表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖界放浪記  作者: 善童のぶ
放浪前記
51/265

50話 親心

ここからこのストーリーの重要性のある話となります。やはり、ただの日常系はいい気もしますが、この世界の恐ろしさも書いていますので、多少の戦闘もあります。

長めの戦闘は書くのが苦手なので、かなりあっさりしているかと思います。

翌日、雪姫から再度小遣いを貰い、宿屋を出て行く。

「幸助。もう少し使うお金を考えなさい。このままだと、持ち手がなくなる」

毎日一円渡してくれる。それに文句は言わないが、今日は少し嫌な表情をしていた。

どうやら、毎日渡していると旅への備えがなくなるらしい。

ちなみに、俺に妖界について教えてくれた無名からは、かなりの金銭を貰っていた。


この世界の値段に換算すると約一万円。


で、これを俺がいた世界に変えると、約二億だった……。




……可笑しいだろ?

つまり、異世界ボーナスは刀剣だけじゃなく、この重いお金だったのだ。

無名が俺に躊躇いなく金銭を渡した事実を改めて理解すると怖くなってくる。

使って大丈夫だろうか……?


その為、俺は僅かだけ使って、次会った時に返すつもりだ。

会える日が楽しみで仕方がない。


「大丈夫だって!雪姫の懐だけでやりくりしなくて良いからさ、俺の財布から出しても」

「それは駄目。そうやって、自分で稼いだ金銭じゃないのは当たり前に使わないこと。幸助も自重しているから気には留めてなかったけど、無名という妖怪から貰ったものに溺れないで欲しい。金がすべて…そんな馬鹿な考えを持たないで欲しい」

「いや、俺そんなに金持ってても使えるかよ。大体、死ぬのがいつなのかも知れねえんだし。永遠に死なないなら、その金はその時に使えば良いだろ?」

会えなければ使ってしまおう。これは俺にくれた物だから、大事には使わせては貰うけど。

ただ、持ち主が現れたらキチンと返す。それが俺のルールだしな。

「そうね……幸助がちゃんと金銭にしっかりしているなら咎めない。今日も話…聞かせてね?」

氷のような笑み。

だが、それは俺の話を楽しみにしてくれている笑み。

思い勝手だが、雪姫は俺の話を真剣に聞き、明日へのアドバイスなんかもしてくれた。

その教えは立派なもので、俺は見習いたかった。

残念ながら、20日間で教えを実践出来る機会などないがな……。




烏天狗と女天狗も毎回話を聞き、頭を悩まされていた。

「やってしまったか……悟美よ」

大きく溜息を吐き、烏天狗は頭を抱えた。

それに対し、悟美は嬉しそうに照れて答える。

「えっへへ!襲ってきたんだから仕方がなかったわ。でも、殺してないから大丈夫よ?」

「そういう問題ではないだろ……全く、貴様の常識は年々増して、本当に狂っているな」

「ありがとう!」

「褒めてないぞ!」

笑う悟美に怒鳴る烏天狗。

悟美の行動に口をするが、止まることがない。

止める術がなく、自分達ではどうしようもできない。

「紗夜ちゃん、貴女は止めようとしなかったの?」

女天狗は悟美にしがみつく紗夜に聞いた。

実力は他の者には大きな差があると誤認し、悟美が恐ろしいと呟く。

だが、身体能力が悟美の方が優れていても、肝心な異能は紗夜の方が驚異的なのだ。その力の鱗片を知る烏天狗達は紗夜を頼りにしている。

だが紗夜は、悟美を抑えられる力があるのだが、殆ど使おうとしない。

悟美が脱走した時のみ、紗夜は動く。

「楽しそうな悟美ちゃん…見てると楽しくてぇ……」

「アレが楽しい……?どう見ても私刑でしょ?」

「ち、違うんです‼︎私を助けてくれた姿がか、カッコよくて…。私が悟美ちゃんに守られているのが……その温もりを味わえて楽しかったんです…」

声が上がったり下がったり繰り返すが、女天狗は紗夜が嬉しそうに話していると理解する。


注意しなければと、母親らしく叱る事を覚悟する。

「楽しかったのはワタクシも良かっと思う。紗夜ちゃんと悟美ちゃんの幸せに口は挟みたくはない。ですが……アレはやり過ぎです。悟美ちゃんが襲った男達には昨日お詫びの品を贈りに行ってきました。そしたら、貴女が襲った人は人間ではなかったのですよ?『ならず者』でした。どうしてくれるのですか……また仕返ししに行くと激怒されてました」


『ならず者』は妖怪名としては薄い。しかし、悪党と意味合いが強く、人間が密かにその名称を恐れた事で生まれた妖怪である。

言葉の概念から生まれる妖怪はこの世界には多く、大抵は低級の強さしかない。

だが、稀に恐ろしい妖怪が生まれてしまうことがある。

この世界で恐ろしいのは、人間界の噂や伝承だけが妖怪を生み出すのではなく、妖界で噂になった事も反映されてしまう。


ほんの些細な一言で妖怪は生まれてしまう。


現代において、それが容易く生まれてしまい、多くの妖怪が生まれてしまった。

一度生まれてしまえば、その存在が忘れ去られるまで転生を繰り返す。

そして、言葉の概念から生まれた妖怪などは純妖であるが故、死んでも記憶を保持し続ける。

恨みを持てば、その恨みを晴らすまで地の果てまで追う事があるという。


「大丈夫だわ。その時は吹き飛ばせば。理由が有れば何したって文句はないでしょ〜?」

「……もう良いです。悟美ちゃんに話しても聞いてくれないよね…」

諦め、紗夜に頼ろうとするが、同種であると思い出し、口にするのが可笑しくなってきた。

それに、愛情を込めて育てた二人に怒る気が起きないのが本音だった。

好きであるが故に、烏天狗達は彼女達を叱りつける事に躊躇してしまう。

「はぁ……俺の教育方針が悪かったか…」

「そんな事……ええそうですね。烏天狗とワタクシが幼少期に見せてしまった粗暴が原因なのですから。人間の変化とは遅いものです…仕方がありませんよ」

「…だな。二人とも、自分から人様に迷惑をかけるなよ?それだけは守ってくれ」

止めても仕方がない。烏天狗達は彼女達が間違った感性を持たないようにと、無駄だと承知して念を押す。

「シシシッ、それなら心配要らないわ!襲って来なければ手は出さないから〜。でも、どうしても我慢出来なくなった時は物にぶつかるけど」

「やめなさい悟美。そんな危なっかしい行動は慎め。良いか?あの小僧に恋心でも抱いてみろ?即刻、奴の首を刎ねてやる!」

「何言ってるのかしら〜?そんなのないない。私に恋愛なんか要らないわ。別に楽しければそれで良いからね!」

100年の年月があるというのに、悟美は恋心を抱くきっかけがない。

そもそも、覚醒者となってからそんな情欲を抱く事など一切なくなっている。

ただ赴くままに感情と身を委ね、悟美は不規則に行動する。




烏天狗達は心配になり、雪姫と共に毎度様子を窺う。

「雪女よ、貴様の小僧は大丈夫なのか?」

「なに?小僧ではなく、幸助と呼んで。で…幸助がどうしたの?」

「貴様のところはその…逢瀬おうせに詳しいのか?」

気不味そうに聞く。

烏天狗は口では文句を言うが、内心は悟美達が心配で堪らない。

「そうね……幸助はこの世界で初めての事みたい。でも、幸助自身は交流会を逢瀬おうせとは思っていない。多分、友人と遊び歩くような感覚ね」

「っ…そ、そうか。聞いた俺が悪かった」

内心は複雑だった。

男遊びを覚えた彼女達を見たいとは思えず、男との付き合いを知った彼女達が良い方向へ変わるのではという淡い期待があった。

かと言って、幸助という人物に唆されているのではという警戒心がある。

身内に甘いが、他人である幸助を強く警戒するのは当然。

「烏天狗、あなたの二人…恐ろしく異常ね。幸助の方が振り回されている」

「失礼なっ!俺の娘達を異常と罵るなよ雪女!貴様に比べれば悟美達の方が断然優れておるわ!異常と次言えばその首を刎ねてやるぞ‼︎」

雪姫の失言に強い怒りを露わにする烏天狗。

失言をしたとは思わない雪姫は睨む。

「刎ねる?自分の子供を甘やかし、その異常さを普通と見るあなたの私観こそが可笑しい。その価値観は彼女達を苦しめてしまう」

「なんだと⁉︎」

言い合いは止まらない。

この二人は自分が加護を与えた人間になると感情が感化される。

逆に言えば、それほど幸助達を想う気持ちがあるとも捉えられる。

その傍で幸助達の動向を観察する女天狗はやるせない思いだった。

(大丈夫でしょうか……。このまま、悟美ちゃん達の観察だけで)

自分達は陰で観察だけで良いのか?

もしも、幸助達に火の粉が降り注ぐ事が起きたりすれば大変な事になるのでは?

心配が止まず、ただ心配が募るばかり。

黙って見届ける20日間は、彼らには苦痛でしかなかった。




そして、彼らの心配は的中してしまうのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ