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妖界放浪記  作者: 善童のぶ
妖都征圧阻止編
35/265

34話 遂に激突

やっと本題の一部ボスとの戦いの幕開けです。

どんな戦い方を見せるのか?

秋水の強さは如何なるものか。楽しみにしててください!

今日はあと1話か2話投稿するか迷っています。ここで名残惜しく残すのもまずいので、きちんとタイミングを見て投稿します‼︎

 刀と短剣が交わり、羽団扇と《忍法》が交差する。

独り身の九華の実力は分華より上。身体能力は劣るが、その判断力は侮れない。

 的確に攻撃を相殺するために次々と異能を発動し、烏天狗達に遅れを見せない。

 その実力は人間の身体能力にしては優れたもので、戦い方も目を見張るものだった。人間の身でありながら、異能に驕らず、汚い口調とは裏腹に冷静な分析力を垣間見える。

 烏天狗は冷静に問う。

「これほどとは。貴様ほどの有力者が秋水に加担した?奴は妖怪の敵だ。そんな奴に従う理由とはなんだ?」

羽団扇による旋風を止めた。すると、九華は刺々しい警戒心を解く。

「今更何?アタシを助けてくれるとか?」

 烏天狗は頷きはしない。だが、分華と九華が悪人とは心の中では思えなくなっている自分がいた。烏天狗と女天狗は彼らの立ち位置を疑う。

「妖怪を無碍に扱った貴様らを許すことはできない。だが、罪を償うというなら…」

「じゃあさ?アタシ達も妖怪に無碍に扱われているとしたら?」

 九華は先程の荒々しさの口ではなく、真剣な表情で烏天狗に問う。知性を感じる問いに烏天狗は目を見張る。

「それはどういう事だ?」

 九華は虚ろな表情で首に付いている物を指差す。

「閻魔大王っていう妖怪に隷属させられてるんだよね。この首輪は『契約の首輪』って言って、一方的に言いなりになってて。この首輪がある限り、アタシ達兄妹は永遠に妖怪の言いなり」

 閻魔大王という名を知らない者はいない。烏天狗は想定外の事実に顔を歪める。

「ではなんだ?そこで倒れている弟と貴様は無理やり従わされていると?」

「元々こんな荒っぽい性格じゃなかったんだけど、精神的に可笑しくなっちゃってね。アタシはお姉ちゃんだから耐えられたけど、分華はもう人が変わっちゃった。可愛くて、純情…本当にアタシに甘える自慢の弟なのにね」

 姉としての責任、罪悪、悲痛な思いが口に出る。

「どうして貴女は…」

 女天狗も問う。九華は自分達の人生を語る。

「アタシ達は死んでこの世界に迷い込んで来ちゃった。理由が酷いものだったわね。12歳の頃に親父と母親の莫大な借金を理由に無理心中で一家全員死んでね。確か…無名っていう妖怪に助けられたかな。最初にアタシ達を酷く悲しんでくれた。弟も無名に凄く慰めて貰ったわね。ホント、どうしてあの人の想いを裏切る事になったのやら……」

 九華はため息を吐く。

 九華は演技をしていたのだ。本当の感情を押し殺し、狂ってしまった弟を想うために。自分だけが変わらないのは弟を更に苦しませる結果になると思って。

 だから、九華は自分も狂った女として仮面を被っていたのだ。妖怪の言いなりになった身として、弟が狂う様を見て見ぬふりはしてはならないと。そう言い聞かせ、自分自身も弟と同じように演技していたのだ。

 九華の素は、冷静沈着な家族思いの女性なのだ。

「無名。ああ…アタシはあの人の想いを踏み躙った罰がこれだよね?烏天狗と女天狗、アタシは殺していいから弟は見逃してくれない?」

 九華は戦闘意欲が皆無となり、短剣と他の武器を放り投げる。手を挙げ、虚ろな表情で降参する。

「アタシと弟の加護はサーラメーヤよ。地獄から加護を受けた身のアタシを妖怪のアンタ達には殺せない。拘束か九尾狐との契りのように封印するのが妥当。それか……そこの女がアタシを殺してくれる?」

 九華が紗夜を見て言う。人間のみ、加護を持つ人間を殺せるのが基本ルールなのだ。

 自分が死ぬ代わりに弟を助けたい。そこに嘘はなく、九華の落ち着いた態度からも3人ともその意思に疑いを持たなかった。

 紗夜はある事を告げる。

「あの……來嘛羅さんが言ってました…。あなた達双子は殺さずにって…言われてます」

 その言葉は救いだった。九華はその言葉を聞き、静かに笑みを浮かべる。

「そうなんだ……。じゃあさ?アタシと弟はその人に殺されるのか…」

 それは答えようがない。そもそも、來嘛羅には分華と九華だけを生かせとしか命令されていないため、3人は答えられない。

 どう双子が結末を迎えるのかは、來嘛羅に委ねられる事となった。




 俺は秋水を倒すために走った。

 今回の元凶である奴を倒すのなら、俺は妖怪の味方になると言った。雪姫と來嘛羅、烏天狗達に応えてやると言ったんだ。俺がここで終止符を打たねえと、また秋水の奴が妖怪を支配して……。

 ここまで屑だと思ったことがないな。

 俺は一人優雅に気色悪い椅子に座っている秋水を見つけた。

「おい。てめぇだな?」

 俺はキレ気味で話しかけた。今すぐにでも倒したい一心が湧き上がってくるし、こいつが好き勝手にしてやがるのがたまらなくムカつく。

「…なるほどな?これは面白いヤツが来たな。閻魔のヤツ、オレ様にコイツを殺させるために武器をくれたのか…フハハハ‼︎」

 秋水は椅子に座ったまま嘲笑う。

「黙れよ!何が可笑しい⁉︎なあ、てめぇがやってきたことを俺は許さねえ。妖怪を全員解放して詫びを入れろ。さもねえと…」

「はは〜ん?オレ様を殺すっていうか?ガキが冗談を言いやがって。てか、こんなヤツに閻魔は怯えてやがったのか?だとしたら想定外だわ。オマエ、弱い超能力しか持ってないんだっけな?分華と九華から聞いたな。名前を付けるのが得意なんだろ?」

 俺がそんなに格下と見られているんだな。

 こいつ、俺の嫌いなタイプだぜ。

「なあ秋水。俺と正々堂々と勝負しろ」

「堂々と戦えってか?」

「そうだ!俺の能力が弱えと吼えるならな!俺は珍しく妖術が使えるんだ。てめぇが能力使うなら、俺は妖術で挑んでやる。ただし、俺は手加減なんかしねえぜ?」

「ああいいぞ。オレの超能力は最強だ。テメェーのようなクソガキに使うのが勿体ねえぐらいだがな」

 俺の挑発に乗ってくれたようだな。

 ただ、こいつは約束破るタイプだから、平気に破るだろうな。

 待ってろよ。俺が妖怪を救ってやる。死んでも好きな奴のために成し遂げてやる‼︎

 俺は刀剣を引き抜く。

「無名……俺に力を貸してくれ。あんたらの積年の恨みをこの剣に宿れ」

「カッコつけか?そんな呪文みたいな口で宿るわけがないだろ」

「あんた、俺みたいなタイプ見たことがねえだろ?だったら思い知らせてやるよ。妖怪は俺らと同じ。あんたはそれを知らずに支配した」

「だったらなんだ?オレ様が妖怪を無碍に扱って何が悪い?人間様が伝承など書き記さなければ生まれなかった架空の存在に情けをかける道理はないな」

「架空の存在としか見れねえあんたが可哀想だぜ。無名や來嘛羅が言ってた。俺らが知らねえところで妖怪は現世に来てんだとよ!俺はその事実を知って嬉しかったぜ」

「自惚れもいいところだ。所詮は英雄気取りってワケか?」

「英雄になるとかはねえな。俺はただ救いたいから妖怪に加担する。着物女や双子姉弟、貞信っていう奴らは、雪姫達が倒しているだろうぜ?」

「他人を信用していいのか?テメェーはこの世界の恐怖を知らない。人間も妖怪も蓋を開けてみれば自分勝手ばかり。オレ様だってそうだろうし、テメェもそうだ」

「勝手はあんただろうが!人も妖怪も尊厳を奪って何が楽しいんだ‼︎何がしてえんだ⁉︎」

そろそろ限界だ。俺の沸点が超えそうだ。

「オレ様が妖怪の王になって使える奴と使えねえ奴で選別された世界を作るつもりだ。強えヤツが偉くなって、弱えヤツはひれ伏すそんな世界で君臨してみてえんだよ!妖怪は使えねえ下等生物として支配してやるがな!フハハハッハッハッハ‼︎」

 気色悪い奴なんだなこいつは。こんな虐げるような人格を持つ人間がこの世界の妖怪を侮辱していることが分かってくると…。

「それがてめぇの夢ってわけだな?だったら俺とは反するクソ野郎だ!妖怪は縛られない生き物だ。人間もな?王様気分の支配で土足で入るような真似をするな‼︎」

 自分の意思と呼応するというなら、俺の妖怪への愛も意思として認識してくれる筈だ。

俺の刀剣は光り輝く。しかし、今回の色は全くの異質。

「オレ様を倒せねえ。倒したとしても誰も認めねえよ。気を変えるとかなら検討してやんよ。閻魔は殺せと言ったが、生憎人間のオマエは殺そうとはあんま湧かなかったな。でも、従わねえなら容赦しない」

「どうでもいいな、そんなもん。俺が欲しいのは好きな妖怪に好かれることだ。そのためだったら、あんたは妖怪の敵として排除してやる」

 色は俺の怒りと妖怪の怒りが混ざったように、漆黒の黒刀のような禍々しさが憑依した。

 この場に集う妖怪の怨念が宿ったみたいだ。俺がそれを感じ、刀剣に意思をそのまま流し込んだのだ。

 來嘛羅との特訓のお陰だ。空気中と地中の妖力を刀剣に集約させ、最高の一振りにできるようにさせて貰ったからな。

「……訂正してやろう。閻魔が警戒するワケ、なんとなく分かったな。苦しんで貰う必要性を感じた」

 秋水は俺の評価をあげたようだ。それに伴い、秋水も剣を抜いた。その刀身は地獄の業火の如く、黒炎が揺らめく。

「その力、てめぇが言っていた閻魔大王か?」

「そうだ。妖怪は地獄を司る悪魔そのものだ!オレ様がこの力で永劫苦しめるように手施ししてやるよ。かかってこいよ、この命知らずのガキが」

 俺は体内の生気を激らせ、身体能力を高める。

「人間の力と妖怪の力、どっちが強えか思い知らせてやる‼︎」

 俺は全ての力を使って秋水に勝負を挑んだ。

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