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妖界放浪記  作者: 善童のぶ
妖都征圧阻止編
42/265

41話 果たされる約束

また…寝てしまいました。

これが一部は最後です。

成長しているようですが、ここまで泣く回数が多い主人公っていますかね?戦闘面が成長しても、肝心な精神はまだまだ未熟という形での一部が終わります。

人はすぐに変わらない。成長を感じるが、何処か未熟だと感じる面を持つ彼の成長は二部以降へ行きます。


寝て投稿が遅れたことを謝罪します。

見てくださりありがとうございます。2ヶ月間という短い期間での投稿でしたが、多くの方がこの『妖界放浪記』を見てくださっていたことに感謝します。

まだ文学賞までの期間は僅かにありますので、文学賞に投稿しない部分の投稿を数日以内に行います。しかし、1話のみなので暫くは間が空いてしまいます。

遅れたのは自分が寝てしまったのが原因ですので、二部の展開へ繋がる“妖怪裁判”を公開します。既に10000字近い量で作り上げてますので、少し長く感じてしまうかもしれません。

 暖かい……。

 フカフカのベットにいるような寝心地。

 ああ、俺は天国に来ちまったのか?そう思うほど、この背中を覆う雪が気持ちいい……。

 ……雪?

「幸助、大丈夫?」

 凄い新鮮、子供の時の頃を思い出す。

 優しく声をかけてくれる。疲れた体に声が心地よく聞こえる。

 声に凄く癒される。眠くなりそうな感覚でその声は悪魔的だ。

 顔が近いな…。でも、凄く悲しそうな表情に見える筈なのに、俺には魅力的に見える。

 息が冷たい…。けど、この冷たさが俺は知っている。

 肌が冷たい…。この冷たさをずっと知っている。

 熱を出した時だったか。俺はお母さんにこうやって抱きしめられて……。

「なあ雪姫。俺、天国に来ちまったのか?」

 可笑しいな?雪姫の表情が夜叉のようになっていくんだが。間違ったこと言ったか?

「っっ‼︎幸助!目を覚ましなさい‼︎」

 俺の頬に途轍もない激痛が襲う。

「いったあああああーーーっっ‼︎何すんだよ雪姫⁉︎」

「寝ぼけないで‼︎此処は天国じゃない。ちゃんと生きてるの!」

 俺の意識は覚醒した。

 大丈夫みたいだ。ちゃんと生きてるみたいだ。

「あ……じゃあさっきのは?」

 俺は周りを確認する。円状の雪玉に囲まれているみたいで、冷たい雪な筈なのに暖けえ。

 これが俗に言うかまくらか。住んでた都会にはない暖かさだな。

「寝ぼけてないで、ちゃんと現実見て?私とあなたは生きてるの」

「…悪い。凄い寝ぼけてたみたいだ。あんた怪我は?」

「はぁ……。自分より他人なのね?あなたの方が無茶していて心配」

 深い溜息を吐いて俺を冷たく見る。

 さっきの悲しそうな表情とは全く違う。いつもの表情だ。

 雪姫の表情は落ち着いてるのが雪姫らしくて良い。俺の安心できる表情が見れて、

「やっぱその表情が可愛いな!雪姫らしくて」

 俺はなんとなく口走ってしまった。

「こ、幸助…?今、なんで言った?」

「……勘違い、だろ?カワが良いって…」

 俺は雪姫を誤魔化そうとした。

 だが、ぐいぐい寄ってくる。

「そっか……。幸助はそう見てくれたのね?私はあなたに冷たい女とかストーカーって言われた。傷付かないけど、もう少し理解して欲しかった」

 四つん這いで雪姫は詰め寄り、俺は尻ついて後ろに退がる。

「な、なんだよ⁉︎雪姫がいつも怖えからだろ!」

「違う。幸助はちゃんと私を見ようとしてなかった。あなたと生活して、幸助とご飯食べて、一緒に寝た。そこで私は気付けなかった。でも、化け狐があなたに奪われそうになって、加護を授けられた時にやっと気付いた!」

 呼吸や脈が小刻みに速くなる。俺だけじゃなく、雪姫も同様だ。鼓動がはっきり感じるまで迫ってくる。




 雪姫は意を決する。

 奪われる側だった幸助という青年を助けたところから始まり、彼に対し好感を抱いた。

 『雪姫』という名を授かり、加護を与え、衣食住を共に過ごした。

 初めてだったのだ。自分が雪女である筈なのに逃げなかった人間が。誰もが雪女を恐れ逃げ出す中、彼は雪女である自分を信じてくれた。

 信用してくれている。そんな事で、心は彼に寄っていた。幸助との生活が続けば、これ以上の贅沢は望まなかった。

 しかし、九尾狐に攫われた時、激しく嫉妬する自分がいた。

 幸助という存在を手放したくない。強欲とも捉えられる嫉妬に目覚めた力で奪い返そうとした。

 九尾狐が『來嘛羅』の名を貰い、加護を授けられた幸助を見て、渦巻く感情が刺激された。

 自分にとって不幸と思える危機が度重なる。その度に強い殺意が爆発し、一時、自我までも冷静でいられない自分がいた。

 人を守ることに優先した雪女は、幸助との時間を過ごすことで他者に嫉妬する雪姫として性格が変化した。

 そして、その変化は人間に対する態度も変貌させていく。幸助以外の人間に対し、まるで人が変わったように態度が一変した。

 自分の認識が変化していくのを実感し、自分が怖くなった。

 度重なる事態に雪姫の心は更に揺らめく。

 ——あなたは、こんな自分と一緒は嫌?

「私は変わってしまった。あなたと過ごす内に秋水のような何かを手元に置きたい欲情が抑えられなくなってね。あなたを殺そうとした着物を纏った少女を凍らした。人を直接ではなくても殺めた事実は変わらない。人間を守りたかったのに……」

 雪姫は悲しそうに身に起きた事を話す。

「雪姫…」

「幸助、私は死んで欲しくなくて、奪われたくなくて、あなたの為に自分の信条を犯した。人の子に望まれた雪女の私が、その人間をこの手で殺めた。もう、あなたが知る雪女じゃないのよ。私は…」

 幸助は口を挟まない。その目は真っ直ぐ雪姫を見る。

 雪姫はその目に罪悪感を感じてしまう。

 とても純粋で、こんな人殺しの妖怪に目を背けない姿勢にたじろぐ。

(幸助…あなたに嫌われたくない。嫌われたら……)

 雪姫は拒絶される事に恐れる。

 また自分の元から消える。雪姫の心配が頂点に達する。

 口が動く。今すぐにでも抱きしめたい気持ちを抑え、自分の最も欲しいものを伝える。

「でも、私はあなたに居なくなって欲しくない!幸助ともっと一緒に…過ごしたい。ここまで一緒にいたのに嫌われちゃうのは嫌。こんな私でも、あなたには離れて欲しくないの!」

 雪女の頃から抱いていた気持ちを優先した。

 こんな恐ろしい妖怪でも、共に居て欲しい、と……。




 予想以上に雪姫が可愛いと思ってしまった。

 そんな事で心配する人なんかいるんだなって。

「…あんたは間違ってねえよ。俺を守ってくれたから倒せたんだ。それに、雪姫が居ねえこの先、考えられるわけねえだろ?共に互いの凄えところ見せ合った仲なんだしな!」

 雪姫が何を心配しているのかはなんとなく理解できる。

 俺も雪姫の力が使えるんだ。その力の脅威も雪姫の恐ろしさも誰よりも知ってる。

 そりゃあ怖いよな。怖い態度取るのに優しいんだよ。

「居て…くれるの?」

「ああ、居てやる!あんたが俺に課しただろ?助けた分は借りで返せと。俺はやってやるぜ?雪姫に助けた分以上に助ければ、ご褒美とかあるんだからな!」

「幸助はやっぱりそっちなのね?でも、安心した」

 雪姫は安堵の表情を浮かべる。

「なんだよ?あんたが俺と生活してるんだったら分かってると思うぜ?妖怪が好きだなんてな。最初に救ってくれた雪姫が嫌いになるわけねえだろ!」

 雪姫が約束した一つ。俺は雪姫に負けねえように、妖怪を救うことにしたんだ。

 事情があったからこそ、俺も無視できなかった。

 俺絡み、雪姫絡み、妖都絡み、來嘛羅絡みとかなり深い訳があったんだ。俺一人でこの世界に来ていたら本当に終わってたしな。天邪鬼に食われていただろうし。

 そこから始まった雪姫との関係を、こんな口約束で終わりにはしたくねえんだ。

 そこに複雑な何かがあったから雪姫と居たいんだ。

「ユフフフ、幸助は妖怪誑しって言われそう」

「それは嫌味か?」

「うん、嫌味かな?」

「雪姫はホントに変わったな?前は冷たいお姉さんで料理不味で、それで世話好きで怒るとめちゃくちゃ怖え妖怪姉さんのイメージばっかりだったけど。今の雪姫は……おい、なんで怒ってんだ?ちょっ⁉︎あんたここで吹雪吹かしたら凍え死ぬぜ⁉︎」

 かまくらの中で吹かされたらたまったもんじゃねえよ!雪姫の心理数値パラメータが全く分からねえんだが。

「幸助?私の料理、美味しくなかったの?大丈夫、怒らないから正直に言って。手料理、不味かったの?」

 俺はもうヤケ糞に言ってやる。

「ああそうだよ!生きた魚をそのまま食わせる女なんて誰もいねえよ!ビチャビチャして頬怪我だってしたんだぞ‼︎生魚じゃなくて活け魚を食べた経験はあんたが初めてだよ!料理の概念ってもん知らねえのか⁉︎」

「えっ?でも……美味しいって?」

「食えたもんじゃねえよ!せめて焼くとか手を加えろ!來嘛羅だって凄い芸当で食ってたぞ⁉︎」

「生きた方が美味しい。私だって毎日食べていて美味しく感じた。だから、幸助も食べれるかと…」

「食えたけどさ、アレは俺もう食いたくねえよ。此処から出れたらまともな飯が食いてえ」

 てか、よく思ったらこの空間……ヤバくないか?

 かまくらに閉じ込められている。密室で救助もいつ来るか分からない状況。体力は互いに皆無だし…。

 俺は持ち出し物を確認する。食糧がない。

「……なあ雪姫?何か食える物、ねえか?」

「待ってて」

 俺はてっきりないのだと思った。しかし、目の前で雪姫が雪玉を形成して手のひらに収まる。どんな芸当で出した?

俺は期待した。雪姫ならキチンとした性格だから冷凍した何かを持ってるかも…。

 雪姫の妖術ってそういう使い方もあるんだな。期待せざる得なかった。

 そう……期待。だよな?

「はい、幸助。冷凍していた魚。これで暫くは大丈夫」

 天に手を合わせたいと思ったのはいつだったかな〜?

 魚、丸ごと冷凍するんだな。

「一つ質問いいか?」

「…良いよ」

「どうやって食うんだ?」

「少し解凍してきてから食べる?かな」

「………」

 やっぱ雪姫は予想を裏切らない妖怪だ。




 2日が経過した。

 その間、俺は雪姫とかまくらの中で暇潰しをした。閉じ込められた俺らは、幸いにも空腹で困ることがない。救出されるまでを待たないとならず、話す以外にやることが見つからねえ。

「後どれぐらいで来るんだろうな?流石に二人きりは懲りてくるんだが」

 精神的に参ってしまっている。

「大丈夫。化け狐ならもう少しで来ると思う」

「なあ、いい加減に來嘛羅をそう呼ぶのはやめてくれねえか?」

「どうして?」

「なんか…その言い方にムカつくって言うのか…。好きになった人が馬鹿にされている気がして嫌なんだよ」

好きな人が酷いあだ名で呼ばれるとイラッとする。初恋相手を馬鹿にされるような屈辱感を感じてならないんだよな。

「ごめんなさい。でも、私は名前で呼びたくない。どうしても…」

「駄目かぁ…。だけど、あんまり嫌な言い方はしないでくれよ?雪姫が何を思うのかは知らねえが、俺も怒る時はあるからな?」

「…善処する」

「絶対無理だろ?まあ、それが雪姫なりの優しさなんだろうな」

 雪姫は本当に來嘛羅を邪険にするけど、その理由は攫ったことを恨んでるのか?そしたら根に持ち過ぎだろ。

「でもそっか。幸助は化け狐に懸想してるのね?」

「ああ…。俺は絶対に会えねえ人と会えて嬉しかったんだ。心臓が飛び出してくるぐらいの衝撃とあり得ない衝動があってはっきりできた。俺は九尾狐である來嘛羅が好きだって」

「…そう」

 雪姫がなんとも言えない表情を浮かべた。

 しかし、それは一瞬しか確認できなかった。表情を冷たくし、雪姫は聞いてきた。

「幸助。もしも……幸助が化け狐に愛想尽かされたら、あなたはどうする?」

「え……」

 突然の問いに思わず口が開いた。

「九尾狐の伝承を知ってるのは幸助だけじゃない。私も知ってる。化け狐はあなたを虜にしようと目論んでる。悪く言うかもしれないけど、あなたは異性として見られてはいないと思う。本当に見ているのはあなたじゃないと思う」

 俺はそんな事は知っていた。

 九尾狐の能力において最も恐ろしいのが、相手が一番好む外見や性格、言動を持つ姿に変えられるというものが伝承に記載されている。相手を虜にするにあたり、どんな姿にも美貌にもなれる。子供にも老婆にも、なんなら絶世の美女にすら変化へんげできる。口調も性格も自由自在だ。

 要するに、今の來嘛羅は俺が望んだ想像人物として接してくれているのだ。俺が九尾狐という妖怪に恋したから素の姿で現れ、俺が望んだ通りの妖怪じんぶつとして接してくれる。

 外見、性格、言動、色気、笑み、強さ、感情、表現、好意の全ては俺が思っていた九尾狐そのものだ。

 俺が好んでいた九尾狐を、來嘛羅が演じているというわけと雪姫は言いたいのだ。

 俺が好意を向けているのは來嘛羅りそうであって、俺が本当に好意を向けたい九尾狐ほんものではない。

 俺が好きになったのは、理想じゃなくて素の九尾狐だ。

 国を滅亡へ傾け、多くの人間を食らい、男性を虜にする絶世の美女を持つ美貌。

 だが、そんな人間界の大罪を犯しても尚、九尾狐の本音は誰も知らない。

 俺はそんな妖怪ひとの本音を知りたい。

 だからこそ、雪姫の愚問を無視はできなかった。

 愛想尽かされたらどうなるのか。そんなこと、頭の隅にすら入れてなかった。

「俺は…っ」

 好きな人に拒まれる。それはあって欲しくない。

 拒まれるくらいなら、來嘛羅に食われたい。

「幸助、これはあなたの問題でもある。私は幸助に不自由なく生きて欲しいの。妖界は生き辛く、これからあなたは妖都の崩壊の起因を引き起こした人物として処罰を受けるかもしれない。その時、化け狐は幸助に罪を着せるかもしれない。それでも、幸助は化け狐を信じていられる?」

「頼む…。その話は、やめてくれ」

 俺は頭を抱える。酷い心情だ。

 この世界はルールに厳しい。妖都が壊滅した事実は取り上げられるだろう。そうなれば、俺は人間だから処罰されるのは確実だと言う。

 信じたくなかった事実を告げられ、俺はさっきまでの心持ちでいられなかった。

「駄目。人の子は重い罪を科されてしまう。妖都に住む日本伝承の妖怪が集い、あなたは裁きを受けてしまう……。一度だけ、見たことがある。妖怪を理由なく殺した人間が地獄に堕とされた。秋水という人の子は多分、もう…」

 雪姫は俺を抱きしめて震え声で言う。

 俺はその震えに恐怖する。

 雪姫は俺が消えるのを心配する理由が分かった。

 俺が一番理解できていなかった。雪姫は俺が消えることを本当に怯えているんだ。

 死より怖いものを初めて理解した。

 俺は雪姫の恐怖が移ったみたいに口を震わす。

 俺が一番手放したくなくて、当たり前だと思っていたことを………。

「なあ雪姫。俺、どうなっちまうんだ?俺…來嘛羅が好きだし、あんたも凄い好きなんだ。なのに、こんな理不尽なルールで別れるのは嫌だ!もっと一緒に居たい。居たいんだよ!頼む…助けてくれ‼︎」

 俺は別れに恐怖した。

 雪姫との半年という短くとも充実した日常。來嘛羅との一時ひとときがこの世界のルールで消えてしまう。

 俺は泣きそうになる。

 そんな俺を雪姫は優しく母親のように頭を撫でてくれた。

「大丈夫、幸助。私はずっといる。あなたがどうなろうと、私はあなたに付き添う。幸助が死ぬのなら、混妖の私は一緒に死んで記憶を全て消す。幸助が地獄に行くのなら、私も一緒に行く。幸助を決して寂しい思いはさせない。あなたを一人にしないから」

 初めて雪姫の温もりを感じた。

 冷たい肌の筈なのに、その手は温かく、全てを許してくれるような手触りだった。

 俺は雪姫の有り難さに心が解かされ、心から溢れ出る感情なみだが止まらなくなっていた。

「わぁぁぁうわぁー‼︎」

 感情任せに絞り出して泣いた。

 俺は漸く、何かが報われたと感じられた。

 俺の中をせき止めていた感情のダムが崩壊した。流れ切るまで勢いは止まらず、ダムは空になるまで時間を要した。

 今まで恐怖で泣いたことがなかった俺は泣いた。




 1時間泣いたのだろうか。落ち着いた途端、幸助は疲れで寝てしまった。雪姫は自分の体で幸助を支える。

「幸助……。あなたは私を最初に救ってくれた。名前をくれて加護も与えられた。私にとっての救いは幸助なの。嘘言ってごめんなさい。もう私は幸助に追い抜かれちゃった。名前、加護、襲来、悟美、妖怪を救って5回もある。私は天邪鬼、化け狐、今の3回しかない」

 雪姫は幸助に本当の数を教えなかった。本当は、幸助に救われた数が多いことを隠していた。

 來嘛羅がいる前で本音は晒せなかったのもあるが、幸助の気を緩めないということで敢えて嘘を吐いた。

 そして、幸助へのご褒美に決心したのだ。抱きしめ、頬を幸助の顔に近付ける。

「大丈夫。私は幸助が何処へ行こうとも付いて行くね。私の心も魂も全て、幸助と一緒に居てあげる。私は幸助が好き。だから……」

 眠る幸助に優しくキスをする。愛憐を込め、雪姫は静かに呟く。

「絶対に諦めないでね幸助。あなたの未来、ちゃんと守ってあげるから」

 シリウスの目は諦めない意思を宿す。

 それを合図するように、雪玉が宙に浮いたと雪姫は気付く。

 浮いた直後、來嘛羅の妖術で雪玉は綺麗に溶ける。

 來嘛羅は真剣な表情で出迎えた。

「其方、覚悟は良いか?」

 雪姫は目を閉じ頷く。再び目を開き、強い眼差しで訴える。

「うん、私は幸助に付く。あなたの力を貸して欲しい。“妖怪裁判”で化け狐の嘘偽りのない証言が必要。お願い、幸助を救うなら手を貸して!」

 來嘛羅は雪姫の意思を聞き、深く頷いた。

「良かろう!幸助殿は妾が導いた人の子じゃ。妾の名に賭けて、幸助殿の処遇に異を唱えてやろう!」




 不変でつまらない妖界に大きな動きが始まった。

 『來嘛羅』、『雪姫』、『松下幸助』という名は広がり、妖界全土で大きく動かなかった妖怪達が目覚めた。まるで、永遠の眠りから目覚めたかのように……。

 退屈な格差社会に釘を刺すような來嘛羅の行動を賛否する者。

 本性を表し、自由気ままに暴れ始める者。

 自分の意思が正しいと判断し断罪を与えていく者。

 人間を尊重し、手を貸す者。

 人間同士と妖怪同士が協力し、団結力を高める者。

 皆、それぞれ思うことがあったのだろう。他種族を否定することに頭を抱えていたのだ。

 來嘛羅は合図をしたのだ。

 人間と妖怪の隔絶した関係を崩すべく、長い時を待った彼女は崩壊こんらんを引き起こした。

 均衡が崩れる音が各地で響く。

 それは來嘛羅が望んだ結果だった。

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