39話 妖怪万象
寝てしまいました。昨日、野球キャンプのアルバイトで、どっと疲れがきたみたいで寝落ちしました。気付いたらソファーの上で倒れるように寝ていました。
今日で全部投稿しますので、一部の感想良ければ聞かせてもらえると嬉しいです。暫くこれで投稿停止となりますが、早ければ4月から復活します!pixivでの他作品も3月3日より復活致しますのでお願いします‼︎
久しぶりに手書きでキャラクターを描こうかと思います。妖界放浪記に出てくる主役達を描いてみたいと思います。オリジナルなので、大分絵は下手くそですが、自分なりに頑張ってみたいと思います!
では、残りは夜までに投稿します。最後までよろしくお願いします。
はっきり言おう…。
マジでヤバい‼︎
俺と天邪鬼で切り抜けられるかと思ったが、そう簡単にいかなかった。
天邪鬼を主軸にして俺がサポートに回り、交互に妖術を放つが全く歯が立っていねえ。
呪剣は振り回すし、体躯に似合わない移動速度で地面を踏み抜く。更には秋水そのものが怨念という鬼になったことで触れるだけで俺達が危険に晒される。
「爆ぜろ!」
俺は『風醒弾丸』を放つ。遠距離攻撃で多少のダメージを与えられればいいのだが…。
「ガッハハハ‼︎オレ様に妖術は効かない!これでも食らえ‼︎」
呪剣を叩き下ろす。その衝撃は地面を砕き、超範囲攻撃となって俺らを襲う。
「小僧!退け‼︎」
俺は強引に服を掴まれ投げられる。天邪鬼が何かを仕掛ける。
秋水に触れ、妖術を放つ。
「『変物』」
そう唱えると秋水は苦痛な表情を浮かべる。
『変物』は肉体に宿る妖力を自在に操る能力。相手の体内に宿る妖力を反転させる妖術。相手の妖力を支配し、満ち足りる妖力を一気に枯渇させるという反則技だ。
「ぐっ⁉︎こんなモノ‼︎がぁああー‼︎」
しかし、脆くも弾かれてしまう。閻魔大王の加護を受けた秋 水には、格下の天邪鬼の妖術を跳ね除けるのだ。
閻魔大王の加護は、異能を強化する以外にも妖術に対する高い耐性を備えているのだ。妖怪からの攻撃は太古の妖怪でなければ決定打にすらならない。
呪剣を我が物で振るい、膨大する肉体で突進してくる。
その速さは格別で、俺ですら逃げきれないと諦めざる得ないぐらい。
馬鹿げたほどに足が速く、肉体も物理攻撃や妖術が効かない。圧倒的な力の差を身をもって見せつける。
「どうしたどうした⁉︎このオレを倒すんじゃねぇーのかよ‼︎」
「調子乗りやがって…。天邪鬼、まだ動けるか?」
「知れたこと。愚か者を始末するまで倒れんわ。さっさと片付けるぞ!」
「じゃあ気合い入れやがれよ!」
俺は秋水の背後を取り、一撃必殺を放つ。冷気を宿し、妖怪の怨念が健在な刀剣を穿つ。
「恨まれた憎しみを受けるがいい!『怨念零刃』‼︎」
胸を貫き、俺は更に冷気を大量に流し込む。
黄泉の冷気ってヤツを流し込み、秋水の弱点を突こうと大量に取り込ませた。肉体が暴発してでも起きてくれれば勝機が見えると。
「っ⁉︎こいつ、俺の生気を⁉︎」
刀剣に宿した生気が急激に吸われていく感触があった。
「離れろこの野郎‼︎」
俺は秋水を蹴り、一旦退く。
「なんだ今の…。俺の生気が半分近く吸われちまったぞ⁉︎」
「無闇に攻めるではない。あの秋水という者の妖怪に基づく力だろう。人間の生気だけを吸い尽くす妖怪に変貌したに違いない。まるで吸血鬼と同じ体質」
「吸血鬼かよ。なら、太陽とかは?」
「無理じゃろ。儂が触れてみたがそんな弱点などないわ」
どうやら、秋水は望んだ姿になって暴れ回ってるみたいだ。容赦なく俺達を攻撃するだけではなく、それに伴う人間の弱点を克服してしまったという。
人間を辞めた秋水には、妖力の枯渇を狙うのは無策だと。
「妖力は時間を有さなければ回復しない筈、本来ならばな。だが、秋水は妖力を首輪から供給手段を持つ限り尽きることはないと見た。持久戦は先にこちらがくたばるしかない」
「クソッ。首輪を破壊するしかねえってか?」
「首輪は破壊できぬ。儂が『変物』を使う際に首輪にも触れてみたんだが。アレは儂の力では壊せなかった。いや、儂が力を解放すればなんとか……」
何か手段はあるみたいだが、天邪鬼は酷く嫌な顔をする。
「もしかして、あんたは秋水の奴を倒せる力持ってるのか?」
俺は質問する。しかし、天邪鬼は一度目を向けてきたが無視された。
「喋っている暇があるなら弱点を探せ。儂は貴様のでまかせで力を見せるわけにはいかぬからな」
「…そうかよ!妖怪の力を使えば助かるってもんだと思ったけどな。天邪鬼は意外と口硬えんだな」
「ぬかせ」
近付く事すらままならない状況で数十分粘り続けてはいるが、こんなの反則過ぎるだろ⁉︎
一向に秋水を倒せる気がしねえ…。
「おい天邪鬼!何か案はねえのか⁉︎」
俺は藁に縋りたい気持ちで聞く。
「焦るでない。雪女がくれば状況は変わる。それまで持ち堪えろ」
雪姫なら秋水に決定打を与えられると言う。天邪鬼は『万物反転』といった相手そのものを反転できる妖術があるが、秋水に効かない以上、それは意味をなさないと言う。
遠距離発動できる妖術の雪姫なら可能だという。
俺…全く頼りにされてねえ感じでムカついた。
なんだろうなこの感じ。凄い雪姫に敵意とは違う感情を抱いた。
なんで俺が頼りねえんだ?妖怪に頼られていないのか…?
じゃあ何をすれば認めてくれるんだよ?
「天邪鬼、あんたは俺を認めてくれねえのか?雪姫を頼りにしやがって…」
「事実というものだ。貴様が名を与えたあの雪女は今や儂よりも強い。幸いか、妖怪の壁を超えたみたいだからな」
「壁を超えた?」
「小僧では決して辿り着けぬ領域に雪女は到達した。故に小僧と儂が足止めをするのが是だと思わぬか?」
俺という人間がそんなに頼りねえのかよ⁉︎巫山戯やがって……。
俺は渦巻くどうしようもない感情を曝け出したいと感じた。
その瞬間、俺は異能の正体に踏み込んだ。
「そっか……。じゃあ俺もアレになれば良いんだよな?」
幸助は素っ気なく言った瞬間、体が青い冷気に包まれる。
体中が凍てつくように凍りつく。体から冷気が漏れ出る。自分の体とは思えない程に骨の髄まで凍る感覚を抱く。
体の感覚が消えていく。しかし、同時に力が膨大に膨れ上がる。
極寒が体を麻痺させ、全ての感覚が消える。同時に疲労は消える。
感覚が研ぎ澄まされ、幸助の体は変化する。
天邪鬼はあり得ないと驚愕する。
(馬鹿な⁉︎これ程の冷気は雪女と同等いや、それ以上だ。心の奥から感じる。儂でも余程の事態にならない限り禁忌にしている力……)
天邪鬼が驚くのは無理もない。幸助自身が変化しているからだ。
幸助が今しようとしていることは、純粋な人間の種族ではあり得ない到達地点。
『妖怪万象』は純妖に至る全ての妖怪が保有する最大の能力。自身の尊厳と人型を犠牲にして膨大な妖力と力を獲得する奥の手。
異能相手や加護を有する相手にも条件無視で殺生が可能になる姿。理から外れた妖怪が使うことで、その真価は計り知れないものと化す。
その代わり、人間との友好的な人型を捨て、一度なれば二度と今の己に戻ることがなくなってしまう。
姿か精神か、将又別の代償を伴うのかは分からない。
少なくとも、『妖怪万象』を多用することは禁じるという意味での切り札なのだ。
純妖にしか扱えない切り札。幸助は自身の力で体現しようとしているのだ。
幸助は切実に望む。
妖怪に認められたい、と………。
願いは受諾され、その身は妖怪へと変化する。
氷雪は剥がれ落ち、殻から破るように姿と力を獲得する。
白縹に髪が変色し、左目はシリウスのような青白く、右目は幸助の紅い目の相対眼。
纏う服に結晶が付着し、首に白狐のマフラーが巻かれている。
刀剣は青緑のように煌めく。
雰囲気も落ち着きの品がある。子供っぽい雰囲気はなく、沈着した大人ぽさを魅せる。見た者に畏怖と敬愛を自ずと感じさせる神秘さが伝う。
天邪鬼は恐怖するが、同時にその姿に怪奇なるものを感じた。
今の天邪鬼に見える幸助は、妖怪のさぞ英雄のようなものに見えているのだろう。
「きっ……」
思わず言葉が詰まる。天邪鬼は声を掛けれなかった。
「テメェー‼︎テメェ!テメェェッ‼︎テメェも閻魔と同じヤツと契約しやがったか⁉︎」
幸助の姿に危機感を抱き、癇癪を起こしたように声を荒げる。
秋水は飛び上がり、呪剣で幸助ごと大地に振り下ろす。
爆発音と共に煙を上げる。
幸助はその攻撃を避けることがなかった。
「ガッハハハ‼︎まともに食らいやがって!吠えズラは無惨になっただろうな⁉︎」
隣にいた天邪鬼は動けなかった。というか、秋水の異常な速度に反応できてなかったのだ。
(これほど馴染むとは⁉︎儂が…体が動けん!)
動けと命じるが、天邪鬼は幸助の安否に気を向けてしまう。秋水に渾身の拳を食らい、吐血して遠くへ飛ばされた。
「へへへ…これでアイツらも殺して—」
「よく見ろよ?俺は死んでねえよ」
呪剣を刀剣で受け切った幸助は無傷だった。
秋水に恐怖が募る。
(なんだこの威圧感は……?寒い…これは⁉︎俺がこんなガキに恐れているとでも⁉︎)
妖怪と化した秋水に恐れはないと思われた。だが、それは誤解だった。
恐怖という感情は誰にもある。
消失による恐怖。強者への恐怖。突然の恐怖。根源的恐怖。未知なる恐怖。
それはどれも穏やかで済む筈がなく、人間も妖怪も抱く共通した感情。
今、秋水は心の底から震え上がる恐怖に苦しんだ。
幸助は穏やかに淡々と言う。
「苦しいんだろ?今楽にしてやる」
その言葉と共に秋水に目掛けて刀剣を振り下ろす。
素早くではなく、ハンマーを振り下ろすように刀剣がゆっくり地に着く。
あまりの遅さに秋水は馬鹿笑いする。
「フハハハハハーッ‼︎そんな程度の速度じゃムッ——」
「だからどうした?笑う暇があるなら避けろよ」
幸助がそう告げると、秋水の胴体の頭から下までが垂直に凍結した。斬られたのではなく、妖力が凍結したのだ。
幸助が放った一撃は『遅慢の凍聖霊』という妖力に干渉し、妖力そのものを瞬間凍結する必殺技。刀剣を振るい落とす軌道に遅れて斬撃がくるため、まるで幽霊が刀剣を追うことからそう名付けた。
攻撃を避けようとしなかった秋水は深い凍結斬撃を食らい、途轍もない異常を感じた。
「ぐっ‼︎……この程度でオレ様がくたばる…か、よ。か、体が…?凍っていく⁉︎」
斬撃を受けた者に永久凍結が付与される。しかも、妖力が膨大であればあるほど、その侵蝕速度は増し、妖力に身を蝕まれていた秋水の肉体は既に六割が機能不全に陥っている。
体内外問わず凍結は襲い、手足が動かなくなる。呪剣を振おうと無理に動かすとその腕はボキっと音を立てて割れ落ちる。痛みはなく、あと数十秒もすれば全てが凍結する。
回復しようと《王》で支配した者の力を行使しようとしたが、來嘛羅によって宵河の人間は全員死亡している。支配している妖怪はいるが、妖力を要とする妖怪では意味がない。
今頃になってその事態に気付いた秋水は怒り喚く。
「クソッタレが‼︎格下のガキに煽てられた‼︎こんな屈辱はもう嫌だったのに!巫山戯やがって‼︎ドイツもコイツも使えねえ糞野郎共だったな‼︎閻魔さえオレを煽てなければこんなことにならなかった‼︎テメェこっちに来い!呪剣で殺してやんよ‼︎」
凍りつく秋水は支離滅裂なことを吐く。
幸助は憐れんだ瞳を向ける。
「醜い奴だぜ。そうやって他人の責任にするのかよ?犯した罪は因果応報で受けるって知ってるか?あんたは人も妖怪も支配としてしか見なかった。だから俺が妖怪の力であんたを葬った。妖怪に恨まれることをしたこと後悔するんだな?」
「くっそぉぉおおおーーーっっ‼︎」
あと僅かで凍結する秋水は黒い瞳孔で幸助を睨む。
しかし、ここでただで倒れるわけにはいかない。積み重なる怒りを晴らせていない。秋水は死を恐れずに実行に移す。
(呪剣よ。オレ様の妖力と剣の力を持って大爆発を起こせ!妖都を征服出来なかったからには死を以て崩壊しろ‼︎)
呪剣に命令を下す。呪剣は受諾し、呪剣が怨霊を発する。瞬く間に地下空間の全てに蔓延る。
そして爆ぜる。空間に轟くように、妖都の崩壊が始まった。




