53話 我儘な妹
これはちょっと微笑ましいですかね。
嫌な雰囲気を少しなくさせ、こういう感じも良いでしょうか?
それにしても……この少女はよく食べること。
よく財布が持ったと言って良いでしょう。
明日は事情でお休みさせていただきます。
ゆっくり休みたいので、投稿は日曜日にします。
少女を連れ、ちょっとばかりのお兄ちゃんを演じる事にした。
悟美や紗夜の事も、九華の事も気にせず、交流会そっちのけで妖都を歩いた。
「何処行くか?お前が行きたい場所で良いんだぞ?」
少女は妖都を初めて見るようだ。
目を輝かせ、道行く妖怪や人を全て確認していた。
子供のようにはしゃぎ、欲しいと言わんばかりに店を指す。
「あれ!あれが行きたい!あの美味しそうな豚の揚げ物がのったご飯が食べたい!」
喋れないのかと思ったが実は違った。見世物小屋に居た人達が怖かっただけだったのだ。
流暢に話すが、容姿に似合う子供っぽさで俺を誘う。
「お、おう…良いぜ」
少女が行きたい場所を行ってあげる、そう決めたんだ。
さっき食ったカツ丼屋は、ちょうど少女が指差した場所だ。
胃もたれしない事を祈る……。
「うっ……食えねぇ…」
このカツ丼は美味かった。だけど、二杯目は胃がキツい。
「うまい!うまいうまいうまいっ‼︎お兄ちゃん美味しいよ‼︎」
少女の腹が可笑しいのか俺の腹が小さいのか、少女はかき込むように食べてる。既に四杯も腹に入っていくのを見た。
「よく食べるな…」
「うん!お兄ちゃんが美味しい食べ物をご馳走してくれたから我慢出来なくて!」
「食べ盛りなんだな⁉︎まあ、好きなだけ食べろよ。俺が払ってやるからな」
俺は苦笑いして、少女の食欲にニコリと見守る。
「うん!お兄ちゃんもっと食べていい?」
「い、いいぞ。俺が奢ってやるから」
妖怪の食欲は恐ろしかった。
「ふぅあ〜もう食べれないよ。お兄ちゃんごちそうさま‼︎お金…大丈夫?」
「……大丈夫だ。俺に任せろ…」
俺は所持金を使い果たした。
一円貰ったのに、カツ丼代だけで全部持ってかれた。
今日は、他に使える余裕はないな。
俺を兄と認めてくれたのか懐いてくれて、手を繋いで歩いている。
生まれたばかりの妖怪と、それも、俺が誕生させた妖怪と居るのは不思議なものだ。
容姿は俺が想像した通りなのが謎に気になる。
俺は少女に聞いてみる。
「お前、どんな妖怪なんだ?」
俺が生み出したか憶えているのだろうか?誕生したばかりの妖怪はレア。この際、興味本位で聞くのもありだよな。
「んぅ?」
少女は首を傾げて自分を指す。
「どんな妖術が使えるんだ?何か見せられるものでもあるか?」
「よう…術?」
「そうそう妖術。手から放ったり、獣に進化したり、相手を支配する力とか使えたりするのかって聞いてるんだけど……出来そうか?」
妖術は知らないようだ。
混妖は、伝承にない妖怪が生まれた直後、妖術を獲得していないのが普通なのだ。
「うーん……お兄ちゃん、言い辛いんだけど…」
少女は俺に手招きし、「耳を貸して」と俺は聞く姿勢をとる。
もしかして、相当ヤバい妖術を持っているのかも知れない。この子は俺が妄想したから複雑な妖怪なのかも知れない。
期待値を上げて、俺はソワソワする気持ちを抑えながら耳を貸した。
「言い辛い事なら言ってくれ。黙っておいてやるから」
「ホント⁉︎」
「勿論だ!」
嘘じゃない。この子のお願いだったら聞いてやる。
少女は顔を赤らめ、俺に小さく囁く。
「お腹……空いちゃった。ご飯…食べたい」
「………」
期待を裏切られたとは、こういう事を言うんだな……。
俺は静かに悟った。
雪姫から貰った手持ちはもうない。
一円は約二万円程の価値がある。
それを1日で散財してしまったのだ。
大学生活をしていても、1日で一万飛ぶ事はなかったぜ。
カツ丼一杯五銭。
値段はやや高めだが、そのボリュームと使われている豚に文句がなかった。
妖界に生息する妖豚は脂が乗ってる。
妖豚の肉と脂は口溶けがよく、様々な肉料理に使われている逸品。
交流会で何度も口にしたが、串焼きも豚汁も美味かった。
俺は一杯食べて、俺の奢りで悟美達に奢った。
で、悟美と分華は容赦なく食って、昼代は四十銭とまあまあした。
今日も金が残るかと思って期待したのだが、雪姫から貰った一円は少女の食費で消えた。
幾ら食ったと思う?
……カツ丼八杯食いやがった。
他にも、町中で見つけた魚焼きや焼き芋、焼きそば、りんご飴で消えたよ。
お陰で一円は昼飯で消えた。だが、俺の懐はまだ残ってる。
幸い、10日間で一円以上は密かに貯めてある。雪姫には内緒で貯めてるものだから、見つかったら没収だ。
そして、少女は俺の金で美味しそうに食べてる。
罪な奴だな。
思うがままに食べる姿を見て、俺は癒される。
少女の腹は底なし沼のように、俺の財布は減っていく。嬉しい悲鳴だが、俺のお小遣いが消えていくのは涙が止まらない。
「次、お好み焼き‼︎ソースたくさんが良いっ‼︎」
「良いぜ。俺も少しだけ食べて良いか?」
「うん!お兄ちゃんも食べよ!」
妹が出来たように可愛がり、俺は存分に甘やかした。
………。
……。
…。
「ふぅあ〜!もう食べれないよ〜。たくさん食べてみて、カツ丼が一番美味しかった‼︎」
純粋無垢な眼差しでお礼を言ってくる少女に対し、俺は作り笑いをするしかなかった。
本当に……全部消えちまった。
財布を確認するが、もう十銭しか残っていない。
でもなーここまで甘やかせるなんて、俺もお人好しだな。
この子に使った金額が妥当な気がする。
「良かったなーそんな幸せそうに食って」
そう言って、俺は少女の頭を撫でた。
少女は幸せオーラを発していた。
「うん!今日が初めてのご飯だった事が幸せだったよ!カツ丼、串カツ、串焼き、焼き魚、焼き鳥、たい焼き、お好み焼き、焼きそば、唐揚げ、茶漬け、マグロ丼、いくら丼、海鮮丼、焼き芋、かき氷、りんご飴、小倉トースト‼︎いーっぱい食べさせてくれてありがとう‼︎」
この子の食事は今日が初めて。
貴重な初食を楽しませられたのだ。
それを聞いて、嬉しさが込み上げてくる。
「お礼って…こんな嬉しいものかよ。お前が初めてって聞いて、可哀想と思っちまった。だけど、幸せな顔を見て、助けてあげられたのは良かった」
「お兄ちゃんに助けて貰えて、それだけで凄く幸せな気持ちになった!でも…お兄ちゃんの厚意に甘え過ぎちゃった…」
「へこんだ顔をすんなよな。俺はお前の事を思ってやった事なんだから気にすんなよ?別に返して欲しいと思わないぜ」
「うん…‼︎」
頬を染め、少女はニンマリと笑う。




