43話 切り替え早き
お久しぶりです‼︎
2ヶ月近く空き、漸く自分も活動再開ができるようになりました!
しかし、残念なお知らせともなってしまいます。小説部門である文学賞は落ちてしまいました。なかなか難しいものなのだと思い、厳しさを知りました。
こちらはpixivの転すらの方が区切りが良くなるまでは週に1回から2回投稿します。
今後も宜しくお願いします‼︎
“放浪者”と閻魔大王に判決を下された。
いろんな情報が一気に入ってきて、俺は整理しきれない。
來嘛羅が玉藻前じゃないのが俺にとって、一番衝撃事実だな。
詳しくは知らねえが、來嘛羅が九尾狐じゃないというのを疑うわけじゃねえ。來嘛羅だけが九尾狐だとずっと思っていた。
伝承でも『九尾狐』は一人っていう認識だったんだ、俺にとってはな。
妲己や華陽夫人、玉藻前は同一人物じゃねえのか?
妖界っていう世界は不可思議な場所であるのは当たり前だが、妖怪も俺らの常識で計れるほどの存在ではない。
現に、來嘛羅と玉藻前は同じ存在ではないことを証明されてしまった。
似た者かと思いきや、玉藻前の方が伝承に基づいた妖怪に近い印象がある。來嘛羅は俺の好みの全てに化けているかもしれない。
來嘛羅は伝承よりも俺の趣旨趣向を具現化してくれた妖怪。俺はそう思う。
人間の噂は単なる情勢に流されたに過ぎねえのかもな。
“三妖魔”、日本三大妖怪を担う妖怪っていうのは、本当に常識じゃあ計れねえもんだな。
なんだか、怖いっていうかより不可能な気がしてきた。
色々任された身としては、俺には間に合わねえ話なんじゃねえのかと後悔している。來嘛羅の申し出を降りる事は地獄堕ちを約束させられている。
完全に詰んだなこりゃあ……。
ショックのあまり、俺は二日間は誰とも口を聞きたくなかった。
「幸助、また消極的に…。ご飯、食べなさい」
「……すかねえよ」
「また、そう言って。あなたが何に衝撃を受けているかはなんとなく分かる。また、化け狐についてでしょ?」
「知っているなら聞かなくていいだろうが…」
雪姫は冷たく溜息を吐く。
「それは違う。ちゃんと言葉で知っておきたい。幸助が何で悩んでいて、何で苦しんでいるのか。雪玉の中であなたをもっと知りたいと思ったの。だから聞いた」
俺を見る目は冷たいが、それは信用できるほどの眼差しだった。
「っ…あーそうだよな、俺がなんか考え過ぎなんだよな?あんたに相談するって、ちゃんと約束したもんな」
「良かった。幸助がずっと落胆している姿を見せないで。どうしても心配するから」
「分かってる。俺だってそんな風に思われたくなくて、部屋から出ようとしなかったのによ」
「それがいけない。落ち込む事は一番恐怖になりやすいの。妖怪は恐怖に怖気づいた人間から奪うから」
言ったら駄目なことを雪姫が言う。
「それはあんたも一緒になるぜ?」
俺は食い気味で雪姫の質問を返した。
雪姫は目を瞑って静かに嗤う。
「ユフフ。私だけは違う。幸助は私を受け入れてくれた。だから、幸助を恐怖でどうこうしたいとは思わない。私がそんな事をするのは、あなたを脅かす存在に容赦しないと思った時だけ」
「お、おう…。ちなみにその脅かす存在の生死は?」
いらないことを聞いた気がした。
「幸助の考えている通り、私の匙加減になるかもね?」
フフッと冷たく笑みをする雪姫。
「怖えよ。俺が雪姫に脅かされるって事もあるのか?」
雪姫は奥ゆかしく笑い、何も言わなかった。
雪姫に殺意向けられた奴、生きる確率ねえな。
かまくらで約束したことを蔑ろにしてはならない。俺は約束したことを思い出し、少しばかり後悔する。
俺が本音を言った途端、急に過保護と思えるぐらいの接し方になってきやがった。
雪姫の行動が俺と結び付けるようで、俺が一人で悩んでいたとしても、こうやって接してくる。
嫌ではないんだが、もうちょっとマシにならなかったか?俺はそう思いたい。
だけど、雪姫が俺を心配する理由は分からなくもねえんだ。
俺が散々危険な目に遭ってるから、それに心を痛めているんだろうしな。
俺が妖界に来るまでの雪姫は、飛ばされた異世界人を助けていた。
しかし、その人間は雪姫の冷たい性格に臆した災いして逃げ出した。そして無惨にも、雪姫の手が届かずに食われてしまった。
殆どは人間が恐怖から逃げる行為が、逆に雪姫を悲しませる結果となった。
数人のみ、妖怪に食べられずに連れてかれた人間がいるそうだが、もう食われたんだろうな。
俺が唯一、雪姫から逃げようとは心底で思わなかった人間ってわけだ。
まだ『雪女』の頃はあまりにも冷淡過ぎる接し方を治して欲しいと思ったが、今の『雪姫』にはそんな冷たさよりも、過保護をなんとかして欲しいと思っている。
俺は雪姫の過保護に世話になるつもりはねえよ。
來嘛羅は後始末に追われていた。
妖都が崩壊した今、太古の妖怪の力が必要とされる。
そこで駆り出されたのが太古の妖怪であり、妖都の守護者や守り神として崇められる來嘛羅だ。
來嘛羅の持つ妖術により、建物の残骸が空中へと舞う景色は別格。多数の妖怪は「神の所業」と息を呑む。
「凄え…‼︎大地が浮いてんのか⁉︎」
俺だってそうだ。こんな光景、向こうの世界では見られねえからな。
「大地ではないぞ幸助殿。塵芥と化した残骸を宙へ浮かせ、土地を均しておるのじゃ。この程度、妾以外でも容易じゃ」
「いやいや!これできるのは來嘛羅しかいねえだろ⁉︎」
得意げに語る來嘛羅に俺は否定した。誰もできない事を平然とできるのが來嘛羅の強みだな。
俺もこんな感じのできればな……。
羨ましそうにそう思った。
「なんじゃ?妾のコレが羨ましく思うかの〜?」
あ…読まれた。
「まあ、羨ましい。物を浮かせられる妖術使えるなんて。俺は持つの難しいだろうし」
妖術は妖怪それぞれが持つ俺の能力と同じ物だ。
俺は“異能”と言い辛いから、“能力”と言わせて貰ってる。
異能という能力に対抗する為に、妖怪は妖術を使う。妖怪にしか許されない力で、人間では特殊な異能を除けば行使する事ができない。
俺がその枠に入るみたいで、特別に妖術が扱える。
まず、妖術は妖怪が生まれながら持つ異能と同等の能力だ。しかし、生まれながら持っている妖怪は名を持つ者しかいない。これは、伝承に基づく妖怪にしか与えられない先天的な力で、名を持たない妖怪は誕生した際に妖術は持っていない。
妖術は妖怪の伝承に由来し、雪姫なら氷結系の妖術。烏天狗や女天狗は風系や剣術に特化した妖術。來嘛羅は多分、全部使える。俺の適当な判断だけど、それが正しいと俺は思う。
「フッフッフッ、幸助殿は鼻が高いの〜。妾の力を好意的に捉えるのはお主だけじゃぞ?」
「そうか?こうやって妖都を建て直すあんたはもっと褒められるべきだぜ?こんな力、人の身じゃ無理だし。來嘛羅が守る都が秋水の奴のせいで滅茶苦茶になったけど、前よりも良くなるんだろうな」
俺と話しながらも、気を逸らす事なく緻密に大地を均し、次々と樹木を植えていく。道路や街頭、店や住居、妖都が誇る巨大な城が再建されていく。
当然、これを全て來嘛羅が一人で行っている。
この行動が評されねえとかはあり得ないぐらい、この妖都に貢献している。
「お主は妾と考えが一緒じゃな」
「マジかよ!じゃあこの町を更に磨きがかかりそうだな!」
來嘛羅が頬を赤らめて照れ笑いする。
でも、照れ笑いが寂しそうに見えた。
「優しいのじゃな…。雪姫や天狗共もこうして褒めてくれたら愛想は尽きなかったんじゃがな」
もの寂しそうに悲しく言う。
承認欲求が不足しているわけではなさそうだな。來嘛羅が不安や恐怖を覚える事はなさそうだし。
まあ、雪姫があんな態度だったら嫌になるだろうな。俺だってまだ慣れ切れてねえし。
「雪姫は來嘛羅を滅茶苦茶嫌がってる風だったぜ?俺も助けて貰った恩があるから言いたくはなかったけど、雪姫が冷た過ぎるんだよ。來嘛羅に拐われた時、雪姫ヤバかったんだよな?」
俺は雪姫が居ない間に聞ける事を聞いてみる。
「そうじゃな〜彼奴はお主に執着するあまり、妾を完全に敵としておるのじゃ。表面ではそれを見せぬが、実際は心底まで恨んでおる。妾も謝罪の一つでもしようかと思ったのじゃが、彼奴は受け入れようとはせぬ」
「うわぁ…それはヤバいな。俺が雪姫に強く言ってみるか?」
せめてフォローするか仲介役で雪姫との犬猿の仲をどうにかしようと考える。
「せぬで良い。あれが本来の『雪女』というものじゃ。誰とも接点を持とうとせず、人間を守るためにその身を削ってきたのじゃ。一度死んだというのに、彼奴の魂は忘れなかったのも、本来の雪女の伝承じゃったのかもしれぬ」
「そうなのか…って⁉︎今、雪姫が一度死んだって言わなかったか⁉︎」
聞き流すところだった。雪姫…いや雪女だった時の雪姫が一度死んでるだと⁉︎
信じ難かった。俺と会った時の強さは天邪鬼以上だった。下手すりゃあ、秋水の奴を一人で倒してるぐらいだろうし。
「妾は妖都に属する事情を全て把握しておる。中世以降で力が衰えぬ妖怪は数少なく、雪女や天邪鬼、河童が容易く妾の目に付き易い。雪姫はその昔、此処妖都の住民じゃった」
「でもあいつ、雪姫はあの家から離れたことねえって…」
そういえば、混妖は死んだら記憶が無くなるんだった。
「それはそうであろう。死ねば記憶に残らぬのが摂理じゃからな。妖怪は生まれた時の記憶は忘却し、いつ生まれたかすら覚えておらぬ。雪女であった雪姫は殺された記憶など残っておらぬから安心するが良い。お主からも他言は禁物じゃぞ?」
「お、おう…分かったよ」
「うむ、ならば良し」
來嘛羅の突然の発言は怖いものだ。妖怪の正体や生死について簡単に口にするし、俺に教えたら不味い事に対しても口が軽い。
大丈夫なのか…?
「うむ?幸助殿、妾の口に疑問を唱えるかの?」
「わ、悪い事を思った。あんたがそんな簡単に喋るから疑心暗鬼にはならねえんだけど、本当に喋って良いのか?」
來嘛羅の言葉を疑う事はしたくない。
でも、本当に信じて良いのかが呑み込めない。
雪姫の言葉が頭から抜けねえんだよな。ちくしょう…余計な事を聞かされたぜ。
「信じては貰いたいものじゃ。妾はお主を悪く扱う真似はせぬ。そもそも、妖都を救ってくれたお主をどうして食えようか」
「えっ?」
「また阿呆の顔をしおって。幸助殿はまだ年を越しておらぬ時に妖界で再度、生を受けた。死人を食らうほど、妾の趣味は狂に染まっておらぬ」
俺は信用しようと強く決心した。そうだな、來嘛羅は騙す事などしないもんな!
確証はないが、俺は來嘛羅の言う事は信じることにする。
「そうだったんだな、ありがとう來嘛羅。俺、変な考えがあって困ってたんだ」
「フッフッフッ、お主が困っておるなら妾が助言をくれてやる。霧が晴れたように軽くなったじゃろ?」
「ああ!」
妖艶な笑みを見て、俺は信用できると確信した。




