら、戦闘が起きているようだった。
何か暴れているようで、既に収束できる状況ではなかった。
「おい‼︎何があったんだよ⁉︎」
俺はすれ違う妖怪に切羽詰まったように聞いた。
「に、人間が暴れている‼︎お前さんも早く逃げな!アイツはバケモンだ‼︎」
錯乱しているのか、妖怪は頭を押さえながら行ってしまった。
確か、人間は俺以外には居ないって……。
この町に人間が紛れ込んでいた?いや、狸の婆ちゃんが見間違える筈がない。
俺は狸の婆ちゃんが巻き込まれてるんじゃねえかと脳裏に過ぎ、落ち付けなくなっていた。
目の前で死人なんか見たくねえ。頼む!誰も被害出るんじゃねえぞ‼︎
勝手な願いで俺は足を動かす。思ったよりも早く着き、俺はその場所に着いた。
「っ⁉︎かっ…あ…あ…⁉︎」
目を塞ぎてえ光景を目の当たりにした。
俺の願いは脆くも砕かれてしまった。
しかも、一番思いたくない出来事に俺の気は大きく乱れた。
「うわあああっーーーっっ‼︎」
初めて見る妖怪の死体。上半身と下半身の分かれ、地を這いつくばう妖怪。容赦なくぶち撒けられた赤い液体。脳髄が飛び出て、俺の足元には丸い球体が転がっていた。目だった。しかも、その目は少しばかり気味悪く動く。
九華を刺し殺した時よりも衝撃な光景だった。
あまりの光景に腰を抜かしてしまった。
異形種を見た時よりも、悟美の狂気じみた強さよりも、來嘛羅の時の威圧と比べるまでもなく感じる。殺意、失意、苦痛、逃走心がごちゃごちゃで体と脳が震える。
思わず吐き気が襲ってきた。我慢出来ず、俺は大きく吐いてしまう。
気が動転し、俺は息が吸えなかった。
しかし、それがなかったような落ち着きを取り戻していた。
目の前の光景を見た瞬間のみで、二度認識すると俺は動じなくなった。
「っ……婆ちゃん…」
俺の足元にしがみつく人に見覚えがある。最悪だ。俺がさっき会った人じゃねえか。
「あ…あ、あんた……」
悲惨な姿になった狸の婆ちゃん。
血反吐を吐きながらも、必死に俺を離さんばかりに強く掴んでくる。
俺は立ち上がり、狸の婆ちゃんの様子を見た。
だが、もう体が真っ二つにされており、間も無く死ぬというのが俺には分かった。
「何があったんだ…?あんたの仇を取ってやる。教えてくれ」
助けるとは言えなかった。
俺の異能は《名》で、どんな能力なのかはよく理解していない。
少なくとも、万能な力ではないのは明確だ。
せめて、仇討ちはしたい。この人の為に無念を晴らしてあげたい。
「さ、サイ……災禍様の手練れ。あんた、逃げなさい。若い命を無駄……に、しない……」
最後まで言い切れずに息絶えた。
本当の死を間近で見てしまった。
俺の中の感情は滅茶苦茶怒りが噴き溢れていた。
死に際に後悔ばかり考えていた俺とは違う。狸の婆ちゃんは俺に警告してくれたんだ。
無駄にするつもりはしたくねえ。
だけど、俺にはそんな選択肢は考えられなかった。
妖怪が死んだんだ。俺の目の前で後悔をしないで。ただ俺に警告する為に自分の最期を迎えた。
俺は刀剣を取り出す。そして、狸の婆ちゃんや妖怪の怨みを喚び込む。
秋水の時よりも殺意が湧いた。それは本能で理解した。
それに伴い漆黒に染まる。俺の心も刀剣も今や同じ色。ドス黒く、何もかも黒く染めたい。
染まり切ったのなら、俺の覚悟も妖怪の仇になるんだろう。
「悪いな雪姫。俺は妖怪が好きなんだ。無惨に殺された妖怪を見て、俺は人間を躊躇いなく殺したくなっちまった。俺、最初から人が嫌いだったんだよ。人がなんだよ…ふざけやがって!妖怪を殺した奴はクズだ‼︎」
殺した張本人を追う。




