46話 交流会開始
九華と分華が再登場です。
ちなみに、彼らが生きている理由はちゃんとあるので、今後の展開と読み返してみると分かるかと思います。
妖怪もちょくちょく名前や姿として紹介していきますので、知らない妖怪もいるかもしれませんが、ご了承ください。また、妖怪?と疑う妖怪も出てくるかと思います。
俺は明朝に起き、支度をする。今日はどっか飯食ったら此処に帰ってこよう。
俺はそんな呑気に考えていた。
「幸助、忘れ物ない?」
「ねえよ。そうだ、俺の現金返してくれよな?」
まだ没収されたままのお金を求める。しかし、俺に頑なに渡そうとしない。
「まだ大金は駄目。また変な物を食べてくるから」
「変な物って魚だけだろうが!いい加減、俺の金銭感覚を疑うんじゃねえよ‼︎」
「……仕方がない。化け狐に言われたことだし、今更覆せないね。20日間は娯楽に打ち込めるぐらいは…」
渋々俺にお金を渡してくれた。しかし、その金額は思った以上に少ない。
「なあ?これ、マジで言ってんのか…?」
渡された金額が可笑しいのだ。
「幸助なら足りるでしょ?」
「巫山戯んなよ‼︎これだけって少ねえーよ‼︎」
俺が貰った金額がどう見ても20日間で足りる気がしない。雪姫が揶揄っていると信じたいぐらいに酷い。
「だって…あなたはつまみ食いするから。回るだけでしょ?そしたらそれで十分だと思った」
「だからってこれは酷いだろ⁉︎一円って何だよ⁉︎20も保たねえよ‼︎」
「贅沢言わない。そもそも、あなたはコレを1日で使い切るつもり?」
「え?」
雪姫は冗談ではなく、俺が勘違いしたみたいだった。
俺が阿呆みたいな顔をすると雪姫が冷たく息を吐く。
「幸助、あなたは何を勘違いしてるの?散財するつもりじゃなさそうだし、超過する金銭は要らない。人の子二人を楽しませるのが今回の目的」
お金の使い方は俺より詳しい。それは紛れもないし、俺より長生きする雪姫なら当然なんだろう。
そういえば、生活にうるさい伝承がなくもないのを思い出した。
子供がいる伝承もあるし、家事育児は厳しいんだろう。
「悟美と紗夜を楽しませるっていうのは出来る気がしねえけど、なるべく頑張るわ」
「幸助!」
雪姫が強く訴える。思わず身が固まる。
怒らせるようなことをまた言っちまったか?
雪は吹雪いていないが、怒っている感じがする。
しかし、雪姫の口からは怒りは出なかった。
「惜しみなく、あなたが1日毎に楽しませなさい」
俺の勘違いはまた続く。
「怒らねえのか?」
「怒る?それは違う。あなたはふた月に至るまでは成人はしない。人の世はそうなのでしょ?」
優しく俺に言ってくれる。まるで姉のようであるが、凄く優しい。
俺は頷く。
「うん…それなら良かった。金銭や人との交流には特に気を付けなさい。化け狐に甘やかされて碌な人間になるのなら、その時は私は黙っていない。幸助は人の世に居たから余計にこっちでは調子狂う時があるかも知れない。ちゃんと二人との交流は親密にしなさい。私には、今日まで人とまともな交流をさせてあげられなかった責任がある。止める理由がない。終わるまでは口を挟まないけどその都度、私に報告をして頂戴」
心配、してるんだな。俺が20歳にならない内に散財する事や人との交流を拒まねえように、俺に肩入れしてくれてるんだ。
それに、俺の今後も危惧してくれてる。
本当に妖怪は優しいな……。
俺は妖怪が誰よりも好きだ。雪姫の冷たい態度も俺を思ってくれている部分がある。
まあ、怖いけどな。
悟美と紗夜は確かに好きじゃないし、積極的に命狙われたし、それにあいつらに対する特別感は全くない。
それに、秋水の奴や名妓だった奴を見たせいで俺の人への興味が失せてきている。
不思議な感覚だぜ。俺は人嫌いになってるんだよ。
平気で俺の命を奪おうとしてきたし、あんな醜い部分を晒してまで人の尊厳を奪おうとしやがった。許せないというかより、俺は人間に失望した。
もしかしたら、俺は妖怪の方が幸せになれたかもな。
「ありがとな雪姫、大事にお金は使わせて貰うぜ」
「それ以上は私もあげられないから大事にしなさい。幸助なら間違いないように使い熟せると思ってる」
「じゃあ飯にしようぜ!」
「うん…後はお味噌…し、る………」
まさか…⁉︎
「おい…この臭いヤバくないか?」
「大変。沸騰させ過ぎた」
雪姫は冷静に言いながらももの凄い速さで台所へ向かった。
一応、宿だから飯出る筈なんだが、雪姫に毎朝作って貰っている。
雪姫曰く、料理の腕を鍛えたいとのことだ。で、俺はその味覚を確かめる審査員みたいになっているわけなんだが、料理の方はまだまだ。
下手くそではないみたいなので、妖都に来てからは僅かに腕は上がってる。
時偶に、凍った生魚が食卓に出てくるのは避けられないが……。
「行ってくる」
「気を付けて幸助」
慣れた挨拶。慣れた足どり。新しくなった妖都の街中を歩く。
來嘛羅が再建に携わったというだけあって胸が高鳴る。
景色は以前より幻想的に見える。常夜だからか、自然とこの景色が俺の中で浸透する。
店も妖怪も町も俺好みの空間じゃねえか。
最高だな。これなら、今日から20日間は楽しめるかもな。
高揚する気分のまま、俺は悟美達が待つとある店に向かう。
目に見えた光景を疑いたい。俺は悪戯を見ていやがるのか?
目の前の奴らを見て、俺はそっと離れたいと思った。
一人、二人…三人……四人いる。
「あ!幸助君〜‼︎」
俺が一番苦手な悟美が笑顔で俺を見つけて手を振りやがる。
「ヒィッ‼︎」
悟美の声に釣られ、俺の姿を見るまでもなく体全体で震える紗夜。
「テメェー遅せぇよ!俺らを待たせんじゃねえよ」
腕を組んで喧嘩売るように壁に寄りかかる分華。
「分華!少しは自重しなさいよ。言える立場じゃないんだから」
「ケッ!九華も物好きだよな?姉ちゃんズラしやがってよ」
「分華‼︎アタシの言うことが聞けないわけ?」
「チッ、荒れ荒れ臭えよ!」
うざがっている分華に対して強気で叱る九華。
俺は何を見せられてるんだ?
「おい悟美、こいつらは何の用件でいやがる?まさか、俺への嫌がらせか⁉︎」
挨拶もなしに、俺は双子がいる理由を聞いた。
悟美は「シシシッ」と笑って悪気ない様子。唯一、俺から視線を逸らしていた紗夜が憐れむような目を向けてきた。
「大丈夫よ?來嘛羅にも許可は貰ったわ。この二人は悪い子じゃない、ただアホなだけの弟さんと賢くて本心を晒せないお姉さんが付いてきただけだわ」
「巫山戯んな女が!俺を小馬鹿にする気か⁉︎あっ⁉︎」
口悪く二人を軽く紹介する悟美。
激情したのは当然分華だ。
胸ぐらを掴み、低い身長で長身の悟美を睨んでいる光景に俺は吹きそうになった。
俺も一回だけ悟美に対してやったけど、掴んだ瞬間に静かに悟った俺が惨めに思ってしまったのは言うまでもない。
「シシシッ!頑張って背伸びしちゃって〜。えっと〜九華だったかしら?この子に痛い目合わせて良いかしら〜?」
悟美は自然に九華に聞く。九華は顔を引き攣る。
「それはちょっとごめん。アンタのやり方で黙らせると死にかねない…。ホント、やめて欲しい」
「え〜じゃあどうすれば良いかしら?」
「ホント…痛い目だけはやめてあげて」
悟美から受けた凄まじい痛みの記憶。來嘛羅によって分華の記憶から抹消されているものの、九華は悟美の恐ろしさを知っている。非常に可哀想な人なんだなと俺は思った。
分華の肩を俺はポンっと叩いて同情する。
「あんた…そいつを怒らせねえ方が身の為だぜ?」
「何言ってんだテメェ?」
「俺より非情だ、ちょっかいは自分を滅ぼすぞ?」
生憎、俺に関する記憶はあるみたいだから、こうして怖がらせるように言えば大人しくなる。
「くっ…テメェより最悪なヤツがいんのかよ⁉︎」
悪態は吐くがまだマシな態度でよかった。
これでもし、悟美に挑むような真似をしたら俺は知らねえ。
「ホッ…」
「シシシッ、歯向かってくれたら面白かったのに」
九華は肩を落として安堵し、悟美は笑いながら悔しそうにしている。
「あ、あの‼︎皆しゃっん‼︎」
突発的に紗夜が声を発したかと思えば変なところで声のトーンが高くなった。俺や双子はびっくりした。一番最初に反応した分華は禁句を言ってしまう。
「変なところで気色悪りぃ声出すんじゃねえぞ女が‼︎」
この場の全員が瞬時に理解した。こいつ死んだなと……。
「ごめんなさい!そ、そういうつもりじゃなくて‼︎」
「ぎゃあぎゃあ喚きやがって!あいつの連れの女で如何にも根暗な野郎だしよ。こんなヤツと一緒にいるヤツがアホらしいな⁉︎」
どうやら性格は簡単に変わる事はないらしい。
口悪いし、紗夜を一方的に口汚くいう分華に生はない気がしたのは俺だけではない。
俺は静かに手を合わせ、分華の安全を拝んだ。
「根暗な女は俺の吐口にすらならね……じゃ…あ……」
全てを悟った分華は可哀想だ。みるみる青ざめていくその顔はトラウマ再発レベルの顔だった。紗夜より分華が可哀想に思えてきた。
「ねえ?紗夜を一方的に虐めて楽しいかしら?」
「あ…あぁ…」
「貴方を虐めて良いよね?虐めるのも虐められるのも楽しいのでしょ?シシシッ」
怖い笑顔がそこにあった。悟美の匙加減でこいつは生死を彷徨う羽目になるんだろうぜ。
口は災いの元と言ったが正にその通りだ。
分華は穏やかではないだろう。諦めたようなちびりそうな顔をしてる。
「さ〜て、私の遊び相手になってくれるかしら〜。交流は様々な形で良いって言われたからまずは……これでいこうかしら?」
紗夜の影から三節棍を取り出す。本気で殺す気に見えるんだが⁉︎
「待て待て悟美。そいつを吹っ飛ばすのは今やめとけよ!折角の交流会も台無しになっちまう」
俺は三節棍を取り出し切る前に止めに入った。
楽しみとか娯楽を何かと勘違いしてる女だ。止めると癇癪起こしそうで怖え。
また悟美が文句でも言うんだろうと思った。
取り出した三節棍をそのまま紗夜の影に落とし、三節棍を手放した。
「んー分かったわ。20日間は大人しくしてれば良いかしら?」
「随分物分かりがいいな。驚いたぜ」
「でしょ?別に今楽しんじゃってもいいけど、20日間は目立ち過ぎないようにって來嘛羅に言われたから。さ、交流会を始めましょ」
仕切り直し、悟美は何事もなかったように振る舞った。
不思議な奴だ。狂人みたいな女が変に理性的だと調子狂うな。
しかし、俺は裏切られる結果を経験する。




