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妖界放浪記  作者: 善童のぶ
妖都征圧阻止編
41/265

40話 爆発から逃れた者達

意外な終わり方なのかもしれません。

この終わり方を皆さんはどう捉えましたか?

あと1話で全てが終わります。最後までよろしくお願いします。


 俺は力を一気に解放した影響で疲労困憊だった。雪姫と同じ力を出し切ったみたいで、その場から動くことが無理。

 傲慢で人を蔑む奴ほど、相手に感化されやすい。秋水は何となくその性質だと予想してみた。

 秋水の奴が思った以上に馬鹿で助かったぜ……。

でなきゃ、『遅慢の凍聖霊(レイトリーズゴースト)』で倒せなかった。諸刃の剣のようで、想像してみた雪姫の瞬間凍結(フリーズ)を元に編み出してみた甲斐があった。

 その代わり、俺の中にあった生気は枯渇状態。全回復までに時間が掛かるって感じだな。

 秋水も凍結しかけているし、俺は向かってきている雪姫を待つとしようかな。

「さっきは協力してくれてありがとうな天邪鬼。雪姫が来そうだ、か…ら?あれ?天邪鬼?」

 俺が振り返ると天邪鬼は既に消えていた。

 折角共闘したっていうのに…。悲しいな。

 落胆した気分だ。あいつにも名前あげたかったのに。

 突然、天と地もろとも引き裂くような爆発音に思わず耳を塞いだ。

「なんだ地震か⁉︎」

 爆発音が止んだと思えば地震が起き始める。

 秋水のところから爆発したみたいだが……。

 俺は耳を疑う。

「フハハハッハッハァーッ‼︎オレ様が地獄へ逝く前の手向けだ。オレが簡単にくたばるわけがない。オレの目には分かる、テメェの生気は枯渇!一緒に地獄に堕ちていこうな‼︎」

 秋水が凍る寸前に笑って滅亡を下しやがった。刺した剣が地下で爆発したことにより、地盤に大きな損傷が起きた。

「巫山戯やがって!てめぇの言う通りなんかならねえぜ!ぐっ…」

 俺の体から途轍もねえ疲労感が足から襲う。片足が麻痺したようで動かなくなっていた。

 力を使い果たしたのか服や髪も元に戻っちまったし、もう逃げ切る体力もねえ。

 絶望としが降ってくる。此処は地下だ。俺が助かっても生き埋めは確定だ。

 來嘛羅が助けに‼︎いや…來嘛羅はまだ宵河にいるなら間に合わねえ。

 俺は降ってくる瓦礫や鉄片から身を守る為に、足を引きずるように無理やり体を動かした。

 せめて安全な場所へ行くために。

 秋水はもう意識まで凍りついたみたいだ。途中から笑い声が聞こえなくなった。もう死んだと思ってもいいだろう。

地面を爆発させたみたいだが、地下の地盤が崩れたら此処も危ねえ。

 てか、もう急がないと本当に……。

 一気に雪崩のように天井が崩壊した。微かの間から見ると 建物も一緒に崩れ落ちている。妖都を本当に壊しやがった。

あんな良い街並みが!都市が‼︎こんな地下空間のせいで…。

 悲しさが募る。俺も潰れるのか?

 また死ぬのに浅く考え、崩れる地上を見た。

 ——幸助っ‼︎

 俺の意識が現実に戻されたように、その声の方へ体を向ける。

 咄嗟の事態に体が宙に浮いた。俺の体に抱きついて何かをしている。冷たい何かが俺達を包み込んでいく。

「何やってんだよ雪姫⁉︎」

「少し黙って。今は生きること最優先」

 正論を言う雪姫。俺はそのままされるがままに目を瞑った。

 そして、妖都ごと崩壊した。







 妖都は地下空間の爆発を受け、地上に存在する幻想的な建物が一瞬で傾れ、地下へ落ちていく。

 地震の揺れのようで、隠れていた人間や妖怪が慌てふためく。必死に叫んで避難を開始していた。

 しかし、その叫びが意味を成さないように地盤もろとも地下へ落ちる。建物もそれに伴い崩れ、多くの者が下敷きとなる。

災害が起きた時の行動は滅茶苦茶だ。誰もが助けを求め、誰もが必死に逃げる。火の海と化す妖都の中で、悟美達は無事に地上へ帰還していた。

 紗夜の異能により、影に全員を収納し一人で地上に地震が起きる前に一人地上へ向かう。

 薄暗く視界の悪い地下空間と常夜の妖都で明かりは先が追えない。しかし、紗夜には関係なかった。暗闇だからこそ、紗夜は猿のような身のこなしで落ちていく瓦礫や建物を駆け上がりながら地上を目指す。

 紗夜は危険と感じれば無茶をしない。今の状況を危険とは微塵も感じていない。

 軽々と駆け上がり、遂に紗夜は地上へ登り切った。

 間一髪だった。数分遅れていたら無事では済まなかった。

「だ…大丈夫⁉︎ですか?」

 おどおどしているのかよく分からない態度で皆んなに聞く。

影の中から悟美達が飛び出すように出てくる。

「済まない紗夜。死ぬところだったぞ」

「い、いえ!私は何も…」

 一番の功労者と自慢しないあたり、かなり奥手な紗夜。

「シシシッ!紗夜ありがと〜!お陰でこの貞信ともう少し遊べるわ!」

 悟美が担いでいるのは血だらけになって体の原型を留めていない貞信だった。刀は全部抜かれ、肉体損傷を癒す術のない彼にとっては生き地獄である。意識は殴られても起きることなく、それが不幸中の幸いなのだろう。

「秋水は倒されたのですよね?ワタクシ達はこれから……」

 女天狗は崩壊した妖都を見渡す。悲惨な崩壊を前に言葉が出ない。住む場所を失った虚無感は恐ろしい。

「ごめんなさい。アタシ達がやったようなものね。罪は償わせて貰わないと…」

「九華…俺は。くっ!」

 虚ろな瞳で涙を流す九華。悔しさと嫌な気分で思わず顔を背ける分華。

 そこへ來嘛羅が音もなく現れた。

 気配に気付き、烏天狗と女天狗は膝をついて深く下げる。

「「來嘛羅様、ご無事で何よりでございます」」

「うむ、ご苦労じゃった。妾の方も迷い人の葬は済ましてきた。秋水らはどうなった?」

「はっ!黒山分華と黒山九華及び佐藤貞信は此処に。秋水と名妓は、雪女と幸助によって凍結され地中で砕けたかと思われる。しかし、二人の行方は……今だに分からず、生き埋め状態にあるのかもしれない」

 烏天狗はそう告げる。実際に起きた出来事を全て伝え、來嘛羅に濁すなく話す。

 來嘛羅は静かに微笑む。

「そうか。では解放された天狗達を使い、建物の下にいる者達の救出をしておくれ。妾はこの三人の処遇を行うからの」

 九華達に近付く。その金瞳はしっかりと三人に向けられる。目から感じるものが読み取れない。

「九尾狐に殺されるなんて、アタシ達は幸せなのかも…」

「嫌だ!俺は死にたくない‼︎『契り』は終わった筈だ!分身を食らったテメェとは縁はないんだ!」

 來嘛羅は狐目になり、三人を何も言えない怖さで睨む。

 九華は覚悟し、分華は喚く。來嘛羅は貞信に手を伸ばす。

「うっ……何が?」

 貞信の胸に手を当てる。そして、

「ぐうああああーーーっっ‼︎」

 生気を容赦なく吸い尽くしていく。吸われる際の痛みは激痛で、全身にある全てが消えるように吸われていく。

 叫びは徐々に小さくなり、小さな魂のみが残る。

 魂を一飲み。貞信の魂は來嘛羅に取り込まれたのだ。

 それを見た分華は青ざめる。次は自分の番と泣き喚く。

 《分身》の記憶は共有されており、その恐怖を一度体験しているからこその悲鳴のような叫びをする。九華はそれを止めようとしなかった。

(アタシ達は貞信と同じ末路ね。ホント、無名に何も言えない。せめて同じ妖怪になって転生する機会でもあれば……)

 九華は謝罪をしたかった。しかし、それは叶わぬ望みだと思い、自分に近付いてくる來嘛羅に無抵抗で待つ。暴れる分華は悟美が拘束する。

「さて、其方達には相応しき処遇を与えよう。妖怪を咎めた罪、そして、人間に対する冒涜。罪を深めておるが、それは果たして誠かの?」

 來嘛羅の手が分華に届く。

「やめろぉおおーっ!」

「『契り』は果たさなくてはならなくての。妾が其方を千年保護するという定めじゃ。情報を開示してくれたことで救われた。それを果たそう」

 『契り』は互いに結んだ条件を行わなければ罰を受ける。その罰は誰も知る由がなく、危険極まりない契約なのだ。分華は來嘛羅に情報提供を行った。それに対し、來嘛羅が保護するということで契約を結んだ。

 來嘛羅は約束事を重んじる。分華に対する保護を行う。




 九華は悲鳴を聞きたくないがために耳を塞ぎ、目を瞑る。弟の悲鳴や苦しんでいる姿を見たくないからだ。

 姉として、その痛ましい姿を焼き付けたくなかった。

 数十秒経ったのだろうか。九華は急に震え出した。

「嫌だ!まだ罪滅ぼしなんかしてないのに‼︎死にたくない…‼︎」

 死を望む人間など僅かしかいない。九華は見ぬ弟の死に酷く心が折れ、悲痛な本音を漏らす。

 死にたくない。彼女が望むのは死などではなかった。

 九華の耳を塞いでいる手が誰かに外される。塞ぐ術を失った九華は最大の覚悟を決める。

 だが、予想外の声が聞こえた。

「やったあーっ!俺解放されて生きてる‼︎ひょ〜‼︎しゃあーーーっ‼︎」

 子供のように喜ぶ分華が飛んでいた。

 九華は状況の把握に時間は要さなかった。

 弟は死なずに済んだ。そう解釈した。

 九華は來嘛羅に問う。

「どうして?」

「其方らは邪な悪事に加担しておっただけじゃ。殺生はしておらぬし、拘束や監視のみしかしておらぬ故、妾は罰を与えるつもりはないのじゃよ。寧ろ、果敢に殺生を行っておったのは山崎秋水や佐藤貞信、名妓の方じゃ」

 九華と分華は他者を殺めた経験はないのだ。來嘛羅はそれを最初から把握しており、元から二人を取り込むつもりはなかったのだ。

 九華と分華はサーラメーヤの加護を受けていたが、來嘛羅がそれを破棄することが可能。

 來嘛羅には加護を破壊する異能を持ち、触れることで強制的に破棄ができる。分華に施したのは、サーラメーヤの加護の破壊。

 九華にも触れる。すると、一瞬の内に縛られていた加護が綺麗に消え去ったのだ。

「閻魔は厄介な呪いをサーラメーヤを通して授けておったみたいじゃな?その首輪も破壊するとしよう」

 來嘛羅は二人の首元をスッと触れる。

 『契約の首輪』は効力を失い、二人の首から外れた。

 首を触りながら確認する。今までにないぐらいの解放感が込み上げる。分華はガッツポーズをあげて喜ぶ。

 九華は両手で顔を抑え涙する。

 無名に導かれた自分達が強制的に悪事に加担させられ、秋水の支配によって生き地獄を無心で耐えようとした。そんな状況から解放してくれた妖怪に母のぬくもりを感じた。

 こんな自分達を咎めるわけでなく、救いの手を差し伸べてくれる妖怪に出会ったことがなかった。

 幼い子供時代に戻り、思わず姉弟は來嘛羅に抱きついた。

 分華は喜びから一転し大泣きをする。

 心の枷が外れ、取り繕っていた九華の心の底からの涙が溢れ出した。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい‼︎」

 ひたすら涙が枯れるまで泣いた。來嘛羅は優しく二人を撫であやす。

「辛かろう。血の繋がった姉弟でよく生き抜いたのじゃ。もう其方らが支配されることはない。存分に泣いて良い。泣くのは恥ではないからの。さあ、心ゆくまで妾に本音を打ち明けてくれるかの?」

 最近泣いている人間の子をあやすことが多いのは気のせいであって欲しい。そう笑いが込み上げそうな來嘛羅であった。

 來嘛羅は二人をあやす間、幸助を探していた。

 しかし、幸助や雪姫は感知できなかったのだ。

 表情は母心に満ちる笑みを保つが、内心は穏やかではなかった。

(不味いの…。幸助殿と雪姫が探れぬ。何故なぜじゃ?秋水と名妓は粉々に潰れておるのは視えておるのに…)

 この目ではっきり見た。秋水と名妓は凍結したことで動けず、爆発による地盤崩壊で死亡を確認した。

 だが、肝心な二人が見つからない。

 そんな心配する來嘛羅の傍で、紗夜は二人を探し当てていた。

「居た……生きてるかも」

 そう紗夜は呟く。來嘛羅は紗夜の思考を読み取る。

 來嘛羅は人の思考が読める読心術を会得している。紗夜は加護によって繋がりを持ち、異能も把握している。

 來嘛羅は紗夜に『念話』で話しかける。

 『念話』は加護を授けた者のみに許された妖怪との直接通話手段。幸助にも『念話』を飛ばしたのだが音沙汰がなく、場所が把握できないのだ。

『急に何ですか?今忙しいので話しかけないでくれませんか?』

『誰じゃ⁉︎』

 思わず來嘛羅は驚いてしまった。

 紗夜のおどおどした声ではなく、円熟した丁寧口調だった。

 普段、怯えたようにおどおど語る紗夜をよく知っていたが、この時初めて、紗夜の人見知りを理解したのだった。

『誰とは失礼です。紗夜ですが?』

 本人は冷静に答えるあたり、別人と思っても無理がない。來嘛羅は気を取り直す。

『すまぬな。其方がここまで流暢に話せるとは知らなくての。幸助殿は見つかったかの?』

『はい。地下数百メートル下降したあたりに雪玉に囲まれた状態で。私の異能は、言わなくてもご存じでしたか。暗闇に僅かに感じる光があったので、そこを重点的に模索してみたのです』

 紗夜は途切れることなく幸助と雪姫の居場所をピンポイントに説明した。

 地下深くの地中に直径5メートルぐらいの雪の塊を見つけ、雪からは光明反応があった。紗夜は光に干渉はできないが光を捉えることは可能で、地の中にある空間を掌握することが可能なのだ。

 幸助達の居場所が分かれば來嘛羅も飛べる。そう思い、加護による瞬間移動を試みる。

 が、それは不可能だった。

 理由は至って簡単なものだ。

「本当に妾を目障りにしておるな?妾のみが転移できぬ特殊な結界を張りおって」

 來嘛羅は少しばかり嫌みたらしく言う。妖艶な笑みで雪姫の嫉妬を嗤う。

「フッフッフッ。2日は待ってやるとしよう。妖都が崩壊した今、元通りにするには地を浮かさなければならないからの。暫く、サシで分かち合うが良い」

 場所が分かればあとは救出。來嘛羅は復旧の時間を敢えて1日遅らすことにした。

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